たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

大人なんて信じない、信じられないよ、信じるもんか。「鬼燈の島」

小学生の自分は、一時期「みんながぼくのことをだましているんだ」と思っていました。
今の家族もウソ、今の学校もウソ、今のニュースもウソウソウソ。よってたかって世界中が自分を騙しているんだ!指さして笑ってるんだ!
まあ、子供特有の妄想癖なんですけどね。
でもね、それって本当に妄想かい?
 

●虐げられし子供の目●

三部けい先生の「鬼燈の島」が発売になりました。
もう表紙が、いかついのなんの。
鬼燈の島-ホオズキノシマ- 1 (ヤングガンガンコミックス)
怖いですよ!といわんばかり。
ええ、怖いです。でもこの絵と違って内容の絵はすごくかわいいです。
 
はて、物語はこの二つの視線で進んでいくからです。
ちょっと分けて考えて見ます。
 
1、子供の視線。
舞台は孤島の小さな学校。ここに出てくる少年少女は全員、複雑な過去を持っています。もう「これでもか」と言わんばかりに厄介な環境を経験しています。
親に裏切られた、恐ろしい体験をしている、などを繰り返すと、人間不信がものすごい勢いで芽生えます。そんな視線から見た大人たちが「ステキ」に見えるわけがない。

なんてことのない一言も、そんな子供の眼を通せば一気に不信の扉が開きます。
この人の言っていることは本当なのか?
この大人たちの行動は本物なのか?
というかこの世界は全部ニセモノなんじゃないか?
 
出てくる少年少女たちがみんなそんな、不信にならざるをえない過去を背負っているもんだから、それぞれの視線を通して読者もどんどん大人が信じられなくなります。
大人は汚い汚い汚い。うそばっかりじゃないか!その言葉だって、やさしそうな顔だって、みんなウソなんだろ、ぼくらをだましているんだろう。
ただでさえ閉鎖的な孤島という空間です。人数の少ない地域で生まれた大人への心の動揺が産む、根拠のない不満と鬱憤を共感できるのが、このマンガのいい具合のストレス感です。
ああ、答えのないのはいやだいやだ!と思えば思うほど引きずり込まれる、心地よい泥沼地獄。
  

●得体の知れないもの。●

もうひとつこの作品はちょっと一風変わった視線から描かれています。
2、誰のものでもない視線。
クローズドな人間不信をがつがつ描くのも、ギリギリ心臓が痛くなって気持ちいいです。しかし急にそこを離れてぐらぐら揺らすと、不安感はさらに増します。
たとえばこんなシーン。

子供達が悶々としながら廊下を歩くシーンですが、この眼は誰のものでもありません。
ほとんどのシーンは子供達がの困惑と恐怖に満ちているのですが、時々このようにしてぐっと目線が離れます。そうすると、古びた木造校舎の中に小さく小さく子供達が描かれる事になります。
 
子供達はひたすらに小さいのですよ。色々な親からの虐待などを受けて、行き場のない感情を抱えつつもやはり小さいんです。
特に妹の夢に至っては眼が見えません。大人達に反撃されたらひとたまりもないんです。
しかも仮にですよ、子供達が思っているようにこの世界が「大人の作り出した虚構」だとしたら、どうする?逃げ出せないじゃん。戦えないじゃん。知っていても知らなくても、いつか殺されるんじゃないの。

そんな思いを飲み込むかのように描かれる古い校舎。
大人の思いだってどこに向かっているかわかりません。子供達の不安はひとつひとつの木々に染み込んでいます。
この空間が広く歪みながら描かれるたびに、「もう誰も信用できない」という思いが膨らむばかり。閉塞感が高まります。
 

●愛すべき奇妙な名脇役●

今の時点では何も解決策は出ていません。ただひたすらに不安と閉塞感が強まる一巻。ここで読んだらもうどうしようもないくらい安定しない気持ちが強まって、なんだか落ちつかなくなります。もう出てくるキャラ全員怪しく見えるし、出てくる小道具すべて伏線に見えてくる。
ああ、だからホラーなミステリーはたまらんね。
 
ミステリーといえば、美少女と怪役は欠かせません(自分基準)。欠かせませんたら欠かせません。
そこで、ハートに残るほどの美少女を三部先生は描いてくれました。
黒髪おかっぱ少女、初音ちゃん(小5)です。
これはひいきめな発言なんですが、この子のためにこの本読んでよかったと思いました。
いつもクールな感じの二重の眼で、世界を斜めに見ているような視線の子です。色々わけあって言葉をしゃべることができず、本心がわからないのですが、それがまたあいまって彼女のミステリアスな魅力が増大します。
また近作のお色気担当?で、スクール水着+Tシャツで海に入るシーンのまあなんとエッチなこと。安産型の三部先生独特な女性のラインも健在。

しかしそれでいて古臭い服をきて華奢っぽいところがすばらしい。
加えてミステリーのヒロインといえば、不審な男性に追われ逃げることも欠かせない。それもしっかしカバーされています。
まさにミステリーヒロイン!…ですが彼女もなんだか…いや、それは読んでみてください。
 
んじゃその「不審な男性」って誰よ、という話なんですが、こちらは怪役、桑館先生。

うさんくささ全開。
一見イケメンなめがね先生なんですが、やることがいちいち変態すぎるんです。
だって、初音ちゃん(小5)がお風呂入っている時に、そのパンツの匂いかいで襲ってくるんだぜ。
しかも初音ちゃん(小5)が水着で海に入っている時に、あろうことか全裸で追いかけてくるんだぜ。
なんで全裸だよ!…いやいやこれにもきっと意味が…あるのかしら?
とにかく絵のインパクト抜群すぎる桑館先生。初音ちゃんのヒロインぷりとあいまってそこだけでも異常な空間が誕生しています。
 
こう書くとなんだか愉快に楽しめそうですが、かなりギリギリと重い展開が続くので、子供が痛い目にあうのを見るのが苦手な人は注意です。1巻の時点では子供はひたすらに被害者です。
しかしその「被害者」というのも、本当かどうかわからないんだよ困った事に。もしかしたら全部妄想なんじゃないか?とすら思わせるネタの小出しっぷりには「もっと!もっと!頼むから!」と三部先生に叫びたくなります。
ああ、この締め付けられる寸止め感と不安感、読んだあと人間不信になりそうな感覚、たまりません。
もっとやって。
 
蛇足ですが、この作品なぜかほとんどのシーンの天井が真っ黒です。意味あるのかしら。
 

 
似てそうで「ひぐらし」とはベクトルが違います。でもあの追い詰められる感覚(特に鬼隠し)が好きな人はかなり楽しめると思います。
とにかく子供視点に入り込みながら「どこまでが本当なんだろう」の世界に浸りこむのが、落ち着かないほど楽しいんだ。
 
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〜関連リンク〜
三部けい/鬼燈の島〜ホオズキノシマ〜(マンガ一巻読破)