答えと価値観の崩壊したセカイしか、見えない。「ミスミソウ」2巻
コメント欄からなんですが、かなり感銘を受けたものがあったのでここでご紹介。勝手に紹介してすいません。
fusigi
『いつもお邪魔させて戴いております。
先日このブログで『ミスミソウ』が紹介されていて
興味を持ち、購入し、只今1、2巻を読み終わりました。
始めの数ページをめくっている内は
「警察に言えばいいじゃない」、「弁護士呼べば一発だろう」と
思っていましたが、陰湿で残酷ないじめと、降りしきる雪の
田舎がいつのまにか陸の孤島と錯覚してしまいました。
モシカシタラニゲラレナインジャナイカ?とへんな考えが
私の胸に湧いたのです。担任の先生にも頼れない、そして
1話のラストの衝撃的なシーン。もう誰にも頼れない。
追い詰められているのはこの漫画の主人公ではなく、
読者の自分でした。
ごみ溜め場、古井戸、池、のシーンは私をそう錯覚させられるのに
十分でした。
ホラー映画でテレビから人が出てくるような、
そんな現実との境界を越えてくるとても怖い漫画ですね。
いきなりべらべらと勝手な感想を垂れてすみません。
不適切でしたら消してくださいませ。』
「ミスミソウ」の中にある「矛盾」と「それを超える矛盾」が生む、追い詰められて何も見えなくなる視野の狭さと恐怖を、見事に短い言葉で表現している感想だと思います。すごい。
ほんとそうなんですよね、「常識だったら」という当たり前のことが、どんどん見えなくなってしまう隔離村社会の閉鎖の狂気を体感させられるのが何より恐ろしい。
一巻で頭がおかしくなるくらいに追い詰めて追い詰めて追い詰めたこの作品。
二巻でバネのように飛び出して惨劇を見せてくれるのかと思いきや、飛び出しすぎてさらに追い詰めようとしていくんだもの。
閉じたセカイの輪が呼び覚ますのは、さらなる圧迫感。逃げ場なんて最初からないよ。
●鬱憤の出来物●
関連・「ミスミソウ」に見る、閉じた社会と壊れていく心
当然ですが、一巻から読んでください。ぜひ。
簡単に要約すると、田舎に転校した時に、少女が異質な街の空気を放っていたがために陰湿すぎるいじめに会う話。といってもそのレベルは半端なものではなく、「それはないよ、ありえないよ」という状態にまで陥るのですが、このマンガの中だと「ありうるかも」と感じさせられてしまうのが怖いんです。
そもそもオープンで多角的な視野がある世界なら、別の角度からみて「それはない」と言えるのです。しかし、狭くて閉じた価値観の社会ではそれが通用しない。たまった鬱憤は蓄積しつづけるのみなのです。
たとえば二巻で象徴的なこのシーン。
完全にこの社会に飲まれた先生と生徒の会話のシーン。ただならぬ違和感を覚えるのは当然のことです。
逃げればいいじゃん。ちょっと視点をかえればいいじゃん。
なのですが、お互いがパツンパツンに破裂しそうな鬱憤をかかえ、それを何に向けるでもなくため続けているため、出来物と出来物が触れ合うような異様な緊迫感に飲まれます。
彼女らに「他の手段を使う」という選択肢はもはや見えていません。
通常読者はこれを俯瞰して「変だよなあ」と首をかしげるものですが、この作品はそれすらも許さない。最初に書いてくださったコメントにあるように、こちらも鬱憤をためたパッツンパッツンの出来物状態に変化させていきます。読者を限りなく追い詰めていきます。どこまでも、どこまでも。
●鬱屈と妄想と現実●
一見冗談を言っているようなこのシーンが、本物に見えるから怖い。
この少年は何もない田舎社会で、イライラを溜め込み、それを発散させる術を見つけられない子でした。その子が見つけたのが、ボウガンを持って動物をいじめること。
今回は相手が人間です。ゾクゾクするんでしょう。
待てよ。
あれですか?ゲーム脳とかですか?
違う違う違う。彼らの残虐でどうしようもない価値観は、逃げ場がない物の追い詰められた時の行動に果てしなく近いです。「もうこうするしかないんじゃないの?」と思いついて、現実と虚構を見誤ってしまったものの動きです。
これまたここだけ引用すると冗談のようなシーンですが、このコマのあるページ全部を読むと猛烈に吐き気がします。
なにが「タイム」だよ。どこまでお前の心は盲目なんだよ。
彼の中の虚構と現実が曖昧になっていくかのように、読者の中では善悪が曖昧になっていきます。
冗談みたいなキャラが、冗談と現実のハザマで境界線を崩してしまう。
答えだとかさ、過程だとかさ。正しさとかさ、間違いとかさ。
そんな言葉に意味があるの。
あるのは「そうするしかない」と感じてしまうぼんやりとした精神状態だけ。
●美しい少女●
そんな、解答を与えてくれない「ミスミソウ」で、一つだけはっきりしているものがあります。
それは、野咲春花がとても美しい子だということ。
作品中でもこの子の描かれ方は特異です。押切先生作品だと他にも「でろでろ」の日野留渦なんかもそうなのですが、ものすごく意図的に、周囲から浮いたかわいい子が登場します。
特にミスミソウでの春花は、「閉鎖社会に入った異物」という裏面があるため、その美しさはさらに光を放ちます。
「美しい」という設定の元描かれた少女は、美しくなります。これがマンガの力。
彼女は今回ある行動に出るのですが、それを読者は善悪で見分けることができません。いや、冷静にいえばものすごく明確に「できる」のですが、それを許そうとしません。
いいんです、彼女がやっていることが何なのかはどうでもいいのです。
彼女がこの作品では「美しく」、そして「追い詰められた者」であることだけが重要なのです。
そしてそれに気づいたとき、追い詰められているのは、自分たちになる。
●ゆるしてくださいかんべんしてくださいわるぎはなかったんですたすけてください●
一巻で起きる出来事は、とても極端です。
二巻で起きる出来事は、さらに極端です。
でも「じゃあどうすればいいか」という思考をどんどん奪い去ります。極端が極端ではなくなり、矛盾がねじ伏せられます。
何を言っても白々しい、なんて言葉はいうのは簡単。
言っていることが正しいかどうかも見分けるのは簡単
ふうん、それで?
矛盾を超えた矛盾、常識を超えた非常識が閉鎖社会から生まれたとき、価値観という言葉に意味はなくなります。
誰もが周りに不信を抱き、すべてを他人の恨みに変えて、自分を見失う世界。
誰が心を崩壊したの?
みんな?
うん、みんな。ぼくらもね。
押切先生は今、このマンガに何かを注ぎ込んでいるんじゃないかとクラクラします。「すごいものを描くよ」と狙って描くとかのレベルの作品じゃないですよ、これ。
一番の恐怖は何かっていえば、この続きが来年までおあずけだってことです。
た、耐えられない・・・。
野咲春花の信じられないくらい美しい描写が本当に心にきます。しかし対比するかのようにどこまでも醜く、常に何も信じられないまま一人の少女にすがってしまう佐山流美の描写は、鬼気迫るものがあります。
ゼヒ読んでね!といいたいけれども、精神力をものすごい勢いで削るので、その覚悟がある人向け。マンガの持つ「価値観破壊力」を見たい人には、必見と言っていいくらいオススメ。
こんな体験そうそうできないです。でも飲み込まれないようにお気をつけて。
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余談ですが、「春花が美少女であること」が一番の呪いだとして読むと、どう見えるんだろう?
「ミスミソウ」の花言葉は「自信」「信頼」「優雅」「高貴」「忍耐」「内緒」。
高貴で優雅に見える春花。自信は崩れ忍耐は限界に達し、信頼は一人の少年にだけ向けられて。しかしそこにある内緒は…。
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「ミスミソウ」に見る、閉じた社会と壊れていく心
おどおどしながら、ちょっとだけ少女は前に。「プピポ〜!」
恐怖が生まれるその場所へ、拳握っていくんだろ?「ゆうやみ特攻隊」
〜関連リンク〜
カイキドロップ
押切蓮介リンク
狂気と崩壊、血に塗れる白い腕 ミスミソウ1〜2巻/押切蓮介(漫画脳)
そして「でろでろ」と「ゆうやみ特攻隊」が出るという、またしても押切蓮介祭り開催。特に「ゆうやみ」三巻も、これまた魂を燃やして描いているようなえらいことになってます。