たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という、納得のいかない現実の中で負けを認めない男の話。

「ボーイズオンザラン」のラスト10巻やっと読みました。
ボーイズ・オン・ザ・ラン 10 (ビッグコミックス)
9巻の展開があまりにも絶望的すぎて「この世の中なんてだめだ、がんばったってうまくいかないんだ」という陰鬱な気分になりましたが、10巻でもやっぱり「この世の中はうまくいくことばかりじゃない」を見ました。
 
ですよねー。そりゃそうだ。
理想と現実はそううまくかみ合わない。きれいごとを言うのは簡単なんだけれどもさ。
それでも。やっぱりやり方とかもっと色々あるはずなのに、要領よくやることに頭を使えばいいのに、まっすぐバカみたいに突っ込んで、大失敗かまして、また突っ込んでいく田西はいいキャラだった、本当にバカだけどいいやつだった、と思えるラストでよかったです。
詳しくは書くとネタバレだらけになりますので書きませんが、なにもかもがうまくいかないところが魅力だったと思えました。
正直9巻で、なんだかんだで流される田西はどうなんだよ、とか、なんだかんだでダメな旦那にいくハナはどうよ、とか奥歯がちがち言いながら、釈然としない気持ちでいたのです。
ええ、完全にすっきりとする終わり方はないです。でもね、愚直で「かなりダメ」な田西はがむしゃらに走った走った。
 

●勧善懲悪なんて●

このマンガ、確かに主人公田西が正義感とクソ勇気振り絞って立ち向かう、カギになる「ひどいやつら」はそこそこ倒されはします。ボクシングも習い、真っ向から殴りにいって、そのパンチは当たるんです。
しかしそれが「当たり前」に感じてしまった瞬間、この作品はカウンターを入れてきます。
 
お前のパンチなんて当たんねーよ。
 
正義の拳は、勝利をつかまないことの方が多いです。倒すと誓ったヤツが思いもしない最悪の方向に向かったり、読者をいらだてるほどヒドいキャラがのうのうと暮らしていたりします。
勧善懲悪慣れした自分には相当きっついんだこれが。だって、倒されないんだぜ。目の前でへらへら笑ってるんだぜ。もうギッタンギッタンに叩きのめしてほしいようなヤツが、自分より平気でいい生活送るんだぜ。
そりゃもうね、悔しいですよ。悔しいの塊ですよ。ただただ「くそうくそう」と歯噛みしますよ。
特にあのキャラ、あれ。あいつだよあいつ。公認でビッチの(あえて名前は伏せる)。
 
だけど、じゃあそのキャラをぎったんぎったんにしてひどい目にあわせて「あーさっぱりした」は答えなのか?といわれると全然違う、そうじゃない。
どうも、勧善懲悪とカタストロフィカタルシスに慣れて「倒されて当然」という自分の意識が、道を行き違えていることに気づいてしまいました。
パンチが当たったのは、自分だったね。
 

●負けない。●

全部ぶったおして、好きな女性と幸せになって、めでたしめでたし…なんてのは、凝り固まったひとつの妄想でしかないです。
ただ自分が何をすべきか迷ったり突き進んだりして、時には他のマンガでは描かないような合理的じゃない方法を選択しちゃったりなんかして、そして失うものがあるのを花沢先生は隠さずに10巻通じて描いたんだな、と改めて思いました。
実際色々失いましたし、それでものうのうとしている「いやなやつ」もいるんです。
でも自分はこの終わり方に対しては「お疲れ!」とか「がんばれ!」とか、そんなありきたりながらも言わずにいられない言葉が浮かんでは消え、消えては浮かびます。人間が何に感情を揺さぶられるかの、根っこを突いてきます。
 
10巻を「バッドエンド」ととるか「グッドエンド」と取るかも人それぞれです。少なくとも「道は二つじゃない」というのを、含みを持たせるから、マンガってすごい。「ルサンチマン」もそうでしたね。
だからこそ、改めて、最後まで「ボーイ」だった主人公の田西。
やっぱり好きです。「ダメ」と冠頭詞がついたとしても。いや、付くからこそ。
何をやってもうまくいかない世の中をがむしゃらに駆けていった彼は、きっと一生「ボーイ」のまま、走り続けるんでしょう。
「負けを認めない限り、負けじゃない。」
世の中の「勝ち」なんて言葉に意味はないけど、少なくとも彼は負けなかった。
走れ、走れ、走れ。
 
〜関連リンク〜
花沢健吾インタビューその1 非モテよ立ち上がれ!『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
一巻のインタビュー。