たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

私たちの「好き」は目がくらむほどに青いから。「半熟少女」

●君になんだか触れてたい●

好き。あの人のことが好き。あの子のことが好き。
でも正直「好き」ってなんだかよくわからない。
説明できないし、時々いらいらしてしまうこともあるよ。
でも、ひたすらにそばにいたくて、何も考えられずに触れたくて仕方なくなってしまう。
もしかしたらぼくがエロいだけかもしれないけど、きっとこれも「好き」なのかもしれない。恥ずかしいけど、それもきっと「好き」なんだ。
 

●そばにいる、ときめき●

2007年に出たマンガなのでちょっとだけ前のものなんですが、読み終わった後この本のことしか考えられないくらい心臓わしづかみにされたので紹介します。
大庭佳文先生の「半熟少女」久保書店のアンソロジー「貧乳○○」シリーズなので、当然出てくる女の子たちはみんなぺたんこさんな単行本です。



表紙から見てもわかるように、全く飾らない素な少年少女を描いています。派手なシーンは一切ありません。淡々ともくもくと、彼女たちはただ暮らすのです。好きな人のことを思いながら。
 
このような手法でエロを物語に交えながら感情を描く作家さんといえば、長月みそか先生がいます。

方向性は似ています。むしろ大庭先生が長月先生をリスペクトしているのは作中でも読むことが出来ます。
はて、自分がこの作品集のどこに惹かれたか、ちょっと書き出してみます。
 

●幼いボクの視線の先のキミ●

たとえばこんなシーンがあります。

お祭りで知り合いのお姉さんたちカップルを見て、子供っぽく喜ぶ女の子。そりゃーもう、身近な人間の彼氏彼女って、なんだか妙にドキドキしちゃうもんですよねえ。あったあった。
そんな無邪気な彼女を見つめる少年の視線がいいんですよ。

この気持ちがなんだか、さっぱり分からない。好きなのかな?ぼくはこの子のことが好きになっているのかな?よく分からないや。
分からないけど、その瞳に映る少女の姿は、なんだかとても輝いて見えちゃう時があるんです。
 
この作品集は大半がそんな初々しいカップルでできています。カップルというにはまだ幼いかもしれません。でも、そこには確かに恋みたいな何かがある。それを二人の視線を通してとても柔らかく描くからこのマンガは気持ちいい。
 

若さゆえの性欲の暴走かもしれません。一時の心の迷いかもしれません。
でもね、自分の前にいる好きな人が目に入っちゃったらもう何も見えないんですよ。ああ、この人と触れていたい、この人と一緒にいたい。
ドキドキ音に押しつぶされる描写はありません。むしろ無音のシーンが多いです。
というのも、心臓の音すら分からないほど相手のことしか見えないからなんです。周りの音なんて気にしてるひまないよ。
そんな視線の一生懸命さが、ものすごく心をつかむんですよ。
 

●一緒にいる柔らかな時間●

自分的にとても重要なポイントなんですが、エロマンガではエロシーンよりもピロートークが好きなんです自分。極端な話しピロートークの時間のほうが長いくらいでちょうどいいです。

先ほどの視線もそうなのですが、とにかく触れあっていたい、一緒にいたい、というのを大事に描くこのマンガ、えっちはその流れの一つに過ぎません。
だってね、そりゃえっちするのは二人にとって大事かもしれないけど、同じくらい一緒に会話したり、見つめ合ってほほえんだり、手をつないだりするのも大事じゃないですか。それに、処女と童貞が初めてエッチしたらクライマックス!ではないです。そこから二人がどう触れあい続けるかの方が、なんだかあったかいじゃないですか。そう、えっちだけが触れあいじゃない。
そんな細かな部分をとても大切に丁寧に描こうとするからこの作品が好きです。

こんな初々しくて、見ていて照れてしまうような会話こそが、何とも言えずニヤニヤしてしまうじゃないですか。
 

●きみとぼくの笑顔●

青臭くて、恥ずかしくて、ひたすらに一緒にいたい気持ちがぱんぱんで。そんなとーってもふんわり甘々な空間が繰り広げられます。いわば「青春」という名前のファンタジー空間です。
そんな中でほほえんだり笑ったりするキミの姿は、とてもとても輝かんばかりにまぶしいんです。

ああいいなあ。恋ってこんな感じ。
 
登場人物たちはあんまり悩んだり苦しんだりしません。ぼんやりと成長という道を歩きながら、その中で出会った好きな人とただ寄り添いあいながらスローペースで進むだけです。そしてきっとこれからも、大きな逸脱をせず、地味にまじめに暮らしながら、好きな人と寄り添い合うのでしょう。
大人になったからこそ楽しめる、青春なファンタジー。寝る前に読んでほっこり気分になるのがとーっても気持ちいいですよ。
 
余談ですが、所々にある映画パロディがまた面白い。

これは「バグダッドカフェ」。

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んで、「青いパパイヤの香り」。

他にも通好みなネタがちょぼちょぼとあるのでそちらも楽しいです。
あと、先ほども書いたように長月みそか先生と加賀美ふみを先生を非常にリスペクトしているようで、作品内にもお二方の作品が登場します。
この二人の作家さんと同じベクトルをたどりながら、全く別のアプローチをする大庭先生。今は「ぺたふぇち」で書いておられるようなので、次の作品集に期待したいところです。いつになるかなー。


〜関連リンク〜
へろへろ亭

「ぺたふぇち」は、こけこっここま先生、ちんじゃおろおす先生、流星ひかる先生、ほしのふうた先生と、ある意味ほわほわラブ系としては鉄壁の布陣になっていますね。