たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「CYNTHIA THE MISSION」に見る、少女性残虐の快楽と美学

●ガチで闘う少女は美しい●

いきなり話は飛びますが。
タイで今月から、新作アクションムービー「チョコレート」が上映されています。
チョコレート

マッハ!!!!」や「トム・ヤム・クン」のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督で、ヤーニン・ウィサミタナンという少女がもう死ぬほど激しくアクションを繰り広げるのを撮りたいんだぜお前ら見たいんだろう見たいよなだって少女が殴ったり蹴ったりするんだぜ!っていう映画です。言葉は分からなくてもトレーラー見れば分かります。
タイ映画って割とアクションが痛そうなのが魅力のひとつ。ああ強い少女は美しい。
 
はて、戦闘少女大好きな自分なので、格闘美少女物マンガはすごい勢いで読み漁っています。もちろん合う合わないもあるのですが、とりあえず派手なアクション繰り広げる女の子がいたらチェキです。
暑い夏こそバトル!戦う女の子マンガナツ100。前編
女のバトルで夏を乗り切れ!戦う女の子マンガナツ100。後編
確かに「エアマスター」のような華麗で大仰なアクションはかっこいいし、「美女で野獣」のようなバカか愛か分からない殴り合いも気持ちいい。「ブラック・ラグーン」のようなターミネーター的おっかねー女性も惚れ惚れします。「攻殻機動隊」の素子様はすべてが大好きです。
 
しかし、自分が今まで読んできた少女アクションマンガで群を抜いて残虐な快楽を臆面もなく打ち出している作品がひとつあります。
「女の子が死ぬほど激しくアクションしているのを描きたいんだよ見たいんだろう」と耳の側で大声で叫んでくるマンガです。
それが「CYNTHIA THE MISSION」です。
少女は悪趣味な楽園で踊らされる、永遠に ―青年漫画の少女像―(きなこ餅コミック)
こちらで見事にその男性視点の悪趣味少女視点についてまとめられているので、必見。いくつかうちの記事も取り上げていただいていますが、非常に分かりやすくまとまっています。感服!
そんなわけでこの作品、色々な方面の楽しみ方としてもう何度もプッシュしている作品ですが、今回は少女残虐美のみに絞って書いてみようと思います。
 

●最強で、超被虐的な少女●

この作品のヒロイン、シンシアはチビでハゲです。

高校生で、殺し屋。大の男をなぎ倒す体術を身につけた、とてつもなく強いキャラでもあります。
やはり華奢な幼女のような体躯のキャラが、めきめきと屈強な男子を倒していくのを見るのは楽しいものです。そんな彼女と周りのキャラの戦いの様子を、「バキ」などを含むあらゆるマンガの手法を噛み砕いて消化し、自分の文法にしてしまってコマに叩きつけるテクニックは、読者を一瞬でその世界へ引っ張り込むパワーを持っています。
しかしそこまで駆使して強さが描かれるシンシアですが、読後にはとことんまで痛めつけられるキャラとしての印象がかなり強いんですよ。あれ?この子強くなかったっけ?

もうありえないくらいまで痛めつけられるキャラなんですよ。ええ、そりゃもう彼女は強いはず。毒を撃たれても死なないくらい強い。だからこそ、作者も容赦なく痛めつけます。萌えキャラとしても機能するはずの彼女なのに、口からでるセリフが「腸出ちゃう」です。腸出ちゃうヒロインなんてなかなかいないですよ。
この激しいまでの虐待っぷりは、作者のちょっとした愛情なのではないかと感じさせられます。そう、あんまりシンシアが痛めつけられていても、イヤな気分にならないのです。彼女なら乗り越えるだろうという過信をさせてくれる部分もあるから。
ただ、少年マンガにある「逆境から立ち直る姿がかっこいい」のとは異なっています
意図的に盛り込まれた暴力シーン。それを上回るための暴力シーン。暴力暴力暴力。
暴力見たいんでしょ?そんな甘いささやき。
ええ、見たいよ。
 

●「残虐愛」は相手が「少女」であることで加速する●

もう一人、この作品を非常によくあらわす被虐キャラがいます。少女テロリスト、ブリギットです。
彼女もとてつもなく強いキャラです。ネタバレになるので書きませんが、とある背景があるためにこの世界でもかなり上位のパワーを持ち合わせていました。
しかし、その強さは彼女が徹底的に痛めつけられるための下準備なわけです。だって、すごく強いキャラがすごく痛めつけられている方が刺激的でしょう。

圧倒的な力がこの作品の中で、黙々と彼女を痛めつけます。痛めつけて虐げて、限界に行ってしまうんですが、それをさらに超えて残虐を加える容赦のなさは、いっそ清清しさや誠実さすら感じさせます。
いや、もちろんこの時点で合わない人もいるとは思うのです。しかしそこが高遠るい先生のうまいところで、変に正義感や余韻を出さないからサバサバしているのですよ。
サバサバしているとはいえ、やりすぎなくらいやってくれるわけなんですけれども。

残虐なシーン見たいよね。見てみなよ、残虐だよ。暴力だよ。もっと見たいだろう。酔いしれたいだろう。
そんなことをすごい勢いでたたきつけてくるから、脳内では音の共鳴でドラッグのような快感に身を任せる事が出来ます。もうグワングワンですよ。二日酔いするくらいのビジュアルインパクトとスピード感。アニメ調の少女がくらくらするほどかけまわる、これぞジャパニーズハードコアっ。
 
これが男性キャラであれば、まだここまでの酩酊感はなかったかもしれません。しかし「少女」に置き換えることで生まれる感覚高遠るい先生は突き出してくるわけです。
北斗の拳」を見て飲み込めるのに、「CYNTHIA THE_MISSION」を見て飲み込めない人というのもいると思います。
そこなんですよ。その感覚が1mgでも生まれた瞬間に、自分の中で「少女性」の持つ暴力と被虐の両方の感覚的を感じていたことがむき出しになります。
こちらをむき出しにするために、高遠るい先生もオブラートに包む事をしません。むき出しで暴力を差し出します。むき出しで残虐を、一方的な破壊を突き出します。
更なる刺激を求めるために、と捕らえることもできるかもしれませんが、それよりも「こういうの見たいだろう」というこちらの心理の、普段表に出せない部分に鍵を差し込んでくるのようです。
 

●奪われると同時に奪う少女達●

なんと残酷な人間達よ。忌むべきことだ、サディスティックだ。読んで快感を得る人は残酷だ。
本当にそう?
実はこの「CYNTHIA THE_MISSION」というマンガは、少女達が残酷に振り回される作品であると同時に、何よりも強く、そして何よりも美しい存在として描かれています。

6巻は外伝的な位置づけで、かなり思想がこめられているため一概にはまとめられないんですが、その中でも印象的な、この作品のテーマにもなっていくようなシーンなので引用してみます。
アメリカのどこかで見たような大統領に素手でビンタを食らわせる彼女。この後目も覆わんばかりの暴力にもあうのですが、同時にそれに抗うだけの目をしています。そう、彼女達は残虐な目にあいつつも、強いんです。
そして、ニヤニヤしながらローマの闘技場を見ているような読者に向かってツバをはきかけ、ビンタを食らわせます。
こんなふうにね。
私達が痛い目にあうの見たいでしょう。見せてあげるよ。
そのかわりあんたたちには、絶対手が届かないんだからね。
 

この作品の少女達は、とてつもなく美しいです。あらゆるコマを細かく見るほどに、いかに少女達を美しく描くかに魂を注ぐ作者の様子が見て取れます。暴力を振るい振るわれるがゆえに、雄雄しく立つ少女達。
それを、自分達はただ遠くから「ああ、美しいよ、美しい」と指をくわえてみるだけなんです。時には殺されても、時には殺しても。
彼女達がこちらの残酷な欲望をすべて受け止めていくほどに、少女達ははるか遠くへのぼっていきます。
気が付けば、暴力的に翻弄されているのはこちら側。
見たかったんでしょう?あなたの望む場所はここだよ。
じゃあね。さようなら。
 

●それでも求める●

しかし作者は描き続けます。現在連載分では、特殊な力を持った先生が翻弄し翻弄されています。その姿は描き方のせいか、確かに「少女」でした。6巻で過去の話をやったせいもあるんでしょうね。
暴力はとどまるところを知らず、前へと進んでいきます。
気が付けばやりきれないほどこちらがひれ伏していることに気づいたとしても。それでもなおも手を伸ばしてしまう少女達の姿を、高遠るい先生はギャグや風刺も交えつつ描きます。軽快に、そしてひきずるほど重く。
それは「読者に受けるため」というよりも、暴力への祈りに近いものすら感じさせます。もう彼女達がどうなっていくのかは想像も付きませんが、ただこれだけは思います。きっとまだまだ高遠るい先生はむき出しの少女達を突きつけてくるんだろうな、と。
そして、自分はそれを欲するんだろうなと。
 
少女達のサディスティックは、時として見ているこちらをひれ伏させるパワーを持っているんです。被虐的で暴力的。そんな両面性が、男性の中に生まれる複雑怪奇な少女像のひとつの形なんです。
そしてね。マンガや映画でそれを求め続けても、永遠に手に入らないんだよね。だってぼくらは少女になれないんだから。
祈るように、すがるように、ひたすらに少女という偶像を求めるのみ。
 
CYNTHIA THE MISSION 1 (ZERO-SUM COMICS)CYNTHIA THE MISSION (6) (REX COMICS)CYNTHIA THE MISSION 7 (7) [REX COMICS]
男キャラがいっぺんに出てきて対抗試合がはじまったとき「あー、男かー」と思ったのですが、そんな気持ちを吹き飛ばすような展開が待っていました。やはり高遠るい先生は暴力的な少女を描かせたら天下一品。つうか「あー、男かー」と思った時点でぼくらは少女のすごい飛び蹴りくらっちゃってる証拠なのかもですよ。
 
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あかん、なんか書き足りない。今回は圧倒的に強い少女像だったからなんですが、抗わない少女の持つ暴力もまたあると思うのです。