たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

田舎の閉鎖的な空間を描くマンガが、心と性を狂わせる。

WEB拍手より。

らぶチュ2、田舎特集ということで、ちょっと気になります。田舎エロといえば、閉鎖的グロ系のイメージが結構強いので、新鮮に見えました。『ミスミソウ』のホラー路線とは対極的な、田舎のファンタジー性が感じられるようです。でも、R-15系ではない田舎ファンタジーも見てみたい…。

「らぶチュ2」の、とくに幾夜大黒堂先生の作品は本当に爽やかな田舎模様を描いていました。
性を楽しんでいいんだよ、それが生きる人間の姿なんだよと。いい作品でした。
はて、今回は正反対の話をします。
 

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閉鎖的田舎エロスの代表作として、花園メリーゴーランドを挙げたいです。

夜這いの風習が今も残る田舎の性のドロドロを描いた作品でした。ん?ドロドロなのか?本当にそうか?
日本の風俗とエロは昔ものすごくあっけらかんとしたものだった。
しかし今の社会の基準値から見ると、それは極めていびつで、時にグロテスクにすら見える。でもエロさグロさは、人間の生きる有様そのものでもあるんだ。
そんなアンバランスな性の感覚と、成長しきれていない少年の心の中のもやもやを描いた傑作です。
 
なんせ表紙がいいですよね。部分だけ切り出したらそりゃもうエロエロなのですよ。みんなでエッチしまくりな村なんですから。しかし恐ろしいほどの息苦しさや閉塞感が画面からビンビン伝わってくるんです。逃げたい、今すぎに戻りたい、そう思っても事情が許してくれず、この真っ黒な背景に包まれた表紙のような圧迫感に押しつぶされて行きます。
個人的にはこの閉鎖的エロスも大好きなのでたまらないものがあったこの漫画ですが(エロマンガじゃないですがエロいです)、滅入ってしまう人も多いであろ作品。THE BLUE HERTSの歌とともに光に突き進みたいけれども、一度暗闇を突っ切らないといけない。しかもその闇がどこまでいっても逃げ場が無いようにしか見えない。
 
柏木ハルコ作品のメッセージ(1) メディアレビュー #16
柏木ハルコ作品のメッセージ(2) メディアレビュー #17
この作品では村社会におけるエロの在り方に対しての一つの答えを提示していますが、それがすべての解答ではないです。ただ、人間の価値観を揺さぶるだけのパワーある作品だと思います。
 

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ミスミソウ 1 (ぶんか社コミックス ホラーMシリーズ) ミスミソウ 2 (ぶんか社コミックス ホラーMシリーズ) ミスミソウ 3 (ぶんか社コミックス ホラーMシリーズ)
「ミスミソウ」に見る、閉じた社会と壊れていく心
答えと価値観の崩壊したセカイしか、見えない。「ミスミソウ」2巻

ミスミソウ」もそうですが、どうしても「情報が行き届かない」「村の風習から逃げ切れるのに逃げ切れないと思い込んでしまう」そんな人間関係が狂気を呼んで行く、というのは実際にある話なんだろうなあと思います。
なんてことはない、視点を変えて逃げ出せばいいんだけど、それができなくなってしまう。あなおそろしや…。
閉鎖的になればなるほど「生」も「性」に対するモヤモヤも高まって、さらに嫉妬や感覚のズレを産むんでしょうね。
あとこのへんの追い詰められた狂気感と逃げ場のなさといえば、やはり「ひぐらしのなく頃に」シリーズは欠かせないところでしょうか。
 

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閉鎖系グロ系のエロでいうと、白眉なのは「うろしま物語」かと思います。

挨拶がわりにセックス。
誰とでもどこででもセックス。
さすがにここまでいくと「日本の風習」ではない世界ですが、とにかく誰とでもどこででもセックスしているこの本を読んでいるとどんどん感覚が狂ってきます。
それはいわば、セックスだらけの町に飛び込んだ主人公が「いいかもしれない」と困惑していく状態の疑似体験。ふと目を覚ますと後半のグロテスクな世界に気付かされるのですが、そうなるまでの間に「いいかもしれない」と感じてしまうくらい、価値観の破壊を試みている作品です。
エロでもありますがかなりグロテスクな作品なので、あんまり18歳未満にはすすめません(18禁ではないですが)。そういうの苦手な人が無理に読むタイプのマンガでもないです。
でも田舎町の価値観のズレや性の在り方の歪みに興味がある人であれば、是非読んでみてくださいと言いたい、心に変なものばっかり残っちゃうマンガです。
 

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田舎だから閉塞的とか、田舎だから開放的とか、二元論で言い切れるものではありません。いろんな側面があるのが人間です。
とはいえマンガで表現する場合、色々な角度から切り取って見ていけるのは面白いところです。
人間の閉鎖的な考え方を、田舎という舞台で表現するのは大いにありなんじゃないかと思いますし、田舎でのオープンな性と生への賛歌を高らかに歌うのもアリだと思います。
キミの好きな女の子のカタチ (富士美コミックス) 彼女が恋人を好きになった理由 (富士美コミックス)
18禁マンガですが、MARUTA先生はその点のバランスがうまいなーと本当に思います。
とてもいい、ほっとする世界も描いてくれますが、確実にマンガの中では時間が動き、人間関係が変化しています。だから「セックスすること=答え」ではなく、生きる人の有様の一部に過ぎない、と時間を切り取ります。
現実はハッピーエンドやバッドエンドだけで彩られるものじゃないよ、と。
夏の田舎の町に、彷徨い続ける性欲「キミの好きな女の子のカタチ」
セックスが描き出す一瞬の快楽と日常のリアル。「彼女が恋人を好きになった理由」
 
田舎という舞台に人が惹かれ、アニメ映画などでも続々と日本の田舎描写が増えている昨今。
明るさを描く作品も、暗部を描く作品もどんどん増えていくかもしれません。できれば両方のバランスが同じくらいだと、嬉しいところではあります。色々な側面から描いた田舎像を見たいのです。