たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

瞳子、クイーンオブツンデレの威厳を見せる。「マリア様がみてる キラキラまわる」(ネタバレ注意)

マリみてを好きな人間として、一言言わせてもらいます。
マリみて」という作品は全くもって、ネタバレをうかつに口にできなさすぎる。
そんなところが、好き。
関連・「マリア様がみてる」という名の、皮をかぶったミステリー
 
マリア様がみてる―キラキラまわる (コバルト文庫)
最新作のキラキラまわるは、一連の騒動にもとりあえずのまとまりがついた後の話なので、もうさすがにハラハラしないでのんびり読ませるサブストーリーになるのだろうと思っていました。
甘かった!
いやあ、やられた。気を抜いているところにヒザかっくんされるくらい驚いた。そうですか、そこでそんな重大な秘密を暴露しますか。
とはいえ、その秘密の扱い方がなかなか面白いので、ちょっとそのへんを踏まえつつ、愛しい瞳子への愛をつづってみようと思います。
以下ネタバレあり。上記のとおり、読んでいない人はお気をつけてください。なるべく回避しようと思いますが、どこをとってもネタバレっぽさが含まれざるを得ないです、さすがに。
 
 

                              • -

 
 
 
 
 
 
 
 
 

マリみて」ファンの話によるとでは「Kにかかわる子は出番が減る」という恐ろしいうわさがあるそうです。
桂さん。加東景さん。
そして可南子さん。
しかしそれを突き破り、脅威の復活をとげたじゃありませんか。そう、最高の立ち位置で。瞳子の最高*1の友として。
マリみて全体を通してみると、祐巳と並んでトップレベルの成長を遂げたキャラではないでしょうか。トップレベルに増長を遂げたのは由乃さんですが。
 

由乃さんは6速以下を知らないぜ●

そんなわけでまず由乃さんの話からします。
由乃さんといえば常に誰かに当り散らしてキィキィ言っているイメージがありますが、あながち間違いではなくて常にキィキィ言っています。さすがに「常に、とか言ったら失礼だよなあ」とか思ったりしましたが、今作を読んでそれでいいことを確認しました。
もちろん、彼女がキィキィ言うときにはたいていなんらかの理由があります。そしてそれはほとんどの場合後からはっきりするので、最初の時点では「またなんか怒ってる!?」と祐巳たちと同じ視点で楽しめるのがミソです。
なんてことはない、種をばらしてしまえば「またそんなことで」なんですが、それがわからないから、由乃さんが怒るとまわりがビビります。読者としては、よしきたぞ、と身構えます。さあこいその剛速球を華麗に受けてやるぜ。
んで、由乃さんはたいていすごい暴投をするので、読者は毎回「取れないじゃん!」と舌を巻きながらゲラゲラ笑うことになります。
このやりとりを作者の今野先生は計算しつくしたかのように毎回入れてくるからたまらないんだなあ。求めていたところにそっと差し出す…いや、由乃さんはやはり剛速球なんですが。
 
改めて由乃というキャラを考えて見ます。もうすっかり可憐少女の印象は皆無の彼女。決定打は「レディ、GO!」のときの志摩子さんの「由乃さんが怖かった」でしょう。常に暴走、体力がないのに赤ランプ点滅まで大騒ぎ、沸点低すぎの由乃怒りゲージ*2、解決すればさらっと忘れるキップのよさ。三つ編み振り乱して限界までアクションする少女、という表現をしても飛び出してどっか行ってしまいそうです。
今回の彼女も最初から不機嫌でした。その理由も後半明らかにはなるんですが、今回の彼女の剛速球のイケニエになった祐麒くんは合掌せざるを得ません。あれ個人的に「ユキチx由乃フラグだって!」とすげーにやにやしながら騒いでいたら「それはない」とみんなに突っ込まれました。うん、わかってるんだよ、言いたかったんだよ。
 
しかし彼女が迷惑なキャラかといわれたら、全くそんなことはありません。むしろトップレベルに愛されているといっていいでしょう。あの手術後の人間の限界を超えたようなアクションの数々が心をときめかせるのは間違いありません。が、問題はそこじゃあない。
通常であれば、もうかんべんしてと言いたくなるような彼女の度を過ぎたアクションが、非常に愛しく描かれているのがポイントです。今回は「祐巳の心配」「振り回される祐麒」「令ちゃんがんばってるのにおいてきぼり」に加えて、後半で一気に彼女のテンションが盛り返す部分*3が視点に入っているため、見ている側としてはジェットコースター並の楽しさをまず味わえます。
加えて彼女がいないと物語にエンジンがかかりずらいのも確か。やはりそれぞれ比較的「一歩引き気味」なのは事実なので、それにガソリンを注ぐ彼女の存在は非常に重要だと再認識されました。
あとは、何はともあれ、彼女の言動を絵にしたらどれだけ面白いのかが最大の楽しみだったりします。
 
着実に令ちゃん由乃から親離れするため成長しているようですが、こりゃ親離れしようとも関係はほとんど変わらないのも期待できそうです。さあ、こっちは厚手のミットを構えました。次にどんな球がこようとも受け止めます今野先生!…きっとまた違うところに投げてくれるんだろうなあ。
 

●悩みを真剣に考えるだけが、人間関係の土壌ではないんだよ●

はて、少女たちの悩みも今回多く詰め込まれていました。
最初にも書きましたが、読者的には「そんな!?」というネタバレなしで語るのが難しい部分の志摩子さんのまさかの発言。かなりのビッグサプライズでした。
しかしですよ。普通ならそれと「戦うため」「それでもさらに歩むため」の物語を描くのが面白いわけですが、マリみてという話はそういう、前に突き進む感情も持ち合わせながら、それ以上に「すべてを許容する」「そんなの気にしない人間関係を築く」という珍しいスタンスで描かれている話でもあります。
このへんが、マリみての少女たちが特別に手の届かないような位置にある感覚としてとらえられる人を生む部分でもありますし、同時に個と個の関係の深まりを魅力的に演出している部分でもあります。うまいんですよ、実際出てくるのは生身の少女なわけで、いくらファンタジーな少女像の権化になっている場合があったとしても、時折生々しい少女性や、こどもには手に負えない問題を抱えてしまうこともあります。
しかしその問題はさしたる問題じゃないんです。いや、問題なんだけど、大事なのはそれを二人が人間関係の中でどう捉えるか、という事実。
瞳子は特にその点で悩み続けて十数冊でしたが、志摩子さんはさらに知らないところで。
そのへんは実際に読んでもらうべきなのであまり書きませんが、乃梨子との人間関係の位置づけにおいてのその問題の置きかたがぐっときます。確かにこのへんの感情はすれ違ったりぶつかっちゃったりする部分ではあるんですが、この作品の少女たちはそれを「がんばれ!がんばれ!」という方向に進めません。もっと二人の間の絆に焦点を当てます。
百合的作品には、やはり波乱万丈な出来事が多く盛り込まれるのが魅力のひとつですが、このスタンスを貫くマリみては、やはり誰もが話題にするだけのことのがある作品何だと思うのですよ。
大事なのは個と個の関係。
 

キラキラまわる世界は、最初はキラキラしていないからいい●

マリみての他の巻もそうですが、前半は妙にどんよりした雰囲気になることが多いです。
以前書いたマリみてはミステリー説」でもそうですが、最初は祐巳たちとシンクロさせるように、これから起きる出来事にハラハラさせるように描くわけです。この表現はネット的に書けば「wktk」と言うのがもっともふさわしい気がします。
その暗雲立ち込めるような最初のどんより感。そもそも遊園地にきているのになんだ君たちは、といわんばかりの重さですよ。そりゃないよ、もっと最初からハイスピードでべたべたしろよ!まあぼくらが白薔薇カポーはその点・・・と思ったらそこがもっともどんよりしていて、驚かせてくれます。志摩子さんと乃梨子という超がんばりポジティブーズが暗いと全体の雰囲気もしっかり暗くなります。
 
これが途中から、先ほど書いた由乃パワーで一気に大回転する様は見事。あ、いえ、由乃が大回転させているわけじゃないです。由乃は最初の歯車をまわす係りです。
あと今回その点で一躍買っていたのは写真フェチの蔦子さんと、それの追っかけっ子笙子さん。この二人はなにかエンジンをかけるわけじゃないですが、二人はマイペースにリズムを刻んで楽しんでいる様子だったので、作品はそれほど逸脱せず、重すぎず軽すぎるを保ちます。バンドでいうとベースに役目。だから上で祐巳由乃がはちゃめちゃしても問題ないです。
そして後半に向かって、簡潔に、かつ軽快に明かされていく数々のちっちゃな悩み。バラバラに散っていた人間が集まって、最後の一点で収束し、キラキラと輝く花火を見ていく。
この高揚感、一気に引っ張っていくスピード感は、色々な問題が一段落したせいもあって爽快きわまりません。そう、巻末に向かってのぼりつめていく精神の高揚感はこの作品ならではの楽しさです。
そして、一抹のさみしさを見せるのも。
巻末で「マリみて=ファンタジー論」についてかかれていますが、確かにマリみてはファンタジーとして見たほうが楽しめる部分いっぱいあります。しかし時間の流れや、あの一瞬に感じた高校時代の高揚感は、しっかりリアルです。
永遠に続く温室であってほしい、しかし時間は流れつつあります。…ああ、次が読みたいのに、終わりが万が一近づいていたらと考えるだけで身動きが取れなくなります。
 

ツンデレクイーンは笑わない●

最後に、可南子と瞳子の話をメモしておきます。
出番が猛烈に少ないながらも、二人の出番には相当ニヤニヤさせられました。うまいよ、おいしいところ総どりすぎですよ。
まずなんといっても可南子。まさかの復活を遂げたと思ったら、瞳子をやさしく見守り後押しするナイスキャラに変貌しているじゃないですか。それでいて友人を皮肉ることも忘れない。むしろ瞳子が可南子の、手のひらの上状態なことにトキメキました。やるねえ、可南子やるねえ。
これが「火星人」とか言っていた子とはとても思えません。
そして瞳子です。そもそも「なぜこの場にいるのか」を考えるだけでニヤニヤしてごはん30杯はいけます。自由参加がキーワード。んー?君はなぜいるのかなー?と突っ込んで赤らめさせたいよ。
 
瞳子の出番は確かに少ないです。ものすごく少ないです。
しかしだからこそ「ツンデレ」の軸のようなものがしっかりたたき出されている、というのはウマイ。そう、どれだけ出るか、という乱発ではなく、必要なところでいかに心をつかむかが大事じゃあないですか。
その点、この二人は魅せてくれました。ツンデレはデレを前面に押し出してはいけない。あくまでも、小出しに。
 
瞳子も複雑な子なので、簡単にツンデレとまとめるのは語弊だらけなんですが、今回に関しては「ツンデレ」の言葉が最適だと思います。出番の少なさもツンデレでしたし、ラストの破壊力ときたら。そうそう、この溜めた上でのギャップこそがツンデレなんですよねえ。
そろそろ「デレデレの瞳子」が見たいなあなんてわがままなことも思います。しかし、彼女は今のペースを、一応は妹になった今でも、ツンであり続けるからよいです。
 

                                      • -

(ここから感想ですらないです)
 
そして、祐巳と二人っきりのときはちょっと変わって、ツンばっかり+時々デレで攻めるわけで、お姉さまメロメロよなんでしょう。しかし、親友の乃梨子には時々ボロっと見せているに違いない。
乃梨子ー、どうしよう!」て。
「何がどうしようなの?」と乃梨子は苦笑しながら答えるわけですが、そこで瞳子は「いや、その・・・遊園地で何着ていけばいいかなあって」と困惑しきりに答えます。
乃梨子は「楽しみなんだー」といってニヤニヤ笑います。
「た、楽しみなんかじゃ!行かないかもしれないし!」と瞳子はむきになって反撃するわけですよ。
乃梨子は「まあ、そういうことにしておくよ」とケタケタ笑います。
「信じてないですわね!」
「信じてるよー、瞳子のことなら信じるよー」
乃梨子はいつもそうなんだから・・・」瞳子は唯一呼び捨てにできる友人のことを見つめます。しかし今でも時々、二人きりの時呼び捨てにするとちょっとテレがでます。
「私は楽しみだよー」と乃梨子は屈託のない笑顔で答えます。「実質志摩子さんとまたくっつけるし。志摩子さんってやわらかいんだよー」机に腰掛けてニヤニヤする乃梨子さん。
「ふうん」冷たい目で瞳子はいいます。「そうなんですのね。へー」
「妬いた?」乃梨子は首を傾げます。「そんなわけないですわ!」と瞳子はきりかえしますが、顔をどんどん近づけてくる乃梨子に、瞳子の顔はどんどん赤くなります。
「赤いよ」「赤くない!」
間抜けな会話をしているうちに、気づいたらぶわっと瞳子の目から涙。これは意図せずなのでびっくりしちゃいますよ。しますよ。そこを乃梨子が、その涙をペロっとなめとるじゃないですか。
「〜〜〜!?」瞳子はさすがに驚いて絶句しますが、乃梨子は「しょっぱいね」と答えます。
「お互い、その・・・お姉さまがいるし・・・いや、何言っているんだろう」瞳子はさすがに動揺を隠すことすら忘れかけています。
そこに、乃梨子の言葉が。
「でも私たちは、私たちだよ。」
そういって、乃梨子は硬直している瞳子の胸に手を当てます。普段なら大声を出しているところが、今回は声が出ません。
そして、もう片方の手で瞳子の手をとり、自分の胸に当てます。
あまりやわらかくはないけれど、たしかに鼓動を感じる乃梨子の胸。
とくんとくん、二人の心臓の音がする。
「これが、私、これが、瞳子
「うん・・・」
そうか、これが、私たちなんだ。そんなことを考えて、またぼろぼろと涙が出てくる瞳子です。
しかしそこで、心臓の位置から、膨らんだ胸に向けて指を伸ばす乃梨子。あまりのことにぴくっとする瞳子は叫ばない程度に声をあげます。「乃梨子さ・・・乃梨子!」
乃梨子はいいます「瞳子も、そんなに指ぎゅっとしてないで、そのままのばしてもいいんだよ。ほら、体温だよ」
瞳子は指を伸そうとしても震えていることに気づきました。どうする・・・瞳子
ただ、確かに手から伝わる乃梨子の胸は、あたたかかったのです。これが、乃梨子なんだ・・・。
 

                              • -

なんてシーンはないわけですが。
むしろ可南子x瞳子がもっと見たい巻でした。一ついえるのは、あれだけ可南子が魅力的に描かれたら、今後もししばらく出なくても色々想像させてくれるんじゃないかと思わせるだけの存在がああったこと。これはゼヒ今後も楽しみ。
マリア様がみてる―キラキラまわる (コバルト文庫)
あんまり書かなかったですが、蔦子・笙子の話は、おじさんとのカケのせいもあってえらい楽しかったです。あと柏木さんのどんびきっぷりや、振り回され放題の祐麒など見所満載。絶対キャラをおまけにして捨てないのが、マリみてのいいところです。
 
ちなみに今回の名言大賞
蔦子さんが笙子ちゃんのことをこう言いました。
「彼女、今日は何だか感度がいいみたいで」
あとはご想像におまかせします。自分はこれだけでご飯7杯いけそうです・・・。
 
〜関連記事〜
「マリア様がみてる」という名の、皮をかぶったミステリー
マリア様がみてる「薔薇の花かんむり」に見る、女の子たちの距離感についての会議録

*1:から二番目。一番は乃梨子です自分内で。

*2:牙神幻十郎

*3:いわゆるアレでリセットされる彼女カッコイイ