たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

囚人虐殺爽快痛快監獄遊園地「デッドマン・ワンダーランド」の4つの狂気。

●ワンダーランド・ネヴァーランド・タイドランド●

大槻ケンヂはかつて「埼玉ゴズニーランドに行きたい」と歌いました。
現実の世界をすべて捨てて、キャラクターの帽子をかぶって、ニコニコしながら暮らせるような生活を送りたいと歌いました。
実際それは多くの人の心に眠る願望の一つ。リアルワールドで完璧なる現実逃避を行い、テーマパーク内のルールを遵守してその世界の住人になることは非常に楽しいことです。横に恋人とか家族がいたらそりゃもうね。
しかし、そのキャラクター帽子をかぶったまま、通勤電車の帰りに遭遇した時の、価値観の倒錯っぷりときたら。
あれ、自分は、何をしているのだろう。
 
夢の国を外側から見るのは非常に楽しいことです。
しかし、一旦距離を置いたときに、またあるいは客を見る側の立場に回ったとき、一体何が見えるんだろう?
ましてやそれが、過激さが売りのショーだとしたら。
さあ、狂ったパレードがやってくるよ。
 

●囚人達の死のショーを楽しもうじゃないか●


片岡人生近藤一馬先生という「エウレカセブン」コンビの最新作デッドマン・ワンダーランドは、表紙だけ見るとエウレカセブンの続編にも見えますが、その見せ方の技術を生かしながらえらいとんでもない方向にボールを投げた、虐殺遊園地の華々しいショーとも言える作品でした。
なんせ、この舞台であるデッドマン・ワンダーランドの設定が、神経の不快感の部分を引きずり出さないわけがない。
 
まず、刑務所・拘置所が完全な民営化を遂げます。刑罰を決めるも、どう教育するかもお金で動かせるわけですよ。
ならば囚人を使って、「お金が入って、かつ教育ができること」をする方が合理的です。
そんなわけではじまった、囚人を使ったショータイム。
東京は荒れています。みんなの心も荒れています。それを満たすには、ちょっと派手なショーとアトラクションのあるテーマパークがぴったりです。

かわいいキャラクターが、安全で楽しい囚人ショーを紹介するよ!
ん?人権?
「どうせあいつら犯罪者じゃん」
 
この作品の面白さは、そんな歯車のおかしなデッドマン・ワンダーランドを4つの視点から、おかしな楽しさと狂気の気持ち悪さで描き出しているところです。
ほんと、ものすごいスピードで展開する物語と世界観に、飲まれます。
 

デッドマン・ワンダーランドをめぐる4通りの狂気●

まあ、ちょっと、ちょっとくらい派手で刺激的なほうが、楽しいわけですよ。遊園地は。
だからちょっと過激にしたよ☆

 
こんなのが日常の空間で、5つの目が入り混じってぐにゃぐにゃに話はゆがんでいきます。
そのうち4つは、常軌を逸しているかのようにしか見えません。

1、この遊園地を行楽として見に来た観客の視点
2、この空間に長くいることで、それが普通になってしまった視点
3、自分の意のままに操り、囚人を物として見る視点
4、状況を楽しみ別ペースで歩む視点

そもそも遊園地です。みんな「ちょっと過激な演出」を楽しみにきています。
しかし、それもある一定ラインを超えると「そのテーマパークルール」に慣らされて、感覚がマヒしていくのです。この様子がそうとうに気持ち悪い。

すぐそばにいるわけじゃないから、においや現実感はありません。遠くから、映画を見るかのように見ていたら、それは仮想のもののように思えてくるわけです。
が、それを内側から見ることで、ものすごい勢いで嫌悪感を感じさせられます。
自分達の死を、ゲラゲラ笑いながら楽しむ彼らは…何を見ているんだろう?
あながち、極端な例でもないんですよね。ローマの闘技場はまさにこれなわけで。
 
そして、囚人達もここに長くいることで、ただ明日を生きるために働き、完全に麻痺してしまう人続出。

まあ、狂った場所だというのを知らずに喜んでいるのが真ん中の主役なのですが、それにしてもこの「普段っぽさ」は恐ろしさを感じます。アンパンですか。死なないとしてももうちょっといいものがあるだろうに。
他の囚人達も、民営化によって生まれた「刑務所内格差」によって、すさまじい力社会が発生します。でも明日死ぬかもしれない世界で、そんな部分への文句が通用するわけもないんですよね。

こんな感じで、軽くて笑えるシーンも多いのですが、冷静に考えるとこの世界、看守の気まぐれで明日はこうなるかもしれないような世界です。本当は笑えないはずです。
しかし、それも日常化すると気にならなくなるから恐ろしい。
 
そして、それを見守る看守達が恐ろしい。
恐ろしいと感じるのは主人公視点で、監視される側だからかもしれません。

かなりこの世界らしさを体言している、看守長のマキナ。
言っていることはとても変なのですが、死刑囚が多く、独自のルールで動いているこの空間ではかなり真実の言葉ですよ。
不条理とか、正義とかくっちゃべってるくらいなら、少しでもショーをやってお金(ここではカストポイントというポイント制の通貨が用いられています)を稼いで、裕福な暮らしをしたほうがいいんじゃないの?
いや、待て!それは、それはおかし…あれ、でも生き延びて、おいしいもの食べて、死なずに幸せに暮らして、って、普通の日常生活と同じだよな…あれれ?仕事もあって住居もあって、幸せなんじゃない?
そんな甘いことを考えたくなりますが、やはり狂いはあるもので。

不条理は、深い理由もなしに生死を簡単に左右します。そしてそれをお金や好みで動かせることほど楽しいこともないわな。

おそらくこのマンガでマキシマム狂っている責任者の玉木
彼が何を考えているかは、今の時点ではさっぱりわかりません。おもちゃで遊ぶ子供のようにしか見えません。
 
しかし、なんですね。この狂った顔見てうれしくなった自分は、もうすでにデッドマン・ワンダーランドのペースにのまれているのでしょうか。
 

●特殊な少女と、巻き込まれる少年と●

そんな、胃がキリキリ痛みそうな空間を、痛快でワクワク感すら感じるようにしているのが、先ほどの4で書いた「別ペースの少女」と、この世界を否定し続ける主人公の存在です。
この二人がいなかったら、おそらくデッドマン・ワンダーランドは「カイジ」の世界を傍から見て楽しむような変な感覚になることだったでしょう。しかし二人がその中で芯を通しているので、気持ちが悪いだけではなくしっかり手に汗握る楽しさに満ち溢れています。


そもそも主人公ガンタは、とある理由で完全に「冤罪」で巻き込また少年なのです。
まあ、理由が結構すさまじいので、ここには書きません。見てください。
その冤罪の様子は、ほんと一瞬で嵐のようにすっとばして、彼がこの空間で困惑し苦悩する様の方をピックアップしています。
泣きたい、叫びたい。でもそんなヒマはないんです。だって、目の前で人が死んで、自分も死ぬかもしれないから。戦場以上に理不尽で、意味も分からないままに。
まわりはみんな狂っているとしか思えない世界。いや、むしろ自分が狂っているのか?
 

そんな彼の気持ちを映し出す鏡のような存在が、超絶浮世離れした少女、シロ。キャラクターデザインも性格も、あまりにもこの殺伐とした世界から浮いています。
先ほどの4にあたります。普通に見たら、かなり狂った目をしていると思います。
価値観も、見た目もおかしな彼女ですが、それは逆を返すと極めて純真だという証?
いや、それにしてもこの生々しい不条理と死の世界で、彼女の存在はなんなのかさっぱり分からない、というのがガンタの思うところでしょう。実際わからないです。そして、誰も彼女の存在を不思議に思わないってどういうことだ?なんかおかしくないか?
 
ああ、そうか。
ここは不条理が現実の、囚人の遊園地だったものね。
 

●狂ったパレードはどこまでも続く。●

基本的にガンタ視点で、シロをまじえながら、この歪んだ空間でいかに生き残るかが描かれているマンガです。その話の展開のスピード感は、苦悩させるヒマすらあたえません。抗うことすらできない世界で、ただどう生き残るかだけ考えるしかない。
そしてそれを笑う多くの人の顔。
嫌悪感と疾走感と、その中で抗おうと激流を滝登りするようなガンタのバランスが絶妙な、痛快残虐アクション作品です。
 
正直ね。ガンタにはがんばってもらいたいし、もっとこの歪んだ歯車に抵抗してほしいんだけれども。
先ほど書いた玉木がもっとオカシくなって、もっとありえない方法で囚人を殺して欲しいよ、と思う自分は、相当このマンガに狂わされている気がします。
そう、パンフレットに書かれていた、この気持ち。
「どうだったかな?デッドマン・ワンダーランドは安全で楽しいところでしょ。是非観光しに来てね!」
 

さてはて。謎はたくさんてんこもり。こいつの存在も絡み合って、考える余裕を与えてくれません。
どのキャラに感情移入するかはあなた次第。ただ、どこから刺されるかは分かりませぬ。
ジェットコースターな物語と惨劇に乗り込む快感に酔ってみよう。
「是非入所しにこいよ!」
 

交響詩篇エウレカセブン (1) (カドカワコミックスAエース) 交響詩篇エウレカセブン(2) (カドカワコミックスAエース) 交響詩篇エウレカセブン (3) (カドカワコミックスAエース)
交響詩篇エウレカセブン (4) (カドカワコミックスAエース) 交響詩篇エウレカセブン (5) (カドカワコミックスAエース) 交響詩篇エウレカセブン (6) (角川コミックス・エース (KCA138-7))
エウレカセブン」の方は、アニメ版とちょっとストーリーが違うため、アニメのファンも知らない人も読める作品。ストーリーのスピード感も爽快な上に、切なさも満載のすてきな作品です。
なんせ。アネモネxドミニクが大好きで、冷静に読めないです。はい。
ところで。デッドマンの二巻には、おまけでぜひとも「よい子のルールブック」を小冊子でつけてくれないでしょうか。すごいほしいんですが。