たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

女の子ってのは「王子様」でありお姫様」なのよ!「ひなちゃんが王子!」

「お姫様」なんて最近だとテレビでも見かけない、ディズニーの昔の映画でも探さないと出会えないレベルなんですが、それでも永遠の女の子の憧れ。
なんでしょうね、どうしてそういう刷り込みが生まれちゃうんでしょうね。プリンセス願望。多分テレビとか絵本とかの何処かしこにちょっとずつ出てくる「お姫様」の単語がそれを誘発するんでしょうか。
なんつっても「お姫様」って単語の形がかわいすぎだよね。
「姫」ですよ「姫」。なんだろうこの妙なかわいらしさも上品さもエロさも兼ね備えた不思議な単語。「プリンセス」という発音もまたいい。プリン。セス。
 

●王子様になりたい!●

しかしこの作品のヒロイン、小学一年生のひなちゃんは「王子様願望」の強い女の子。
そこが面白い、という「4コマ漫画の軸を何処に置くか」が非常に分かりやすいタイプの作品なんですが、これがとてもよく機能しています。
(参考・ファミリー系4コマは最初の1ページ目に、ヒロインなどのアクの強さをネタに持ってきてパターン化することで、どこから読んでも分かるような形式を保っています。)
 
女の子で王子様になりたい、ってあんまりないので(しかもちょうちんぱんつは、ねえ。)見た目的に面白いんですが、表紙よりも中身のひなちゃんの王子様っぷりがどえらくかわいいからたまったもんじゃない。
表紙のひなちゃんが10点だとしたら、実際に4コマ内でうごく王子ひなちゃんは15点くらい。

表紙のひなちゃんは「王子様ごっこ」をしているわけですが、本文で描かれているのを見ると「王子様ごっこをしている少女を見守る視点」になっているので、むちゃくちゃかわいい女の子しているんですよこれが。
 
この作品を「男装女子もの」にくくるのは多分間違い。
というのも、基本的に彼女は「男装がしたい」のでも「男の子になりたい」のでもありません。
「王子様」というポジションになりたいだけなんです。
ちょっとややこしいかもしれませんが、それはこの作品のどこを読んでも「あーそういうことね」と分かっていただけるはず。
そもそも小学一年生なので、「性」の分化がまだされていません。自分が女の子とか男の子とかそういう線引き自体がないんですよ。
だから、彼女のなりたいのは「男性」ではなく「王子様」です。
「女の王子様」とかでもなく、「王子様」なんです。

特徴的なコマ。
「王子様」という言葉も所詮小学一年生の考える単語です、あんまり深い意味はありません。
これをおとな視点で見て「あらまあめんこい」となるわけですが、あえて、あえて言葉をつけるとするならばナイトでしょうか。
上記のコマは転びそうになったクラスメイトの女の子を助けようとしてさっとかばうシーン。
ようするに彼女は「かっこよくありたい」「姫(っぽいもの)を守りたい」の二点で行動しています。
それが空回りすることで、この子の「女の子らしさ」が引き立つという逆転の発想。
 

●「お姫様」に当たるもの●

王子様(ナイト)になるには、守るべき存在が必要です。
ようはひなちゃんにしてみたら「相対的に王子様になりたい」んです。
その相対的な「姫」に当たるのが、おねえちゃんのらんちゃん。

体がか弱く非常に女性的でキレイなお姉さんです。
まさに「オンナノコ」という語を絵に描いたような。
 
ここまでくると分かってくると思いますが、ひなちゃんが王子様になりたいのはお姉ちゃんのらんちゃんが好きだからに他なりません。
 
ギャグマンガでえらいめんどくさい話しているなあと感じる方も多いと思いますが、これ自分が「異性装物」の漫画が好きだからあえて確認のために書いています。
作者の山口舞子先生は、まったくもってこの作品を異性装物としては描いていないわけです。もちろん男装はしているけど、男装というよりも「王子様」というポジショニングを子どもが目指している「ごっこ遊び」の範疇です。ベクトルとしては戦い守るヒロインを目指しているので、「王子様になりたい」≠「プリキュアになりたい」ですね。
この場合の少女の異性装は、男性・女性を全く意識していないので、何かに対して相対的な立場でありたい、という願いになります。ヒーロー・ヒロインは「守るべきもの」がなければヒーロー・ヒロインにはなりえないのと同じです。
 
お姫様役のお姉ちゃんやお母さんはそのへんをよーく分かっています。ひなちゃんは別に「王子様になりたい」といいつつ「王子様になりたいわけじゃない」ということを。

そのへんをうまーく利用して勉強させているシーン。
ちゃんと「何をこの子は演じているのか」を理解すれば、それを頭ごなしに否定するのではなく、うまく活用できるいい例です。
 
基本的に「ごっこ遊びに興じるひなちゃんを、お姉ちゃん・お母さん視点で見守る」漫画なので、とーにかくひなちゃんがかわいい。かわいくてしかたない。かっこうは王子様だけど、中身がものっすごい女の子していてキュートでならないんですってばよ!
しかし面白いのは、途中からお姉ちゃんがその「ごっこ遊び」に飲まれて行く心理です。

基本的にひなちゃんの「王子様ごっこ」に振り回されているお姉ちゃんなんですが、回を重ねるごとにどんどん「お姫様役」であることが楽しくなってきちゃうんですよ。
お姉ちゃんの年齢は高校生。当然分別をわきまえているので、自分のことをお姫様だなんてかけらも思っていません。
しかしながら! かわいらしい妹がちっちゃなナイトとして自分のことを「お姫様!」と慕い続けてきたらどうですか!
毎日のように「お姫様、お守りします!」とかわいい妹が頑張ってくれたらどうですか!
そりゃ、気持ちもゆれるよ!
無論お姫様だなんて思わないよ。思うわけがない。
そうじゃない、この相対的な関係の幸せを永遠のものにしたくなっちゃうんですよ。
 
当然、成長すればそれは失われるものだからこそ!
 

後半のお姉ちゃんの心理にはなんとも言えず切ないものがあります。
お姉ちゃんの視線は最初から最後まで徹頭徹尾、お姉さんなんです。お姫様じゃないんです。
しかしながら、高校生と言えば一番多感な時期でもあります。
今、「お姫様!」と無条件でしたってくるひなちゃんがかわいくてしかたないし、お姫様扱いされるのも悪い気はしないし、姫の役を演じて王子を演じるひなちゃんをかまってあげるこの時間が幸福なんです。
ひなちゃんが成長するということは、その幸福が終わることにほかなりません。
いずれくる、姉離れしていく、かわいくて愛しい妹。ああ、寂しい・・・。
 

●もう一人の王子様●

このひなちゃんとお姉ちゃんの関係にくさびを(自らの意思ではなくとも)打ち込むことになったのは、クラスメイトのごうくんでした。
このごうくんが、元気で活発な王子系少女のひなちゃんと正反対で、乙女チックお姫様系男子なのが面白い。

見た目も行動も心理状態も極めて乙女チック。
ところが、ひなちゃんの「王子様」が性別を含んでいないのに対し、ごうくんの行動は「性別」を意識しているんですよ。
ごうくんは女の子みたいな子だけど、彼はひなちゃんに対して男の子らしくありたいと願っています。
 
「男の子らしい」「女の子らしい」という単語が今はもう死語というか、小・中学校では使っていけない単語の一つになっています。
いやほんとまじで。
先生が「男の子らしくしなさい!」って言ったら怒られちゃいます。
いやほんとまじで。
ちょっと極端な感じもしますが、でもその点については自分は納得。だって「その子らしさ」と、メディアの定形にある「男らしさ」「女らしさ」は擦り合わせるものじゃないですもの。言うなら「もう一頑張り!」とか「勇気出して!」とか言い方ありますしね。
ちょっと話しずれました。
ごうくんが言う「男らしさ」は、これまた相手とのポジション的な意味合いが大きいです。
つまり「ひなちゃん」という女の子に対して自分は男の子として存在したいという状態です。
さっきのひなちゃんの「お姉ちゃんに対しての王子様」は性別がありませんが、こっちは性別がポジションの一要因なんですよ。
そこが、お姉ちゃんの得も言われぬ歯がゆい感覚にもつながっていきます。
 
お姉ちゃんとしては、性別を消失した「ひなちゃん」という妹がそのままでいてほしいという思いもあるわけですよ。
そこから卒業して行ってしまうことのなんともいえない思い!
嫉妬ではないです。嫁にいく娘を見守る家族の気持ちです。
不思議よね・・・兄弟姉妹が結婚する時の、あの嬉しいような寂しいような感覚・・・。
あ、ひなちゃんは結婚しないよ。いちねんせいだよ。
喩えとしてだよ。
 
ひなちゃんは自分を「男」とも「女」とも思っていません。「王子」だと思っています。

しかし気づいちゃうんですね。
あ、わたし女の子なんだと。

不思議な感覚を克服したお姉ちゃんが見守る、ひなちゃんの女の子らしさ。
実は最初から「王子」に憧れる少女ひなちゃんは、女の子でした。女の子だから「王子」という立場に憧れていたんです。
だけど世界が狭かったから、姉と自分の関係の間でのみそれは成立していた。
子供は核家族から、友人、クラスメイト、学校、社会、世界へと視野を広げていきます。
今は「核家族→友人」へと視野が広がったばっかり。その困惑の中で、最初から持ち合わせていた「女の子」がはっきりとしていくわけです。
 
この作品、題名が絶妙だなーと思います。「ひなちゃんは王子」じゃなくて「ひなちゃん『が』王子」なんですよね。
ようするにイコールじゃない。だから王子はポジションによって入れ替わるんです。
それが一巻完結の中でしっかり描かれているのが非常に素晴らしいです。
 

一巻完結なのが個人的には惜しいのですが、ちゃんと順を追って成長を遂げながら終りは余りにも見事にまとまっているので、文句なしにオススメしたい逸品。どうしても表紙のちょうちんぱんつで「えー」となる人もいるかもしれませんが、作中のひなちゃんは王子コスプレだからこそ、かえって女の子らしいです。
個人的には子供のいる親御さんや、妹弟のいるお兄さんお姉さんにオススメ。微笑ましさににっこりしながらも、いずれやってくる成長と子離れのほんのりした嬉し寂しさも描かれたいい作品です。