たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

茶化したくなる不器用な恋のものがたりin美術予備校(with スパッツ)「ぽすから」

「ぽすから」があまりにもツボすぎました。
色々紹介するべきポイントの多い作品なんですが、こういうハートキャッチされた状態だと難しいことを書けないので、「ここ最高!」という2点だけを書こうと思います。
・近からず遠からずの恋愛をみんなで茶化す気分を味わえるぜヘーイヘーイ
・スパッツ元気少女最高
 

●君の距離が近くて遠い●

この作品の舞台は美術系予備校を舞台。
予備校ってのがミソです。美大や専門学校じゃないんです。
ようは美大に入るための技術を習得するための予備校です。なので各々の学校の制服はバラバラ。同じ学校に通っているわけじゃないので、一緒にいられる時限も短い上に、片方が受かって片方が落ちたり、お互いが競合しあってしまうと離ればなれになるという罠もある。ようは友達でありながら、受験においてはライバル同士。
なんという絶妙な! 自分は美術科経験も予備校経験もありませんが、短い期間、別々の学校、限られた時間しかない、という不思議な縁を経験した人なら、この空間の楽しいのに寂しい独特さがすごい分かるんじゃないかと思います。

そんな中、出会ったのが気弱で泣き虫な少年千谷白樹と、メガネの読書好き少女門見茜でした。
きっかけ自体は本当にささいなこと(といっても二人にとっては大きな事なんだけど)で、問題はそこからじわじわとお互いが意識し始めるあたりからです。

二人の間に起きるのは・・・これだけ!?と周囲から総突っ込みを受けそうな会話です。この「おはよう」のために、多大なる時間と労力が実は費やされているのですよ。逆に言えばそれだけがんばって「おはよう」だけですよ!
ああ、たまらんですねこのじれったさ。
 
もうね、どっちもかわいすぎなんですよ。
どっちか、じゃない。どっちも。これ女の子だけおとなしい感じだと「しっかりしろよ!」と歯がゆさも出てきそうなんですが、とにかく千谷君がかわいい。
純真で、裏表が無くて、笑顔が明るくて、子犬のように泣き虫。頼りない感じもありますが、彼自身一生懸命だからどうにも責められないんですよ・・・。っつうかぶっちゃけいじめたくなる。
いじめるって言っても本当に困ることをするわけではなく! ちょっと困らせて「何するんだよ−!」とか言わせたくなるまさに小動物系なわけですよ。中性的なルックスがそこに拍車をかけて、見ているだけでニヤニヤしてしまいます私男だけど。
一方茜ちゃんも、強引でマイペースな姉との対比で非常におっとり優しいメガネ少女を体現してくれます。まさにメガネ少女オブメガネ少女。メガネっ子と言えば文庫本だろう!?という熱い思いをがっちり受け止めてくれます。髪型も服装も地味だけど、そこがいい。不器用で目立たないのに、好きなことには夢中で一生懸命、そこがいい。
 
こんな二人が出会って、お互いを意識し始めたはいいものの、進展なんてそうそう転がるわけがなく。
下の名前で呼べなくてドキドキ、偶然であってドキドキ、帰り道が一緒でドキドキな、ドキドキ大王です。あーもーこんなにニヤニヤさせられたら二人にちょっかいも出したくなりますわ。

お前ら小学生かよ!というピュアすぎる二人の関係は、読者側に嫉妬を引き起こすどころの騒ぎじゃないんです。
あんまりにも二人がおどおどソワソワしているもんだから、困らせたくて仕方なくなる。
だってさあ、赤面かわいすぎなんですもの二人とも。二人して赤面してたらダブルに楽しいじゃないですか。そのいたずら心をあまりにもくすぐるので、「こいつらうらやましいな!」心はあっさり超越してくれます。少なくとも自分はこの世界に入ったら、きっとこの子らを茶化す側にまわると思います。
 
この作品がどんな作品なのかを一言でまとめたら「オドオドカップルを、茶化す話」だと思います。もー指さしてヘーイヘーイと笑ってみたり、ほれ行け早くと背中を叩いてニヤニヤしたり。
読者の気持ちはうまい具合に他のサブキャラで代弁されているので、きもちよーくニヤニヤ出来ます。適切なところで適切に突っ込んでくれる。これぞいちゃラブジャスティス。
それでいてきちんと二人だけの時間を作って、適切に距離を縮めたり遠ざけたりする様子も描いているんだからたまらん、ほんとどうすればいいのか!(布団を頭に被って転がりながら)
 
でも、それだけだと単なるラブコメで終わってしまうのですが、この作品が心臓をわしづかみにするのは「限られた時間かもしれない」という切迫感です。

バラバラの進路になるかもしれない。同じコースを選べば強制的にライバルになる可能性がある。
確かに二人が出会って、一緒にいられる予備校の場は非常にレアな体験である、と言えますが、同時に不安定すぎる場所でもあります。
ずっとこのままニヤニヤしていられれば、この楽しい関係が維持出来れば幸せだけれども、いつまでもこの時間が続くわけではない。
ちょっとだけ不安が横切る綱渡りのバランス感が、この作品の味になっています。
 
とはいえ。

あまずっぱいなおい(こたつに頭を突っ込んで脚をばたばたさせながら)
 

●スパッツ娘まかりとおる●

で。本筋は上記の通りなんですが、個人的に心臓を握りしめてくれたのが、脇役キャラの一人滝美鳥(ミドリ)でした。

一言で言っちゃえば、バカなんですよ。
とにかくよく動く。考えをまとめるより先に動いてしまう。そして後先結果は考えない。
テンションは常にマックス。止まったら死んじゃうんじゃないかと思うくらいイキのいい子です。
で、この子・・・ここから大事です。とても大事です。
この子の趣味、自転車なんですよ。
自転車こぐのがすごい好きで、オーダーメイドの自転車を持っている本格派です。
ということは。
ということはですよ。

レーパンなんですよ。
もう一個大事なお知らせがあります。
この子レーパンが私服なんですよ。
つまりこの状態が「特別」ではなく、この状態が「普通」。
やった! 勝訴です! ありがとうありがとう。
 
自転車ロードレース用スーツを普段から着ている、という設定はなにげにじわじわ効きます。
実はコママンガってバストアップの絵が多いため、どうしても下半身に着ている物が見えないんです。
せっかくの生きのいいスパッツも、確かにアングル的に隠れざるを得ないことも、ある。
しかし全身自転車スーツならどうだろう。
それならば、角度的に見えなくても「今スパッツを穿いているんだ」というのが伝わってくるわけです。この計算は本当に偉大。
 
スパッツ+少女、というのは個性の一つでもあります。記号としても意味合いも重要になります。
つまり「スパッツを穿いている」ことは、活発に動いていたり明るい言動によって隠喩されるのです。
ちょっとしたところの描写の組み合わせで、「この子はスパッツを穿くな!」というのがビビッと伝えるだけの威力があるわけですよ。
たとえばこれ。

分かりますでしょうか。
そう、人類の至宝スポーツブラです。
この一コマで、ミドリの性格ががっちり表に飛び出しているんだから、ひたすらに涙を流しながら拍手するしかないじゃないか!
活発に飛び跳ね回って、基本体温高い。制服姿だとぱんつ見えても気にしない。さらに動き回りたいから、レーパンを、スパッツを穿く。このナチュラルな流れが完成しているので、スパッツが描かれるシーンの彼女は非常に健康的なエロスあふれているのです。

スパッツ属性がない白樹くんだってこの通り。
そのままスパッツに目覚めるとイイと思うよ。
 
中村先生、自転車が大層お好きなようで、ミドリの描写はヒロインではないのにすごく恵まれている感じがします。
自転車が随所に出てくるのはもちろん、ヒロインの茜にすら着せていますし、とある場所には・・・!
いやあ、眼福眼福であります。
 
スパッツ少女であるミドリはキャラ的にもかなりおいしい位置にいます。
基本的に二人を茶化すリーダーまたはサブリーダー的な役割を果たしているのですが、そんな彼女にも思いもしない出会いが用意されているんだもの、いやあ、赤面を見せてくれるのですねそうですね。

普段男勝りな女の子が、ふとした時に見せるこの照れ模様と不器用っぷり。
全く持って、どこまでぼくの心臓を握りしめてくれるんでしょう。ツボ過ぎて死んでしまいそうです。
高校三年生の女の子はみんな制服かレーパンで過ごしているような世界があればいいのに。
 

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その他にも個性的なキャラがわんさか出てきて、それぞれの進路や恋愛模様を悩んだり、二人の恋愛を茶化したりします。
ものすごい幸せな時間が描かれているんですが、だがしかしそれは終わるのも早ければ、自分達の選択次第で簡単に壊れてしまう。
この絶妙なバランス感の上でこそ感じられるニヤニヤ感は、非常に見事に計算されたものです。正直現時点ではどうなるか見えないし、何が起きるか分からないのですが、今この一瞬を全力で大事にしたくなる、一コマ一コマを目に焼き付けておきたくなる、そんなストーリータイプ4コママンガだと思うのです。

ベタ褒めしすぎですね。でもこれ、最初は「あー恋愛もの4コマかー」と軽い気持ちでお風呂で読んでいたのですがあんまりにも気恥ずかしくて、水の中に口入れてブクブクしました。いやはや、そこにスパッツですもの。会心のスマッシュヒットでした。
 
関連・風読亭(中村哲也先生オフィシャル)