たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

とっても小規模なハルマゲドンと、中学生の体型。「しはるじぇねしす」

●堕天使たちのララバイ●

堕天使という響きはなかなか創作においては心ゆらすものがあります。
堕天使小辞典
女神転生とか好きな人だったらすっごい面白いと思うのでオススメ。
しかしこんなにあるんですねえ。超有名どころのルシファーをはじめ、ベルゼブブ、アスモデウス、ベリアル、ベヒモス、マルコキアス…と、どこかのゲームで聞いたような名前がずらりずらり。
ゲームのモンスターや男性キャラとして見かけることはよくありますが、これが全部女子中学生だったらば。
萌え擬人化?いやいや。しっかり転生物として描いた上でのほほんな空気を描ける作家、近藤るるる先生の手にかかれば堕天使たちの攻防もスローライフにはや代わり。それが「しはるじぇねしす」という作品です。
とにかく設定の面でもゆったり百合としても面白い作品なので、紹介してみます。
 

●「しはる」と「えみか」●


眉毛が超キュート。
主人公…というわりには受身で流されっぱなしで、どっちかというとヒロイン側に回っている少女詩遥(しはる)は、ごく普通…よりもちょっとのんびりした中学生です。世界の平和よりも明日のマラソンがいやな程度の、普通さです。自分もマラソンや運動会がめんどくさくていやだったなー。
そんな時に願うことと言えば「学校なくならないかな…」。のび太的思考とはいえ、テストとか運動会とかの時にそんなことを漠然と考えた経験は自分にもあります。
詩遥ちゃんの想像もその程度のことだったのですが、

実際になくなっちゃうんだなこれが。
漠然となにかおかしなことが起きている、かと思えば何もなかったり、という違和感のある生活を送る彼女。当然普通なわけが無いのですが、不思議なことに「何も無かった」ことになって、どこまでが夢でどこまでが現実か分からないまま日々が過ぎていきます。

その側に必ずいるのが、幼馴染の「絵美歌(えみか)」。アホ毛がキュートな同級生です。
もう名前の時点で「あー」という感じの二人。
しはる→ひっくり返す→ルシファー
えみか→ひっくり返す→ミカエル
堕天使の大御所と、守護天使の大御所です。敵対関係にあるはずの二人が仲良く二人で登校。なんか関係が妙に百合。あれれあれれ。
もちろんそれにはわけがあるのですが、それは読んでのお楽しみということにして。それを抜きにしてもこの二人の距離感が絶妙で百合心くすぐります。
実際にはその「理由」のために絵美歌が色々動くわけですが、ほんとはそれだけじゃないだろう?!って感じの二人の仲のよさがまたもうもう。二巻に出てくる幼稚園の回想シーンを見ていると、絵美歌の詩遥溺愛っぷりにこちらの顔がにやけてしまいそうです。
かといって、スキでしかたない!っていうバカっぷるではないし、友情というには奇妙だし、責任感だけでもない。この「女の子の関係の距離」を近藤るるる先生は描くのが本当にうまい。「ハイパーあんな」の4人組の関係が好きな人なら、すんなり入れるのではないかと思います。
 

●魅惑の美少女、リリ●


この作品のカギになっている人物のひとり、夏月リリ。黒髪長身の超美少女で、知能も抜群という非の打ち所なしの人物です。
彼女は自分が「リリス」であることをあっさり打ち明けるのですが、リリスといえば色々なゲームやエヴァンゲリオンにも登場していて、名前を聞いたことがある人もおおいはず。アダムの妻と言われ、悪魔に気に入られ女王になったエリート(?)です。悪女の象徴としても使われること多いです。
この子がまたクセモノで、本当にかわいいんだもう。悪女部分はまあ置いておいて、優等生的な面が強調されており、また常にキラキラ一人だけ輝いています。
そして、リリスといえばゲームなどで「魅了(チャーム)」を使うと言うのも基本。

このシーンだけで自分はごはん3杯いけると思いました。
小悪魔設定(つか本当に悪魔なんだけど)の少女が、少女をチャームです。ああ、混じりたい。
詩遥が天然ボケ、絵美歌が保守的でフォロー、という感じで安定しているところに、攻め攻めのリリ。この少女関係バランスの調和っぷりが見事です。
 

近藤るるるの描く、中学生の体型●

リリが出てから勢いよく他の堕天使達も登場してきます。

長身なのが南風泊(はえどまり)さん、メガネっ子が鈴笛(すずぶえ)さん。この名前の時点で神話に詳しい人なら「あー」という感じでしょうか。
冷静に考えると堕天使の偉大なところが勢ぞろい、というすごい図なのですが、まったくそういう気配がないのが素晴らしいです。もうのほほん空間すぎ。あと「萌え化」という言葉でくくれない、ゆったりした時間の流れと女子中学生のリアルなところをしっかりおさえているのが近藤るるるワールド。はえどまりさんの急に成長したような身長といい、鈴笛さんの成長期ならではのぽっちゃり感も妙に現実的なんですよね。

しはるの幼児体型もすごいのですが、鈴笛さん!鈴笛さんのぽっちゃり体型かわいすぎだよ。おなかおなか。自分で「太っている」と認めるあたりもステキです。こういうのをナチュラルに描けいて、ナチュラルに流してくれるから安心して読めます。
 
体型を自然に描く、って実はすごい難しいことなんですよね。ただフェティッシュに描けばいいというものでもないし、強調しすぎてもそっちに比重がいってしまう。あくまでも生活や性格の一部として、個性として描くことが求められます。近藤先生はそのへんをうまくおさえていて、絵柄としてきちんとリアルな部分は出しつつ、個性としてさらりと流しています。
前書きの部分でも、中学生の心身の成長について触れていましたが、心の面の不安定さが堕天使という形で表出しているとするならば、体の成長はその個性あふれる体型で描かれているのだと思います。
 
体型ネタでいえば「たかまれ!タカマル」のメンツが思い出されます。チビ・ノッポ・やせ・ぽっちゃり・三白眼という特殊ヒロイン構造もすごいんだけど、やはり「ぽっちゃり体型」をあそこまでかわいく描いちゃうるるる先生はスゴイ。「しはるじぇねしす」もですが、見た目だけではなく、「人間性」と「関係」をうまくとらえているからこその魅力なんだと思います。あくまでも「個性」。フェチとして奪い取る視点ではなく、やさしい視点で見つめているから、こっちもそれらのキャラに愛着がわきます。
  

●ダメな男達●

近藤るるる作品の魅力といえば、男達がてんでダメなところ。もちろんカッコイイやつらも少しはいるのですが、なにせダメな男のダメっぷりが容赦なくて、爽快ですらあります。

この作品に出てくる男はほとんどがダメなんですが、その筆頭がマルコシアス。元ネタは地獄の大侯爵で、狼です。
結構一生懸命ではあるのえすが、もうやることなすこと全てからまわり。やられっぷりも半端じゃなく、少女達からは変態の犬扱いです。まあ、犬なんですが。

こういうダメなやつがいるからこそ、女の子がかわいくりりしく見えるんですよね。
絵美歌は今のところ唯一の天使なのですが、マルコシアスのダメっぷりと対比されるからいっそう凛々しく気高く見えます。引き立て役、という言葉がぴったりです。
他にもたくさんの男堕天使が出てくるのですが、数コマしか出てこない中ですごいダメなので、インパクト絶大。中でも1巻の最初に出てくるフルフルのやられっぷりは壮絶なので必見です。
語呂合わせも面白いです。刑事の田平さん=デカラビア、薬剤師の祖父江さん=病人の扱いのうまいブエル、という感じで、豆知識程度に堕天使話を知っているとかなり楽しめると思います。
 

●とはいえハルマゲドンをめぐる思惑はうずまくわけで●

のんびーーーり仲良く時間がすぎていくマンガなのですが、さすがに堕天使たちがたくさん登場すると思惑もあるわけで、一筋縄ではいかないすれ違いもあります。そのへんもしっかり物語として描かれつつ「いかに気づかれず、平穏に過ごすか」を少女達が思いに留めている、というギャップが楽しませてくれます。裏で何が起きているかを深読みして楽しむもヨシ、表面的なのんびり感じをしはると同じ顔でニヘラニヘラとすごすもヨシ、危うい日々を絵美歌と一緒にハラハラするもヨシ。
すっごく小さい世界の、すっごく壮大なお話。どこで爆発するのか、あるいはこのままこじんまりしぼむのか、楽しみでなりません。
ちなみに、百合カップリングマンガとしても面白いと思います。個人的にはリリx絵美歌がイチオシだと思うんだ。まあ、チャームは卑怯なんですけどね。
 
しはるじぇねしす 1 (MFコミックス アライブシリーズ) しはるじぇねしす 2 (MFコミックス アライブシリーズ)
たかまれ! タカマル11巻 (ビームコミックス)
にしても。幸地ゆきえちゃんのかわいらしさは異常だと思います。