たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

黒タイツと彼女と、人間の心の奥と。「黄昏乙女×アムネジア」

とにかく表紙で一撃必殺だったんですよ。
何を言ってるのか分からないかもしれませんが、本屋さんでその表紙を見た瞬間、もうこれは買わないわけにはいかないと思いました。
だから、表紙をドンとプッシュさせてもらいます。
黄昏乙女×アムネジア 1 (ガンガンコミックスJOKER)
 
ね!
もう100の言葉を尽くすよりも、この表紙見てもらうしかないんですよ。
すらりと伸びた脚、黒いタイツ、旧型の制服、長く黒い髪の毛、切れ長の目…。
もはや形式美とすら言える美が、夕焼けの逆光の中、立っている。こちらを、見ている。
言葉を失うってのはこういうことなんでしょう。自分が彼女に見つめられたら、きっと何も言えない。
 

●黒タイツな彼女●

成年コミックでも大人気のめいびい先生。特に黒髪ロングの描写には定評のある作家さんでした。とにかく絵が美麗で、女の子が少しずるいくらいにキュート。男は振り回したり振り回されたり…これだけかわいい女の子を描くのですもの、それを軸に登場人物が動かないわけがない。
この作品も、黒タイツ黒髪ロングヒロインの夕子中心に物語は進んでいきます。
 
夕子は、幽霊です。
ネタバレでもなんでもなく、最初の前提として物語はそこからスタートしています。
しかし幽霊だけれども主人公貞一は彼女を見ることも触ることも出来るんです。
そのため、最初は「本当に幽霊なの?」と読んでいても疑問になります。
そりゃそうです。触れる、声も聞こえる、見える、となったら「そこに存在している」としか思えません。

だからこんなことも…。
ん…なんだろう…むかついてきたぞ!
お前そこかわれよ!
 
取り乱しました。
幽霊は脚がない。そんな固定観念がありますが、この幽霊夕子の脚のセックスアピール度は群を抜いています。
見てくださいよこのふくらはぎのむっちり度…。常に黒タイツ着用で、惜しげもなくさらされています。
まためいびい先生のふくらはぎへのこだわりがものすごいものでして。太ももよりふくらはぎとくるぶしとアキレス腱。これが黒タイツの皮膜を経て、女性の香りをぷんぷんさせています。
そこにきて、黒髪のロング。まさに全身黒で構成された、自分とは違う世界の「女性」という別人種を、思春期男子が見ているかのようです。

切れ長の目。さらさらとした黒髪。
貞一が白い髪の毛なのもあって、対比で彼女の重みが半端ではなく画面でも目立ちます。
 
めいびい先生の絵のうまさは、「限りなく存在感がないはずの幽霊」を「画面で一番存在感を持たせて描ける」ことです。
色使いだけでなく、その色っぽさ、言動、圧倒的な威圧感など。
なぜそこまで存在感があるかというと、それは当然貞一が意識しているからに他なりません。
貞一の目を通して、読者は夕子という、他の人には見えないはずの希薄な存在を、世界で一番大きく重い存在として捕らえることがこのマンガで出来るのです。
 

●キュートな彼女と超常現象●


また夕子が、気まぐれというか…まさに「思春期男子の見た女性」なんですよ。
思いもしない行動に出たかと思えば、突然自分よりもはるかに上の存在になったりもします。
どんなにがんばっても追いつけないような位置にいるかと思えば、自分の手の中で小さくうずくまるようにも見えます。
「わけわかんねえよ…」とつぶやきながらも、結局振り回されてしまう。まさに異質な存在としての「女」そのものです。
そんな「異質」さが、とびきりキュート。

全然自分なんて相手にしていないのかと思いきや、嫉妬めいたことをしてきたり。下心を持つなと言う方がムリだよそのボディとかわいらしさは。
でもなんせ彼女は幽霊。もやもやしながらも少年は一定を距離を置いて…ああ、甘酸っぱいね。
 
さて、この物語はただのラブコメではないです。
幽霊である夕子と貞一が、学園の中で起きる心霊現象に立ち向かう話なのですが、その視点が普通の心霊マンガと全くベクトルが違うわけです。
夕子が幽霊かどうかは後半、貞一にしか見えないという事実によって明らかになります。そこでやっと「夕子=幽霊」という枠にはめて安心できるのですが、その後学園で次々起きる心霊現象が、その枠にはまらないのですよ。
 
幽霊という存在が最初の前提で認められていながらも、物語は心霊をあまり肯定しようとしません。
話が進むにつれて、むしろオカルティックな現象を「オカルト」で済ませないように細かく話を紡いで行き始めるんです。
詳しくは実際に読んでもらうべきなのでここでは語りませんが、推理モノ的な「問題→証拠収集→解決」の流れが通常とは相当異なっているとだけは言えます。特に「解決」の部分。しっかり解決するので、読後感も爽やかなのですが、視点の順序と方法が全く違います。
夕子が幽霊であることは、否定しないのです。しかし起きている現象については懐疑心すらもって見つめ直します。
 
これは、貞一にしか夕子が見えない理由にもつながっていきそうです。

「見える」というのは、逆を返せば「視点を変えている」ということになります。
「見えていない」というのは「視点が違っている」ということです。
人間の視点と思い込み次第で、ものごとは簡単に形を変えてしまうのです。
 
これはそのほかの心霊現象にも当てはまります。
見えているのは「結果」。その結果が異常であれば人は「超常現象」と呼びます。
しかしその「結果」を産んだのが人間の思いであったならば?
人間が通常の出来事を思い込みによって見間違えていたのならば?

夕子の存在は非常識なのにもかかわらず、夕子はばっさばっさと現実と心霊を切り刻み、新しい視点を与えてくれます。
心霊現象を信じる人に対して、彼女がだす答えはなんなのでしょうか。
 
ホラーものとして見るとびっくりするような展開が多い本作。
でも夕子はまぎれもない幽霊なので、一応ホラーもの…なのでしょうか。自分には判断できません。
どちらかというと、人間の心理が産むモノノケについて、夕子が指をたててこちらに突き立てて「どうよ?」と問い詰めてくるような感覚に襲われます。
黒髪ロングの強気な美人にそんなことをされたら…嬉しいじゃないか。
いつまで続くか分からない不安定な関係だけども、ここは貞一になって夕子に思う存分振り回されましょうぞ。
 

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にしても、もう一人の「オカルト大好き少女」小此木さん。

この子の暴走っぷりもかわいいんだなあ。彼女は短髪で白髪なのが、夕子と正反対です。
そして、小此木さんには夕子は見えません。だけど話は3人を中心に進められます。このちぐはぐ感がとっても軽快なので、人の心の複雑な部分に踏み込んだ話なのに重苦しくありません。そのバランスが絶妙。
でだ。
「小此木」さんと「ゆうこ」と来たら…やっぱり電脳コイル」ですよね…?
いや、まあ関係ないかもしれませんが…。しかし、「電脳コイル」の「見えるもの」と「そこにあるもの」の差異の概念と比較しながら読むと、一層面白いと思います。
「起きていること」と「信じていること」の曖昧な境界線。

そして、夕子と小此木さんのエロ漫画を描いてくださいめいびい先生…!
黒髪切れ長目の話でいうと、めいびい先生のペルソナ4雪子×主人公本は最高でした。
最高でした。
成年マンガ余り読まない人でも、めいびい先生の絵柄に惚れたら「満開乙女」はオススメ出来ます。ラブラブメインなので、すんなり入り込めるはず。