たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

4匹集まると不安になります。「ツモっ子どうぶつの森」

帯を描かせていただいて、どうなるのかハラハラしていたんですが、こんなことになりました。

帯前面全部ぼくですか!
うはあ、キャッチコピーが採用されるのなんて初めてなので恐縮することしきりです。というか「たまごまご」の名前が帯だけで4カ所入ってるとか、多すぎる!ひい。まさか背表紙にまで入るとは思わなんだ。
 
で、あわせて書店用POPもいただいたのですが。

書店デビューも奇しくも果たしてしまったようです。
書店で見て分かる人がどれだけいるのかわからないですが、光栄なことには変わりありません。
 
で、内容なんですが、自分が施川ユウキ先生のファンだからというのは当然あるんですが、そうでなくてもこの本とにかく間口が広く楽しめるようになっているので、施川ユウキ作品を最初に薦める場合の導入にももってこいではないかと思っていたりします。
 

●麻雀が分からないって?●

一応「近代麻雀」に連載されていたため、メインは麻雀になっています。
麻雀漫画って「麻雀を知っていること」が第一条件になるので、とにかくハードルが高い印象があるんですが、大丈夫、ほんとにこの本に関しては大丈夫。

このくらいの知識で大丈夫!
いやまじほんとに。つまり麻雀知識は皆無で、「4人」「雀卓がある」「牌を使う」程度が分かればOKです。
もちろん、詳しく知っている人は倍楽しめます。
 
施川ユウキ先生は麻雀そのものの面白さを、ゲーム性よりも4人で雀卓を囲むというシチュエーションに求めているんですよ。
考えてみたら、実際の麻雀だって狭い麻雀卓に向かって顔寄せ合って何時間もやっているわけです。その閉じた空間が面白くないわけがない。
普通の麻雀は部屋の中でやりますが、この世界では広い森の中でやります。
森広いのに、何でそんな狭い雀卓にいるんだよ!と突っ込みたくなること間違いなし。
必ず最初に、遠くから森と雀卓を囲む4人を描くシーンから入るので、その奇妙さが引き立ってならないわけです。
 
つまり、麻雀は「そういう空間」だということ。特殊な交流の場であり、どうでもいい会話をする事の出来るたぐいまれな場所なのです。
たぶん。
 

●華麗なる言葉遊び●

「ツモっ子どうぶつの森」は、「サナギさん」や「12月生まれの少年」「もずく、ウォーキング!」に比べると、比較的ストーリー性や哲学性がないです。その分言葉遊びがものすごい山盛り満載。1話4ページにぎっちり詰め込まれているので、一冊のボリュームがとてつもないです。
昔からのファンの方だと「酢めし疑獄」の頃に似ているというと、わかりやすいかもしれません。
たとえばこんな感じ。

なんせ場が雀卓のみ。他の場面に変わると言うことがありません。だからこそ会話の中での遊びのテンポがいいのなんの。
…冷静に考えてみたら、このコマだけとっても、言葉の突っ込みどころも多いですが、そもそも「どうやってうつの?」と…突っ込むだけナンセンスですな。こまけえことはいいのです。
細かくないけど。
 
また、「サナギさん」時代の強烈なボケ突っ込みのテンポの良さも健在。

オズの魔法使いチームでの麻雀がこんなにカオスになるとは思わなんだ。
これは特に顕著なシーンですが、言葉の選び方とリズムがすごいよいんですよね。日本語だからできるテクニックを駆使しています。発音面でも、漢字の字面でも。
ある意味、「4人で顔付き合わせる雀卓」という、動きのないシチュエーションが施川ユウキ先生の漫画に適しているのかもしれません。
 

●かわいいとキモチワルイ●

施川ユウキ先生のキャラはかわいいものが多いため、非常に手に取りやすいんですが、同時に奇妙な気持ち悪さも盛り込んであるのが面白いところ。
こちらの記事でもその点は指摘されてますね。
きなこ餅コミック 『サナギさん』の暗部に君臨していた生理的嫌悪感
その「不気味さ」「不安感」の面白さは、この作品でも健在。

集まっている4人?4匹?4個?がそもそもおかしいので、ちょっとやそっとの気持ち悪さでは気にならないのも絶妙。
とはいえ、やっぱりキモチワルイ。それが笑いの種の原動力になっています。
 
気持ち悪さや不安感は、長時間もんもんと考えているときに芽生えるもの。
それを「サナギさん」では楽しみ、「もずく」では真剣に向き合っていたのですが、今回は一人ではなく4人。不安感も4倍増しさらに倍。そこまでいけば、「キモチワルイ」も「面白い」に変化します。
4ページでオチが来るから、さっぱりするのもまた効果的。
 

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4ページの4人会話が、実に40話以上。
会話劇でこの量とバリエーションは強烈です。一冊まるまる読んでみるとわかります。よくぞここまで!
麻雀卓を舞台にした、いわば洗練された落語の域。時間がない人でも一話4ページなのでちょっとずつ読めますし、どこから読んでも大丈夫なので「サナギさん全巻いきなり買うのはきついなあ」という方でもオススメ。
一応内容は春夏秋冬と並べられていますが、掲載順とは違います。連載を全部読んでいた人でも、OPとEDが追加されているので楽しめると思います。
連載時の最終回は、施川ユウキ先生と編集さんの対談になっているのですが、それは…どこかにあります。どこかに。

 
あ、サナギさんはサブリミナルです。
 
〜関連リンク〜
「ツモっ子どうぶつの森」試し読み - 真っ白な原稿の上で、俺は爪を切った。
まるまる3話読めるという太っ腹っぷりなので、気になる人は是非。