たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「それ町」のエビちゃんはかわいい、すごくかわいい、という話。

WEB拍手で「(それ町の)エビちゃんいいよね」的なコメントをいただきました。コメント自体はパロディ絵の話なので、日記の方に記載させていただきますが、
うん。
エビちゃんはかわいい。
かわいい。すごくかわいい。
なにこの陳腐な表現と語彙力の無さ。でも変に例えるんじゃなくて「かわいい」という言葉が一番エビちゃんに似合ってるんだよ!
 
というわけで、今回は「それ町エビちゃんかわいい」という話だけします。
それしかしません。
なぜならエビちゃんがかわいいからです。
 

●タケルから見たエビちゃんかわいい●

石黒正数先生のマンガ、「それでも町は廻っている」という作品の主人公は嵐山歩鳥。色気のない元気な高校生です。色気がないのが色気です。大人になると分かります。
で、その弟が嵐山猛(タケル)。とても元気なところはそっくりですが、お姉ちゃんより利発でしっかりした子です。この子が今回の話の軸。
そのタケルと同じクラスの女子に、伊勢崎恵梨ちゃんという女の子がいます。通称エビちゃん、AB型。あ、なんというシャレ(今気づいた)。
脇役も脇役なので、実はまだ3回しか出演していません(単行本6巻時点)。しかも1巻に一回。
ところがこのエビちゃん、そのたった3回であまりにも強烈な印象を読者、特に「昔小学生だった男子」に与えてくれます。
 
この子がどんな子なのかは、説明するより一発で分かる部分がありますので、引用。

こういう子です。
恐ろしいほどのデジャヴを感じさせます。あった、こういうのあったよ!
小学校高学年だと、男子よりも女子の方が成長が上回ります、精神的にも身体的にも。
そうすると、クラス内で「男子」とか「女子」というくくりに妙にこだわってしまい、大きな二つのグループに分かれて対立抗争…という名の子供のケンカをすることになります。決裂…という名のたいしたことのない距離感を置くようになります。具体的には机一つ分くらい。隣の席には座らないけど隣の隣の席には座る程度。
中でも女子の元気さはつらつさ強さが目立つ時期でもあります。女子にしてみたら男子がガキっぽすぎてイライラする時期でもあります。実際この頃の男子っていい意味でバカですし、女子は視点がちょっと広くなってくるため、考え方にズレが生じます。
そんな頃、男子から見て、ちょっとだけ大人っぽい女の子の存在は、偉大。
エビちゃんがどの子かは言うまでもないですね。右のコマの真ん中の子です。
男子がガキんちょっぽい(あーいたいた)絵柄、他の女子がリアル調の絵柄の中で(あーいたいた)、エビちゃんの絵柄が一人だけ「かわいらしい」の記号で出来ているのがミソです。マンガチックというか。
これが、タケルから見た、エビちゃんです。
 
もっともこの段階のエビちゃん、まだタケルと距離があるのでお互いそんなに詳しくは相手の事を知りません。
特にタケルは同性と遊んでいる方が楽しくて、女子に興味がない年代です。じっさい「伊勢崎さん」という名字と「エビちゃん」というクラスの女子から呼ばれているあだ名しか知りません。下の名前なんて興味無くて知らないのです。あるある。そして女子内のあだ名は男子は使っちゃいけないの。あるある。

そんな距離のある相手から、突然こんなこと言われたら、びっくりですよ。世界がひっくり返りますよ。ワールドエンドですよ。知らない世界ですよ。
今まで大して話したこともない女の子が、急に「私のこと名前で呼びなよ」と言ってきたら、小学生の自分だったら逃げます。弱いもん。アホな男子だったので、女の子と仲良くしているの見られるの恥ずかしくて拒絶していた組だもん。
とはいえ、なんだかんだでタケルもエビちゃんの急接近には、未知との遭遇的な驚きを感じていました。これが4巻の時点。
タケルにしてみたら「なんでこの女子急に近づいてくるんだ、わけわかんねーよ!」というところです。

このコマなんかは視点が顕著です。タケル視点ですね。
自分の中においての、人間同士との距離感が特に男性は広いため、体が触れる距離にそもそも慣れていません。ましてや下の名前を覚えていない程度の女子です、「恋愛」という二文字が浮かぶよりも、宇宙人が未知との遭遇をしてきたという方が彼に取ってはしっくりきていたそんな頃です。
こうしてタケル目線でみると、エビちゃんがいかに「色っぽい」かがよく分かります。女子に興味がないとは言っても、エビちゃんってなんだかかわいいな、とは無意識に感じている。それがタケルのエビちゃんへの意識の始まりでした。
 
そもそも「なんかすごい女子」だったのが、タケルにとって彼女は「エビちゃん」という一個人として意識されていく。
まだ一体何を考えているかは分からないけれども、明らかに他の女子とは違う。特別な存在になります。

それ町」が上手いのは、そのへんの距離感や感情を言葉ではなく「間」で描くところです。
このシーン、最初の特に人物を描いていないコマが挿入されることで、時間の流れが一旦挟まれます。実はこの前に班で話し合いをしていて、その時点ではタケルの意見は否決されているんです。
それに対して時間をおいてから「私は良いと思ったんだけどね嵐山くんの案」と言ってくるエビちゃん
しかもおわかりかと思いますが、学校では「嵐山くん」なんです。二人きりでいたときは「タケル君」なのに!
タケルは二人でいた時に、エビちゃんのことを「学校とは全然違うな」と感じていました。それは偶然ではなく紛れもない事実、4巻でも描かれていますがエビちゃん学校と二人でいるときを意図的に使い分けています。学校では少し距離を置こうとしているんです。
わざわざ終わった後に励ましに来るエビちゃん
しかもそのあと、なぜか、なぜか駄目出ししてくるエビちゃん
 
「なんなんだ!」という小学生男子の叫びが聞こえてきそうです。
そう、その「なんなんだ!」が実は甘酸っぱい感情であることを知るのは、大人になってから。
 
6巻になると、かなりエビちゃんに対しての意識がタケルの中で変わっていきます。

突然お見舞いに来たエビちゃんを見るタケルのどもり方がかわいくて仕方ない。しかもおでこ触られるとか、未知との遭遇再び。
エビちゃんの顔自体もどんどんかわいくなっていきます。ようは、タケルから見て「エビちゃんはかわいい」と言うのがだんだん形になってきているからです。特にこのコマでの彼女のかわいらしさ、加えてちょっと大人っぽく見える雰囲気は小学生男子最高のときめきそのものじゃあないですか。そりゃ敬語にもなるよ。
顔が赤いのは、熱のせい、だけ?
うふふ。
 
追記(11/30)
コメント欄より。

pon
『よく読むと分かりますけど、5巻の話の方が先にあって、あそこで
ズキューンとなったので4巻の話でタケルのうちに遊びに来るのです。
エビちゃん話に限らずそれ町は時系列が前後している話が多いので
ちょっとした台詞や背景や着ているものを細かく見ながらどの時期か考えて
頭の中で並び替えると更に面白くなります。』

4巻の方は冬服で、5巻の方は秋服ですね。なるほど、入れ替えると確かにエビちゃんが惚れた理由がよくわかる! カードゲームの話がシンクロしていていたりするあたりも面白いところ。
一応証拠をあげるならば、ジョセフィーヌの家が燃えたのが40話、作り直したのが41話、そしてエビちゃんと学級新聞つくるのが42話なんですが、4巻の冬服の回はジョセフィーヌの家が新しくなっている(41巻の状態)ので、5巻で惚れて4巻でデート、というのが正解ですね。
晴耕雨マンガ それでも町は廻っている の時系列について
もう一度色々読み返してシャッフルしてみると面白そう。
3巻の28話で「まるで伊勢エビ!」ってタケルが言っている台詞もありましたね。歩鳥はこの時点でエビちゃんを知らないので、間違いなくデート前。服装も秋服なので、「学級新聞」→「まるで伊勢エビ!」→「デート」→「看病」がすんなりくる流れかも知れません。確証はないのであくまでも推測です。
少なくとも、お姉ちゃんにわざわざ「まるで伊勢エビ!」って言っている時点で、タケルの中でもエビちゃんはすでに特別な存在にはなっているようです。
  

●かわいいエビちゃんから見たタケル●

基本的にエビちゃんが登場している三回とも、タケル視線でエビちゃんの「不可解」な行動を描くというパターンが基本になっています。だからこそ「なんだよ、一体なんなんだよ!」とタケルと一緒になりながらエビちゃんを見ることが出来ます。
はて、エビちゃんがタケルをどう思っているか、というのは一度だけ実際に書かれていますが、それ以外は全て、描写による暗示のみになっています。
その暗示の破壊力がすごいんだ。

タケルを見ているエビちゃん
もういくらでも妄想できるコマです。そしてその妄想がだいたいあってるから悶絶します。
ああ、かわいいなあ!
 
エビちゃん、基本的にあまり感情を出しません。ツンデレかと言われると、うーん微妙。ツンなわけじゃない。しかし男子目線でみると「気が強い女の子」「女子のリーダー」なので、自然とツンっぽく見える部分は少なからずあります。
あまり変なデレ方とかはしませんが、決してタケルの気持ちをいじくりまわすような攻撃的なことを言ったりもしません。
ツンデレというより、大人びている、なんです。好きな相手でも仕事場ではきっちりやる、という割り切り方に似ています。

でも、タケルのことが気になって仕方ないエビちゃん
タケルもまた、エビちゃんビジョンでみるとすごい大人っぽいんです。
4巻ではタケルが、自分のプレゼントしたゲームカードを「他のと混じらないように使わない」と言ったとき、とてもイキイキと笑顔を見せました。タケルの思いやりが彼女のハートのツボなんです。あのタケルには自分も惚れそうになった。
5巻での新聞作りで、周囲の男子が子供っぽくでどうしようもないのに、タケルはしっかりと仕事をこなしているのをじっと見ています。理知的に考え、思いやりを示し、作品を作り上げるタケルがエビちゃん視点を通じて描かれているのですが、こりゃ惚れるよ惚れますよ。自分をしっかり持って前に進む少年は、かっこいいんです。
 

●もうちょっとだけ大人に●

まあもちろん、エビちゃんまだまだ子供です。何もかもが大人思考なわけではありません。
けれどもタケルから見たらものすごく「大人」なんです。
面白いのは、彼女もタケルの前では大人ぶろうとするところです。先ほどの「私の事名前で呼びなよ」もそうです。ちょっとだけ背伸びしてるんですよ。わざと。
6巻では自分の写ったモデル写真を見せて、少し自慢げながらも「たいしたことないし」的態度を取って「それ欲しかったらあげてもいいけど?」とか言うんですよなにこれかわいいだろうもうかわいいなあもう!
その後言葉に詰まって二人して何も言えなくなったりしてさ。タケルも「エビちゃんは自分のことが好きなんだ」ってのは分かってるけどそんなの言えないんですよ。だってこんなの初めてだし…。
もうなにこれ、二人ともかわいいから!
 
小学生男子から見た女子へのイメージの権化みたいなエビちゃん
背伸びしてて、おませで、なんだか美人で、自分の知らないこと知ってて、でも自分の知ってることは知らないで。
もう見ていて小学生の時の記憶がガンガン戻ってきて悶絶します。
石黒先生はタケル視点とエビちゃん視点の両方を適切なバランスで描いているため非常にドキドキさせられるんですが、同時に二人が幼いこともきちんと描いています。

二人の距離感を見た、第三者視点。
こんな感じなんですよ実際は。二人とも幼い小学生です。
映画「小さな恋のメロディ」で、大人に反抗した幼いカップルがトロッコに乗って旅立つシーンがありますが、あのエンディングに感動したあと「あれ?結局戻ってこないといけないんじゃね?」みたいなことに気づいてしまうのは大人になったから。同じように、タケルから見たらエビちゃんはすっごく大人っぽいし、エビちゃんから見たらタケルは大人っぽいですが、まだまだ二人ともなんだかんだで子供です。
 
お互いに「大人っぽいなあ」という意識をしているため、それに追いつこう、追い越そうとして自分の虚勢をはったり意識したりします。エビちゃんが自分のモデル写真を持ってきたのはまさにその表れ。自分もタケルくらい大人っぽくなりたい(実際はタケルから見たら思い切り大人なんだけど!)。
でも「タケルには大人っぽくあって欲しい」という思いがあるから、「私が休んだらタケル君が来てね」と一言言っちゃったりします。ああもうかわいい。
 
タケルはおとなしくて真面目な子なので、変にエビちゃんに対抗意識燃やしたりしないんですが、無意識下で彼女を意識しているのが面白いところ。

タケルが熱を出しながら見た夢の一部。モデル写真を見たあとの夢です。
エビちゃんは大人の流れの中にいるんです。自分は置いて行かれてしまう。
基本マンガは右から左に読むため、この流れは逆行しています。これはタケルから見て、何かが突っかかるような感覚を受けていることの表現でもあります。
タケルは別に「エビちゃんより大人になろう」とか「エビちゃん大人っぽくてうらやましい」とか決して言いませんし、思っていません。思っていないんだけども、得も言われぬ不安がそこにあるんです。
もしかしたら、置いて行かれるかも、しれない。
 
これが、彼の中のエビちゃんへの特別な意識が初めて形になったということだと気づくのは、きっと当分後の話。

もっと近くにいたい、もっと色々仲良くしたい。
エビちゃんの恋愛は積極的で、とても不器用。でも今はタケルにとってみたら、それが一番効果的。
彼女が触れた感触だけが、なんだかちょっと気にかかる。
今はそれで、いいじゃん。
 

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ほんともう…エビちゃんがかわいすぎて…。
歩鳥のアホっ子っぽさも確かにかわいいんですが、ここまでかつて意識した女の子像がくっきり形になったらもう、恋するしかないです。タケルになりたい、じゃなくてタケルの気持ちは僕だ、くらいの勢いです。
そんなタケルですが、一つ自分には出来ないことをやってのけました。
ここです。

エビちゃんのぱんつが見えそうになったので、布団で隠すんです。
紳士だ!
で、出来ない、自分には…出来ない…。絶対こっそりちらちら見ながらそのぱんつ脳内に激写ボーイです。
タケルかっけえ…。まじかっけえ大人。
 
それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス) それでも町は廻っている 2 (ヤングキングコミックス) それでも町は廻っている 3 (ヤングキングコミックス)
それでも町は廻っている 4 (ヤングキングコミックス) それでも町は廻っている 5 (ヤングキングコミックス) それでも町は廻っている 6 (ヤングキングコミックス)
タケルとエビちゃんの回は空気ががらっと変わるから好きです。歩鳥から見たら年下だから、視点の位置が普段はちょっと違うんですよね。
にしても、「頭がいい男の子はかっこいい」というのをここまできっちり描いているのはすごいなあと思います。3巻のサンタの回の機転をきかせたお兄ちゃんっぷりとかステキすぎです。