たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

通常の男女の営みが許されない「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」

今年、間違いなく自分の中でトップ街道を爆走している超絶マンガ家が、吉富昭仁先生です。
今までも「EAT−MAN」や「RAY」などの傑作を生んでいますが、現在はマガジンZで「連人ツレビト」とチャンピオンREDで「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」を連載しています。
これがまた、両極端で面白いんですよ。
「連人ツレビト」は死者を導く人の話で、テーマは死。タナトス
BLUE DROP〜天使の僕ら〜」は、とにかく歪んだ性がテーマで、エロス。
 
空間の魔術師的な背景の描きこみと、イキイキとしていながらどこか死のにおいをただよわせるキャラ(特に女の子)が魅力のマンガ家さんなのです。もうイチオシ。
はて、どちらも猛烈に今話が展開していて面白いのですが、その中でも「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」の方が非常に特殊な展開を見せているので、ちょっと紹介してみたいと思います。
 

●今までのあらすじ●

性という名の異形 「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」

突然主人公の元に「SEXしてください」という少女が現れます。
もう「何事!?」って感じなんですが、実は正体は主人公ショータの親友、ケンゾー(男)でした。
どうもケンゾーは異星人に女性として改造され、時間内にSEXしないといけないことになって、親友のショータを選ばざるを得なかった、というワケです。
ショータも理解をしめし、「相手が男」とわかっていながらSEXしようとするのですが、そこに幼馴染の少女がやってきて…。
 
と、説明しても「何がなんだか」という感じですね。実際、展開が異常にはやい上に、情報量も半端ないのでなかなか大変な話の広がり方をしています。
それも、絵の書き込みが異常なほど細かいのと、SF的設定がさりげなく盛り込まれているからです。とはいえ、それをかすませるほどのエロ展開が、もっさりかぶさっているからこれまた大変。オブラートで劇薬を包んだような強烈な作品になっています。
 

●女同士で生殖しよう。●

はて、やってきた異星人は、全員女です。そして、生殖するために地球にやってきました。
地球は女性であふれています。半分は女性です。となると異星人のやることといえば。

ハーレム。いや乱交パーティ。
白髪なのは、アルメと呼ばれる異星人で、黒髪は地球人です。
異星人は夜な夜なかわいい女の子を集めては、乱交パーティを繰り広げ、あるいは生殖活動を絶え間なく行っているわけです。手前のケンゾー(今は女にされている)には刺激が強すぎるめくるめけ世界。
そりゃね。自分も女の子になれたらこの空間で鼻血ブーしたいですよそりゃあもう。
 
しかし、冷静に考えるとおかしいんですよね。アルメが女性型なら、男性とやればいいじゃないか、という話です。女性同士で生殖っておかしな話。快楽ならわかるけれども?

実はアルメ達、地球人の女性を妊娠させることができるんですよ。射精もします。どうやら「ふたなり」っぽいです。

逆に手篭めにされるの図。
ノリは非常にライトですが、このへんの設定非常にシビアです。異星人が地球人を妊娠させた果てにどうなるのか??どう考えても、世界はおかしな方向に歪んでいくんですよね。
それに、なぜ地球人女性がわざわざここで、快楽に流されながら異星人の子を妊娠するというリスクを背負うのかも色々奥が深い。普通なら強制されていないのにこっちにはこないですよね。でもこっちに来ちゃうんですよ。
それは女性同士の安心感、というのもあるのですが、それだけでそんなに流れてくるわけがない。
そのへんの矛盾について、詳しい設定が全く語られないので、推測するしかありません。推測するだけの要素は、やけくそに細かい絵や女性同士のからみの中から読み取ることができそうです。
幼馴染の女の子が、なぜこうしてアルメを襲っているか?それもちゃんと理由があります。結構強烈な設定なので、そのへんは単行本化したときに確かめてください。気になる人は、チャンピオンRED6月号のバックナンバーを見ましょう。
 
女性同士がこのように生殖活動する様子は、ごく自然のものとして描かれています。そして、非常にこの空間は刹那的です。恋愛とかは一切絡んでないんですよ。ただ快楽におぼれるだけ。その果てに何があるか、というのはコメディタッチとエロティックなイラストでぼやかされていますが、小出しにされている情報を収集すると、なかなか恐ろしいものがあります。
そのへんは、すでに単行本化されている後日談としての短編集「BLUE DROP」を見るとさらに深く楽しめます。むしろ、こちらの「天使の僕ら」の底抜けの明るさが、逆に寂しさと、性の恐ろしさを呼び覚ますかのようです。
 

●男同士で生殖しよ・・・う?●

それでは、男はどうなるかというと。
残されます。いらないんです、ある意味完全体なふたなりのアルメ達と少女達の蜜月の間には。だから隅へと追いやられる性と化して行きます。このへん、男性の存在価値のことを考えると興味深いですね。精子が手に入れば男はいらないですか?
しかし、男性にも心はあります。快楽を感じたい欲求もあります。
ならば行き着く果ては。

そうさ、オトコで固まればいいじゃない。

拡大図。
カワイイ男子。抱いてみたい!男歓迎!
女性を求めなければいけない、というきまりは誰が作ったのかな?むしろ、男同士のほうが本当の意味で楽しめるじゃあないか。

なら男同士で楽しめばいいじゃない(注・全部男です)
そう、女装が似合う子は女装して、似合わない子は男性として、男同士で楽しめばいいのです。妊娠の心配もないし、何よりお互い理解しあえる。こんなに完璧なシチュエーションはありません。
…あれ?
 
アルメ達が「生殖」を一つの目的としていたのに対して、こちらは「快楽」が目的です。やはり恋愛はありません。気持ちよさのみがあります。
面白いのは、こちらも乱交なんですよね。一応後輩にあたる子はショータと色々関係があるので1対1の話あいもするのですが、基本的にごちゃまぜモード。男女とも、同性同士で乱交なんです。
また、その刹那的な快楽の空間から一歩外に脚を踏み出すと、そこは廃墟寸前の手入れされていない場所なのも面白いです。このへんの描写は是非雑誌で見ていただきたい。特にオトコ通りの方、背景の一つ一つに情念すらこもっていそうな乱れっぷりです。まるで九龍城寸前、と言うと分かりやすいでしょうか。
やはり、彼らの快楽は、永遠の愛とは別次元の刹那的なものなのです。
はて、この作品の「性」は、一瞬の快楽にすぎないのでしょうか。
 

●爽快感と、終末観と●


もうこのへんの空間の描き方も天才ですよね。マジで心酔してます。
あと男の子同士なのわかっているのにこの百合脚。たまらんちん。
基本的にコメディタッチで、ちょっとエッチで、ライトなノリでぐんぐん話は転がっていきます。もう何がおきるか見当もつかない、という感じです。何が起きてもありうる、という感じです。怖いわほんと、予想外すぎて。
瞬間を見ていると、至ってポジティブで明るいんですよ。未来なんていくらでも切り開けそうな爽快感に満ちているじゃないですか。
しかし、その裏にどんよりと漂う暗雲と毒も、確実に進行しています。なによりケンゾーとSEXしなければいけない時間は刻一刻と迫っていますし、彼ら・彼女らの行く末に希望の光が見えずらいのもまた確か。
なにせ美少年と美少女しかいません。年をとる、という概念が彼らの中からすっぽ抜けてるんですよね。これ、きっと気づいた時には遅いかもしれません。
妊娠して生んだ子供達をどうするのか、誰の子かもわからない子をただ流されて産んでいく女性たち。そこまで考えていないでしょう。畸形だったら?異星人だから流産とかもありうるし、誰が育てるかも放置状態。しかし確実に生殖を狙う目はギラギラと作品の影でちらついています。
 
多分、少女の「一瞬の輝き」をとにかくまばゆいばかりに描きこんでいるんでしょうね。挙句のはてには女装少年の美しさも描き、「少女性」を徹底的に掘り込んでいます。
この女装少年側の持つ少女性は、失われ、手の届かない、偶像に近いものでしょうね。逆に、アルメ達はリアルな性を感じさせる経血や精液や唾液のにおいすらする生々しい少女性です。似ているようで、ちょっと相反している感じがまた興味深いです。
 
この突き抜けた明るさとエッチっぽさを、何も考えず楽しむのもこの作品の面白さだと思いますが、できれば「BLUE DROP」の方を読んで、終末観をも楽しみつつ、明るさの裏の「終わりへのカウントダウン」も感じてほしいです。そのカウントダウンが、吉になるか凶になるかもさっぱり分からないので、毎月が楽しくなりますヨ。
 
はて、今月号のラストで「次号、重大発表あり!」と書いてあるのですが、何のことだろう…。単行本化?…アニメ化!?ま、まさか…うーんでもわからないぞこれは…。
 
BLUE DROP―吉富昭仁作品集 (電撃コミックス) チャンピオン RED (レッド) 2007年 07月号 [雑誌]
こっちが先に本出てますが、今連載しているのは、この世界の以前の話、という設定です。こちらもとても廃墟感や百合脚がイカした本格SF&百合マンガ。
 
〜関連記事〜
「BLUE DROP」に見る、特別化されゆく「少女」の姿
空間の魔術的コミック「連人」
性という名の異形 「BLUE DROP〜天使の僕ら〜」
 
〜関連リンク〜
R A K U G A K I ー 3 X