たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

かわいい世界でエロスを描くメルヒェン。無有利安「モチモチヒメ。」

エロマンガの話ですよ。
 
 

●ろりぷにの王国●

タイトルのロゴがなんせいいですよ。「モチモチヒメ」。
題名も絵もモチモチです。
表紙も可愛いんですが、何よりこの裏表紙!

ものすごいセンスが際立っています。女の子趣味を詰め込めるだけつめこんだおもちゃ箱みたいな一枚イラストです。
ぱっと連想させられるのが、水野純子先生。
FLARE(フレア)―水野純子画集
水野 純子
エディシオントレヴィル
売り上げランキング: 20927
かわいい絵柄で、人間の暗部やグロテスクな部分、そしてエロティックな生活をさらっと描く奇才です。
特に個人的には「ピュアトランス」の壮大さと、計ったように描かれるポップな絵に圧倒されたものです。
 
さて、かわいいものがグロテスクだったりエロかったり、というのはそのギャップで受け付けない人も多いと思います。
と同時に、そのギャップが面白くて引き込まれる人も多いでしょう。
特に、「かわいい」と「エロい」は意外なことに紙一重。リアルタッチになるほどエロくなるものもありますが、とことんまで記号的になることでエロさを感じるファンタジーが日本には存在します。
いわゆる「ぷに絵」と呼ばれるジャンルです。
ぷに系ロリ絵はオタク文化においても重要な位置を占めます。
リアルから何千光年も離れた位置にありそうな、徹底して記号化された女の子記号。性格も冷静な大人の思考ではなく、「女の子はかわいい」という視点に基づいて形成されています。
あわせて、「かわいい」の記号、たとえばぬいぐるみ・人形・おやつ・リボン・フリルなどなどもてんこもり。
どこまでもどこまでも「かわいい」の記号を積み重ねていくときに、全く新しい独自の世界が生まれます。
 

無有利安先生はそれを分かって、うまく利用しながら「エロス」に導くのが本当に上手い。
無論子供向けではないです。大人から見た、永遠の子供の世界を意図的に作っているわけです。このカットなんかはお人形遊びの延長線上です。
 

●動物とお人形とお花畑●

ろりぷに物で陰惨な話を作って読者にショックを与える物語作りの手法も世の中にはありますが、無有利安先生がとったのは徹底的にライトでハッピーになるベクトルでした。
理論とかそういうのは二の次です。見ている人に「かわいい!」と感じさせ、そこからいかに「エロい」を引き出すかに特化しています。

たとえばこれ、実は主人公のお母さん。
8歳だろうと15歳だろうと20歳だろうと30歳だろうと、オンナノコを「かわいい」でまとめてしまいます。
ストーリーの流れに、何らかの段階や裏付けをするのを、あえて全部捨て去っているわけです。
 
ろりぷに物は絵柄が現実的ではない状態なので、そのインパクトを用いて「何を描くか」が一番重要になります。
そこからエロに特化しているわけですが、加えて「いかにそこに幸せがあるか」へ視点を定めています。
これは非常に重要な部分で、そうした指針があることで安心して読めるわけです。
「これはエロいです。」「これはファンタジーです。」「これはメルヒェンです。」
大人が覗いた絵本の世界。お花畑のように色とりどりに咲き誇るかわいらしい性の世界に、淀みが入る余地すらありません。
リアルすらもすべて吹き飛ばしてしまいます。
ありがとう二次元。
 
加えて、無有利安先生はほとんどすべての作品に動物を盛り込みます。

しかも、動物そのものじゃなくて柄やぬいぐるみやアクセサリーなんです。
一旦「動物」という存在が、無機化されて、「かわいい」の記号だけを残してそこに痕跡を刻んでいるわけです。
徹底した「かわいい」イズム。そこに生々しく描かれる性が差し挟まれているから、不思議な調和と違和感を読みながら覚えることになります。
独特な感覚をすべて受け入れたとき、お人形さんに性器がついているような、妙に心をわしづかみにするエロスへの受け入れが読者側に完成します。
 

●楽園をどうとらえるかは読者次第●


「かわいい+エロい」ながらも、一つぎょっとしたのが「もちもちもっちー。」という短編。
バツイチサラリーマンと娘のラブラブ生活を描いたハッピーな作品なんですが、明確な血のつながりがある分、それをどう捕らえるかが非常に難しい題材でもあります。

この作品では、最後までハッピーを貫きました。
が、この話の流れ、色々な読み方が出来るわけですよ。
そもそも結ばれようのない二人が「ごめんなさい」と言ってすっぱり切りあげてしまうこの手法。非常に視野が狭く、二人の世界(パパと娘)だけを中心にしています。それ以外を考えることをシャットアウトしてしまうのです。
 
ろりぷにの世界は、その世界のが完成しているが故に、世界の秩序に別の物を入れることを許しません。現実のものさしを当てたとき、その世界は崩壊してしまいます。
しかし、一滴だけリアルを放り込むことによって、ファンタジーで満ちた世界に揺れが生じます。その揺れこそが、非常にエロいのです。
現実世界の中で、「性の快楽」という特殊な時間に酔うことがエロティックに感じられるのと同じです。
 
この世界の住人は自分たちの秩序で動くので、どこまでもハッピーです。安心してみていられます。
しかしそこに対して、読者側は自由に視点を変えることが出来ます。
ハッピーの海におぼれるもよし。その裏に隠れた綱渡りのような切なさに思いを寄せるもよし。
個人的には素直にこのハッピーを受け取って、現実の厳しさを一瞬でも忘れるのが心地よいですわー。自分も読んでいれば一瞬だけ、性の楽しみの中を泳ぐクマのぬいぐるみになれるんだもの。
 
〜関連リンク〜
オロリヤ鉛筆堂(作者サイト)
 

ぬいぐるみが持つ性的記号は、最近では色々なマンガ家さんやアーティストが目を向けていると思います。多分80年代くらいからの隠れたムーヴメントなんだと思いますが、「かわいいはエロい」「かわいいは怖い」の最もわかりやすい代弁者がぬいぐるみなんだろうなあと。少女性の持っている色々なものを綿にして詰め込んでいるのが、ぬいぐるみ。