たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

男が嫌いなんじゃなくて、貴女が好きだから。「ひだまりスケッチ」の独自な百合空間

WEB拍手より。

明けましておめでとうございます、いつも楽しく拝見させていただいております。
今年も様々な漫画の情報や感想を楽しみにしています!

昨年はこのサイトを見なければ触れる機会がなかったであろう作品が多々ありました。
特にみつどもえとロリ系のエロ漫画(特に関谷あさみ先生)は
ここのレビューを見なければ間違いなく買ってなかったと思います。
 
話は変わりますが、ひだまりスケッチ4巻で新入生が入ってきましたが、
たまごまごさんは、乃莉×なずなorなずなor乃莉どちら派ですか?(ちなみに私は後者です)
ひだまりは巻がすすむごとに百合濃度が濃くなっていくのでたまりません。
4巻では男性の新キャラや男子生徒もけっこう出ているのですが、
逆にそれが男子が介入不可な百合空間を強固にしている気がします。
うめ先生恐るべし…!
おまけの夏目漫画を読むと、いつかうめ先生には4コマじゃないガチの百合ストーリーものをやって欲しいですね。
 
長文失礼いたしました。
それではお体に気をつけて頑張ってください!

あけましておめでとうございます!関谷先生の作品は是非過去の2作品もおすすめいたします。はてそれはさておき。

なずな×乃莉ですね!!
なずな×乃莉ですね!!
いやほんと、新入生にしてこの百合度にはびっくりだよ。裏表紙のラブ度はなんですか!あーすばらしい。
 
はて、「ひだまりスケッチ」って他の百合作品とちょっと違っている気がします。もう最初から「百合カップル」を意識して読んじゃうんですよねこれ。
そのへん少し沙英とヒロを題材に、ちょっと自分の思う「ひだまりスケッチらしさ」を書いてみようと思います。
 

●男に興味がないわけではない●

きらら系の「女の子だらけワールド(以後仮に「きららワールド」とする)」は、登場人物が極端なまでに女性に偏っているのが特徴です。
この描写、単に都合良く「女の子しか書きたくないモン!」と言うのも大いにありだと思います。こっちだって女の子しか見たくないモン!いえーす、ばっちりこん。
しかし作家によっては「男性もいる世界の中で、女の子のみを描く」というテクニックを駆使している人もいます。
ひだまりスケッチ」はその代表でもありますね。「男不要!」ではないんです。
たとえば主人公格四人の中の一人、先輩で作家の沙英さん。

恋愛小説を書く事になって、つい見栄をはって「恋愛経験豊富ですからー」と嘘をつくのがなんともかわいらしい。
ようするに、女の子しかいない世界で女の子のことだけ考えているわけじゃあないんです。いっぱしの女子高校生として、それなりに男の子に興味があるんです。
一方、ヒロさんはどういう感覚を持っているかというと。

やはり同様に、それなりに男女の恋愛沙汰には興味があります。むしろ好奇心旺盛と言ってもいいでしょう。
 
時々、完全に女の子同士のクローズドな空間が出来てしまって、発情するかのように女の子が女の子を好き好きする作品もあります。
それはそれでもうニヤニヤさせられるので素晴らしいです。しかし「ひだまりスケッチ」が魅力的なのは、女性視点でそれぞれの女の子がものすごくリアルに「どこにでもいる女子高生」として描かれているところです。特殊な世界観は必要ありません。
絵柄は萌え系と呼ばれるそれに近いのですが、少し贅肉を気にしてしまう体形、変にグラマーじゃなくひょろっとか細い骨格、ほっこりした服装、ほくろや体温などの生々しい描写などなど。非常に細かな身体感覚描写が、そこに「女の子」がいることを表現しています。
だから、普通に男女の恋愛にも興味はあります。百合的な感情に気づきつつも、それだけに没頭しているというほどでもないわけです。
 

●「奥手」と「視野の狭さ」と●


先ほど「男と付き合った数は星の数ほど」的な虚勢を張っていた沙英さん。身近な人間の恋話にものすごい動揺をしまくります。キュートすぎだろう。
なぜこんなに奥手か、というのにも理由はあります。
 
「きららワールド」は視野が広がりきらない中高生時代を描写することが多いです。
この時期って確かに恋愛にも興味津々な時期ではあるんですが、それ以上に同性の友人と遊ぶことが至上に楽しい時期でも、確かにあるんです。
そうなると必然的に、視野に入るのは同性の友人達。視点の中心がゆのだとしたら、どうしても目に映るのはひだまり荘の女の子達が半径になって当然です。特にね。ゆのみたいな子だとなおね。
先ほど出た沙英とヒロも、同様にきららワールドの視点を持っています。特に沙英は「小説家」という仕事をしているため、引きこもりがち。あまり積極的に、知らない異性にアプローチする暇がありません。
この視野の狭さが、男性に対する奥手さを呼び寄せてくる、という仕組みなわけです。
 
じゃあ視野が広くなったら男の子と付き合うのか?
うん、それもあるかもしれません、可能性としては。
だがしかし…その部分こそが「ひだまりスケッチ」のツボなんだなあ。
 

●貴女だから、好き●

作中の少女達は、成長を確実にしています。そのため、成長して視野が広まり、それぞればらばらになって自分たちの道を歩むという未来像も想像することが簡単にできるようになっています。
では今こうして女の子同士で幸せに過ごしているのは一瞬の夢?はたまた「好き」とも言い切れないこの惹かれる気持ちは若き日の幻?
いやいや、今感じているこの気持ちは「嘘」じゃないよ。「幻」じゃないよ。

沙英とヒロは、お互いに対して「好き」とかそういう言葉は言いません。しかしこのコマを見て分かるように、もうどこまでもどっぷり相手が好きでしゃーないんですよこれが。こういう出来事の繰り返しでどんどん親密度は上がっていきます。そりゃもう、こんなん言われたらねえ。ときめくしかないっしょ。
面白いのは、その手前でどん引きしている大家さん。
つまり「こんなラブラブ空間が当たり前の世界じゃないですよー」というカウンターになっています。逆に言えば、二人のこの惹かれ合う関係は「特別」なわけです。
 

ヒロと沙英にとって、お互いの存在は特別です。
男の子との恋愛に興味がないわけではありません。
だけど、ヒロは沙英を、沙英はヒロを自然と欲しているんです。近くにいる女の子だから、ではありません。「あなただから」安心できるのです。
大好きな「あなた」は、何かにたとえることも、変えることもできないのです。

特に沙英の露骨なまでの「好きです。頼りにしています。一緒にいたいです。」アピールには赤面せざるを得ない。隠喩的な表現が多いので、ゆの視点で一緒にドキドキできます。
この感覚は、恋?いやそれは分からない。
じゃあ、友情?いやもっと親密なもの。
こういう感覚を「百合」って言うんだ。
 

●あなたのことをみてる●

この作品を読むときにどうしても「女の子同士カップル」を意識してしまうのは、単にきららワールドだからではありません。
意図的に、そして丁寧に、誰かが誰かを見つめる視線を塗り重ねているからです。
その「誰か」は、他に変えることの出来ないかけがえのないただ一人の人。

これは元気いっぱい宮ちゃんが描いたゆのの肖像画
宮ちゃんに他意はないのですが、これは恥ずかしい&嬉しい。
この二人もまた、狭い世界から大きい世界に飛び出していくときに出会った唯一無二の相手を、心の底から掛け値無しに大切に思っている関係です。
 

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宮ちゃん・ゆの、沙英・ヒロはもう成熟の域に達しているのですが、そこに元気でさばさばした常識人少女の乃莉と、おっとりしていて気弱ななずなが入ってきたのは面白い所。
それぞれ2年生・3年生の視点から、彼女たちのこれから構築されるであろう人間関係を見る時、自分と自分の大切な人の関係を見直すことになっていくからです。
これは希望なんですが、もし仮にそれぞれひだまり荘から卒業しばらばらになっても、きっと、きっとこの子達はいつまでも親友であり続けるんだろうな、と。
沙英とヒロに至っては、一緒に住むんじゃないかと思うくらい。人間関係はどこかで終わらされるものではないんですもの、そんな未来もいいよね。*1
 

  
「ボケ・突っ込み」とかツンデレとかのようなステレオタイプではないキャラ達が、決して派手ではない人生を送っているのはものすごい魅力的。この「何もない日々」を楽しいと思えるかどうかは人それぞれですが、女の子同士がそれぞれを大切に思う日々はやはり、何より大切な宝石みたいに見えるんです。あー歳かしらね。
それにしても、なんだか血が通って体温すら感じるような描写が時々すっと入ってくるから、男性としてはドキドキします。誤解を恐れずに言えば、「妙に女臭い」と言えばいいでしょうか。これは男性では到底描けないなあという女の子像があるんですよね。きっと「癒され視点」だけじゃなくて「憧れ視点」も読者にはあると思います。全部のキャラと仲良くなりたいですもの。吉野屋先生以外*2
 
〜関連リンク〜
青樹うめ先生インタビュー
「キャラを固めないように」というのを読んで心から納得。ああそうなんだ、キャラクターが変幻自在で、凝り固まらず常に成長しているからこそ、こんなにも魅力的なんだな。

*1:百合的なこの空間が未来にも続くものであることは、4巻に出てくる有沢先輩と、卒業時にメアド交換したあたりにもこっそり隠喩されています。必見。

*2:吉野屋×桑原もいいんだけどな!