たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

敬語幼女とツンデレ青年、今日も旅をする。「つくろい屋シリーズ あわいの森」

●旅の途中●

旅人というのはとてもミステリアスな存在です。
特に田舎の地方において、見知らぬ人が来るというのはワクワクもするし不安にもなります。
ひょっとしたらこの人は我々に害をなす人では無かろうか?と思うのは、後ろめたさを抱えた人々。
珍しい、こんなに楽しいことはないからもてなそうではないか、と思うのは純真すぎる人々。
だからこそ、旅人のいる所にはたくさんの物語が生まれます。
そして、旅人もまた、移り変わる町並みや人々の流れを見ているのです。
 

●違和感。●

あわいの森 (シルフコミックス―つくろい屋シリーズ (S-10-1))
前田とも先生の「つくろい屋シリーズ あわいの森」は、そんな旅を続ける「つくろい屋」を描いた物語です。
つくろい屋というのがなんなのかは、ここでは書かないでおきます。ネタバレは今回は極力回避したいのです。
というのも、この話とにかく「何が起きているのか」を分からなくさせるのがものすごくうまいわけですよ。
なんらかの事件があって…という解決していくミステリー手法ではあるんですが、一見「何も起きていない」ように見えるのがミソ。それが淡々と続く中で違和感が生じてくるところに、旅をしてまわる主人公のレムが口を挟んでくるわけです。
でもそれも最後の最後になるまで、一体「何が起きているか」はわからないままです。

断罪かというと、そうではない。ハッピーエンドを作りにきたのかというと、そうでもない。
その「違和感」がなんなのかを読者が考えるのが楽しい作品なのです。
いやはや、ほんととりあえず予備知識なしで読むことをおすすめします。ミステリーなのかな、程度でおさえておくといいかもしれません。
 
はて、この作品の最大の魅力はその「違和感」の描写なんですが、ここでキレものな主人公が出てくるだけじゃあものたりないじゃないですか。
そこでもうひとプッシュしておきたい。
最高級にかわいい幼女、登場です。やったね!
 

●青年、幼女に出会う。●

世界には「違和感」があり、青年レムはそれを見て回る役なので、このままではフラットな語り部がいません。
そこに出てくるのが、旅の途中出会った少女ククル。
この子がもうね…やばいんだわ。

敬語幼女なのです。
説明しよう!
「敬語幼女」とは普段の会話が敬語のです・ます調の子のことである。
敬語幼女がいることで場がひきしまり、どんなに怖いお兄さん・お姉さん・おじさん・おばさんも、一気にへなへなっと子供のようになってしまうすごい効果が生まれるのだ!
 
この作品にあって、敬語幼女効果は抜群です。
そもそもレムという青年、一人で居ると妙に冷たい感じすら受けるのですが、ククルが屈託なく敬語幼女なので、彼の感情も一気に氷解します。

凄腕のキレもの→一気にツンデレへ。
そりゃもうね、笑顔の子にゃあかなわんですよ。しかも敬語ですよ。敬語。敬語で自分のことを素直に褒められたら照れるしかないっつうもんですよ。
「違和感」が本全体を覆う作品のため、ともすると猛烈に鬱な話になりそうなこの作品を救っているのが、このかけあいだと言って間違いないです。ククルが純真に、見たままに語るため、レムもちょっと恐ろしげな青年から「おいおいかわいいやつよのう」というキュートな少年に早変わり。
おそるべし、敬語幼女。
 

●答えのない、旅路●

青年レムは、あるもののために違和感のある世界を巡回しています。正確には「旅」とは言えないでしょう。まあ実質新しい場所へ行くので「旅」ですが、レム自体は「新しい土地」以上に複雑な「違和感」を知っているため、そんなに旅への新鮮さをもっていないんですよね。
しかし少女ククルはその「違和感」も、新しい土地で見る「新鮮さ」も、そのままに受け取ります。
読者はククル視線で、何が起きているのかに首をかしげながら、純粋に旅を続けることができるのです。
 
だけどね、純粋にものを見るってのは、なかなかに残酷なわけですよ。

「答え」のあるものなんて、ありません。
「ハッピーエンド」がどこかにあれば、それによって逆に誰かが「悲しみ」を抱えることもあります。
「秩序」が守られるために何かをしなければ行けない時、なんらかの「犠牲」も生じ得ます。
レムはそれをもう山ほど見ているのですが、実際はそんなに簡単になんて受け入れられないし、「本当に正しいの?」と言われたら分からないんですよね。分かるもんか、そんな「真実」なんて。
 
ククルは、裏表のない純真な少女です。
彼女はただひたすらにレムについて回ります。
疑問は山ほど抱きます。新しい町ではとても楽しみの心に満ちあふれます。誰かが苦しめばそれを見て悲しみます。
でも、何も出来ないのです。
 
彼女はこの物語の「語り部」であると同時に、一番の「疑問者」でもあります。
手を下すことのできない彼女が今後、レムをどう見ていくのかは大きなカギになりそうです。
そして、レムはこの敬語幼女に何かを言われる度に、赤面しながらツンデレるのです。
ああ、いいコンビじゃないですか。

そんなわけで読み心地はとても軽快で、レムもククリもめちゃめちゃキュートです。
ですが、扱われている内容は重い。
今、人はどこに住んで、何をして暮らしているんだろうね。
 

一巻完結ではありますが、「シリーズ」とついているようにまだまだ旅は続くようです。
余談ですが、ククリの服装がすごいいいんだわこれが。スカートの下に七分丈のズボンをはいていて、んで靴下をはいていないのですよ。この民族的なファッションのおかげで、アキレス腱がえらいかわいくてね!「敬語幼女かわいい」という動機で読み始めるのもありな、ステキ作品であります。
 
〜関連リンク〜
黒魚屋
前田とも先生のサイト。