たまごまごごはん

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なつみさんの瞳はどろりとしていた。大槻ケンヂ「新興宗教オモイデ教」


初出は1992年。15年前ですかー。
「毒電波」をテーマにした非常に個性的で奇怪な小説が、オーケンの初長編小説となりました。
 
世界を斜めに見ているかのような、主人公が一人称で語る物語です。
いきなり最初の時点で、ヒロイン(?)のなつみさんが発狂するところから物語は始まります。
原因も明記されているのですが、このへんの流れはゲーム「雫」にもろ影響を与えていそうです。
そして、さっくりと謎の宗教「オモイデ教」へ入ることになります。
 
そこから先の、オモイデ教周辺の狂い度合いはオーケンの腕の見せ所。
「なつみさん」の言動の一つ一つが、手のひらを返すように変化していくがなによりも気持ち悪いです。まさにヤンデレの極地。なんでそうなったのかは読んでいけばわかりますが、その陶酔っぷりと自己犠牲っぷりは可憐とかというレベルではなく恐怖を感じさせます。
 
またね、出てくるキャラがすべて濃すぎるんですよ。
胡散臭い関西人の中間の、不気味さは群を抜いています。どう見ても悪人なんですが、そのくせなんだか憎めないのもまたしかり。でもやっぱり悪人。ただ、悪人がどうこうという正常な世界観ではないので、正直彼はまともな方にすら見えます。
 
そして、強烈な存在感を放つ「ゾン」。
オーケンは80年代パンクのむちゃくちゃなライブに大きなトラウマと衝撃と興奮を受けて、生きている人です。その身の毛もよだつような興奮が、確かにこの作品の中には描きこまれています。実際、ユンボで乗り込んだり、チェンソーでケガしたり、嘔吐を客席に撒き散らしたりとめちゃくちゃしていたんですよネ、80年代パンク。
それが、バンド「自分BOX」で、そのボーカル「ゾン」なのです。
ゾンの存在は、そのような意味で非常に愛情もって丁寧に描かれています。ある意味、最強の敵なのですが、関西人中間はそんな彼をある意味において、猛烈に愛しています。
 
途中から、毒電波バトルが行われます。その凄惨さは筆舌に尽くしがたいものがあるのですが、面白いのは、それが本当におきたかどうかの証拠がない状態だということ。
ある意味、集団狂気で死んだかのようにすら見えるんですよ。破壊するのは精神だから。サイキックバトルのように見えて、どこまでが妄想かわかりません。そのバランス感覚はもうこの時点でオーケンの中で磨かれているんですよ。それがさらに発展して、「くるぐる使い」の短編へとつながります。
 
非常に残酷で、電波と狂気に満ちた作品ですが、今読んでも十分面白いです。そして、その狂気はサディスティックなものではなく、どこか哀しみと憧れに似たものが詰まっています。
もしかしたら、オーケンの視点は主人公視点であると同時に、うさんくさい中間視点で、狂った少女なつみさんと、存在が狂える人ゾンを「手の届かない存在」として敬愛してやまないのかもしれませんネ。
ラストは結構哀しくて衝撃的。わりと簡単に読めるので、是非。
 
次回は「エリーゼのために
 
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ちょっとずつ追加してます。
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