たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ぼくが「げんしけん」に求め続けてしまうもの。

LITさんの「オタク漫画紹介録」第四回目が、今アニメ第二期も始まったげんしけんということで、これは書かないわけにはいかないと思いキーボードの前に座ったのですが。
あまりにも自分が好きすぎて、冷静に紹介とかレビューとか出来ないわけですよ。
この作品、正直「自分の生活との重なり合い」「オタク文化の色々な視点」と、そっちに目が行き過ぎてしまって、作品そのものを冷静な目であんまり見れていないです。マンガの描写としてうまいからこそ、そういうのが自然とフィードバックしてくるんですが、「ここはリアルだ」「オタクはこんな目をしている」という部分に脳みそが偏りすぎちゃってるんです。
オタクは「こうなりたい」でいいじゃない。〜「げんしけん」9巻特装版より〜

・ディープオタクが「これはネーよもっとドロドロだよ」と突っ込みを入れながら読む。
・キャラ萌えとして読む。夢と魔法の国みたいな感覚。

自分はここに当てはまります。
 
もちろん他にもたくさんオタクが出てくるマンガというのはあるし、青春群像やそのサブカル文化の面白さを表現している作品は多々あるのですが、それでもなおいまだに「げんしけん」を手にとってしまうし、オタクマンガと聞くとまず筆頭に挙げてしまう。
もちろん荻上はかわいいなあとか、そういう見た目の部分もおおいにあるのですが、それ以前にそもそも、自分はこの作品に何を求め続けて手を伸ばしているんだろう?
 

●今、一番やりたいことと、げんしけん。●

名シーンが多く、色々オタクとして魅力的なシーンが多いげんしけん同人誌即売会のシーンはただぼーっと眺めるだけでも「あるある」とかにやけてしまいます。作中で同人誌が完売するのが本当に「あるある」なのかどうかは微妙ですが、その爽快感が疑似体験できるだけで幸福なのです。
また、なんだかんだで恋愛も出来ている(しかもオタク同士で趣味もあう)そんなラブストーリーも、荻上の心理の波状攻撃があいまってやっぱり魅力的。笹原はへっぴり腰なところがあるのに「笹原ならヨシ」と思わせるあの流れも魅力的。大野さんと田中のエロカップルも魅力的。
 
しかし、自分にとってもっとも魅力的なのは、やっぱり「現代視覚文化研究会」というでした。
もうずばりコレですよ。

「今週の『くじアン』面白かった会議を始めます」
昔、完全に息をひそめて隠れオタしていた頃は、これが出来ませんでした、ええ。だから、ものすごくこの一瞬に憧れたんです。
オープンオタをし始めても、なかなか出来ないんですよ。当たり前ですよね。自分一人でならいくらでも調節して、マンガ読んだりアニメ見たりゲームする時間は作れるのですが、人にまで時間を取らせる場はなかなかないです。
 
基本的に「オタク趣味」は、自分で突き詰めて選んで、本当に好きなものに挑むor浸るものだと思います。完全に意見の合う人なんて絶対いません。多少合うところはありつつ、最終的には自分が何が好きかがそれぞれバラバラの価値観なのが、楽しいんですよね。
一人で自分に向き合っても十分楽しいんだけれども。そこを「誰かと会話したい」につなげていく人は多いと思います。もちろんそうでない人も多いのですが、オタクに限らず、趣味を持てばそういう感情が生まれやすいのもまた事実。
自分にとっては、この欲求渇望でした。
草の根BBSでは目をしょぼしょぼさせながら夜中の11時以降を待って長い書き込みをして、一喜一憂を繰り返しました。なかなか周囲にオタク・サブカル趣味な人がいなかったので、PCの向こうの友人に会って話すのが楽しくて。
それも次第に「やっぱり直に話し合いたい!」になり、オフ会オフ会。なんてことはない、みんなで集まって夜通しアニメやマンガの話するだけでいいんです。

しゃべりたいときに、目の前にしゃべれる相手がいて、オタク会話が出来る幸せ。
 
これが一巻で斑目がやっていた部室の様子で、気がつけば斑目は卒業してすでにOB、主役(?)の笹原も卒業して就職。時間は確実に流れてみんな別々の進路を歩み始める寂しさもあるのですが、最後の最後にこれを持ってきてくれたから、自分の中には今でも「げんしけん」がループしてるんです。

最初にあった名シーンを最後にリフレインするって、ずるいよね。最高にいい意味で。
最後の最後に、明るくて楽しくて前向きな飲み会の様子を載せているわけです。
過ぎていった時間や複雑な思いを乗り越えつつ。成長して足跡を進めつつ。会える時間は減り、それぞれが現実に対面して悩んだり、あるいは流されたりしつつ。
オタクという趣味を通じて「変わらないつながり」がそこにあるというのがもうまぶしすぎて、泣けるシーンじゃないのに泣けて仕方ない。
だって。斑目ったら、信頼しきってるんだもん。この場を。
 
自分も、色々な人と好きなことを会話できる機会が増えました。確かに仕事などで時間は奪われることも増えましたが、斑目達のように「面白かった会議」が出来るんだ、というだけで気持ちはこの作品とシンクロしていきました。チャット、メッセ、スカイプと便利なアイテムも増えました。
色々な楽しみ方がある作品なんですが、自分が一番に求めているのはオタク趣味を通じた人とのつながり。自分は、斑目達みたいな目をしたいんだと思う。
 

●そして、にべもない現実と、げんしけん

んじゃ「げんしけん」は理想像でリアルなオタク像かというと、そうじゃないんだなあ。
たとえばスーの存在。ものすごい勢いでファンタジーな「外人ロリツインテールオタ」です。すべてがリアルな描写ではなくて、意図的にネタも交えることで、逆にリアルな部分を引き立てているんですよね、これ。実際、スーがあまりに浮世離れしていたことのおかげで、荻上さんの心理状態や普段の生活の様子が、コントラストでぐっと浮き彫りになったと思います。
同時に、「現実はすんなりいかないチーム」がリアルな世界を背負ってくれちゃってるから、もう大変。荻上とか大野さんとかコーサカから一旦目を離してそちらを見たときに、えもいわれぬ生々しさが跡を引きずります。

そこでやっぱり斑目ですよ。
男女読者みんなの共感と同情を買い、愛されまくっている現代型オタクの代表選手です。ちゃんとすればかっこよさそうなのに小心で出来ず、真剣な会話にめっぽう弱く、ちょっと痩せ型。そして彼の想いは恋する相手には届かずのまま。
そもそも、仕事しているのにしょっちゅう部室に戻ってきてごはん食べている彼。職場でどういう立場なのか冷静に考えたら、ちょっぴり切ないです。
ああうう、なし、今の考えるのなし。
 

自分が好きなキャラの一つ、藪崎さんアフタヌーン連載時にはいなかったキャラです。
女性オタの間でのシビアな現実を浮き上がらせながら、最後には本当にいい意味で人間らしいキャラになりました。よいツンデレです…って書くと平坦になっちゃいますが、とにかく不器用で、根はいい人なんだけど嫌われてしまう要素満載。正直なゆえに自ら人を切ってしまうあたりが泣けてきます。
彼女がもっと幸せになっていけばいいなあ。それだけの権利を得られる人間だと思うんだけれども。
 
友人と「リアルだな」と話していたのは、クガピー。見た目じゃないんです。太り気味で吃音なのはいいんです、むしろそれがキャラのやさしさでもあるし。
問題は、ちょっと絵は描けるけど、締め切りは守れず流されるところ。そんな弱弱しさが見ていて苛立ちながら、自分に跳ね返ってきちゃうんです。
同人誌作成の時に見えた彼のその部分は、解消されたかどうかは分かりません。しかし今、彼は一番苦手な営業の仕事をしています。
その他、ハラグーロとかクッチーとか。見ていて苛立ちが多いメンツではありますが、それぞれがいかに重要なポジションなのかもほんのちょっとだけ描かれているのがいい。
正直ハラグーロは見ていてきついです。彼が恨みを買いながらもどんどん人間をつなぐ重要な役割を果たしているとわかっても。
 
ものすごい渇望と青春の感覚を与えてくれながらも、時に突き放すかのようにリアルを放り込んでくる。だからこの作品を見ると、「オタク文化ってものは」と考えが行ったりきたりします。
しかし、オタク文化の複雑な行き来をあれこれ考えさせながら、最後の最後には「でもこれでいいんだよね」と返してくれる。そんな「オタクのリアルとポジティブさの形」も、自分がこの作品に求めているものです。
 

●そんなわけで●

<評点>
面:5 オタ:5 パロ:5 共:5 痛:2 萌:5 燃:1 
点数高すぎるかなあ。でもたまにはいいよね。
パロディ度なんですが、1巻の表紙でやっている格闘ゲームが「わくわく7」パロなので、それだけで5点です。反論は受け付けません。
げんしけん(1) (アフタヌーンKC)
キャラが多い分、萌え度やオタ度はプラス。問題の「痛さ」なんですが、裏を見ればかなり痛々しいんですが、「こうありたい、それでいいんだ」と前向きにさせてくれるので低めです。
 
げんしけん」の話は、細かく刻んで出していかないとながくなってあかんですね。
とりあえず、この作品が自分を含め、今度もまだまだ多くの人を「共感や憧れ」あるいは「オタク文化への視点」で影響を与える基準値の一つとして、大きな存在にはなり続けると思いました。
 
もっとも、荻上さんがかわいければそれだけでよかったりもするんですけどね。
おろした髪もいいけれど、自分は筆頭派です。
げんしけん (9) 限定版 げんしけん(9) (アフタヌーンKC)
9巻は読むなら絶対特装版のほうがおすすめだと思いますが、今はさすがに手に入らないですよねえ。再録とかしないでしょうか。
あるいは、げんしけん公式アンソロジーとか。ぜひ。ぜひ。

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