たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

男女が見る百合への視線を、「百合姫」シリーズから考えてみる。

BLは割と好きな人の層が明確で、昔も今もめきめきと成長し続けているジャンルだと思います。
百合も最近ものすごい勢いで幅を広げているジャンルだと思いますが、はて。以前ちらっと百合作品群の中でも開拓者になっている「百合姫」という雑誌について、「どの層が読んでいるんだろう?」という疑問を書いたところ、解答をコメントで寄せてくださった方がいました。ありがとうございます。
意外な結果…いやある意味予想通り?
 

●「百合姫」シリーズの開拓層●

こちらに、読者層を出したグラフが載っています。
一迅社・読者層グラフ
まんが4コマKINGSぱれっと」の男:女=9:1とかも面白すぎるんですが。しかも30歳以上が31%。すげえ、30代以上男子購買力激高し。
 
それはさておき。
問題の百合姫ですが、男:女=3:7。圧倒的に女性層が多いです。年齢を見ると、20代以上が主に買っているのがわかります。
うん、確かに値段も高い雑誌だし、年齢はちょっと分かる気がします。
これどうやって調べているかわからないので、一概には言い切れないところがありますが、なかなか興味深い。ちなみに自分の周囲の狭い交友関係を見ると、買っている人は男女半々という感じ。全く興味のない人は触れもしないし、大好きな人はほぼ毎号買っている、という感じの雑誌です。
 
コミック 百合姫 2005年 VOL.1 → コミック百合姫 2007年 12月号 [雑誌]
百合姫」という雑誌、最初は「百合姉妹」という名前で発行されていました。
この頃はマンガの連載陣もどう進むのかの行きかいがあったようですが、かなり「百合」を盛り上げていこう!という感覚が詰まっていました。同時に載っていたコラムはどちらに向かうのか、非常に悩んで行き惑っていた空気もあったと思います。
一度この百合姉妹は廃刊になり、「百合姫」になって復活。
途中行き来を繰り返して手探り感もあったとは思います。ちょうど同時期に「百合天国」なども別の出版社から出ていましたが、こちらも手探り感が感じられます。それが面白いんですけどね。
「es〜エターナルシスターズ〜」というアンソロジーも出ていましたが、こちらはスタジオDNAから一迅社に名義変更してます。こちらも「百合姉妹」から「百合姫」になる際に発行されているため、2でかなりまとまりが出てきました。
es?エターナル・シスターズ?花咲く乙女の学園アンソロジー es~エターナル・シスターズ 乙女と乙女の恋するコミックアンソロジー(2)
 
個人的には最近もうしっかりと「百合を楽しもう」という軸が一本できており、それから幅を広げるような安定感を感じます。
「どういうのが百合なんだろう」から、「こういう楽しみ方もいいよね」という提示に変化したのが、その一番の理由かなと。
たとえば金田一蓮十郎先生は「マーメイドライン」という作品で、トランスジェンダーの男性が女性の心をもって、女性を好きになる、というかなり変化球の百合作品を投入しています。が、これも描写の面で確かに「百合として楽しんだら面白いな」という側面を持っていました。
関連・「マーメイドライン〜あゆみとあいか〜」に見る、百合の形。
タカハシマコ先生は、女の子同士のつながりを描きつつ、ほんのりと甘い香りと少女特有の心理変化をたくみに描いています。これも確かに「女の子が好きでガールズでラブ」かというとそうとは限らないのですが、本人いわく「この感情は百合だ」という名言で、非常にわかりずらい「百合」のラインを整理されていました。
この時点で、ほかの人がどうとらえようと、書き手・読み手が「百合と感じるかどうか」という方向性が提示されているんですよね。
関連・タカハシマコ「タイガーリリー」の、終わらない少女感覚
そのほかにもなぜか女の子しか出てこないのが自然な百合コメディを確立した林家志弦先生「ストロベリーシェイク」のような方向や、オンナノコの「キレイ」という極めて感覚的な部分を描きとめたキラキラな感じのCHI−RAN先生などもあります。作家の中でそれぞれの「百合」観が熟成されたことで、全体の雰囲気が統一されていったのかもしれません。
そんな中で生まれた、乙ひより先生のような純百合作品。男性視点ではなく、女性の身体感覚や少女漫画的な文法、グラマーではなくゆったりした体や、落ち着いた時間が、「百合」という視点をさらに幅を広めていることになっていっている(進行形)と思います。
関連・乙ひよりの描く、少女たちのリアルとゆるやかのスキマ。
 

●男の子向け?POPな感じの「百合姫S」●

こうなってくると、「男性視点の百合」と「女性視点の百合」、どちらも楽しみたいと思うものですが、本の方向性が散漫になってしまいます。そのためか、「百合姫」から増刊的な扱いで「百合姫S」が登場しました。
コミック百合姫S (エス) 2007年 08月号 [雑誌] コミック百合姫S (エス) 2007年 11月号 [雑誌]
こちら、読者層はよくわからないのですが、どちらかというと「萌え」的要素を含んでいる作品や、男性に強く支持されている作家さんが多く集まっており、極めて方向性がはっきりわかりやすい雑誌になっています。
うん、百合に種別を決める必要はないけれども。でもやはり視点の違いはあるんですよ。
百合作品は好きだけど、アニメっぽい絵はちょっと…という人にもやさしい感じの「百合姫」、かわいい女の子たちがイチャイチャわいわいしている萌える百合も大好きさ!という人向けの「百合姫S」。表紙を見てもその主張はくっきり出ています。先ほどのHPでも「男性読者のニーズ」と書かれていますね。
それが、ある意味「百合ってなんだ?」と分からずにいた一部の読者層に、ひとつの視点の形を与えてくれる結果になったのではないかなと思うのです。複数の選択肢から選択できるというのは、手探りでいるよりはるかによいです。
 
やはりこれだけはっきりと方向性でわけてくれはじめると、その分かれたベクトルの中にも極めて純度の高い作品が登場するからうれしい。
個人的に大好きなので、やはりここで吉富昭仁先生が連載されている作品を推しておきます。1にも2にも描いていますが、かなり今までにない特殊なノリと緻密な絵柄で異彩を放っています。
また、1では「宙のまにまに」で人気を博している柏原麻実先生が書いているのですが、こちらがまたものすごくしっかりした絵柄と軸があって面白いんだ!
そのほかにも確かに今の百合姫の絵柄の雰囲気とは違うかもなあと思いつつ、確かに「こういう百合の楽しみ方もあり」というのを、かわいらしい絵柄と男性視点からの視点で区切って切り分けたことで、のびのびと描かれるようになっているので今後に大いに期待できると思うのです。
 

●エッチ抜きには語れない。「百合姫Wildrose」●

百合姫Wildrose (IDコミックス 百合姫コミックス)
そして、もうひとつのベクトルとして切り離されたのが、この「百合姫Wildrose」。形式は雑誌ではなくアンソロジーです。
百合でエロシーンを入れる、と言うのはずーっと長いこと語られてきた大きなカベの部分でした。エロがあってもいい、あったほうがいい、いらない。それぞれもちろんかみあうわけはないのですが、「少女セクト」で玄鉄絢先生が描いてから「あってもいいよね」と言う人(主に男性)が一部増えた気がします。
このへんが百合とBLの違いなのかもしれませんが、面白いことにこの「百合姫Wildrose」はそこに踏み込んでいるんですよね。
というのも、描いている執筆陣が、同人発だったり、BL作家さんばかり。
 
BLが好きで百合も大好き、という女性の方はものすごく多いと思います。(ちなみに百合好きでBL好きな男性も地味にすごく多い。)
うまくそのへんのバランスを保ちながら、救い上げたアンソロジーになっているので、キャッチコピーにもでかでかと「ガールズLOVE」と銘打たれています。
加えて、男性がイメージする「女の子同士のエッチ」の独特な淫靡さではなく、わりとさっくりと、情の流れの一つとしてエッチが入っているので、あまり違和感がありません。
個人的にこの中で好きなのは、森島明子先生。非常にかわいらしい女の子を描かれており、お互いの感情のからみあいでエッチシーンに入ります。確かに取り扱っている内容的には結構きわどいのですが、とても流れが安定していてぶれないので、するりと二人の感情が伝わってくるのがウマイ。あくまでも二人の関係の「一つのカタチ」という提示なのですよ。
 
もちろん、エッチシーンはいらない…という方に無理に勧めることはできないですが、きっちり切り離して別の方向ではぐくんでいこうとする姿勢にエールを送りたいです。これもまた、「百合」「ガールズラブ」の方向の一つであることは間違いないのです。
 

●百合という言葉●

「百合」という言葉を聴くと、昔のAVを思い出してあまり好かないという声を聞いたことがあります。また「これは百合、これは百合ではない」と議論になることもしばしば。
このへんは本当に個人の感情なので、答えは絶対出ないと思います。BLも確かに幅広いですが、それと同じかあるいはそれ以上に曖昧なのが「百合」と今呼ばれているジャンルだと思います。
そして同時に、結論を出さないからこそ幅に深みが出る、というのも「百合」の魅力だと思うのです。
 
以前百合マンガに造詣の深い真・業魔伝書庫のLITさんとラジオで話していたのですが、百合作品って「自分なりの楽しみ方」はあると読み深めやすいと思うのですが、「共通の定義」が作れないところにこそ楽しさがあるのではないかと。
特に男性女性両方にファンの多いジャンルで、楽しみ方に性別はないとはいっても、どうしても視点の差異は生まれてしまうものだと思います。そこで「これは百合じゃないから」と言い始めると絶対かみあわないところが生まれてきます。それは仕方ないです。
しかし、流れを見極めて方向を分け始めた「百合姫」がうまいことそんなぼんやりした読者の思惑を反映していったのが面白いんですよね。
その人が「これは百合っぽいなあ」と思ったら、その人にとっては百合。そんな部分から二人の女性(あるいは女性と認識している人)の感情の絡み合いがいかに描かれるかがキモ。
今後はさらに「コメディ」方向や「萌え」方向、時には時代劇や大人の女性物なんかも出てくると思います。それらも含めて、消費されるのではなく、ゆっくりと熟成されていくのが、今の百合の成長の仕方なんじゃないかと思うのでした。
 
もちろん、ぜんぜん無関係なキャラのカップリング遊びも楽しいけどね!今はバンブーブレードで百合れないか思索中。うーん、キリノxタマちゃん…。あんこxパスタ…。
 
〜関連記事〜
百合「的」作品をちょっと分類してみた。
これ書いたときと今はだいぶ考えも変わりつつありますが、「百合的だなあ」と感じる心が大事だと思うのは変わりません。
「百合的作品」群から見た少女幻想と、ネバーランド住人たち。
 
かわいいあなた (IDコミックス 百合姫コミックス) 乙女ケーキ (IDコミックス 百合姫コミックス) くちびるためいきさくらいろ (IDコミックス 百合姫コミックス) Voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)
少女美学 (Yuri-Hime COMICS) ストロベリーシェイクSweet 1 (IDコミックス 百合姫コミックス) 絶対×浪漫 (IDコミックス 百合姫コミックス) 夜空の王子と朝焼けの姫 (IDコミックス 百合姫コミックス)
百合姫からコミックス化されているものは、表紙が気に入ったとしたらそれほど外れないのがよいです。
まあなんだ。乙ひより先生のは百合好きなら読んだ方がいいですって、まじで。