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3つの探し物。そして由乃爆走。〜マリア様がみてる・あなたを探しに〜

マリア様がみてる−あなたを探しに (コバルト文庫)

そろそろ…ネタバレOKかしら。
買って帰ってきて20分で読み終わったあたりから、その興奮度を理解していただければと思います。前回のフリがすごすぎたので。
今回は、かなり起伏にとんだ中身と、ぐるぐると絡み合う価値観の差異が面白かったので、そのへんを自分なりに「少女たちの関係」の描き方として書き留めておきます。
前回はネタバレなしで感想書いたのですが、今回はネタバレしないと書きたいこと書けないので、以下ネタバレあり注意。
 
 

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桂さん、出た!名前だけ。
 

●3つの探し物●

今回本編は、バレンタイン企画の賞品デートのお話。
ということで、あまり絡むことなく3チームに分かれます。祐巳瞳子チーム、由乃・田沼ちさとチーム、志摩子・??チーム。
なかなか対称的だなあと思ったのは、この3つの組み合わせの人間関係が全くかぶっていないこと。
祐巳瞳子はもう壁の扉のカギまわして開けるか開けないかの距離。
由乃・ちさとはいわば、ライバル、いや「敵」。
志摩子・??は全く顔も知らない、いわば「アイドルと崇拝者」の関係。
くっきりと描きわけましたね。
題名にもなっている、探している「あなた」が、それぞれのキャラで違うのですよ。志摩子は謎の人物を探しに行き、由乃とちさとは「1年前の自分たち」を探しに行き、祐巳瞳子を探しに行きます。
これら3組が、交差をするように話は展開していきました。
 

白薔薇の探していたもの。●

非常にトリック的だった志摩子さんの、相手探し。不在者投票の娘だったということもあり、顔も知らない相手です。
このへんのトリックと、前回から続いていた白いカードの隠し場所は読んで確認してください。見せ方が非常に面白いです。
はて、どうしても視点がミクロな、山百合会内部や祐巳瞳子の話になると見えずらくなってしまいますが、改めて「薔薇様というのはアイドルなんだ」と言うのを再確認させられました。
マリみての描き方自体、スールのイチャイチャ関係をイチャイチャ描いたり、個々の成長やら葛藤やらおっちょこちょいを描いているので、気がつけば「祐巳たちはお友達」感で自分らは読むわけです。しかし、いかに彼女らのいる位置が高いところになっているのかを、白チームのデートで再認識させられました。
 
正直、この関係はあまり「好き」ではないです。というのも、かなり大昔に祥子様が言っていたように、憧れの投影にしているだけで、別に本人たちそのものに憧れているわけではないんですよね。おそらく白薔薇志摩子じゃない人だとしても、この娘らは目を輝かせてついていくことでしょう。ミーでハーです。
バレンタインカード探し企画自体、ミーでハーなんですけどね。
おそらく祥子様が今回の志摩子の立場だったら、いくら今成長したとはいえものすごい勢いで叱り付けそうです。…さすがにないかな。いやどうかな。しかも打ち合わせの時、そのトリックゆえにとんでもなく志摩子さんのスケジュールを、自分の都合で振り回しましていますし。
 
しかし、志摩子は彼女たちのトリックも含め、受け入れました。
はて、それは「志摩子さんが聖女のような人だから」?
そうではないんだろうなと思いました。マリみての登場人物の中では「祐巳が超人的なまでに成長した」という印象があるのですが、あわせて志摩子も成長しているんでしょうね。おそらく聖さまといたころの志摩子では、取り乱してここまでの対応は出来なかったんじゃないかなあと。
盲目的な憧れも、れっきとした人間関係。今回は他に、噂話で生々しく盛り上がる女学生たちのシーンも描かれていましたが、こういう「憧れ」や「うわさ好き」なところこそ、普通の高校生らしいよいシーンだと思います。それが、当たり前なのでしょう。
もしかしたら、年下の少女が年上の少女に、何かを投影して憧れの幻影を見ているだけかも、しれない。でも志摩子は「それでいい」なのです。
そういう意味で、他の2組と比較しながら見ると、特殊な関係ではありますが志摩子も自分の立場や成長をも探しに行くことになったのだと思いました。
 

由乃とちさとの珍道中●

自分が一番キたのがこの組み合わせ。いやあー、今野先生!絶対由乃動かすの楽しくて仕方ないでしょう?ねえ。
ちさとは、由乃が愛して愛して奴隷にしてしまうほど大好きな令ちゃんにあこがれる、いわば恋敵。1年前のちさとさんは令ちゃんの「やさしそうに見えて残酷」なバカっぷりに打ちのめされるわけですが、今回のちさとは一味違うゼ。ちさとの波動球は108式まであるぜ。
好戦的でいつもアドレナリン出っ放しの由乃を、挑発するかのようなちさとさん、っていう虎と竜のにらみ合いみたいな関係がたまりませんでした。…カマキリとクモくらいのほうがいいでしょうか。
しかし、ここしばらくムチャばっかりしていた由乃も、なんだかんだで成長したものです。敵を「敵」として脳の中で作ることはしても、うそ偽りなく体当たりするようになったし、好きの感情もまた、大切に受け入れられるようになったのですものね。
二人が昨年と同じコースをたどり、自分はどこにいるのか。二人で知らずのうちに追いかけていくのは、やけくそにハイテンションな笑いにいろどられていたものの、ぐっと胸にきます。
令様に盲目的にあこがれていたちさと。
令ちゃんがいないとダメだった由乃
この二人が対立関係にもかかわらず、気がつけば「ライバル」として相手の存在を認め合えるようになった時点で「1年前の私たちとは違うね」という、戦友になったのでしょう。
 
しかし、映画館で手をつないでいたところはちょっとドキドキした!もうこの時点で、いくら怖いとはいえ心開いてるじゃあないですか。ちさとx由乃…そういう手のあるのか!いかんせん、友人少ない由乃さんです。この関係は貴重と言っていいのではないかと思うのですよ。
もし、もしもです。仮に令ちゃんや祥子様が卒業したとして、マリみてが続くならば。ちさとさんは結構カギになる重要人物になるのではないかと思いました。瞳子にとっての可南子のような。
あとは、二人で「令ちゃんの馬鹿野郎ー」は愛がこもっていていいですね。その後「こんなに面白かったぞえへん」報告されにいくことといい、前回のへた令具合といい、令ちゃんの立ち位置おいしいなあ。
令ちゃんは、この二人を見て「成長したなあ」と微笑むのか、「よ、よしのー」とへたれるのか。それは定かではない。
 

祐巳瞳子に、形式はもういらない●

はて、ロザリオ。結局渡されませんでした。
自分は、それがよかったと思いました。
結局、「ロザリオ至上主義」からマリみてが脱却できたんじゃないかと思うんですよ。聖・志摩子志摩子乃梨子、祥子・祐巳に令・由乃、みんなそうですが、ロザリオが重要アイテムで「いかに渡すか」の比重が何よりも大きかったんですよね。
自分も「ロザリオを渡せばスールなんだからさっさと渡せこのタヌキドリル!」とか思いましたが、冷静に考えたら、さっさとロザリオを渡したらダメなんですよ。それでは、結局「マリみて」が大切にしてきた「少女たち個々の、特別な関係」が「ロザリオ」一つに踏みにじられてしまいます。
瞳子にさっくりとロザリオを渡してスールになってから、二人の関係を練るという手もあるのですが、それでは「瞳子の心のキズの問題」は解決できないし、かりそめのスールでは破局もありえるでしょうし。
 
確かに、ロザリオが「意味のないもの」ではありません。やはり形式は非常に大事です。しかし「それが全てではない」のを指し示してくれるキャラがいました。
それは、蔦子さんと笙子ちゃん。
彼女らは「決してスールにならないぜ」的な蔦子さんのモットーがあるので、おそらく「スール」という形は今後も取らないでしょう。しかし自然体として、二人が非常に親しく、一緒にいるわけですよ。
リリアンに伝統的にある「スール」があまりにも重く、それがもっとも優れた関係であるかのような錯覚を抱いてしまいそうですが、この二人が魅力的に描かれていることで「少女個人の、親密な関係」が見直されたんだな、と感じました。
 
それがちょうど瞳子に当てはまるのだと思いました。スールという物を大切にしつつも、形式だけの関係にするべきではない。かりそめの自分と契りを結んで何になるの?
だから今回、デートという名目で自分の全てをさらけ出すまで、ロザリオは受け取らないことにしたのでしょうね。ただ、寄りかかって眠る瞳子は、すでにスールという言葉なんてどうでもいいくらい、密接に「祐巳」を探しあて、祐巳も「瞳子」を探し当てました。
形式は、もういいんだな、と感じました。
ハンドクリームは手に塗ったあと、しばらくベタベタしていて他のものを触れる状態ではないけれど、時間がたてばしっかりと手に馴染み、肌もしっとりする。
そんな感じ。ゆっくり二人の展開が進んで、確かにイライラした部分もあったけど、今回の巻があって本当によかった。
 

●名言ぞろいの最近のマリみて。●

主役だけでなく、全てのキャラが今野先生に愛され、そして全員成長している、と言うのが今のマリみての魅力だと思っています。確かに全員を描くため、話があちこち遠回りしがちですが、どのキャラも捨てられることなく成長しているんですよね。
今回の大穴は菜々。由乃がやきもきやきもきしていたキャラですが、あっさりとある発言を。どきどきしたじゃないか!
由乃の「江戸っ子はね、宵越しの金を持たないのよ」や「イチャイチャとかイチャイチャとか」もアホっぽくていいですね。由乃語録が作れるのではないかと思います本気で。
あと、乃梨子分が非常に少なかった今回ですが、志摩子さんの手を握って「まずい」という乃梨子でおなかいっぱい。何がまずいんですか乃梨子さん。
ここしばらく毎回、1セリフでパンチ力のあるものが多くて、楽しみでしかたないです。次回もまた出るんだろうなー。期待。
 
はて、次はそろそろ短編集の予感がします。コバルト買うのはじっとガマンの子なので、そろそろ読みたいというのもあるし。そしてその短編集の合間のエピソードでロザリオが渡れば…イイナ!
 
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