たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

セカイがあと五日で終わりますよ。ほんとに?「五日性滅亡シンドローム」

●終末のすごし方●

あさって、地球は滅亡します。
本当かうそか分からないけど。
日本では地殻変動が起きて、本土そのものがなくなります。
本当かうそか分からないけど。
逃げても助かりません。地球そのものが滅びるからです。
本当かうそか分からないけど。
さて、では何をしますか?家族と暮らす?お金を全部使い切る?欲望のまま生きる?
まあ、本当かうそか分からないけど。分からないんだけどね。
分からないことを信じるか信じないか、そこが大きな分かれ道。信じてなければなーんにもこわくない。
 

●分からないけど終わるらしいよ、セカイ。●

ヤス先生の「五日性滅亡シンドローム」の二巻が出て完結したわけですが、完結まで行ってその「滅亡」という言葉への迫り方にまあ驚いたのなんの。
 
「セカイが滅びる作品」というのは今までもたくさんありました。
それは時には「セカイ系」と呼ばれて、主人公の中の葛藤とリンクしていったりします。またパニックムービーのように俯瞰しながら淡々と滅亡を描くものもあります。
どちらにしても「普通ではいられない人間の心理」が最大の興味じゃないですか。だって、本当に終わるかどうかなんてわからないわけですよ。残された時間で何をするかでその人間の価値観が見えてくるわけですよ、きれいなとこも汚いところも。
 
この作品はどちらかというと前者です。様々なキャラクターが出てきて、その中の心理を追いながら滅亡へのカウントダウンをしていきます。
それを一人のキャラではなく、4部構成にしたのはほんとお見事。明るくバカなお話から、重くじわじわ詰めてくる話まで、同じ終末をテーマに多角的に描いてきます。
ちょっと簡単に、それぞれの部を追って見ます。
 

●信じますか信じませんか・第一部●

第一部は「不二編」と名づけられています。不二という女の子の周辺を巡るお話です。
この第一部では、終末は「くるかこないか分からない」というものすごく曖昧な位置にあります。
なので、信じる人と信じない人で二分されているわけですよ。


信じる人にしてみたら、今何かをすることはすべて無駄なわけです。あと五日で好きなことをやりたいと思うでしょう。もう耐えられず死にたいという人も当然出てきます。
信じていない人にしたって、周りの人がどんどん減っていき、普通の生活を送らなくなってきたらやっぱり不安なわけですよ。
んじゃそんな中、泣いて過ごしますか。苦しんで過ごしますか。
いえ、残された日が5日かどうかわからなくても、今せいいっぱいに楽しく過ごさないでどうしますか。

話は4コマ形式で、軽快に進んでいきます。時に笑いも交えながら。
しかし漠然と眠り続ける「終わるかも知れない」という世界観。
終わらないって信じているよ、そんなうわさに流されないよ!とは言っても、不安は不二の中でじわじわと侵食をはじめます。

心理状態が複雑化して、出てくるキャラみんなどこに向かえばいいかなんて分かりません。ただ明るく過ごしていくだけです。
笑えなくたって笑顔でいるしかないじゃない。五日目に何も起きないことを祈りながら。
 
とはいえ、冷静に考えたら自分たちだって明日死ぬかも知れないわけです。明日滅びないという確証なんてないわけです。
精一杯生きろ?そんなのは分かっているよ。でも何が精一杯かわからないよ。
でも明日があるかどうかわからないのは、みんな同じなんじゃないの?

不二が半ばパニックになりながら、精一杯であろうとする瞬間の表情。
この描写、あまりにも秀逸です。この表情よく覚えて置いてください。
 
セカイはゆるゆると、不明な五日目に突入するかしないか、答えのないまま第一部は進んでいきます。そこがこの作品の一番のキモでもあります。

読者が不安になるようなカウントダウン。これも1部から3部まで共通して描かれていく印象的なシーンです。
 

●世界を終わらせるのはわたしだ!・第二部●

第二部は「死神編」となっており、一転して「不可解さ」がすべて取り除かれた、きわめて明快なお話になっています。
ほんと分かりやすいので、ニヤニヤ笑いながら読むことができます。

この子が死神。五日後にセカイを滅ぼすそうです。
分かりやすい!
なんせ「起きるかどうか分からない噂」ではなく「私が壊す」って言ってるんだから。
内容は一部とうってかわって本当に明確なコメディなので、あまり悩まず構えず読めます。終わるのかどうかも含めて、期待して読んでいいと思います。
死神かわいいしね。
 

●セカイの終わりを探りに行こう・第三部●

二巻に入って、「セカイ滅亡の噂は本当なのか?」を探りに行くのが三部「解明編」です。
先に感想だけいうと、この第三部が一番面白い上に、強烈です。非常にテクニカルな見せ方で話をつむいでいくため、マンガとしても面白いし、ヤス先生の考える世界観がどのようなものかを何度も反芻しながら読むことのできる傑作になってます。でも三部から読んでもわけわからないので1部から読みましょう。

暴走おバカ少女猪木、メガネの常識人ニ村、不思議でもっさりしたレンゲの三人が「世界滅亡は本当かどうか」を探るために作ったのが「噂解明部」。なんとも最初からグダグダ度全開です。
その他にもキャラは出てきますが、非常にキャラだちがしっかりしているので一発で分かります。かなり描きわけがうまい。
その中をおバカな猪木ちゃんが、全速力でぱんつとかで駆け抜けていくため、爽快な読み心地の作品になっています。
が!「終末が来るかどうかわからない」というのは依然変わりません。
とはいえ、第一部のような重さはありません。

バカの子猪木は、信じてはいても重要なこととは思っていないので、広義的には「信じていない」人間になると思います。
二村さんもレンゲも、全然信じてません。なので「明日滅ぶよ!」みたいな状態になってもペースが全然変わらないのです。
ここが言葉では説明しずらい部分なんですが、キャラはいわゆる「4コマのキャラ」のままなんですよ。楽しくギャグをやっていて、未来を信じてのびやかに生きているんですよ。もうとってもとっても明るいんですよ。
だから「世界が終わる」という感覚が全然見えてきません。話題には上るんだけど、信じてない人の間で何を言っても無駄なんです。
楽しく過ごす女子学生の間の空気は、間違いなく「現実」なわけです。
しかし、その空気の外にあるものもまた「現実」です。
本当の現実はどこにあるの?答えはマンガの中に…あるかどうかは分かりません。自分で探してください、と作者は提示だけしていきます。
 

●不可解な4部●

マンガとしてはとても分かりやすいのに、流れとしてはきわめて難解なのが第四部「完結編」です。
話はテレビドラマで「あと5日の命」とかやっているのを見ているニートのダイスケの部屋からはじまります。もこの時点で「地球最後の日」とかって話がぶっとんでなくなっているんですよ。

いやー、二部も明るかったですけどもさ。
このアカネの違和感には到底かないません。そもそも未来が終わるのではないか、という不安あふれる世界にいません。

ニートの部屋にメイドがやってきて、かいがいしくお世話してハッピーラッキーみんなに届いちゃうってなわけです。何事??
最初は面食らうしかないような状態に読者は立たされるわけですが、途中からこのニートくんの世界観が変わっていくことで物語りは複雑化していきます。
 
ここで、第一部のコマをおもいだしながらこのコマを見てみます。

アカネが泣きながらダイスケに訴えるシーンなんですが、これ第一部で、不安で何も言えず、焦りに追い込まれる不二とうまく対比されているんですよね。
不二は「世界が終わるかもしれない、明日がない」ということで覚悟を決めようとしていたわけですが、こちらのアカネも「自分が仕えるところを追い出されたらもう何もない」という、ある意味自分内の世界の終わりを見据えてのシーンになります。どちらも「終わり」なのです。
 
「滅亡」とか「終わり」というのは、確かに物理的に世界が崩壊したり死んだりすることで明確化しますが、そうではない「終わり」というのもたくさんあるわけです。
そもそも「滅んだ」というのは、何を持って何が滅んだのかの意識によって全く変わります
 
実は1部から3部までも「実際はどうなったのか」はわからないわけです。それぞれの中のキャラクターがどう捕らえているかによって、そして読者がどう捕らえるかによって話は全く別のものになります。確固たる一つの解答がないんです。
この4部も、一見ぶっとんだ内容に見えますが、5日間の話であるという共通項の中で描かれており、「何を持って滅んだ」かはキャラクターの意識の判断によるため、全く無関係ではないとも言えます。
ちょっとこちらの考察もあわせて。
 
五日性滅亡シンドローム 2巻(謎鳥)


この第四部をどう見るか、おそらく10人いたら10解釈あると思います。特にラストシーンが今までの3部とどうからむのかを考えるだけで非常に難解になります。
まあ、実は考えすぎで全く関係ない、なんて見方もあると思うんですけどもね。
それをも含めて、読者に自分なりの「終末」の捕らえ方を模索させるつくりになっています。
個人的にはダイスケの見ているドラマと、その視野の中のセカイにヒントがある気がします。でもそれが答えとはもちろん限りません。 
何が「終わり」なのか、何が「セカイ」なのか、ニコニコ笑いながらじわじわ感じさせる奇妙なマンガです。きちんとした答え、心地よいオチ、すっきりする終わり方は「ない」です。この曖昧さこそが味であり、マンガの持つ不思議な力だと思うんだ。
 

読む人によって、内容がライトなのかヘビーなのか捕らえ方が全く異なるため、賛否両論激しい作品だと思います。ただ、個々の部の差異と「終末」を意識しながら読むとかなり面白いと思います。
とくに第三部。おバカっ子マンガが好きな自分としてもヒットでしたし、描かれている感覚はある意味とても「今の世代の感覚」に近いものがあって興味深いです。新しいタイプの「セカイ系」のにおいがします。