たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

でかい音を打ち鳴らす、あの女の子が大好きだから!「ハレルヤオーバードライブ」

「音楽」と「マンガ」ってものすごく親和性があるのですが、致命的に相性が悪いところがあります。
それは音が聞こえないところ。
どんなにあがいてもどんなにページを重ねても、一発で流れてくる音楽と比べようがありません。これはもうどうしようもうないです。
なのに、マンガで音楽を描くんですよ。絵と文字で音楽を表現しようとし続けるのですよ。マンガ独自の武器である時間の流れ、コマ割、ストーリー背景、心情描写をフル活用して。時にものすごく遠回りに思えるほどの労力を費やして。
そうやって力を振り絞って、音楽への愛を叫ぼうとするマンガが、大好きです。
 

Smells Like Teen Spirit

ゲッサンの「ハレルヤオーバードライブ」が心臓ど真ん中ジャストミートでした。
そもそも音楽のマンガを描く場合、どこに比重を置くかが重要になるわけですよ。人間ドラマとか、演奏のテクニックとか。
で、この作品は徹底して「楽しい!」「好きな女の子に近づきたい!」に特化しています。
まず「楽しい」はどこから来るかといえば…そう、「でかい音」だ!
 
ドラムを力一杯叩いて、ギターをアンプを通して。「でかい音」出したときの快感は、もう「やってみて」としか言えません。やったら分かる。
いやーそりゃあ繊細なアコースティックも気持ちよすぎてイってしまいそうですが、鼓膜がビリビリ震えるほどの音を自分達が出しているときの快感は異常ですって。
騒音? 上等。分かる人だけ分かれば十分。分かんなくても楽しければ十分。
 
とはいえ、紙からは音は聞こえません。
でも「でかい音が聞こえる空気」は写真や動画では描けない。絵なら、その時見えた世界を描けます。

もっとも最初の方に出てくる、このマンガを読むのに欠かせない大事な見開きです。こんな小さな画像じゃ迫力伝わらないので、絶対本を開いて見るべき。
静寂から一気に大音量が響き渡ってきたときの興奮は、ステージを見上げる側にいても確実にあります。
腹の底から響くようなバスドラ、脳みそをひっかくギター、骨盤を揺らすベース、あごにヒットする歌声。
でかくて力強くて、だけど繊細な音が引っ張ってくる、強烈な熱気。熱風。
音が終わっても耳なりのように残る、頭揺さぶる麻薬のような快楽。
ああもう、キモチイイじゃないか!
 
外部向けには許可が得られないため「金属理化学研究部」としてひっそり活動している彼女らは、音楽を最高に頼むために全力全身全霊を傾ける実質軽音楽部。金属でメタル、だから「メタりか」とはよくつけたもんです。
なにがいいって、主人公の少年が惚れこむ女の子が最高にいいんだこれが。


すごい小柄な細身の女の子、ロングヘアーを振り乱してドラムをばりばりに弾きこなす熟練。
「小さい女の子にでかい楽器」って組み合わせは反則級の魅力があるんですが、本当の魅力はそこだけじゃない。
この少女ハルさん。
ツーバスなんだよ。
ツーバスで、めちゃくちゃでかい音出すんだよ。
やべえ……惚れるしかないじゃないか。
 

●People=Shit●

主人公小雨が、この少女ハルさんに惚れ込んで「メタりか」に飛び込んで、話は一気に展開します。
好きな女の子に近づきたくて音楽やるのって、邪道?
 
音楽を始める理由の最も大きな物の一つは「モテたい」だと思います。
うん、「音楽が好きだから」「好きなミュージシャンに憧れて」「ギターの洗礼を受けた」うんうん。ある。あるよ。
でも「かっこいい」とか「モテたい」って人の方が多い気がします。
で、それでいいと思います。
 
でかい音出して激しく演奏するのって、かっこいいですよ。ものすごくかっこいい。
たとえ相手がさえないおっさんだったとしても、超絶にギターうまかったら間違いなく惚れます。もうこれは音楽の魔術としか言いようがないです。
ましてやそれが、可憐な外見で、明るくはつらつとした少女だったら、惚れない方がおかしいでしょう? 元々が100点で音楽補正100点。合計200点ですよ。
ツーバスなので倍だね。400点です。
 
物語は主人公のさえない少年小雨視点で、ハルさん達「メタりか」を見ながら進んでいきます。
もうー、かっこいいんですよ彼女たちは。
特にハルさんの輝きはちょっとおかしいですよ。SLIPKNOTのJoey Jordisonばりに髪の毛を振り乱してドラムを打ち鳴らす女の子を見て、少年がどう感じるかがこれでもかというばかりに紙の上にたたきつけられています。「惚れた女」の美しさ全開です。補正かかりまくりです。だから、読者も小雨と一緒にハルさんにベタ惚れさせられる魔力をこのマンガは持っています。
 
彼女がかっこいいからこそ、「自分もかっこよくなりたい!」と思う小雨は至って正しい。
小雨は別に何かリスペクトするミュージシャンがいるわけではありません。メタルの精神が好きで憧れて、というのもありません。
好きな女の子の好きな音楽を、弾いたらオレってかっこよく見えるかな、という思考です。
音楽を本当に愛する人にしてみたら「ふざけるな」ものでしょうけれど、きっかけはそれでもいいと思います。
だって、小雨視点で見たハルさんたち、かっこいいんだもの。

圧倒的な力量の差を見せつけられて、完全に飲み込まれる小雨。音圧が紙の上から溢れてきそうです。
間違いなく気後れしてしまっている小雨ですが、同時に彼の見ている光景は「憧れの場所」。
自分だって、かっこよくなりたい、そう思って当然です。
入り口が違うだけ、あとはどこに向かうかは自分次第。一度味わった音楽の快感は、ちょっとやそっとじゃ手放せない一生の物なんだもの。
 

●未来はぼくらの手の中●

バンドをやるとき一番大事なのは「楽しい」です。言うまでもなく音楽全て、「楽しい」が最上級のごちそうです。
とは言っても、「楽しい」を保持するためには上手くならなければいけません。努力なくして「楽しい」は得られません。
苦労して、「カッコ悪い」を繰り返して、その上でやっと「楽しい」が手に入る。でかい音の向こうに。

小雨とハルさん以外の登場人物も合わせて、すべてのキャラが音楽を楽しんでいるのがなんといっても読んでいてキモチイイんですよ。バンド経験者ならさらに「誰かと音を合わせるのは最高に楽しい」というのが再確認できると思います。
確かに最初は「カッコイイ」を目指してはじめた小雨ではありますが、小雨自体はものすごくカッコ悪いです。しかしハルさんは、カッコ悪くてもいい、とまで言います。
カッコ悪くて、必死にあがいて、無駄なこだわりをもって、それでも音楽に挑む。音を出して、聞いてもらう。
それが楽しいんです。
 
はて、音楽を描く時ってどうしても派手なセッション部分がメインになるのですが、実際音楽活動の大半は「個人練習」と「お金稼ぎ」で90%くらい占めてます。
もちろんそこだけを描いても漫画的には面白くもなんともないですが、ハルさんの超絶ドラミングも天才的な才能で出来ているわけじゃなくて、こういう地味な練習を繰り返して成り立っているというのがきちんと描かれているのが好感持てます。

地味な練習ですが、メトロノームにあわせてパタパタ打つのは必須練習。この練習自体はどうしようもないほどつまらないですが重要。
ギターの巨乳メイドメガネだけはなんだか天性の才能みたいなノリですが(というか本編でほとんど描かれないので分からない)、ハルさんはこうやって練習積み重ねていますし、ボーカルのデブも遊んでいるようで相当練習しています。ベースのタンポポは気が強そうなパンクっ娘ですが、実はすごく真面目で練習している、ってのはこう、キュンと来るから困る。うん。ずるい。
 
かっこよくなりたい。
そこに至るまでには血の滲むような努力と、数多くの恥ずかしさと、しょんぼりな気持ちを沢山味あわないといけません。
もちろんどこで「楽しい」と感じるかはその人の問題なので、「のんびり楽しく出来たら最高!」という人もいれば「さらに挑戦したい、挑んでいきたい!」という人もいると思います。音楽はその点において答えがないのが恐ろしいし、同時に楽しいところでもあります。
なんにせよ、楽しむために、そして目指すかっこよさを手に入れるためには、段階が必要です。

練習曲がブルーハーツの「ハンマー」なのは、ぐっときました。
そう! ブルーハーツは最初に音楽を体験するには最高すぎる! 自分もバンドでこれやりました。

ギター、ベース、ドラム、練習のしがいがありつつそれほど難しくもなく、個々の聞かせどころもある。短いけどパワーが密集している。まさに「楽しむ」音楽としてとてもいい曲だと思います。バンドをやる導入曲としても最高ではないかと。なんせマーシーかっこいいですしね。ずんだんずだだん。
 
青臭くって、恥ずかしいことの方が多くって、でも大好きな女の子が側にいて。
あとはそこに、でかくて、かっこいい音があれば、それでいい。

とびっきりの音楽にヤられるのは、好きな女の子に恋をするのによく似ています。同じかもしれない。
主人公の中では色々な思いが交錯したり悩んだりして失敗してばかりではありますが、「ハルさんがかわいい」という一点が爆音と混じって、この作品は強烈な疾走感を産んでいます。
ハルさんが輝けば輝くほど面白くなるこのマンガ、へなちょこ小雨が同じくらい輝いて楽しさを産んでくれる日も、近いかもしれません。
 

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作者さんの楽器へのこだわりは尋常ではなく、相当細かく丹念に描かれているのが特徴。

Tama Rhythmic FIre H214B-F ドラムスティック×12セット(s4113)|デジマート
スティックは自分そんなにこだわらないんですが、ハルさんは使えなくなったスティックも大事にしているそうで。うーん、愛だなあ。一見無駄にも思えるこだわりを持って、自分がいかにそこに食いついていけるかが、音楽を続けていけるかどうかのカギの一つでもある気がします。が、これも人それぞれ。
こういう愚直な生き方は嫌いじゃない。
 
あと、うちのサイト的にこれは触れておかないといけないというシーンが一つ。

中身は 見ての お楽しみ!
バンドやっててかわいくてスパッツって最高じゃね?

性格と見た目の好みでいえばベースのタンポポ(スパッツ画像の左の子)なんですが、小雨ビジョンのハルさんがかわいすぎてもうだめです。ハルさんに惚れざるを得ない。ツーバスだし。
ツーバスはあかんて…絶対惚れてまうやろ…。
ギター少女、ベース少女、ドラム少女。バンドやる女の子は色々と最強です。異論は認めない。
 
関連・コミックナタリー Power Push - ハレルヤオーバードライブ!
高田先生と担当編集者さんのインタビュー付き。って編集者さんがインタビュー出てるってのも面白いですね。
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