たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「となりのネネコさん」は優しいけれど、とても厳しい。

●みんな大好き(かどうかは微妙な)ネネコさん●

ヘッポコロジー
宮原るり先生は今4コマ好きの人の間ではかなり注目されている作家さんだと思います。
誰でもとっつきやすい絵柄、明るく楽しいテンポのよさ、個性的で魅力あふれるキャラ。わかりやすいのに厭きないコマの展開。
そして最大の特徴が、ギャグ4コマの形式を利用しながら、キャラクターの成長を恐ろしいほど繊細に描くところにあります。
なんだか経験したことがあるような、不思議な「しまっていたもの」をノックするんですよ。
 
さて、「ヘッポコロジー」で連載されていた作品を集めた「となりのネネコさん」が2巻まで発売されました。一言で言えばネコ顔の女の子がダイナミックにクラスをかきまわすギャグマンガ、なのですが、2巻ではそれがとある少女とネネコさんの物語によって一気に、人間関係のリアルをたたき出します。
もちろん笑えるし、やさしい気持ちになれるのですが、あわせてこの作品には「温かさを持った厳しさ」をじわじわ感じるのですよ。
 

●奔放なネネコさん、翻弄される犬飼さん●

ネコ顔がインパクト満点のネネコさんをあらわす形容詞を探すならば、「フリーダム・自由奔放・ある意味正直」といったところだと思います。最後がくせもので、その分人に対して自分の思ったことをずばずば言ってくれます。いいことも。
こういう、キャラのカタチを借りて笑いながら重いテーマを切り刻む作品はすごく好きです。金田一蓮十郎先生やむんこ先生もそういうのがうまいので大好きなのですが、宮原るり先生はそこに「他者による解答を出さない」手法を取っています。
 
2巻には登校拒否をしている犬飼さんという女の子が出てきます。名前のとおり犬に似ていてぷるぷる震えるのがかわいいデフォルメキャラです。
ですがこれ、犬っぽいもふもふ感でオブラートに包まれているとはいえ、そのキャラが持っている過去のトラウマはものすごくでかいわけですよ。
決して嫌われているキャラではないです。いじめられているシーンもほとんどないです。そんな犬飼さんには友達みたいな子が二人いるのですが、この二人が非常にややこしい存在として、人間関係の厄介なところをむき出しで突きつけてくるんだ。
気持ちを言葉にするのが苦手な犬飼さんに親切の押し売りをしながら「私たちだけは味方だから!」と言って、彼女が他の子と仲良くするのを阻止するのです。
ええ、100%悪人ではないし、断罪も出来ないけれど、なんだかモヤモヤする。
 

●あなたはどうしたいの?●

犬飼さんに付きまとう二人は非常にうざったい存在としては描かれているし、作中のほかのキャラも「何もいえない状態になっている犬飼さんを振り回しているあの態度がいや」とあからさまに嫌っています。
おそらく多くの読者もその二人に対していい感情は持たないでしょう。しかし、糾弾されるべき人物、というわけではないんですよ。思いやりはないかもしれないけれど、はっきりした悪でもないのです。
 
犬飼さんが登校拒否だったことがここでじわじわ効いてきます。
もちろん病気のせいもあるのですが、実際の理由は読んでいくと分かります。分かるにつれてさらにその二人の友人にいらだちを感じるように、話が積み重ねられていきます。読み進むほどにもやもやはピークに達します。まさに隔靴掻痒。
しかし、ここで正義のヒーローが出て犬飼さんを助けるかと言うと、それはないです。また、そのイライラさせられる友人たちがジャイアンのようにしかられるのかと言うと、それもないのです。
だって、実際にその友人たちが何を思っているのか、犬飼さんに対して何を求めているのか、それを「こうです」なんて線引きできないのだもの。
 
人間関係で「こうしたらいけない」「こうするべき」という線引きはそうそう出来ません。とはいえそれを明確にしたい、というのも人間の欲求にあります。それが曖昧であるほどにストレスも溜まります。
それに対する答え?ないよ。
「こうあるべき」と「べき」がついた時点で、それは答えじゃないじゃないですか。
きっとネネコさんはこう言うよ。「言いたい時は言う、言いたくない時は言わない」
だから、ネネコさんは犬飼さんがどんなにおびえ、ストレスに押しつぶされ、涙を流しても、単純に助けることはしません。
「あなたが自分で意思を伝えないと、また望まぬ結果を招くかもしれませんよ」
犬飼さんがそれに対して限界を超えてしまったときには「せめて顔をあげていなさいよ、そうすれば気づいてくれるかもしれませんよ」とだけ言って、背中を押します。
誰も決めない。決めるのは、選ぶのはあなた。
 

●厳しい言葉の温かさ●

犬飼さんの友人二人に関しては、コミックスの続きを先ほどのHPで読むことが出来るので、気にかかる人はゼヒ。
先ほども書いたように、その二人の善悪は判断のしようがありません。好意の押し付けがどう映るかはおそらく読者にゆだねられるのでしょう。そしてそれをどう捕らえるかは、犬飼さん次第であり、自分達次第です。あなたが思ったとおりに捕らえてくださいと。
 
宮原るり先生の作品だと「みそララ」も、なかなかリアルな厳しさをもった話でした。非常に曖昧でどこに向かえばいいのかわからない手探りな「仕事」を、自力で切り開いていく様子を描いたマンガなのですが、どうしたいのかをずばっと切り込む様はなかなかにシビア。もちろん周囲の人も手助けはしますが、救うことはしません。「あなたはどうしたいの?」という投げかけをしてきます。
そう、だから宮原先生の作品は、とても温かくてとても厳しい。時には厳しすぎてハラハラします。
 
とはいえ、偽りのやさしさの布団に包まっているよりも、はっきりした言葉を投げかけてくるネネコさんがいることに価値がある気がします。「みそララ」だとそれは米原さんや棚橋さんにあたるでしょう。
 
やさしく受け止めてくれる場所がほしいよ。でもその「本当の意味で受け止めてくれる場所」って、時には冷たい寝床に思えるような所かもしれないよ。
ああ、「自分で選べ」と言われるのは、厳しい。不安になる。
だから、信頼してもいいのかな。
 
となりのネネコさん (1) (ウンポコ・コミックス) となりのネネコさん (2) (ウンポコ・コミックス) みそララ 1 (まんがタイムコミックス) 恋愛ラボ 1 (まんがタイムコミックス)
宮原るり先生の作品は、なんだかんだでゲラゲラ笑いながら見られるのですが、その根底に流れている毅然とした態度にはものすごく揺さぶられるものがあります。「みそララ」はギャグマンガとしても、百合っぽい空気の作品としてもたまらないのですが、仕事の中で一人で立つことの難しさをも描いた作品として読めると思います。厳しい中でこそ、主人公が一歩踏み出した時のカタルシスも最高のものがありますヨ。
んでそれとは別に、ネネコさんの担任と吉川さんの天敵っぷりが好きすぎるのですが。あの先生いい加減だけどイイヒトだよなあ。
 
〜関連リンク〜
猫似の少女が大暴れ!なハートフルコメディ - となりのネネコさん(2)(真・業魔伝書庫)