たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「こどものじかん3巻」から「教師の時間」を考えてみる。

こどものじかん 1 (アクションコミックス)こどものじかん 2 (アクションコミックス)こどものじかん 3 (アクションコミックス)
もうなんかあちこちで話題になりすぎていて、一度休刊したコミックハイの第一号から見ていた自分としてはその売れ行きっぷりに納得やらうれしいやら、ウェーブになりすぎていてびびるやらの「こどものじかん」。アニメ化とは恐れ入った。
はて、「こどものじかん」と言えば「ロリでおませな先生大好きっ子りんが、とかくエロい!」と話題。キャッチコピーもその方向ですし、作者も意図的に「あざとい!」なネタを必ず毎月一回繰り出します。
その毎月一回を見たい方は「コミックハイ」買いましょう。作家陣も充実しはじめていて、すごくいい雑誌なんですよ。マジで。
 
はて、「こどものじかん」がそこまで人気になった理由は、もちろん「エロリだから」だけではありません。ストーリーの展開のさせ方も、人物の描き方もかなりしっかりしているから。これは読んだ人ならみな感じることではないかなと思います。
加えて、3巻では先生の描写がものすごくうまいんですよ。
というわけで、今回は主人公青木先生の教育現場の姿を、この3巻から考えてみたいと思います。りんは出てきません。そんなん誰にも求められてなさそうな気がしますが、それでもいいもん。
 

●先生に…本当になりたいですか?●


この作品は「りんが先生にとにかくラブラブ」というバックボーンがあるため、全体を覆う空気は非常に明るいです。ロリエッチなシーンももりだくさんなので、それだけで十二分に楽しめるマンガです。
そして「ああ、小学校の先生いいな!」とついつい言ってしまいそうになります。
しかし、「本当にそうですか?」というのを毎回作者がこっそり忍ばせているのがミソ。
最近はあまりニュースに出なくなった言葉「学級崩壊」は、今でも現在進行形で進んでいます。むしろ今のほうが多いでしょう。特に主人公青木先生のクラス、前の担任が指導に行き詰まり、鬱気味で生徒に暴言暴行を加えた挙句やめていったというものすごい過去を抱えています。
もう一人の主役、りんはクラスを引っ張るだけの権力の持ち主なので、彼女が青木先生の味方についたのは本当に幸い。先生の真摯さのせいもありますが、一歩間違えばクラス中の反撃の的になっていたことでしょう。そのへんのゆがみはかなり前にアフタヌーンに載っていた「仮面天使」を読むと面白いと思います。
はて、んじゃクラスはおだやかになったかというと、確かに雰囲気が明るいマンガなので穏やかに見えます。しかし。

一年近くたつのにこのクラス授業成立してないんですよ。ものすごくなにげない描かれ方しか各所でされてませんが。
ケータイいじるわ、ゲームしてるわ、マンガ読んでるわ、しゃべってるわ。時には掃除や体育館整備の全員ボイコットもありました。一年たってるのに。
お局様的な白井先生というキャラが、そこを厳しく青木先生に突っ込むシーンがとても多いです。
が、怒られて当然なシーンが本当に多いんですよね。実は。
ただりん達三人組の明るさと、青木先生の一生懸命さでうまくぼやかしているのがこのマンガのすごいところ。
リアルにそのまま描いたら、苦渋すぎて見ていられないはずです。
もっとも、このマンガ全体にただよう明るさのテンポは、青木ビジョンなんでしょうね。どんなに崩壊しても、ひどい仕打ちを受けても、この子たちはなんとなしてやる!という若さの。
それでもふっと疲れと迷いで心折れるときに、クラスの乱れがマンガの画面にぽろっと出てきてしまう。
「辞めるなら今かなあ…」
どんなにエロリハプニングが多かろうと、先生稼業は甘くない。
ただ、その辛いところだけをピックアップせず、かといって甘々コメディに甘んじず、バランスを保っているから読みやすいんですよネ。
 

●先生というリアリティ●


ナイヨ!
他の教員系マンガをそんなにたくさん読んでないので分からないんですが、研修をきちんと描いているのには正直驚きました。普通スルーしたくなる部分ですヨ。私屋カヲル先生、教師経験あるか、知人に教師がいるかどっちかだと本気で思うんですが。
 
この「初任者研修」、非常にクセモノで、学校祭時期だろうが、運動会時期だろうが、やるとなったら学校から狩り出されて一日つぶされてしまいます。時には泊りがけも。
忙しい時期に限って入るから困り物、…というのは実際の若い先生達談。その一日でクラスが変わってしまうこともあるわけです。
もちろん有益なプログラムだからあってしかるべきなのかもしれませんが、「業務の上これをやれと?」のセリフがあまりにも生々しすぎ。研修形式よりもその分生身で生徒にぶつかっている時間の方がいいのに!なんてことを聞いたこともあります。そのくらい忙しいんですよね。
実際この青木先生、ほとんど毎日寝る時間がありません。3時間くらい。会社員でもそのような暮らしの方多いと思いますが、りんや黒が突進してくるのを受け止める身としてはあまりにも過酷でハード。

とは言っても、研修のいい面もきっちり描いているのがこのマンガの面白さ。生徒側としては他校の先生が授業を見に来るのなんてうざったくてしかたないもんですが、ちゃんと先生視点から他の先生を見ています。
研修がどう役立つかは分かりませんが、この授業見学は間違いなく先生の視野を広めるのに役立つんですよね。特に小学校だと閉鎖的で、その担任が王様状態の「学級王国」になりがちだし。他のクラスの視点を見ることは間違いなく刺激になる、というのが一コマに詰まっています。
学級王国化についても私屋カヲル先生はきちんと理解して描いているんですよ。その点は後で。
 

●スキンシップと白井先生●


それでいて、異性の生徒との過剰なスキンシップは親が誤解をする有様。ああ、なんという無常なる職業よ、教師。
もっともりんはスキンシップしすぎですけどね。

地味に今自分内ランク急上昇中の小矢島先生(おっさん)と白井先生(お局さま)。
特に白井先生のキャラがぐぐーっと魅力的に描かれた3巻。最初はただの「こうるさいおばさん先生」だったのですが、3巻後半では「実は白井先生いい人じゃね?」という描かれ方に。
もうね。ツンデレですよ。いやまじで。
というのは冗談です。実はこの視線って青木先生の見た「白井先生像」の変化なんだろうなと思います。
一巻の最初のころは宝院先生(ボイン先生)くらいしか見えていないような状況なんですよね。マンガの流れ自体も。しかし出てくる三人の先生(ボイン先生、おっさん先生、お局先生)それぞれが今回はかなり「近い存在」になってきています。
小学校の教師が「担任制」とはいえ、職員室での雑談や交流は必須事項。というかやらなければ何も見えなくなって、視界が競馬の馬並みに狭くなってしまいます。
それでも実際問題は、忙しすぎてそんなヒマないんですよね。そこを突っ込んで、やたら口を挟む白井先生は実は、誰よりも気にかけていると言ってよいんじゃないかと思うんですヨ。
すいません、白井先生が好きなのでちょっと自分内評価高めです。
ただ、今後彼女の評価はマンガ内であがること間違いないと思います。それは青木先生が、彼女の指摘を受け入れられるようになってきた証拠にもなるはずだから。
 

●青木先生…まだ青いよ!●

ここまで書いて、青木先生結構がんばって育ってるのにひどいこと書いちゃっている気がして、申し訳ない気もしてきます。それでもまだ自分は「青いよ!」と言いつつ読んでしまいます。
いや!辛いのはわかるし、大変なのは分かるけれど!

これは思っちゃだめだよ!
突っ込みどころ1・「問題児」と言う風に見るクセが1年たって抜けていない。
まあ、りんと黒は確かに問題児ですが。でもりんのよさは十二分に理解しているはずだし、ラブだかライクだか分からんようなりんの愛情表現も「鈍い」とはいえいい加減気づき始めているはず。なのに「問題児」と言ってしまってはあかんです。
表現の問題じゃなくて「りんを特別扱いしすぎちゃってる」んですよね。特別視しない、て二巻の最後で色々悩んでたのになあ。今月号に至っては照れるりんと二人で微ラブ空間まで作ってしまってます。青い、青いよぅ。
突っ込みどころ2・「手なづける」のが「才能」ですか?
このへん、他の3人の先生はうまいことやってるのですが(白井先生はぶきっちょだけど)、「生徒を手なづける」という感覚でいるのがやはりこの先生の穴。教師と生徒のライン引きがどうこうとかってのも散々このマンガで描かれていますし、抱きしめることなどの人間としての関係にも触れられていますが、「他の先生より手なづけられたかどうか」で自分の力を把握しようとしているあたり、地味に彼の中で「学級王国」化が抜けきっていません。
小学校といえども、担任の枠を超えてみんなで育てるもの。白井先生やおっさん先生はそれが出来ているんですヨ。だけど青木先生は自分のクラスが手一杯すぎて、「自分のクラスを分かっているのは自分だ!」という幻想から抜け切れていません。
 
それが先生一年目のワナ。いい先生風に見え、いい感じのクラス環境にも見えてきた「こどものじかん」三巻ではありますが、なかなかどうして、「まだまだ青木先生は青いですよ、精進しろ!」と私屋先生の叱咤アンド激励の声が飛んでくるかのようです。
 

●それでも先生でありたい●

辞めたい。
そんな先生の言葉まで出てくる3巻。読めば読むほど、明るい空気の裏にある、教師の悩みがじわじわと出てきて非常に面白いです。黒い読み方をしようと思えば多分いくらでも出来るマンガだとも思います。
しかし、青木先生はなんだかんだでポジティブで、とにかくまっすぐゴーです。
そして、

「問題児」とか言っといて、やっぱりかわいいんだよね。
熱血系教師マンガのように「生徒のことを信じたい!」みたいなことはない先生。
ヤンキーチックなマイペース先生のように「おれいついて来い!」みたいな自信もない先生。
なんだか微妙に人の視線を気にして、空回りしては時々生徒や先生にムカついたりして、結局「ダメ教師だなあ、辞めたいなあ」なんてしゃべっちゃったりして。
だけど、…結局生徒が好きで。
必死こいて無茶しちゃったりして。
いい先生じゃないですか。
だからりんも1年間ついてきたんですヨ。3年生の担任一年間、お疲れ様^^
 
はて、コミックハイ3月号では早速4年生になりました。
青木先生もりんもがんばりま…

…うん、これでこそ「こどものじかん」ですね。
安心しました。なにが?
 
〜関連記事〜
今日から読み始める「こどものじかん」第二巻
このマンガ、まだまだ掘れば掘るほど深く楽しめるので、色々つついてみたいところ。「仮面天使」や「鈴木先生」とも比較しながら読んでみたいです。
 
〜関連リンク〜
小学生+紐パン+温もり・・・その答えは「こどものじかん」3巻です(マンガがあればいーのだ。)
色々ごちゃごちゃ書きましたが、エロリシーン多いですw
こどものじかん(3)(真・業魔殿書庫)
りんの陰について語っておられます。うん、あのシーンは怖かった。今後どう展開するんだろう。
今日読んだ本 こどものじかん3(不正灯油・肆式)
「大人だけど子供っぽいところ」の話と、階段の踊り場論がとても面白いです。そうか、踊り場かあ。
コミックハイ!オフィシャルHP
「テレビ」アニメ化確定。なにげに「ぽてまよ」「ひとひら」「こじか」とコミックハイがんばってますね。次は「エオマイア」か「みーたん」あたりでお願いします。
日本の教師を取り巻く不気味な現状(ラブラブドキュンパックリコ)
トラックバックいただいた記事が強烈だったので紹介。「こどものじかん」にも描かれていますが、残業は無く、家に仕事も持ち帰り、保護者(レイジとか)からイチャモンが寄せられ、と先生は大変なのです。つか大変すぎですよコレ。