たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

田舎の畳の上でするえっちはちょっと幸せじゃないかね。「らぶチュ」2号のローカル恋愛特集



えー、エロマンガの話と書いていいのか分からないですが、とりあえず18禁本じゃないです。
あれですね、コンビニ売りの「キャンドール」とか「ヤングコミック」とかあのへんレベルよりもうちょいライト、とかくと納得いただけるのではないかと。でもセックスシーンありの成年マーク無し。そんな「らぶチュ」という、芳文社から出ているアンソロジーの話です。
1は「18禁マークなしかー」と思って見送りしていたんですが…2は音速で買いましたよ。
だってね!だってね!
田舎えっち特集なんだよ!
田舎での恋愛模様を描いたラブラブ和姦えっちのみなんですよ。
そりゃ…買うだろ。買うよ!
 
自分は田舎えっちシチュエーション大好き人間でして、そういう臭いがしたら即買う習性があります。
そもそも田舎を描くのが面倒くさいというのもありますし、田舎描写をするためにストーリーを入れるとエロシーンが削減されるためあんまりエロマンガでは描かれないことが多いです。というか普通に物語を作ったら都会中心になる方が自然ですし。
田舎をあえて描写するためには、前後の解説的部分と背景描写が必須になるわけですが、ライトなエロマンガという作りのこのアンソロならではの勢いでうまくまとまっており、変化球も王道もある田舎エロ好き必見の本になっていると思います。
うーん、田舎エロってジャンルとしてはでかくないけど、好きな人絶対多いと思うんですよねえ…。
 

●畳の魅力●

はて、田舎をテーマにすると、下記のような部分がキラキラと輝いて目に入ります。

1・和室のシーンが目立ち、居間や畳の上、布団の上でのエロシーンが多い
2・久しぶりの再開など時間的ギャップがある。
3・人間関係の感覚が特殊

まず1から。
田舎エロをまとめたこの作品集で一際目を惹くのは、畳の上のエロシーンが多いことです。
和室エロの淫靡さって絶対あると思うのですよ。
どういうことかというと、日々生活している日常の中にセックスが入り込むことで生まれるドキドキです。
ファンタジーだけどファンタジーじゃないんです。今日も明日も生きていくような場所にセックスが入り込むことでほんのりと生まれる気恥しさと嬉しさ。これだよこれ!

大朋めがね先生の「慕情。」より。この作品集の中でもかなり異彩を放つ作品です。
同窓会で都会から戻ってきた女性が情事を重ねるのが、居間! なぜなら「部屋が無いから」というのは至極もっともな理由です。
普段家族や親族が生活している空間でセックスをするというのは軽い背徳感と羞恥心を引っ張り込みます。
しかしそこが逆に興奮するところ。田舎エロのもつ「日常の一環」という味を存分に引き出すことになります。

いるまかみり先生「俺と彼女と実家と何か」より。
畳の上での行為というのは冷静に考えたら痛そうなんですが、それすらも忘れて興奮して裸になり、日常生活の空間の中で愛しあったまま、抱き合ったまま時が過ぎて行く。月の光と何か不思議なものの視線にさらされている二人。
淫靡でありながら、かつ神秘的。
日本人が長い歴史の中で繰り返してきたであろう行為をなぞり返すようなゾクゾク感が「畳上セックス」の描写から浮かび上がります。
郷愁、なんて言葉を使うと「いや自分の田舎なんてない都会っ子なんだけども・・・」と言う人のほうが多いはず。多いはずだけどなんとなく分かるのではないでしょうか。
エロを通じて日本人のたどってきた生活と風習の疑似体験することで、「郷愁もどき」を楽しめるんですよ。畳って偉大ねー。
 

●帰ってきた場所●

2のように「久しぶりに会った」という燃え上がり方をしている作品がこの本には多く収録されています。全部ではないですが、ほとんどが「久しぶり」シチュエーション。帰ってきたのは女の子側のもあれば、男性側のものもあります。

た★ま先生の「鈴女〜すずめ〜」より。
幼なじみだった二人の間に一旦物理的距離が生まれたり、時間的なギャップが出来る、というのは漫画的にすごく美味しいんですよ。
というのも、幼なじみな相手のいいところを増幅して見ることができるからです。「わあこんなにかわいくなったのか」というのももちろん重要なポイント。ああこんなに育ったんだ、という定番。
と同時に、いくつかの作品では二人が別々の場所にいた間に、それぞれが別の性体験をしていることがあるのがいいんですよ。先程の大朋めがね先生の作品やくさなぎゆうぎ先生の「彼女のウワサ。」なんかがそういう道をたどっています。
処女の女の子の恋愛譚が見たいんだよ!という人にはちょっと合わないかもしれませんが、お互い経験済みっていうのも結構いいものですよ。
それは寝取られ的な意味での楽しさではないんです。それぞれが色々な人生をたどりながら、めぐり合った場所がここだったという、まさに帰ってきた場所としてのエロさなのです。
土地的にも実際、一度離れてから帰ってくるわけです。そこにあって性的な意味でも色々巡り巡って、自分のところにくるわけです。なんと素敵じゃないですか。
 
一方、逆に「最初から恋人」なシチュエーションの物語だと、極端に世界が狭くなるのが田舎エロの魅力。
単純に人が少ないから、二人の距離がものすごく密接なものになるんです。このシチュエーションはエロマンガ的にやはり美味しいですね。
 

●都会から外れた人間関係●

特殊、と言ってしまうと田舎側からみたら都会の方が特殊ではあるんですが。
人間関係において、田舎エロは「田舎幻想」を湛えています。
基本的に都会から側の目線が多いので、「田舎に行く=飛ばされた・退避した」みたいなストーリーが多いです。別に田舎が都会よりも居心地が悪いとかそういう描写ではなく、単にストーリー作りの問題でそうなっているだけです。

AM-DVL先生の「帰ってきたオレ」より。
このシーンなんかは割と顕著だと思います。田舎に来たことで芽生えたコンプレックスがぐるんぐるん蠢いています。なのに「イタイのはやだな」という本当にダメな感じがもうね。
田舎の現実というのはまた別にあるのは分かってはいます。でもね、「田舎で癒されたい幻想」の夢は見たいのですよ。
田舎に戻って、カワイイ女の子と再開して、畳の上で虫の音を聞きながら愛しあう。それは日本人の遺伝子レベルで一部の人に刻まれている夢なんです。(まあそんな経験ないので、どっかでみた映画やらの影響なんですが。)
無論、田舎がこんなに都合いいわけはありません。ファンタジーな人間関係です。
でもね、田舎というワンダーランドで羽を伸ばしたい欲求は、エロい漫画でくらいは満たされてもいいんじゃないかと思うのです。
 

幾夜大黒堂先生の描く田舎の人間像●

今回の本で白眉なのは幾夜大黒堂先生の作品「進みたい、進めない」だと思います。
田舎エロ好きな人なら、エロシーン少なめではありますがこの作品のためだけでも見るべき。なんでかというと、真っ向から性を謳歌する人間の生き方が描かれているからです。田舎であるがゆえに「人間はセックスするものだよ」というのを剥き出しにして描写出来ているのです。

田舎と言っても、札幌みたいな町でも都心から離れていれば田舎、と捉える作品もありますし、上記を見ていただければ分かるように本当に畑と田んぼに囲まれた田舎もあります。
人口の少ない町や村になればなるほど、プライバシーが無くなっていき、人間関係が丸出しになる。田舎経験者だと「あるある」と頷けるのではないかと。付き合い始めたら丸バレ。人のウワサは一生物
そのへんが窮屈であるのもちゃんと描かれています。だましだましで逃げ切らないのが素晴らしい。
そもそもぼくらは人間として「生きている」じゃないか。ならエロって特別なことなのか?恥ずかしいことなのか?

エッチする場所が無い! いかにもありそうな話です。
それに対して、「そんなの普通に言えでやればいいのよ」と子供を産んだ姉は言います。
人として、動物として生きている限り、それは何ら恥ずべきことではない、と言い切ります。実に清々しい。
この性を通じた人間賛歌が、とんでもなく癒し効果バツグンです。プライバシーが無いと書くとマイナス要因ばかりに見えますが、性的なことをしてもいいしなくてもいい、とありのままを受け入れてくれる器が作品の中で「田舎像」として作られているわけですよ。
読者であるこちら側は、キャラとシンクロして「エッチしたいけど出来ない!」と悶々と楽しむも良し、親戚のようにニヤニヤしながらそんな二人を見ながら、拍手を送るも良し。

彼女たちが日常生活の一部として居間でセックスするのも素晴らしいのですが、行為後もまた普通に日常が続いていくのをしっかり描いているのがまたいいんだなー。
キャラクターたちが人間として性を楽しみ、人間として大地に生きている。きっとこれからも彼女たちは性を謳いながらこの地で生きて行くんだろう。そんな想像こそが心地よさであり、優しい興奮を誘います。
 

エロ度は、通常の18禁エロマンガを期待するととてもライトですので、そちらは期待しすぎないのが吉です。しかしこのアンソロのエロさは、エロシーンそのものではなくて田舎における空気感やシチュエーションだと思うので、男女の物語を見て興奮したい人にはうってつけ。ボリュームは「つぼみ」同様とんでもなく分厚いので、満足いくのではないかと。
あと個人的に好きだなあと思った作品は、森見明日先生。田舎での、近すぎる存在だから儚い恋になる。森見先生独特のノスタルジックと哀愁がつまった作品でした。
王道モノであるはらざきたくま先生の「いつかきっと…」も素晴らしかったです。久しぶりにあった少女が美しく育って、という基本中の基本であるシチュエーションにすべてを注ぎ込んでいるため、主人公の目線でヒロインのかわいらしさを堪能できます。エロシーンの激しさもいいんだけど、最初のキスがすごくいいんだなあ。
あと大朋めがね先生は「つぼみ」シリーズでもそうですが、純粋な感情だけじゃなくて女の子のしたたかさもきちんと描き込んでいるのが素晴らしいですな。
本全体を眺めてみると、すごく今風の絵柄の作家さんと、なんだか懐かしい絵柄の作家さんが混在しているのが面白いです。作品ごとに合う合わないはおそらくあると思いますが、テーマ自体は一貫しているので「こんな視点もいいね」と楽しめたら最高じゃないかなと思います。
しかしここまで田舎で徹底していると、この作家さんラインナップの中にMARUTA先生がいてくれれば!と思ってならないのは自分だけでしょうか。アンソロに満足したがゆえの無いものねだりですがー。

この様子だと季刊みたいになりそうですね。
次号は「女子大生コレクション」だそうですよ!