たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

武侠の世界は仰々しさが醍醐味ダ!荒川弘「獣神演武」

武侠モノとの出会いは突然に●

「カンフーカルトマスター」という映画を友人に見せられたことがありました。
いやもうなんというか、初めて見たときは「なんだこのバカ映画は」と、腹を抱えてゲラゲラ笑ったものです。実際ありえないようなアクションシーンも結構多いのです。が、これがジワジワと後から燃えてきて、そのうち止められないくらい非常に不思議な感覚に襲われたのを今でも鮮明に覚えています。
なんせみんな、おおげさ極まりないアクションで動き回り、極めてわけのわからない言動をするわけです。
うん、止め絵でそれらを見るならば確かに珍妙なカットが多いのは否定できないです。が、これが一連の流れになると妙にワクワクしてくるからたまりません。そして、気が付けばその独特な動きと、英雄や悪の描かれ方に、理屈じゃない部分の血沸き肉踊る感覚がふつふつと浮かんでくるじゃあないですか。
これが、我敬愛するリー・リンチェイとの出会いでした。
 
武侠物に関しては、自分は正直そんなに詳しいとはいえません。と言うのも周囲にたくさん、死ぬほど詳しい人がいっぱいいたため。中でも一人は、中国からビデオCDを直輸入している店で、中国にしかない作品をがっぱり買い集め、それを再生するためビデオCDプレイヤーを買うほどのマニアで、その人には色々教えていただいたものです。
武侠映画にはどっぷりとはまりましたが、武侠小説の方は想像力が貧困なせいかかなり疎いです。金庸先生くらいはきちんと読んでおきたいものなのですが…。やっぱり映画から入った身としては、そう、おおげさなくらいに動き回るその瞬間が見たいのですよ。
 

●正統派の武侠英雄群像、ここに参る●

はて、前から連載で気になりつつも見ていなかった荒川弘先生の獣神演武を買いました。
最初の印象は、題名も見た目も地味だなあ、という感じ。正直題名覚えてなかったです。「ハガレン」の荒川先生がなんか中華をやってるぞ、程度にしか。
しかし気づけば出たばかりなのにもう2版。すさまじい勢いで売れているじゃないですか。
興味わいてきて買ってみたら…オモシロイなコレ。
いい意味で地味です。つまり、正統派な武侠モノという感じ。だからこそ、そのノリと「大仰さ」がたまらなくカッコイイ。
ええ。最初に書いておきますが、確かにネタ的に新鮮で斬新な作品ではないと思います。でもそういう理屈じゃないんですよ。「マンガで武侠ヒーローを見ようよ!」ってことです。

あらすじ・岱燈と頼羅兄妹が劉煌と共に「賢嘉爛舞」という剣を取り戻すために旅に出るが、そこで北辰天君という伝説の英雄の運命に…

ああ、もうわからん。よみずらい!
が!名前とか漢字多くて分かりずらそうに見えるのですが、ぶっちゃけ名前なんて覚えなくても読めるよ!
 

●「すごいこと」をすごくなく描くことと、すごく描くことと。●

はて、「鋼の錬金術師」を読んでおられる方ならなんとなく分かるのではないかと思いますが、荒川弘先生の描写の面白さに、「すごい特殊なことを普通のように描く」ということと、「すげーことをすげー描く」対比があると思います。

猪突猛進で熱しやすすぎる主人公の岱燈(たいとう)くん。武侠モノの多分にもれず、自分の力を過信したおばかさんです。
まあ実際彼は相当強いのは事実なのですが、この世界は他にもっと強い人がいっぱいいます。だからこのコマ、すごそうに見えて、なんか普通なんですよね。このサジ加減がうまい。

だから一気に「すごい部分」を描くと、そのふり幅のでかさゆえに、とてつもない力を感じさせられるのが楽しいんですよねえ。
ちなみにこれはまだ序の口。彼はもっとすごいですよ。まだまだすごくなるよ。
 
その世界において、長けた人物が特殊な能力を用いる、というのを描くためには、それが日常の一部になっていかないといけません。武侠モノの主人公達は確かにめちゃくちゃ強いのが多いし極端におおげさなアクションを繰り広げるわけですが、それすらも民衆から見ると「たまにいるよな」的な空気でなければいけません。
だけど!一瞬だけ本気を出すから、そのメリハリで彼らの力は巨大なものに映るのです。
その点、次々に現れるキャラの強さといい、岱燈のムチャっぷりといい、かなりいいノリを見せてくれています。
変な表現ですがここ部分に関しては、「日本のマンガの影響を受けた香港のマンガ家」の雰囲気も、他のキャラ達から感じられます。
ちょっと他のキャラも紹介してみます。
 

●武のオンパレード●

まずは、超正統派の棒術使い、劉煌。個人的には一番好きな、いわゆるカタブツマジメな激強キャラです。

中国武侠モノといえば、棒術は欠かせません。この間合いと、画面右から左へ貫く力の流れにゾクゾクします。
岱燈が比較的おバカな力の使い方をし、劉煌が冷静沈着に物事を進めていく。一見仲が悪そうで実はいい。この関係だけでももうたまらんのですが、その武の見せ方がアクセントとして大きく関わっているのは言うまでもないでしょう。
このへんは「彼ら二人の思惑と運命は」とか「彼らの義は」とか考えるより、「振るっている武がすべてを語っている」くらいの気持ちで読むと最高に気持ちいいです。
でも、まだまだこれから、ですね。今後どうそれを見せてくれるやら。
 
次に「オバカキャラ」の席についた鳳星くん。

バカです。
とはいっても、実は彼ものすごく色々考えているキャラで、そのへんは…うん、連載分も含めてのお楽しみ。ただこういう作品なら「必要な位置」と考えていいのではないでしょうか。
もちろん、彼も見せ場があります。普段とのギャップでえらくかっこいいんだこれが。

弓矢のかっこよさは、他の武器とは一線を画しています。それをうまく見せてくれていることも含めて、彼は今後ますます愛されるキャラになるのではないかと思います。
そう、ピンポイントに、弓矢と同じ「一点集中」な魅力なのです。
 

料理と化粧が得意で口がうまく、それでいて大雑把な性格の虎楊さん。ちょっと今までの荒川先生タッチと違う感じがします。
彼はまだ何かをしでかしていないのですが、その片鱗はみることができます。
 
こんな感じでジワジワと「明らかに何か飛びぬけている」やつらが登場しています。
そんな彼らが集結しはじめて…となったら燃えないわけがない。
うん、何やら伝説とか国を救うとかってありますが、そんなの正直どうでもいい。
すごい奴らが集まって武と心をぶつけるための目的にすぎんのですよ。
 

●荒川マンガはヒロイン(とオヤジ)がいい。●

そんなわけで男だらけの作品ですが、その中の紅一点が主人公の妹、頼羅(らいら)ちゃん。

荒川弘先生の描く女の子って、別に飛びぬけて美人だとか、派手だとかじゃないんだけれども、なんだかすっごいかわいいんですよね。
健康美、という表現が適確かどうかわかりませんが、間違いなく画面の中で、偽りのない表情で輝いています。
そして荒川マンガといえば欠かせないのがこれ。

オジサン!
ああもうかっこいい。強すぎてかなう気がしないオーラですよ。
まだこの時点ではどんなキャラになるかわからないけれども、圧倒的な強さを見せ付けてほしいところです。
 

●武で語れ●

余談ですが、荒川弘先生はデビューする前に、張飛龍さんのネット小説にイラストを描いたことがあるそうです。それが「獅子獣神演武という作品。同人誌にもなっています
その張飛龍さんが、この原作者「黄金周」さんとのこと。ちなみに中国語でゴールデンウィークの意味。
出てくるキャラクターなどは、これが元になっていますが、全くの設定は別物のようです。今はHPも消えていて、見ることが出来ません。残念!
 
とりあえずこの作品、アニメも10月からはじまるとのことで楽しみですが、まずはやはりマンガの純粋な武侠の楽しさを味わい続けようと思います。
しかし今の時点でまだ仲間集めみたいな感じなので、どう考えてもストーリーはアニメが先行になるんですよねえ。うーん、別ルートになるんでしょうか?
 
〜関連リンク〜
獣神演武 アニメオフィシャル
プロモも見れますよ。なーんとなくですが、アニメとマンガは雰囲気が違ったものになりそうな感じがします。
獣神演武(Wikipedia)
ネタバレ多し。注意。
「獣神演武」は元同人発表作なのか(有栖川探偵小説事務所出張所)
カンフー・カルト・マスター 魔教教主
 
獣神演武 1 (1) (ガンガンコミックス) 鋼の錬金術師 17 (ガンガンコミックス (0744)) カンフー・カルト・マスター 魔教教主 [DVD]
いずれにしても、漢率高いマンガになることは確か。熱いよ。
カンフーカルトマスターは、武侠映画慣れした人向けかも。