たまごまごごはん

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仲間と組むことは人生の潜水艦ゲーム。「ネムルバカ番外篇 サブマリン」


先日発売になったばかりの石黒正数先生の「ネムルバカ」。重いテーマを軽快に1冊にまとめた傑作なんですが、今月のコミックリュウの表紙を見たら、もうルカ×柚実で百合妄想しかできないよ!
いや、もともとそういう読み方も十分可能な作品なんですが。
 
はて、今月号はそんな「ネムルバカ」の番外篇でした。表紙のようにルカ×柚実のラブラブ話かと思いきや、その二人はほとんど出てこない男ばかりの話でびっくり。いや、そういうところがいかにも石黒先生らしいんですが。「チャンピオンREDいちご」に男共が見えた見えないの話するマンガ描いたりとか。*1
なので、逆に言えば「ネムルバカ」を読んでいない人でも、単発読みきりとして読めます。
 

●趣味と現実と●

ルカ先輩のいたバンド、ピートモスを中心に物語は進んでいきます。

自分もしょぼしょぼとバンドやっていたのですが、やっている時は楽しんですよね。そりゃもう好きでやってるし、音鳴らすのは単純にキモチイイし、仲間とわいわい過ごすのは最高なもんです。スタジオ借りる2時間なんてあっという間です。
しかし、それを録音して聞いた時のショッキング。あれれ、こんなんだっけ、もうちょっと…あああ、消して消して!
そんなことを繰り返し、人前で演奏することですこーしずつうまくなりますが、ふとそれが趣味として育った時「はて、どこにいこうとしているんだろ?」と疑問を感じるようになります。
一人個人の趣味ならいいんだけど。複数人いるとそれぞれが仕事もするでしょうし、やりたいこともあるでしょうし…そうそう続けることはしずらくなります。
この作品は、「いつまでも続きそう」かと思われていた趣味の空間なんです。しかしそれが水面下でぐずぐずと崩れていく様を、なんだかぬるま湯につかったまま呆然と見ているかのように描いていきます。
よいとか悪いじゃない。それが時間の流れなんだ。
 

●ぼくらの間は、潜水艦●

ウソなんてついてない、みんな楽しくやっているんだ。
だけれども水面下で、見えないところで、着々とそれぞれの人生は動いていきます。
それを、この作品では「軍艦ゲーム(潜水艦ゲーム)」で描きます。

別名「海戦ゲーム」。お互い見えない状態で攻撃しあいます。決して相手に図を見せてはいけません。
別に攻撃しあうつもりはなくても、気が付けば「見えない海図」を持っているのが人間。見せようとしていないわけではないけど、見えなくなっちゃうもの。
集団が組んで何かをしようとしたときに生まれるその見えない海図、ある瞬間に突然人を傷つけるかもしれないし、あるいはある瞬間突然相手を喜ばせるかもしれない。
見えたらどんなに楽だろう。でも見えないから楽しいんです、よね。多分。
 
最後どうなったかは、「ネムルバカ」本編を読んでいる人なら楽しめると思います。
この番外編もネムルバカ本編も、その様子に対して「自分はこう思う」という考えが起きる作品だと思います。それは悩める大学時代の困惑と明るさ・暗さが思い切り作者の思想とともに詰め込まれているから、なんでしょうね。
個人的にはやっぱりルカ先輩の愚直なまでの心が好き。好きだけど世の中にそれが通用するかどうかはまだ、正直わかりません。わからないから生きてます。
 ネムルバカ (リュウコミックス) それでも町は廻っている 4 (ヤングキングコミックス)
それ町の4巻、タケルの話が大好きで大好きで。いいですよねえ、ひみつ。
 
〜関連記事〜
自分の安地を作っていないか?「ネムルバカ」にみる駄サイクルの恐怖。

*1:短編集「探偵綺譚」収録