たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

バナナに負けた!男の子にこそ読んでほしい「バナナはおやつに入りません」

 
はい。バナナに負けました。

タカハシマコ先生の「バナナはおやつに入りません」に完全に負けました。
いや、こういうのは勝ち負けではないんですが、その魅力に屈服したと言う意味で敬意をこめて。
 
この作品、ジャンルとしてはBLになるんだと思います。
とはいえBLというジャンルのまあ広いこと。ガチガチな男同士の激しいものもあれば、アラブの灼熱をさまようものもあります。
その中でもタカハシマコ先生の描くBLは、本当に甘くやわらかくかわいらしい世界。いやもう、出てくる男の子たちがかわいすぎるんですよ。タカハシマコ先生は砂糖菓子で出来た女の子に一筋血を垂らしこむような描写がうまい百合作家でもありますが、BL作品においても少年を砂糖菓子でつくりあげてくれます。
これは男女問わずニヤニヤできる本なんだもの、いやあ、参りました。
やはりキモになるのは人間関係。そのへんの面白さと、男女問わず受け入れやすいキャラクターつくりについて思ったことを書いてみたいと思います。
 

●「お兄ちゃん」●

まずキーワードになるのは「お兄ちゃん」です。
ある意味魔性のキーワードですよね。下に妹がいても、弟がいても。

・年齢差があるという第一段階
・なんらかの力関係が発生するという第二段階
・血縁あるなしを問わず、すごす時間が長いという第三段階

二人の人間が一緒にいる時間が非常に長いという、恋愛以外だと不自然な条件をいとも簡単にクリアしてくれます。

そうお兄ちゃんという響きは、年齢差のある人同士が密接につながるための(一部の人間にとっての)浪漫なわけです。あくまでも一部ね。
しかし「弟なんていらねっつの」という人は多いと思います。特に男性なら「妹はほしいが弟はいらねー!」という人が多いでしょう。ともすると「妹もリアルで困らされているからいらないんだけれども」という人も。
そう、そこなんですよ。タカハシマコ先生がハードルをぶちやぶるのは。

まいっちゃうよ。負けましたよ。
こんなにかわいい弟がいたら「YES!ドリーム!」と言ってしまうじゃないですか。
 
しかし、ちょっとした困惑もあります。
この弟君、男性側から見るといわゆる「こんなにかわいい子が女の子のはずがない」キャラクターなわけです。近年のオタク文化圏では、少年と少女のバリアはほとんどないに等しくなりつつあります(一部の人にとって)。少女を愛でる心も少年を愛でる心も同化しつつあります(一部の人にとって)。最初はネタ扱いだったそのようなかわいいオトコノコキャラも、最近では少女以上に少女っぽいがゆえに、人気投票で一位になったりする御時勢です(一部の人にとって)。
そんな中であれば、この弟君を受け入れやすいのは当然?いや、むしろ女の子とかわらないんじゃないの?BLじゃないんじゃないの?どちらかというとショタ?
いえいえ、タカハシマコ先生の巧みさはそこに隠されています。
 

●だってオトコノコ同士だから。●


一見お兄さんが男らしく、弟が女の子チックに見える兄弟。実際そのように最初は描かれます。
しかし実のところ、兄貴はメンタル面で弱い青年です。ちょっとした言動に心が揺れ、時には子供のような反抗心を起こしてみたりするこの繊細さ。そして少し…かなり流されやすいです。
一方、一見女の子以上にキュートな弟君ですが、このキャラがくせものです。

「おにいちゃん」に憧れ、心の中で走っていたのは実は弟君側だったという面白関係。そう、「こんなにかわいい子が〜」は、弟君がオトコノコの本質を持っているからこそ当てはまるのです。
 
自分はあくまでもこの作品を男性視点で見ます。そうするとものすごく「流される年上」に感情移入してしまうんです。
他の恋愛関係(ヘテロ・BL・GL問わず)でも、その環境に抗えず流されていく姿というのはぐっと心をつかまれるものがあります。自分の性癖的な部分もあるとは思うんですが、おそらく「何かいいわけがほしい」「わかって受け止めてくれるものがほしい」という思いも交錯しているんでしょう。
まあ、ずるいんですけどね。ただ少女漫画やギャルゲーだと男性リードになる場合も多いじゃないですか。それはそれですごく胸ときめくんですが、たまには自分のわだかまる気持ちや混沌とした気持ちを、問答無用で押し流して受け止めてほしくなるワガママな気持ちがわきます。
それは「お姉さん物」でも味わうことができます。お姉さん、幼いボクに色々教えてください、あれもこれも性的なことも!
だけどやはりそこは男女の仲。しかも自分が年下になりきらないといけません。それはもう温泉のように心地よいんだけれども、違う、たまにはジャグジーみたいな特殊なお風呂に入りたいんだ!
そんな時にBLの、「年上流され受け年下攻め」は本当に心地よいんだなあ。だって、男の子同士だからそのへんの心の機微を分かってくれているし。
…という二次元限定の楽しみ方。
 
それでもやはり少女大好きな自分なので、できるだけかわいい方がいいなあというワガママを言ってしまうわけですが、やられましたね。タカハシマコ先生の描く少年のルックスはまさに女の子以上。でも心は男の子。

ああ、もう抗えない。この笑顔には。
 

●少女性と少年性●

タカハシマコ先生というと、百合作品や少女作品にも定評のある人です。
乙女ケーキ (IDコミックス 百合姫コミックス) 新装版 女の子は特別教 (ニコ) 1 (ドラゴンコミックス)
このへん傑作なので、少女好きな人はかなり読まれているのではないかと思います。
タカハシ先生は少女を描くとき、まさに砂糖菓子のような、そして人形のような描き方をされます。触れたら壊れやすそうで、その瞬間を過ぎたら失われていきそうで。しかしどんな女性の中にも眠っている少女性を、永遠のものとして閉じ込めることも出来る作家さんです。
この少女らしさ、非常にふわふわしたマシュマロみたいなものなんですが、同時に妙に生暖かい血液も流れています。ふんわり綿あめなだけじゃありません。鋭いナイフの刃も包含しているのがタカハシ先生の描く少女。存在自体が時々ファンタジーでリアル。そんな二律背反で出来ています。
 
しかし、「バナナはおやつに入りません」でタカハシマコ先生の描く少年は透き通ったガラスみたいです。ややこしい心の絡み具合もなく、ものすごくバカで、でも落っことしたら簡単に割れてしまいそうな心臓の持ち主ばかりです。そして、女の子キャラでよく使われる「ツンデレ」をさらにさわやかに、そして甘く描きます。
女性の方はここをどう捉えて読むのか分かりませんが、男性はきっとすごいすんなり飲み込めるどころか、はまってニヤニヤするんじゃないかと思ってなりません。赤面する男子っつうのは、見ていてこっちが赤面するんですよもう!
やはりシンクロ度の高さと、「少年だけど男臭さを感じさせない」ところが魅力の一つなのかもしれません。
かわいい少年が好きな女性はもちろん、男の子たちも…いや、男の子たちにこそ読んでほしいと思いました。たまにはゆったり、ぬるま湯の温泉に身を預けてみるのもいいものなのですよ。
 
とはいえ、BLであることには変わりないので注意。ただハードルは限りなく低いと思います。逆に激しい展開を求める人向けでもないかも。
でもねでもね、自分が本当に「やられた!」と思ったのは、行為を描かずほのめかす程度におさめていること。これには…心のチンコが立ったね。

こんなやりとりにも、こっちがなぜか赤面。う、うまいなあ。あ、何があったのかはご想像におまかせ。
ああ、バナナに負けてしまいました。でもこんなに安らかな気持ちなのは久しぶりです。ありがとうバナナ。


他の短編も極めてほのぼの赤面ライフなので、安心して読めます。15cmの話が大好きだなあ。やっぱり距離感をどう詰めていくかが面白いところですよね。
蛇足ですが、このマンガにひかれた理由の一つはおにいちゃんがメガネだったからです。流されメガネ君はよいです。
 
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