たまごまごごはん

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性という名の異形 「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」

今もっともマイブームな漫画家の一人が吉富昭仁先生です。
EAT-MAN」や「RAY」の作者と言うとご存知の方はかなり多いでしょうね。
その中でも個人的に最も心ひかれていたのが「BLUE DROP」という作品集。
BLUE DROP―吉富昭仁作品集 (電撃コミックス)
過去の恐怖が具現化したものを、少女を使って浄化するというSF作品。百合要素も満載ですが、とにかく特殊な少女哲学に彩られている内容の濃さと、空間の魔術師吉富先生の腕がうなる狂った背景が、自分の心をわしづかみにしました。
参考・「BLUE DROP」に見る、特別化されゆく「少女」の姿
 

●…は!?●

はて、その「BLUE DROP」の続きが出るってんだから大喜びでチャンピオンREDを開きましたとも。ええ。それがBLUE DROP〜天使の僕ら〜」。…ん?なんだろうこの丸めの題名は。ハードなSFじゃなかったけ。生と死を見つめ、人間のイメージの回帰などを深く描いた作品じゃなかったっけ。百合の魂を継ぐ少女ばっかりじゃなかったっけ?
そんなわけで先月号の予告を見たときは、本気で飲んでいたアクエリアスを吹いたものです。
参考・吉富先生最新作が意外な方向に飛び出した件。

どうしたんですか吉富先生!?
しかし今月号の、第一話を見て、ようやく理解。エロボールを投げてきたのかと思いきや、そのボールにはとんでもない仕込がなされていました。だから吉富先生のマンガ大好き。
 

●終わってしまった世界と、新しい希望の性と。●


このマンガ、確かにぱらぱらっとめくると「あざとい」シーンがやたら目につきがちなので、「エロで釣るんですか?」的に思われてしまいそうですが、冷静に1ページずつめくると、その狙いの変化球っぷりに戸惑うと思いました。逆に言うと、エロ目的だけで見るとえらい目にあうかもしれません。
前作「BLUE DROP」は、戦争で一度破壊されてしまった世界が1000年も同じ空気を回り続ける、そんな世界の話でした。ずっとこの廃墟のような場所で、いつ具現化した「恐怖」に襲われるか分からないような世界で、少女をイケニエにしながら暮らす生活を送っています。1000年かあ。秘密裏だったとはいえ、ずっと変わらない、終わった世界って妙に居心地がよさそうです。イケニエにされなければの話ですが。
 
そんな世界は確実に今回も存在していました。妙に古臭い町並みが、半壊し水没している陸地に細々と建っている世界。うん、居心地がよさそうです。ましてや今回は「少女で中和する」という設定が出てきていないので、まるで「ヨコハマ買出し紀行」のように時が止まった雰囲気すらあります。てろてろと時間が流れる黄昏の世界。
町の描写も、そんなわけで現代的じゃないんですよ。どっちかというと昭和の町並み。昭和50年台くらいでしょうか。部屋も障子に畳ですもの。今までの「BLUE DROP」にもすべて共通する描き方です。
 
しかし、出てくる子供達は若い。今回は少年ですが、やはり「未来がある」顔をしています。海に向かって「愛がなくてもSEXは出来ると思うけどよー」というコイツ。アホじゃないですか。もう最高。
終わってしまった世界は永遠の回帰を求めて「死」の輪廻転生を繰り返しています。しかしそれを乗り越えていこうとするのは若者の「生」であり「性」なんですよネ。その脱却についても前作で語られています。
 
ただ今回の問題は、「男を女に改造し子供を作れるか実験する」という裏の組織の計画。無理強いなわけですよ、生も性も。
 

●「性」という異形●

「性別」を扱った作品は数多くあります。それは「個性である」というものもあれば「生きるテーマである」というものもありますし、「どっちも変わらん」という作品も。
んでこの作品はというと、またちょっと変わった提示をしてきました。

ゲロっ娘。
これで「こう、グッときませんか?」って言わせちゃう吉富先生すげえ。次のコマだけみると「あざとい!」コマなので確かにグッときますが、ゲロっ娘で興奮するのは中高生の健全な男子にはなかなか至難の業です。
そして、こちらが個人的にすごく気になって仕方ありません。

足の指なめっ娘。
吉富先生作品はとにかく裸足が美しく描かれているので、確かにありっちゃありだけど、それにしても変化球すぎです。こちらは二日続けてやってるんですよね。
実はこれ、男の子が女の子に改造されて、相手の男の子を「体だけ興奮させてSEXしなければいけない」というムチャを抱えさせられているからとった行動。つったって足の指なめはないだろう!?と突っ込みたいところですが、そこで思い出したのがこの写真家です。
 
 
ずばり足なめ写真。結構有名な写真です。
ヤン・サウデクチェコの写真家です。一回写真に撮った後に彩色しているので、かなり変わった色合いが特徴です。
この人の写真はこちらでたくさん見れますので、ぜひ見てください。
Jan Saudek & Sara Saudkova
美を追求する写真家かというとちょっと違います。むしろ「異形」を追求する人です。ものすごい肥満や、老人、子供などを「異形」としてとらえ、限られた空間の中に閉じ込めて写しています。
さっきの脇なめ、足なめのように、フェティッシュなのかどうなのかさっぱり分からないのもまた「異形」である、というとらえ方のようです。
 
今回の吉富先生、確かに「出てくるキャラの性癖が変」というので終わらせてしまえばそのとおりなんですが、いかんせんテーマが「性」なだけに一言で片付けられない「性」の見方がこもっている気がします。まだ第一話なので一概には言えませんが、今のところ「性」のカタチは「異形」のカタチであるように思えて仕方ありません。
だってねえ。ゲロって。
 

●異形の性が、「死」に向かうのか「生」に向かうのか●

BLUE DROP」では、「少女」という存在はとても「特別」なものである、として描かれていました。そしてその記号化された少女が「犠牲になる」という形式こそが美しい、とする異星人側の思想も。
いわば、「少女」という「性」が、終わらない「死」を永遠に守り続けていたわけです。このシリーズでの少女は「異形」なんですよね。異形…うーん、「特別」のほうがやっぱりしっくりくるかなあ。神聖化に近い少女の記号だと思います。
 
今回は逆に「子供を作ることが出来るか」という「生」側にスポットが当たっています。SEXは立派な「生」のひとつ。
なら、愛せばいいじゃない。産んで生きればいいじゃない。
 
…とは言ってもね。中身もともと男でしかも元親友。
できんわなあ。
さあ悩め悩め少年。ただ、ゲロや足ゆびなめが「性」として描かれる異形感覚があるから、「セックスするのかしないのか、ドキドキのストーリー☆」として読め!と言われても読めるわけがないです。
吉富先生、どんな「特別」や「異形」の性を描いてくれるのか、楽しみで仕方ありません。
 
余談ですが、「BLUE DROP」シリーズの少女ってほとんどトーンを使われないんですよね。だからものすごく真っ白で、妙にカサカサ乾いた感じがします。それは今回も同じ。ゲロまみれになっても妙にサラサラしてるんですよ。
しかしごくマレにトーンが貼られることがあります。その時って大抵「キャラの感情が変わり、物語が動くとき」の合図なんですよ。そのへん今回如実に出てるので、比較しながら見てみるとかなり面白いと思います。
 
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空間の魔術的コミック「連人」
吉富先生がマガジンZで現在連載している「連人」は逆に「死」がテーマの作品。とにかく背景の空間感覚の異常さがすばらしいので、ほんと一見の価値あり。
「百合的作品」群から見た少女幻想と、ネバーランド住人たち。
「百合星人ナオコサン」に見る、失われる幼女と世界の幻影
廃墟と少女の感覚といえばコレ。
 
〜関連リンク〜
R A K U G A K I ー 3 X
吉富先生のページ。
いちご編集ブログ 2月5日分
困惑するのは分からんでもないです。
Jan Saudek & Sara Saudkova