たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「未来日記」から、「萌え」世代のモンスターについて考えてみる。

男が手に鶏の首をつかんでヒタヒタと追いかけてくると怖いと田丸浩はアルプス伝説で書きましたが(あってるっけ?)、かわいらしい少女がオノをもってヒタヒタと追いかけてくると、…おっかないですね。ただ、それがすごい美少女だとちょっとドキドキするのが二次元マジック。そしてそれを追い求めるぼくら。
そんなわけで「未来日記」3巻まで出ました。そんな、なかなか満たされずらい、でも人前でもいいずらい欲求を満たしてくれるマンガです。
このマンガ、推理ゲームものとして見ると、あれ?って言うところは多いんですよね。いつも大げさで、大胆。なんというか小汚い手を使って小汚い地味な殺し方をすればいいのに、そういう殺し方は決してしない。みんなの脳内が「ガンガンいこうぜ」です。
しかしそんなことはどうでもいいわけですよ。見たいのは、モンスターのようにたけり狂う少年少女たちと、ズレた価値観です。
ちょっと「未来日記」を中心に、なるべくネタバレを避けながら「萌え世代」の恐怖感の楽しみ方と「萌え」の感情を自分なりに考えてみようと思います。
 

ヤンヤンデレヤンデレヤンヤン

ここしばらくうちのサイトでも「ヤンデレ」の話をずーっとしているわけです。改めて説明張っておきます。
ヤンデレとは(はてな)
定義とかあるわけではなく、こういうのいいよね、という楽しみのエッセンスの一つです。
さて、ヤンデレ好きに印象に残ったヤンデレを挙げてもらうと「未来日記由乃」と口をそろえて言います。他にもたくさんヤンデレキャラとされるものは多いのですが、もう群を抜いて「間違いなくヤンデレ」と太鼓判を押されそうです。
そこまで強烈にインパクトのある「由乃」と言うキャラ。強烈な印象を放つ理由はいったいなんなんだろう?
 

●恋をする少女はいつも美しい。●


こんな無垢な瞳で、寝間着で言われたらどうしますか。これなんてギャルゲ。
主人公、雪輝(ゆきてる・通称ユッキー)に恋をする少女由乃(ゆの)は基本的に純真な少女です。決して何か私利私欲のために腹黒いことをしようと考えていません。ある意味においては。だからユッキーに向ける視線はいつも透き通っていてキレイなんですよ。
まるで赤子のように、ただひたすらにユッキーを恋い慕う由乃。そこだけは1巻からずーっと変わりません。だから正直「未来日記由乃の純情ラブコメ物語」と言っても説明としては間違っていません。
何の疑いも持たず、ただひたすらに「好きだよ」といってくる少女が二次元でいたら、そりゃ読んでいる側としてはメロメロになるわけですよ。
ユッキーの部屋に泊まるシーンや、一緒に遊園地へ行くシーンの由乃は恋する乙女そのもの。ちょっとだけね、ユッキーより由乃の方が背が高いのがポイントなんすよ。あと、いつもミニスカートからむちむちの脚がのぞいているのもまたGOOD。ふくらはぎがとてもエチーです。なんでかというと、恋をしているからです。関係ないか。
 

●焦点のずれた瞳の少女はいつも美しい●


そんな由乃の視点はときどき、焦点を失います。とてもこの前のページがサービスシーンだとは思えない。
突然、ビー球のような、魚の目のような視点に変化します。さっきの輝くような瞳の少女とは大違いです。でも同じ子。
別の日記保持者みねねが「異常」と呼んだ由乃。その異常性は瞳に強く描かれます。

何がどういうシーンなのかは読んでのお楽しみ。苦悩にさいなまれるでも、苦痛にゆがむでもなく、ひょんな弾みに視点がうつろになり、目から光を失う少女由乃
綺麗な目の女の子は好きですか?(徒然なる読書の日々出張版)
こうしてみると、「極まっているシーン」で焦点が定まらない子は非常に多いのです。しかし由乃の特筆すべき点として、普通の生活の中で、突然ナチュラルに焦点を失うことも多いんですよ。

お風呂であることが起きるシーンなんですが、何か漠然としたおかしさを感じますよね。本当にちょっとした流れの変化で、目に光が入ったり、焦点を失ったりがコロコロチェンジするので、それを追っていくだけでもかなり面白いと思います。心情の理解はあえて出来ないような描き方なのがまた魅力。この子は「分からない子」として描かれているんです。
 

●恋に執拗に詰め寄る少女はいつも美しい●

由乃はそもそも、ストーカーです。彼女の持っている日記も、言ってしまえばストーキング日記。10分置きにユッキーの行動が記されるというそれ。冷静に考えるととんでもないですよね。10分置きにケータイに「ユッキーが○○した」って書くんですよ。前の会議の時に話題にもなりましたが、とてもケータイのメモリーでどうこうできるレベルではないです。外部メモリー保存か、あるいはmixiの日記みたいなオンラインで書いていると考えてもいいのではないかというレベル。

10分おきです。つまり、年中朝から晩までユッキーを見ている由乃がいるわけです。
そして、一晩に40通メールを送ります。なんでかって?ユッキーが好きだから。大好きだよユッキー☆

窓からだって入っちゃうよ。
 
ストーカー物の作品は、「身近でありえる」という要素が強烈に強い分、非常に恐怖感を与えやすい題材ではあります。由乃もそういう意味では単純に「怖い」キャラです。しかし、他のシーンの描き方があまりにもかわいらしい分、このくらい愛されてみたいというにぶい感情が顔をもたげてきます。その価値観の揺さぶられ方が心地よいんですよ。
  

●凶器で惨殺する少女はいつも美しい●

由乃は非常に「生死」の感覚のズレた子です。だから、人を殺すことなんて朝飯前に鼻をかむ程度のことです。一点の迷いもなく殺していく様子はいっそ清清しくすらあります。

さくさく。
この作品、めちゃめちゃ簡単に人が死んでいきます。数も尋常ではありません。そして一番すごいのが、そのほとんどが由乃に殺されているということ。読んでいるとそれも「ああ、由乃が殺すんだろうな」と思えてきてしまうのですよ。
最初のうちユッキーも恐怖するのですが、巻数が進むにしたがって感覚が猛烈ににぶってきます。

ナチュラルに包丁で人を刺しにいこうとする由乃。「母さんだっているんだぞ!」どころじゃないですよホント。ユッキーの感覚も「死」に鈍感になりつつありますが、読んでいる読者側もこれをコメディのように受け取ってしまう、そんな「麻痺感」が作品全体に漂っています。
由乃の狂気…いや、価値観のズレが伝染していく。それがこの作品の最大の魅力ではないかと思います。
 

●かわいいはこわい、こわいはかわいい●

「かわいいものVS強いもの」の最終戦争は、すでに勝敗が決したかのようである。いやむしろ、現在、強くてかっこいいものは、可愛いものの前に無残にもひれ伏しているということになりはしないだろうか。
銀星倶楽部「ぬいぐるみ」より)

10年前に、女性から見た男性観とぬいぐるみの関連性のことを書いた文章ですが、これ今でも通用しそうです。「かわいい」の部分を「萌え」に変えてもいいと思うんですよ。

銀星倶楽部「ぬいぐるみ」より)
「萌える」という行為は、時として何かの牙を抜き取ることがあります。たとえば対象の性格のキツさだったり、他者としてのカベだったり、社会のきびしさだったり。それはそれでいいんですよね。二次元の場合は、それも一つの遊びですし。
しかし、同時に「萌え」や「かわいい」に飲み込まれたとき、ものすごい勢いで隠されていた牙をむくこともあります。従属していたものが、実は従属させている側になるわけです。かわいいと思っていた素直なメイドですが、実はこちらがメイドに従う側になっていたり。
 
牙を抜かれ、「少女性」の残酷さを失った抜け殻少女も、「萌える」かといわれれば萌えます。すいません雑食オタで。ベタなツンデレとか大好きですもうほんと。こういうところってオタのSな欲求なんだろうなあと思うこともあります。
しかし、そこで「思い通りにはならない」凶器を持った少女たちが、画面の中で暴れるわけです。由乃は死ぬほど好いてくれるけれど、付き合うにしても敵にまわすにしても、どう考えてもいい結末が出てこないわけですよ、ユッキーとしては。読者も刹那的なかわいさに身もだえしつつ、由乃の行動に振り回されます。
由乃の「萌え」る言動に、気づいたらひれ伏してしまっているんですよね。自分の場合ですが。
だから由乃の場合、「怖さがかわいさの一部」ではなくて「かわいさが怖さの一部」なのではないかと思います。
「萌え」が高らかに叫ばれる今の時代に、その牙を向いた新しいタイプのモンスターの姿、それが自分にとっての「由乃」です。
 

●爽快感と破滅感●

とてもひどい話ではありますが、ぶっちゃけ由乃が人を殺すのは非常に快感です。死が由乃・ユッキーフィルターを通してぼやけたものとして描かれているので、まるで発泡スチロールを切るように人を切り刻む感覚です。グロくないし怖くないんですよ。ひたすらそこに身を任せるのも心地よいです。もっとやれ!って思っちゃうんだこれが。
また、コミカルなシーンも増えたので、由乃の狂いっぷりも「牙を抜かれた少女」として楽しむことも出来ます。
しかしふと気づいたときに、由乃の存在そのものに恐怖を感じます。このかわいい生き物はなんというモンスターなのだ?なぜ彼女は定まらない焦点でこちらを見ているんだ?
自分の中の価値観は、どこにいくんだろう。
追う側の爽快感を得ながら、気がつけば終われる側の破滅感も得られる。だからこの作品は面白い。ジェットコースターのスピード感に酩酊しながら、行く先に実はレールがないんじゃないだろうかという不安感にあふれています。
由乃という「ヤンデレ」に萌えるかどうかは人それぞれですが、すべてをひっくるめて魅力的に見せようという描き方を感じます。そして、自分はその魅力にひれ伏しました。あとは牙をむいたままバッドエンドに向かうのも、牙を抜き取られてハッピーエンドをむかえるのも、どちらもどんとこい。自分は喰われようじゃないですか。
「恐怖」は人間が昔から娯楽のエッセンスとして好むものですが、この作品の一番の恐怖は由乃に萌えること」なんじゃないかなあと思いました。
でも気持ちイイヨ。
 
そんな「未来日記」で一番好きなシーン。

本当ですね、だれのことですかまったく(目を伏せる
 
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〜関連リンク〜
笑顔で包丁、それでこそ由乃、『未来日記』3巻 (DAIさん帝国)
未来日記(3)(真・業魔殿書庫)
由乃の狂気と歪んだ純愛。「未来日記」3巻(ぷらずまだっしゅ)
未来日記3巻感想(チェキ空ブログ)
読んだ漫画「未来日記 3巻」(Hugo Strikes Back!)
未来日記 (3)(フラン☆SKIN) 
未来日記 (1) (角川コミックス・エース (KCA129-5))未来日記 (2) (カドカワコミックスAエース)未来日記 3 (角川コミックス・エース 129-7)