たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

使った技術は即実践!ガチな少女漫画指南マンガ「初恋指南」

昔から「漫画家が描いたマンガ現場の話は面白い」みたいな話題がありますが、うん、そう思います。たとえばこれ。

今各地で話題沸騰すぎな「バクマン。」。まあ、この中身がリアルなのか虚構なのかは各人の思いに任せるとしても、いかにも現代風の独自な熱さが少年漫画としても十二分に面白い作品だと思います。
やはり、漫画家さんが一番体験している現場だし、読者が体験する機会のほとんどない場所だからこそ興味深いんですよね。
 
バクマン。」が少年漫画版の現代漫画道だとしたら、少女漫画で少女向けの現代漫画道が連載されています。それがやぶうち優先生の「初恋指南」
つーかこれ、題名と表紙だとなんだかわからないんですよ。
初恋指南 1 (1) (ちゅちゅコミックス)
一見普通の、恋愛漫画なのかなーと思ってしまいそうです。
ですが、中身はとんでもないくらいにガチガチな漫画指南書になってます。
どっちかというと「漫画の描き方>プロ作家の色々なトラブル>恋愛」くらい。
これは話のネタとしてでも漫画執筆体験ある人には面白い作品だと思うのですよ。
 

●漫画描き方入門、作例はこの漫画!●

あらすじはまあさておき、どのくらい漫画の話をガチでやっているかちょっと見てみます。
基本的には「少女漫画を描きたい場合」として見ていきます。

この1ページの情報量がものすごい。そしていっぱい詰め込みつつもきっちり重要なことがいっぱい書かれていて、ヒロインのいっぱいいっぱいっぷりが再現されております。
んで、文章量多いですが、コマは少ない。これもトリックです。

「フキダシの中はなるべく1行10文字4行以内に」
「1ページに1アップ、2ページに1ロングでメリハリのある画面!」
「少女まんがなら、1ページ4コマから6コマくらいが適当かな。8コマ超えるとごちゃごちゃする。」

すんごいさりげなく書いてますが、これを踏まえながら少女漫画を読んでみると、ものすごいよく分かります。
もちろん単なる「見やすい形式」でしかないので、これをぶちやぶるのはいくらでもありなんですが、それでも入門の基礎として「見やすさ」は重要。
面白いのは、ここで言っていることを全部このページの中で実践していることなんです。
 
このように、実践的なテクニックを子供にもわかりやすいように、「この作品そのもの」を題材にして描いています。
その他、具体的なテクニックの解説も面白い。

これが小学生〜中学生向けの雑誌と考えると、ずいぶんと具体的な中身ですよね。つーか自分もやってみよう。
こんな感じで漫画と恋愛を楽しみながら自然と覚えていく、いわば「漫画学習漫画」になっております。
しかし、まだまだこの学習漫画は深い所に足を踏み込みます。そこが…すごいんだぜ。
 

●キャラ作り・ストーリー作り、実践編●


これは先輩作家さんにネームを見てもらったときのシーン。
漫画そのものの、キャッチーに目を惹く構造について作中で語っています。もちろん「これが全てではない」のは大前提としてある上で、「でもこれも重要」という中身です。
やぶうち先生自身このようにおっしゃっています。

「初恋指南」では、最初の5ページでいかにつかめるかを意識してみたわけです。結果、反響は思いのほかよかったので、とりあえずは成功…かな?

自分の作品で、漫画技術論を試してみる。
面白いじゃないか…。
 
キャラ作りについても面白い話が出ています。

どういう中身の話かは実際見てもらうとして、この台詞はなかなか鋭い。
キャラクターを描く時は、やはりある程度の記号で描写されるのが漫画です。
その記号が一体何を示唆するのか、というのは非常に重要なところ。やはりある程度は読者側の記憶や意識に訴える記号が絵の中に必要になってきます。
しかしそこからいかに読者を楽しませ、キャラへの関心を持たせるかが腕の見せ所。
 
加えて、シビアなキャラ作りの話もごく自然に盛り込まれていきます。
「リアルなキャラほど面白い」と言いたくなるのが自分のような素人ですが、そのへんもしっかりとおさえています。

このへんは漫画を描いたことのある人ほどよく分かるのではないかと思う、「リアル男子」と「少女漫画男子」の描写の違い。
まあ、確かに白泉社的な男子が側にいたら怖いですよね。でも漫画の中ではあんなにも魅力的。それを作るための秘訣が結構おしげもなく盛り込まれています。
 
それをすぐに実践するのがやぶうち流。
この作品も「初恋指南」というだけあって、初恋の予感をさせる男の子が出てくるわけですよ。
漫画を一通り読んだ後に、その男の子に注目してみましょう。
こんなやついねー、ってくらいのクールさ。
キャラクターの造形のギャップの面白さ。
なんだか明かされていない謎があって読者を引きつける力。
紹介した漫画のテクは即実践!反復して読むほどにどんどん「うおお、漫画おもしれえ」という気持ちを引き出してくれます。
 

●漫画家の生き方と人間関係●

今作でもっとも強烈なインパクトがあるのが、漫画家さん同士の人間関係や、漫画家としての生き方のお話。
人間関係の話と言われたら、ドロドロしそうでいやですよね。そう、そこをいかにやっていくかをばしっと描きます。

みゅーず先生という美人な先輩作家さんのアシスタントとしてこの子は入り、そこから漫画家を目指すのですが、その関係について編集さんはこういうアドバイスをしています。
なるほど、確かになかよしさんとプロの関係は違う。両方とも大人で、最初から対等な立場ならいいんですが、あまりにも「慕う」「慕われる」の関係ができると、後々ややこしいことに発展することもまたしかり。
なんだかドロリとしたにおいがしますが、実際このあとドロリとした展開も待っています。漫画を志す人なら胃が痛くなるようなドロリとした展開が…。
しかしそれをサスペンスにするのではなく、「ではどう乗り越えればいいのか」を物語の展開と一緒に明るく前向きに描いているのが面白いんですよ。
とにかく厳しい世界であることへの覚悟を持たせながら、それでも前向きであれ!がんばれ、がんばらないといけないぞ!そんな思いがいっぱいに詰まっています。
特にお父さんの「デビューはゴールじゃない、スタートだ」という台詞の一連の流れはなかなか熱いです。
まさに、「テクニック」「ストーリーやキャラ作り」「漫画家としてのあり方」を、実際に漫画で実践する形で描く、そんな「少女漫画作品制作プロジェクト」なのです。
 

この作品で、すげー鋭いなあと思ったのをちょっと書いておきます。
さっきの先輩作家さんの話ですが。

まんが描きには、大きく分けて3つのタイプがあってね。
1つは天性の才能や運に恵まれているタイプ
1つは努力と根性でチャンスをつかみとっていくタイプ
あと1つは、努力を努力と思わないタイプ…このタイプが一番怖い。

そう、怖いのです。なぜなら同じ土俵のライバルだから。
ぽわぽわ恋愛もしながら、熱血もありながら、ちゃんとシビアな部分は落とさず「甘くないからね」と描く。それも心地よい理想を盛り込んだファンタジーの上で。
これが全てではないですが、少女漫画家さんの一つの生き方の方向として読むと、かなり楽しめる作品だと思うのです。
あと、やぶうち先生の姉の娘(小5)がリアルに漫画家志望、ってのにはなかなか愉快な気分になりました。おー、がんばれがんばれ。