たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

人にあらざるものを、なぜ愛するのですか?「たくらまかん動物園」

エロ漫画の話なので収納ー。
 
 

●人外の少女達●

人にあらざるもの。
ロボット、妖怪、ゾンビ、人形、半獣、吸血鬼…。
そんな少女達はマンガで幾度となくモチーフにされてきています。
今となってはごくナチュラルに出てくるため、あまり疑うことをせずともマンガ・アニメ慣れした人なら受け入れやすい設定にすらなっています。ヒロインの一人が人間じゃない、なんてわりと当たり前気味。
しかし、そこに「人ではないものがいる」だけで実はたくさんの物語が生まれるはずなのです。なぜ人間ではないのか。なぜそこで共に過ごしているのか。
そしてエロ漫画であれば、なぜ人間ならざるものと情を交わし合うのか。
都合がいいから?妊娠しないから?萌えるから?
うん、全部あってる。
あってるけど全部違う。
人間ではないものと、本当に「愛」は芽生えるのだろうか?
 

●ゾンビ娘をカスタムしようぜ●


田倉まひろ先生の「たくらまかん動物園」は、2冊目の単行本なんですが出てくるヒロインが全員人外というすごいことになっています。
その中で傑作とも言えるのが、連続中編の「カスタムゾンビちゃん」。
もう名前からしてすごいですよね。ゾンビですよゾンビ。死体キャラと言われてさすがに興奮する人はそんなにはいないと思いますが、ヴァンパイアセイバーのレイレイとか言われたらちょっとほら、ドキッとしませんか。どうかな。
「でも青白いのはちょっと!」とか言う人もいるかもしれませんね。うん、それはわからんでもないです。
でも、だが、なあ!マンガはモノクロじゃないか。

ほいきた、かわいい!
腕もげてるけどかわいい!
褐色っぽく見えるのがポイントだと思います。白黒マジックはこういうところで本領を発揮するわけです。
もちろん、「人外っつったら青白いのがいいに決まってるじゃないか」という人はそういう想像をすることもできますので、安心して読めます。
このように、モノクロマンガという文化と「ゾンビ」というとびだした設定は非常に相性がいいです。また見てのとおり、グログロな内容でもからっとさわやかに読むことができます。このへんは田倉先生の描写力のうまさです。
 
はて、エロ漫画におけるゾンビのメリットを考えてみましょう。
 
・自分好みに作ることが出来る。
・むちゃなプレイが出来る。
・ファンタジーだから何をやってもはずかしくないもん。
 
人間相手では到底「ありえない」無茶もできます。だって相手死人ですし。
加えて題名の通り「カスタム」なので、好きに組み合わせることが可能。なんだか伊藤まさや先生の「美しい人間」を思い出しますが。つかあれの復刊の話はどうなったんだろう。
話がそれました。
人間でパーフェクトな「好みのカスタム」というのは不可能です。それをマンガではカスタムした状態でヒロイン作りをするわけです。
となると、そこにできあがるのは「少女の形をした少女ではない何か」になるわけです。
いわば、偶像です。
人間にとってそれを追求して描くこと、特に性的な面でそれを追求することは一つの探求でもありますが、やはり突き詰めるほどに「人間らしい不完全さ」に戻るのが面白いところ。完全無欠な少女は美しいですが、魅力は不思議と減ったりします。少し欠けてるのが魅力になるんですよね。特に「少女」というモチーフにおいては。
そこにきて、ゾンビです。もうタブー中のタブーであります。ゾンビというより、この場合はフランケンシュタイ博士の人造人間に近いかもしれません。
 
たとえばこんなシーン。

ゾンビっ娘のアシュリンを改造し、足の裏に神経の束を移植したシーン。
もう人間がどうこうしてできるレベルをはるかに超えたところのエロスです。いやもうほんと、これを想像したことがすさまじいよ!
エロティックさを突き詰める時、人間の枠は時として邪魔にすらなってしまいます。エロ漫画はその枠を容易に飛び越えて、人間の脳みその中の、神経の部分を刺激してくれます。
こうしてみると、ゾンビをモチーフにするというのは表現面においてはほぼ完璧。
しかし、重大な欠点から目をそらすことは出来ません。
それは「人格」「禁忌」です。
 

●人の身体を弄ぶタブーは愛で覆えるのか?●

フランケンシュタイン」の物語自体、人間の身体に手を加えることの倫理観に訴えかけるもので、多く後世の人に影響を与えていました。
やはり人間の歴史が作った倫理観に「死体を弄んではならない」というものは育っているわけです。ほぼ、どこの国においても。衛生的な理由もあるでしょうけれども、何よりも人間がその身体に「人格」があったことを分かっているから、なのでしょう。このへんは考えるほどに不思議で、永遠に追求される論点の一つでしょう。
確かにエロ漫画のキャラだから、ゾンビは都合良いんです。そのまま投げっぱなしで「ゾンビエロいね!」で終わることも出来ます。
しかし田倉まひろ先生は明るく楽しいゾンビマンガを描きながらも、そこを無視しませんでした。
なぜ、そこにゾンビがいるのか。
なぜ、ゾンビとエッチをするのか。
その理由と、そこに生まれる感情を考える時に、物語は一気に人間の様々な倫理観を引きずり出します。

妖怪物と違って、ゾンビや人造人間が特殊なのはそこに人の手が加わっている、ということです。
人の手が加わっているからには、なんらかの理由が絶対あるのです。絶対です。
もし仮に「なんとなく実験で」だとしても、人間の身体をいじる以上、どこか人間として飛び越えなければいけない部分が手を加えた側の感情にあるわけです。
 
ここに出てくるドクターは、かなりクレイジーなノリです。倫理的な観点もエロ漫画的に吹き飛んでしまって、むちゃくちゃなことも平気でします。さっきの足神経とか。
しかし、そんなドクターがなぜそこまでクレイジーなのかも理由があるわけです。
そして、ドクターがゾンビにエロいことするのにも、理由があるわけです。
確かにやっていることは非人道的で、ありとあらゆる面で責められるようなことばかりかもしれません。第三者から見たら。
しかしこのマンガの中で彼とゾンビがお互いを欲し合うシーンを見て、誰が責められようか。

それは貪りあいでした

ドクターとの躰の求め合いを、ゾンビのアシュリンはそう語ります。
人造人間であるということは、人間の脳の部分をも生き返らせることになります。しかし脳が破壊されたまま蘇生させるということは、ケダモノである人間を誕生させることにもなります。
そのときに生まれるのは、食欲と性欲。
そして、理性を失ったままの、むき出しの感情。

ドクターはクレイジーで、人から責められるタイプのキャラクターかもしれません。
「マンガだから」で済むセカイではあります。ありますが、その理由に立ち向かったとき、何が見えるのでしょうか。
暴走した性欲にまみれた世界と、愛することを追い求める心は、どこかで衝突するのです。
 

●「人でなし」のしあわせ●

ロボット物語にしても、人造人間譚にしても、最終的に問いかけられるのは「人格」と「幸福」です。便利で都合がよければいい、というほど人間ドライに出来ていません。
海野螢先生の「時計じかけのシズク」では、ロボットとの感情が成り立つのかを追求し、「精神」とはなんなのかを一人の人間と一体のロボットを通じて描きました。一つの解答がそこに、ありました。
田倉まひろ先生もこのスラップスティックで結構はちゃめちゃなお話を通じて、人がなぜ「性」を求めるかと、人には理解しえなくともそのドクターとゾンビにとっての「幸せ」の一つの答えを描き出しています。

まあ基本こんなです。明るいです。なにも重苦しい気持ちにならなくて読めます。
だけれども、これだけ明るい関係が成立するのは、きちんとした理由があり、求めるべき幸福がしっかりしているから、なのです。
 
触手あり、吸血鬼あり、なんでもあり。そして想像の範疇をこえた部分でのエロさ満載のこのお話。人間の理性と感情と欲求をさらけ出しながらもきちんと結末を迎えたことに拍手を送りたいのです。
「人でないもの」の物語は、だから面白い。
 

表紙の狐っ子のお話や魔王っ子、メカっ子の話はすんなり楽しくエロく読むことができます。うーん、人外キャラってほんといいですね。
人外キャラといえば、最近全体を見ていると、悪魔っ子が一大ジャンルを築いている気がします。昔からあったといえばあったのですが、あかざわRED先生をはじめ、ものすごい勢いで増え始めているような。特に「責められたい男の子向け」としては最高にいいんですよね。わかる、わかるよ。自分も責められたいし。
 
〜関連記事〜
ロボットとの恋愛感情って、本当にありうるの?「時計じかけのシズク」

「わたしはあい」に見る、ロボットと人間と、権利のハザマ。
ロボットに性別があるのはなぜだろう。流星ひかる「それはロボット」
ロボットの人間らしさってなんだろう?「アフター0〜マイフェアアンドロイド〜」
「ヴァンデミエールの翼」に見る、魂の入れ物と自由への羽。
人間じゃないものたちの話がすごい好き。ただロボットや人形は「脳」がないので、また別ですね。人造人間譚は面白いものが多そうだなー。
 
〜関連リンク〜
たくらまかん展覧会
田倉まひろ先生のサイト。非常に苦戦しながら描かれたことが書かれていますが、結果としてすごい作品になっていると思うのです。
自分はもっとこういうギャグ+エロ+シリアスのバランスを取って、がんがん突き進んでいただきたいです。
田倉まひろ『たくらまかん動物園』(ヘドバンしながらエロ漫画!)
全体の中身が知りたい人はぜひこちらを。

J ・ KOYAMA LAND番外地 | いつか見た『美しい人間』
ほんと、なんとかして復刊してほしい本の一つ。いつも「復刊!」とか言われてるんですが、全然でないのですよねえ・・・。