たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「萌え」の持つ暴力性と、「萌える」気持ちの大切さ。

●その言葉、使って悪いわけでは決してないのだけれども。●

「萌えは日本の誇るべき文化だと痛感」 黒川氏、メイド喫茶見学で(2ch)(痛いニュース)
なんと言うか聞いただけで「あいたた」と感じてしまうこの題名。もっともたった一言しか載ってないので、どうこう言う筋合いもないんですが、いやー、なんだろうこのいたたまれなさ。政治家とか全部抜きとして考えても、なんだかこう、居心地の悪い感じがします。
いや!「萌え」が悪いとかじゃないんですよ。自分も鬼のようにこのサイトに「萌え」の語は使っているわけですし、言葉のエッセンスの一つとして「ある」から使っているわけですし。
しかし、こんな反応も。

177 名前:名無しさん@七周年[] 投稿日:2007/04/01(日) 07:32:01
なんでもかんでも「萌え」にまとめるのやめようぜ。
 
39. Posted by   2007年04月01日 15:16
違うんだよ、萌えってのはそういうもんじゃないんだよ…。

ああ、なんかその気持ち分かります。
あんまり主張すると、「オタクは『萌え』っていうと『わかってないねえ』と上から目線になるよな」と言われてしまいそうです。うん、それは少しだけあります。否定はしないデス。以後気をつけます。
しかし、そうでない「萌え」に対する、なんとなくの後ろめたさがあるんですよね。少なくとも自分には。
 

●まずは「萌え」用法を大雑把に整理してから。●

萌え、という言葉が幅が広すぎるので、ちょっと自分なりに分けておきます。

・何かを見て「萌える」という感情が起きた時の動詞的用法。
・文章中などで使用される「萌え」である、という形容動詞的用法。
・「萌え」が前提として存在する、名詞的用法。

わーお英語みたい。
ここでは、「萌え」と名詞的に切り取った、「萌え」が前提として使われる場合のコトを自分なりに考えてみようと思います。
 

●「萌え」の暴力性●

「萌え」って言葉自体はむかーしからあるのは以前も何回か書きました。もう10年以上続いている言葉がポコンとネットから飛び出して、現実社会でも使用されるようになりはじめた過渡期、という感じがします。
言葉はあくまでも言葉。それ以上でもそれ以下でもないのでどんどん使用すればいいのです。しかし、時と場合によっては「萌え」が使用者の暴力性を持ち合わせる場合も発生します。
あなたを殺しに/ヤンデレ考(殺伐少女関係)
ヤンデレ」について繊細に書かれた文章。ヤンデレが好きな人は必見。

ヤンデレっていう言葉は二次元の虚構
人格のない女の子たちの中にいる、現実に近い意志を持った女の子
のことを指すんだと云っても過言じゃないはず。
(中略失礼)
「萠えは人間扱いしない人でなしの心」(タカハシマコ)だけど
ヤンデレは擬似的にでも、ちゃんと人格を持った女の子たちのことだと思うので。

漫画家、タカハシマコ先生の言葉が非常に興味深いですね。なんの本で書いてたんだろう?
「萌え」と単発で切って何かを指すとき、そこにあるのは時には「記号」だったりします。
ツンデレな女の子。
メイドさん
クールなメガネっ子。
そこにそのキャラクターの人格があるかといえば、あるにはあるのですが、記号負けしてしまうこともまた、あるんですよネ。
メガネのないメガネっ子が、メガネっ子ではなくなったとしたら、人格はすでにメガネのほうにあるわけです。んじゃ本体は何かというと、「萌え」という殻で出来た、はりぼてみたいなもの。外観で固めてしまって、その中に生まれる葛藤や喜怒哀楽は後回しになることもあります。時には、まったく排除されることも。
「萌え」前提でキャラを見ることは、時としてそのキャラクターの内面をごっそり抜き取った「偶像」を見ることになるのかもしれませんネ。「アイドル」が偶像の意味を持つとは、なんとも言いえて妙。ようはフィギュア、ということかもしれません。
 

●「萌え」本の、真意の空洞と外観の楽しさ●

個人的に、「萌え」本すごいすきなんですよ。「萌えよ!戦車学校」とか「MC☆あくしず」とか欠かさず買ってます。ぬるミリタリ好き、ってのもあるのですが、あの何も考えずに見れるノリがたまらなく好きなのです。

「MC☆あくしず」vol.4より、戦車。
ほんとうにばかだな!(ほめ言葉)
これを見たら、真剣に怒るのもバカらしくなりますよね。もう「これはこれ」。戦争の武器を…とか、戦車の美を…とか、女性の人権を…とか、肌に合わない人は絶対いっぱいいると思います。というかみんながこれを好きな日本になったら困る。困る?困る。
それでも自分は「アホだなあ」と言いながら楽しんでいるわけです。それは、完全に「女性」「戦争」「兵器」の内容を全部とっぱらって、外っつらだけあわせてるからなんですよね。
それぞれ、真剣に描くと非常に重いじゃないですか。そういう重い部分は他の作品にお任せ。何も考えたくないときにぼんやり見てると面白いわけです。からっぽだから。外見だけかわいかったりかっこよかったりおバカだったら、真剣に考えなくていいから楽しいじゃないですか。
だけどちょっとだけ、細かい兵器の知識も知ることが出来る。もっとも表面の知識でしかないのですが、入り口としては非常にハードルが低くて楽しいのですよ。娯楽ですしね。狭き門に苦労してはいるより、上っ面だけ楽しむのもありです。よね。これも「文化」の流れの一つの形だと思います。サブカルだけど。
 
とはいっても、内容の深みや真意はこれでは伝わらないのは、みんな100も承知です。これが永遠の名作として名を残す、とも思ってないでしょう。んじゃ全く価値がないのか?というとあると思います。
ファーストフードなんですよ。とりあえずおいしい。でも本当に栄養価のあるものではない。量産されていて沢山消費できる。
ファーストフードがなくならないように、「萌え」をネタにした本もなくならないんじゃないかな、と思いました。
 

●「萌え」の語の後ろめたさ●

そんなファーストフードもばりばり食べたがるオタクな自分でも、「萌え」だけを人前で言うのは気が引けます。そして「これはすばらしい文化ですから」と主張する気もないです。あくまでもコソコソ楽しむ娯楽だと思ってます。
というのも、「萌え」を前提にしていると先ほども書いたように「内面の削除」を同時に行ってしまうからなんですよね。女性・男性キャラを「萌え」前提で作っているのは、好きだけど、その人間性を全く否定してダミーにしているのも分かるので後ろめたいのですよ。非常にサディスティックな楽しみかたなコトも感じちゃうのです。
 
男性向・女性向同人話 前編:腐女子は何でそんなに自虐的なんだ(萌えプレ)

腐女子は自分たちの行っている「ホモにする」という妄想が、世間に受け入れられるはずがないキワモノ趣味で、普通のファンの人から見ると許しがたい「キャラクターの人格崩壊」を行っていることを自覚しています。また、本来の同性愛者の方々にも、「妄想の玩具にした」と申し訳ない気持ちを抱えています。

これは801の話ですが、「萌え前提」の今の一部のネタの楽しみ方に関しては、男性も同じ後ろめたさを感じると思いました。とてもじゃないけど、明らかな萌え戦略商品や萌え同人は、女性に見せることができません。萌え擬人化や女体化もあまり原作者に見せられる気がしません。
女性向けジャンルの苦悩よりは軽いかもしれませんが、「いけないコトしちゃってるなあ」感はどこかしらあるんですよね。だから「「萌え」は文化です」と言われると「いや、あの、それは、…すいません」と申し訳ない気持ちでいっぱいになります。自分のことじゃないのに。
二次元の中で、女性とは乖離した「『萌え』キャラのおんなのこ」を見てドキドキしてしまった感情は「二次元だから」という免罪符を振りかざすつもりで、防空壕に引きこもる気持ちですよネ。まったくもって「人でなしの恋」です。それが端的に出ているのはフィギュアでしょうね。女の子であって女の子ではない何か。それをあらわすのが「萌え」なんでしょうか。
そして、たいていは萌え前提の場合はエロ要素含みがちなので、そこに性欲を感じてしまったら「オレってダメだ」とシンジ君風にぼそりとつぶやくことに。慣れると部屋でこそこそ楽しむようになれますが、外には出せぬ。
そうして、隠れオタが増えるわけです。一部。
 

●「萌え」と「萌える」は違うよね●

はて、今までは「萌え」前提に書いてきたので後ろめたさ満点でしたが、逆に何かに「萌える」ことは胸を張って言えることだと思っています。
友人と話していたのですが、たとえば「耳をすませば」の月島雫。とってもかわいいですよね。で、このキャラ自体は「萌えるために作られた」キャラではないわけです。女の子らしい苦労や悩みも抱え、生々しい失敗や挫折も感じる、比較的生身に近い、魅力的な女の子として描こうとして作られてます。
そして、そのキャラが人間的で魅力的であるからこそ「萌える」という言葉を動詞として使います。感動した、に近いのかもしれません。
この感情の場合は、別にアニメマンガに限らず、純文学でも映画でもなんでも感じると思います。どっかの外人さんが「ワビサビモエ」と言っていて大笑いした記憶がありますが、実はそれって的確なのかも、と感じたりしました。言葉が「萌える」というのが使いずらければ別の言葉でもいいわけです。問題は「対象を見て感じる心があるかどうか」じゃないかなと自分は思いました。それなら言葉の一つとして、感情の高ぶりを表現するのは人間らしいいいところじゃないかな、と思うのです。*1
 
「萌え」の言語的意味は個々が持てばいいし、定義もないと思いますが、そのようなわきあがる感情は「文化」というよりも昔から持っていたものなのかな、と思いました。
だからこそ、なおのこと「萌え」が前提だと、えもいわれぬ後ろめたさが出てしまうのかもしれません。
MC・あくしず vol.4―ハイパー美少女系ミリタリーマガジン (イカロス・ムック)
まあそれ以前に、こんなエロっちいカオス絵を掲げて歩けるわけがない、といのが一番なんですが。
ほんと野上武志先生大好き。もっとやってください。MC☆あくしずは面白いヨ。
 
〜関連記事〜
オタクの使う「萌え」、普通の人の使う「萌え」
はっきり言って本文よりもコメント欄がものすごい内容濃いので、そちらをご覧ください。
商品化される「萌え」の形を「もえちり!」から考えてみる。
「萌え」たら「エロ」いんですか?
萌え→ ↑ ←エロ これがアウフヘーベン(ぽいやつ)
 
〜関連リンク〜
"萌え"の概念(The Concept of "MOE")
「萌え」の意味は使われる環境によって変化する。(モノーキー)

*1:ただし、人に対して「萌えるね」と言わないのは、「君ってわびだね」と言わないのと同じカナと。あくまでも対象を客観視する言葉でしょうしネ。