たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「妄想少女オタク系 4巻」が突きつける、オタクが「逃げている」のか「楽しんでいる」のかの視点。

最近さまざまあるオタク群像マンガでも、かなりの恋愛度を誇る妄想少女オタク系
とてもオタクしながらさわやかな読み応えあるマンガなのですが、4巻の展開が妙に心に引っかかるんですよ。
 
ヒロインの浅井は恋愛の感覚がさっぱりわからない純オタク少女、友人のまっつんはオタク趣味を恥じてそれを捨ててきれいになろうとして舞い戻ってきました。
そこに3人目の少女が現れるわけなんですが、このキャラの言動が「わかる」んだけどどうにも「わからない」。
この作品はオタクを「いい」「悪い」の二元論じゃないところで突き出すから、時々ドッキリさせられるわ。
 

●どうせ一過性のものだから●

百瀬さんという女の子が出てくるんですが、この子、妙にリアルなんですよ。
腐女子なの?」と聞かれて烈火のごとく「あんなのと一緒にしないで!!」と怒るんですよ。隠れオタで自分の趣味を恥ずかしがっているのかなあ、もっと堂々とオタクやっちゃえよ!とか思ったんですが、これがぜんぜん違う。

自嘲の言葉から生まれた「腐女子」という言葉。自分も「自称」ならともかく「他称」で使うのは好きじゃないです。
そしてそれが一人歩きしている今の状況。テレビでは面白がって「女性オタク=腐女子」だと勘違いして暴走。小中学生でも知っている不思議な言葉になりました。
はっぴー腐女子
一方オタク産業の中では「はっぴー腐女子」に代表されるように、「むしろ楽しい事を選んで暮らしているんだよ?もっと楽しもうよ」という前向きな意見も多々出てきています。
 
そしてこの子は「今ちょっと好きなだけだから」「どっぷりはまっているわけじゃないから」と言うような事をざっくり言い放ちます。
いや、まったくそのとおりなんでしょう。この子は思ったとおり言っているのでしょう。
なのになんだろうこの釈然としない感じ。
 

●「私はあなたたちとは違う」●

「ぼくはオタクじゃない」という語の境界線は相当に曖昧です。ようは自分が認めるか否か程度で、どっちでもかまいません。しかし「私は腐女子じゃない」がこんなにも重いものになるとは思わなんだ。
ようするにこの子は「わたしはあなたたちとは違う」と言い放っているわけです。「イタイ」とまで言っています。
 
視点を変えると、この子のほうがよっぽど「イタイ」んですよね。もし仮にそう思っていても相手を尊重していたらそんなこと言わないはずです。暗に卑下しているんでしょう。
いや、実際にこのキャラにとっては、通り過ぎる趣味の一つ程度なんでしょうけれども、なんだかこの妙に斜に構えて優劣をつける姿勢が引っかかって仕方ないんだなあ。マンガのキャラだから笑ってすませればいいんですが、すっきりしないものがあります。
 
このように「妄想少女オタク系」は「痛い」とよくギャグのネタにされるオタク・腐女子ネタを、素面で「痛い」「キモい」と言うから、どう反応すればいいか一瞬戸惑います。
  

●行動じゃなくて心が痛い、でしょ●

実際作品自体は、浅井・まっつんのばりばりBL一直線コンビを元気いっぱい描いていて、とても楽しそうです。
それに惚れた阿部くんが「わかんねえ」と素直な感想を述べながら、それを理解しようと努めるけなげさもまたキュートじゃないですか。好きな子のことは理解したいって思うその気持ち、いいね。でも素直にわからないものはわからない、と言えちゃうのもいいね。

最初は冗談のような設定だった「あたしの中の男子な僕が、阿部くんと仲がいい」という「マイセルフBL思考」も、トゲがささりカベにぶちあたります。
このへんの「自分で痛みを知った」描写が非常に秀逸なんですが、そんな痛々しさを抱えている彼女を「痛い子」と言えないわけですよ。だって、痛いのは行動以上に彼女の心なんですもの。
 
自分を異性に置き換えて…というのはロールプレイの延長なわけです。
それを百瀬さんは「イタイ」「キンモー☆」「どうせ今好きなだけ」と言い放ちますが…いや、確かにそうかもしれないけれどもさ。自分達もそういうひねたことを言った経験が0ではないけれどもさ。
じゃあこの浅井や阿部のような朴訥な生き方はそんなに、イタイですか?と自分に問います。なんで百瀬さんは阿部くんに惹かれるの?
それに何より、一応でも好きなものを、自分は違うからと指差して笑うふりをするのがどうにもモヤモヤしてならないじゃないかー。いいのか?いいのかそれで?…いや、それでいい人も確かにいるよなあ。
 
今はまだどうなるかわからないです。今後「もっとのびのびオタクしよう」になるのか、はたまた「オタク卒業」となるのかさっぱりわかりません。
ただ、ころころと彼氏を変える百瀬に対して、阿部くんが「俺今浅井しか考えらんねーから」と笑顔でいったシーンは、「今好きなだけのオタク・BL文化」という彼女の思考へのカウンターでもある気がしてならないのです。
オタク街道を自ら選んで、好きで一生懸命に全力でバカやってみるか、ちょっと距離を置いて離れてみるかか。それは人それぞれで答えなんてないです。
ただこの本を読むと「あなたはどう思っているの?」と問いかけられるようです。
  
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余談。腐女子って言葉は「自嘲」だけじゃなくて「謙遜」もある気がするので一概には言えない、んじゃないかとは思ったりもします。自称の場合。
百瀬さんの言う他称(?)は蔑みを含んでいるからひっかかるのかなあ。
でも百瀬さんが嫌いになれません。自分もそんな風に考えていたことがかつてあったから。若気の至りで済ませるのは簡単なんだけれども。
 

ドラマCD 妄想少女オタク系1 ドラマCD 妄想少女オタク系2
 
〜関連リンク〜
オタクだから面白く、恋愛漫画としても面白い - 妄想少女オタク系(4) (真・業魔殿書庫)

妄想少女オタク系4巻 BLを教えてくれ!(錬金場)