たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ある日、僕らは女の子になりました。「あめのちはれ」

●雨の日は憂鬱●

自分、どうも体質的な物なのか、雨の日になると体がものすごくだるくなります。
もう体が自分のものじゃないようなくらい動かないんですよ。全身肩こりというか。まあそれでも死ぬわけでもないので普通に生活していますが、「雨の日はブルーでアンニュイになる」どころじゃありませぬ。
もう雨ってだけでだるいので憂鬱です。
大人になって、まあそれはそれと折り合いをつけるようになりましたが、学生時代はただひたすらに自分が失われるようなイヤーな気分になったものです。そういう経験ある人は意外と多いのではないかと。
 

●憂鬱な女の子デビュー●

びっけ先生の新作「あめのちはれ」が、すごいワクワク度なんですよ。
というのもこれ、何を隠そう「性転換」のお話。表紙にあるとおり、「雨が降る」と言う状態を媒介として、男子生徒達が女になるという・・・。何それドリーム?!
自分も雨降ったら女の子になるんならなりたいよ!「らんま1/2」世代ならば多くの人が感じることだよ!
 
とはいえ、冷静に考えたら「女の子になっても困る」わけです。様々な面で。
ましてや学生です。学校は?家の人には?友人は?なんて説明すればいい?
服は買えるの?どこで寝泊まりするの?お風呂はどうするの?
繊細すぎる思春期に「突然女の子になりました。しかも元に戻って、雨が降るとまた女の子になります。」と言うのは刺激が強すぎです。
果たして自分が、見ず知らずの人だらけの高校に入学して早々女の子になったとしたら、平気でいられるか?
たぶん現実問題としては、かなりの確率で無理だと思います。一気に「処理しなければいけないこと」「そもそもどうやって生きていけばいい?」と不安に押し流されること間違いなし。
ああもう、まったく雨の日のように憂鬱じゃないか。
慣れればいいんですけどもね。いきなりは無理ですよ。

女の子に初めて変わったシーン。
この作品がうまいなあと思うのは、男子状態と女子状態の描写が記号的ではなく、細かな部分でされているところ。「いかにも女の子です」という表現はあまりされていませんが、間違いなく女の子の性を感じさせる描写が、ほんのちょっとの仕草などに盛り込まれています。
 
「性」ってそんなに明確に何かの記号でわかるものでもないです。ましてや二次成長まっただ中か終わりかけの高校1年生ならなおのこと。
だけどパッと見て「あ、男性だ」「女性だ」と思うのはなぜか、というと、全体の総合した雰囲気すべてによっての理解になります。外見・仕草・言動・服装などなど。
「いきなり」なので、当然中身は男の子のまま。
 
加えて、この作品は一人が性転換するわけじゃないんですよ。数人いっぺんに性転換します。わお、なんという大盤振る舞い。

自分だったら「じっくり女の子の体見ちゃうよ!」とか思うんですが、高校の時点で、しかも友人が数人同じ状態だとしたら果たしてそれが可能かと言うと・・・たぶん難しいのではないかと。
名門高校の寮生で、今後も付き合っていかないといけないであろう仲間がいる状態で、自分の体に興奮出来るほど安定はしていません。ましてや、出会ったばかりの人間ばかりです。
相手が女の子になっても、そのうち男に戻るので「相手に欲情する」というシチュエーションにもなりません。
 
当然ですが、何よりも大きな物は「戸惑い」
青年達が性転換することで感じることになる様々な「憂鬱」と、はちきれんばかりの「ドキドキ」の関係は、まるで晴れの日と雨の日そのもののようです。
どうして自分は女になったんだろう。これからどうしていけばいいのだろう。

この作品の男子校は左側、女子校は右側になっています。隣接しているんですが、決定的に分かれる分岐が通学路にあるのがとても象徴的なわけですよ。
一本道を変えれば、女の子だ。
体は男に日々変わっていきますが、精神状態は「男だ」と意識をはじめたばかり。ちょっと蹴飛ばすだけで不安に襲われてならないでしょう。それぞれの子が、個人個人に、日々気になることは山ほどある。
浮き足立つのも、冷静に対処できなくなるのも、不安定な精神状態だから当然のことです。
・・・まあ、そんな「青臭さ+性転換」が運んでくるのは、たくさんのドキドキです。いっそここは雨を払う気持ちで「どんとこい」状態で楽しんでしまいましょう。
 

●たくさんのギャップ●

まず、性転換ものの楽しみとして「初めて触れる女の子の世界」へのギャップがあります。
なんといってもですね、「まだ彼女がいたことがない」少年が、少女になるからロマンなんですよ!(力説
もちろん男女の酸いも甘いも知った人間が性転換するのも面白いのですが、ハラハラドキドキの強さで言えば、幼すぎず知りすぎない中高校生はまさにベスト。
 
たとえば、初めてブラジャーを買いに行くシーンがあります。この時点で「ごちになります!」というシチュエーションですが、考えてみたらそりゃー自力で買いに行けるようにならないと、今後様々な面で生きていくことすら大変になります。外でのトイレとか、ねえ。
その時の反応がちょっと面白い。

怖い!
怖いのかあ。最初「なぜ?」とか思ったのですが、言われてみれば「男子高校生の状態で下着屋で下着を触れるか」と言われたら、怖いですよ、周囲の目が。
下着触った瞬間元に戻ったらどうする?とか考えちゃいますよね。完全に性転換されたわけじゃないのがミソです。
触りたい気持ちも0ではないからこその、怖さかもしれないですねえ。
 
この作品、1巻の前半は「性転換事件」について詳細に述べられていくのですが、後半の女子校に通うことになるシーンからの加速っぷりが半端じゃありません。
女の子になった男の子達がかわいいんだこれがまた。見た目も、精神的にも。
たとえば、男の気分で股ひらいていて、指摘されたときの反応。

下手したら女子よりも乙女チックなんですよ。惚れちゃいますよねこれ。
出てくる本物の女子はさっぱりしたもので(女子校だからなおのこと)、赤面したりおどおどするのは「男子だった女子」ばかり。
まさに未開の地に赴く探検隊の気分なわけです。しかも「望まないのに」が頭につく方向の。
 

●女の子と、女の子になった自分と。●

性転換ものの一つのテーマとして、「女の子になれば、女の子との距離が変わる」というものがあります。
女の子に興味ないわけはないんですよ。あるんです。もうそりゃあもりもりと!
しかし、それまで女の子と特に接触がなく過ごしてきた男の子達にしてみたら、いきなり女の子になって、他の女の子と仲良くしろって言われても・・・そう簡単に順応できませんがな。

左の子が「元男子」の主人公。右の三つ編みの子が、女子校の女の子です。
女の子側は、当然相手が女の子だと思っていますし、お淑やかで静か・・・に見えるわけです彼らのことが。
仲良くしようね!って言うこの三つ編みの子みたいな女の子もいれば、探りを入れるドロドロ系の女子もいます。何もかもが男子校と違いすぎて脳内大パニック状態。「おいどうする?!」「どうすればいい!?」このへん男子の弱いところです。
 
このマンガ自体は女性向けに描かれていると思うのですが、男子が妙にテンパってしまうあたりよくわかっているなあと感じさせられます。
約一名「もう慣れている」感じの少年もいますが、彼の背景が分からないので今後どう明らかにされるのかも面白そうな部分です。
やはりこういう事態で焦るのは「女→男」よりも「男→女」かもしれないですね。

とは言いつつも、「女の子とデートしたい!」と思ってしまうあたりがなんとも男の子。ですよね。ですよ。「この後どうなるか?」まで考えが回らなかったりしても、行っちゃうあたりが男の子。
いいんじゃないかなー。焦っても治る物じゃなし。ドキドキしまくって育つがいいさ!(ニヤニヤしながら
 

●クールなやつほど不安定●

主人公は先ほどの、比較的髪の短い子なんですが、個人的に心わしづかみにされたのが、めがねの真城君。

人と群れることを嫌い、落ち着きもあり冷静な彼。
他のメンツは、よかったんですよ。たまたま4人一緒にいたので。
しかし彼は、最初一人で行動しているため、合流せず一人で「性転換してしまった」と苦悩する羽目になります。
一人は・・・しんどいぞー。誰にも言えないし、どうしたらいいか分かりません。
落ち着きのある彼ですが、取り乱しっぷりはナンバーワン。
その転換後の姿がこちら。

かわいすぎですよ。一人だけロングヘアーとか!
めがね・・・黒髪ロング・・・反則的なかわいさです。
 
一番クールな状態で登場しておいて、一番パニックになるという落差がもう(中の真城君が)かわいいのなんの。

左が主人公。右が真城君。
この組み合わせの慌てふためきっぷりが随所で見られるんですが・・・それがもうたまらんわけですよ。
「赤面女子効果*1」もあると思うんですが、気張っていた男の子が一気に突き崩されて焦っているというギャップがなによりめんこいのです。
「ふん、くだらない」とか鼻で笑いそうなのにね。現実問題、鼻でなんて笑えないですよね。
 
高校生の男子は単純なところはストレートで単純ですが、女の子以上に複雑でやっかいな物も同時に抱えています。
5人の少年が出てきて、女体化することでそれぞれの正確が浮き彫りになる構図があるわけですが、まさに真城君はそのへんの「やっかいな自分」がみっちり詰まったキャラです。
変なところでムキになり、変なところで自己嫌悪。

一人悶々とすることも、あらあな。
それでも一人じゃないだけよかったのですが、彼はまだ当分悩みそうです。いくら「同じ体質」だからって、心まではそうそうすぐには打ち解けることはできません。
彼もまた、いろいろな背景を抱えた、物語の鍵になる人物になりそうです。
・・・つか、やっぱりかわいいよなあ。一人だけロングってのは大正解すぎです。
 

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単純に「萌え要素」として楽しんでもあまりあるほどです。男状態も女状態も異常なほどかわいいので、見ながらニヤニヤするにはもってこいです。
そこに加えて、繊細な心理描写や仕草が追加されているので、変にとってつけた無理がなくて自然に読ませてくれます。
「なぜ変わったか」は今のところ解明されていませんが、現時点では性転換によって起きる憂鬱とドキドキを素直に楽しむのが吉ではないかと思います。
そして、中の子達が焦れば焦るほど「分かる!だが、うらやましい!」と思うのもまたニヤニヤ。
 
〜関連リンク〜
未来圏工房

Teiresias: 空模様はTS模様?『あめのちはれ』1巻

*1:赤面する女の子はかわいい、という記号性