たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「すんドめ」に見る、少年が感じる得体の知れない少女の性のカタチ。

●中高生の男子が考えること?女の子の裸に決まってるじゃないですか●

思春期の男子には、一つの猛烈な悩みがあります。
誰もがかかえる悩みです。
それはとてもとても重要な事で、この悩みで眠れない夜をすごした少年も多いことでしょう。
 
それはなにかというと、「すぐ勃っちゃう」ことです。
ありますよね?風が吹けば勃起する、みたいな。辞書でドキドキ、教科書でドキドキ、CMでドキドキ。時には授業中にオヤシロモード発動して困惑した人も多いはず。…多いですよね?
そんな余裕のない男子は常に、女の子のこと考えているわけです。付き合えないかな、エッチできないかな、せめてパンツ見えないかな。と。
まあ、今でもそうですけど。
だからこそ、ジャンプでエチーシーンが増えて、「けしからん!」と言いつつも毎週「ToLOVEる」を読んでしまうわけです。あれってエロシーン見たいってより、中高時代の胸の高鳴りを思い出したいから読む、って気がしますよね、余談ですが。イヴの脚バンドにドキドキ。
 

●はちきれんばかりの「エロい女の子」幻想。●

岡田和人先生の「すんドめ」ヤングチャンピオン連載で、今までは割りと飛ばしてみていたんですが、ふと見たらえらい面白かったので単行本買って来ました。
一言でまとめると「エロコメディ」です。

基本的にこのノリ。大好きな人は大好きな、そして肌に合わない人は徹底的に苦手なノリでしょうね。あ、自分は前者です。
 
主人公の相羽英男はちょっとしたことですぐ勃起してしまう少年です。もっともそれは彼にとっても「恥ずかしい」ことであるのは間違いありません。いくらエロコメでもね。さすがに「シティハンター」のようにそれを誇るほどではありません。なんてったって童貞が基本のクラブに所属しているくらいです。女の子と手をつないぐなんてありえない、そんな少年です。日々悶々とすごしています。
そんなところに、早華胡桃が転校してきます。ヒモパンのこの子です。
この子が英男を挑発し、エロティックな挑発を繰り返します。
その時点でまあ、「ありえないですから」と言えば全く持ってそのとおりなのですが、英男は「はい、はい」と従っちゃいます。それはどう見ても、ラッキーな様子というよりも、逆らえないと言ったありさまです。
なんだか、それが少年視点でジワジワと描かれるので、ありえないシチュエーションなのに妙に生々しいんですよ。

●「人格のない少女」●


この胡桃という少女、「ミステリアス」という言葉でまとめるにはもったいないくらい、つかみどころがありません。
そもそも童貞妄想うずまく部活に無防備に飛び込むこと自体妙なんです。英男の心をもてあそぶかのように接触し続けているのに、その動機がさっぱりつかめません。
非常に華奢で、骨が体中に浮き出るほど細くて、色は白くて、だけどその瞳は何かを見通した女の視線です。

実際、かなり気まぐれでエロティックなトラップをいっぱい仕掛けるのですが、絶対に「直」な性行為(?)がありません。あ、2巻の最後でキスは一回だけしてますね。それこそ、題名のとおり「すんドめ」。
男性の力でこの子を押さえ込むのは容易なことでしょう。しかし、彼女は「英男が手を出さない」のを完全に把握しているんですよネ。
 
そんな、ある意味男性を振り回しているかのような彼女ですが、完全に英男視点でのみ描かれているため、彼女の感情や人格が全く見えません。
うん、そりゃそうですよね。中高生男子が性欲に翻弄されているときに、その子の人格の深いところを見とれと言ってもできるはずがないですもの。
彼は自分の中では彼女に恋をしているかのような錯覚は持っているものの、自分の性欲に抗うことなんかできるはずもなく、そして彼女もその性欲をあおるので、「英男の性欲」つながり、でもやらない、という特殊な関係が出来てきます。


下世話な話で申し訳ないですが、手を出すことを禁止するのはもちろんのこと、オナニーをすることすら彼女は禁止します。この関係が「主従関係」なんだろうな、と最初自分は思っていました。
しかし、あまりにも胡桃の人格がないので、それはちょっと違うようです。

唯一描かれる胡桃の人格が現れたシーン。鼻血。はて、これが一体何を意味するのやら。彼女の視点に一度立って読んでしまうと、その精神の暗闇はどこまでも深い。
 

●少年の性欲が描く、「少女の性」の傀儡●

英男自身は、ものすごく胡桃のことが好きでたまらないわけです。もう狂ってしまいそうなくらい、眠れないくらい、胡桃のことが忘れられないんです。
しかしそれは、性欲抜きということが絶対ありません。

一見感動的なシーンですが、これは「12時までなら一回だけオナニーしてもいい」と言われた英男が達成できず、悔しくて泣いている様子です。それは胡桃で射精できなかった苦しみか、あるいは胡桃との約束を必死に守ろうとする男の子の意地か、そこは見る人にゆだねられます。
にしても、オナニーできずここまで悲しそうに苦悩する少年をマンガで見たのは自分は初めてだったので、非常に衝撃でした。
 
こうなってくると、英男から見た「胡桃」像がいかに特殊かが伝わってきます。
先ほども書きましたが、胡桃がむちゃくちゃな命令をしても、その動機が描かれることは一切ありません。いや、本当は動機あるはずなんですが、彼にはそんなものは見えないんですよ。
 
思春期の少年が思い描く少女像ってなんだろう?

・体つきがエロい。
・自分と違う「女性」を持ち始めている。
・出来ればなめたりふれたりエッチしたりしたい、それをネタにしたい。
・しかし、絶対に手が届かない。

ある面では非常にサディスティックに「性」の塊として見ている少女像。それはひっくり返すと偶像のような、天使のような、手の届かない存在へと昇華されちゃうんですよね。
いやいや、結構あると思います。大好きな子のことを考えて自慰した後にへこむとか。クラスの女の子がありえないエッチなことをしている…のを遠くから見ている自分の夢を見るとか。
まさに胡桃というキャラは、そんな英男の性の暴走を形にしたキャラだから、すっごい面白いんですヨ。
実際に胡桃がガリガリなのかとか、ブラをしていないのかとかはこの際どうでもいいんですよね。ただ、間違いなく英男の視線から見た彼女は「ノーブラでガリガリでエロティックな少女」です。
 
胡桃→英男という主従関係。それは作中のイラストでもちょこちょこと出てきて暗示されてはいますし、実際そうなのですが、実はこれひっくり返すと「英男→胡桃」という、「性」のイメージの固定化があるんじゃないかとぼんやり感じます。
 
本の表紙は真っ白で、胡桃がエロポーズとっているので明るさ満点ですが、めくるとこうなっています。真っ黒です。そして、人形だったりつながれているのは英男ではなく、胡桃です。
 

●少年の思い描く「性」は、永遠に手の届かないところへ●

エロいコメディ部分が回を追うごとに、英男の心理の描写が真に迫ってきます。先ほどのないている姿に象徴されるように、だんだん理性で耐えるとか笑って済ませられるものじゃなくなってくるんですよ。その極まり方がほんとに、こっちまで極まってきちゃうんだな。
そして、読者の中でも胡桃の姿は「美しい理想の少女」に見えてくると思います。あくまでも男性限定ですが。
これ、女性が読んだらすごくイヤがる部分も多いマンガだとも思うんですよ。童貞的下ネタが多いから、というのもあるんですが、女性側の心理がなおざりになっているからです。
しかしそれも、「英男の目から見た少女の性」のカタチでしかないんだ、と思うとかなり胡桃の存在を楽しむことができるんじゃないかな?と思うのです。いや、むしろ女性でも胡桃に「欲情」体験できるのではないかとすら。
 
こうなってくると、エヴァンゲリオン綾波レイを思い出します。作中での描かれ方はともかくとして、二次創作でどんどん「性の象徴」として高くすえられ、神聖なものとして見ながら陵辱する視点を男性に与えたのは、本当にカルチャーショック。今でもその「神聖にして性の塊のような少女」像は、ゆらぐことない位置にどんどん高められている気がします。
胡桃は自分から動くそのようなイメージの、ある意味裏側な部分を見せ付けてきます。時にはこちらの思い通りにならないのでレイとは違いますが、ひっくり返せばサディスティックに自分を性的に攻撃してほしいという心の欲する部分をどんどん与えてくれるので、思い通り、かもしれませんネ。
 
しかし、それが現実であろうと、妄想のカタチであろうと、その性に少年の手は触れることができません。

ある時期を境にこういう少年期の性の興奮って、違うベクトルにシフトチェンジしますが(方向は人による)、「その時に感じた性」は一生消えないし、絶対手が届かないんですよね。手が届いたと思ったら違うものだったり。
このマンガはただの寸止めを描くコメディ、というよりもなぜ寸止めかを突きつけてくるようで、その罪悪感と興奮の記憶が入り混じったものをよみがえらせます。ものすごい複雑な気持ちになれます。
 
恋?愛?
そんなもの分からないけど、気が狂うほど誰かを好きになる、そして猛烈に性欲がわく。
そんな時期、ありますよネ。
これが胡桃の人格が明確化してハッピーエンドを迎えるのか、あるいは答えも見つからないまま性欲だけがどんどん高みに向かうのかはわかりません。
ただ言えるのは、その恋とか信頼とかではない、性欲でしか形作られない関係や思いも、大切な一つのカタチだったんだな、と言うことです。
なんてったって、ウソじゃないですもんネ。
はて…胡桃の心の裏が表に出てきたときにも、そう思い続けられるのかな。かな。
 
すんドめ 1 (ヤングチャンピオンコミックス) すんドめ 2 (ヤングチャンピオンコミックス)
ちなみに、普通にエロい動機で読んでも、エロい気持ちになれます。何も考えず胡桃に「擬似欲情」するのも楽しいんだなこれが。
蛇足ですが、性と主従関係で思い出したのが柏木ハルコの「いぬ」。こちらはベクトルはちょっと違うものの、似たような視線は感じます。
 
〜関連リンク〜
「すんドめ」・・・それは苦痛と快楽の間にある愛のカタチ(マンガがあればいーのだ。)