たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「アニコイ」のテンションと若さに、おっちゃんオタクはついていけなさそうで困惑するのよ

 
ゴツボ×リュウジ先生の「アニコイ」の3巻が発売になりました。
ゴツボ×リュウジ先生のマンガって、すっごい人を選ぶと思うんですよ。
ものすごいテンションの高さとスピード感、見ての通りのセンスのずば抜けたデザイン感覚、そしてカワイイ女の子達。ところが実際に読んでみると「うわーおもしれー!」となる人と「な、何が起きてるの?」となる人の温度差が多分ものすごく激しいと思います。
特にこの「アニコイ」、その温度差をモロに感じます。自分も一巻を読んだ時「何事?!」と思ったのです。これは傑作なのか、意味の分からない作品なのか、どっちなんだこれは!?
 

●熱血とか根性とかそういうのはないです●

この作品一見すると何の作品かさっぱりわからないんですよ。
で、どういう話か簡単に書くと。「主人公の少年高時が、アニメみたいな恋をしたい(アニコイ)!と勇挑んでがんばっていたところ、なんやかんやに巻き込まれてアニメを作るアニメ部に巻き込まれ「アニメみたいなコトしたい(アニコイ)」というテンションの中で、みんなで暴走していく」というコメディ。
うん、よくわからないですね。
そう、ここが大きなふるいになります。
 
アニメを作るマンガ、といえば「ハックス!」「空色動画」があります。
ハックス!(1) (アフタヌーンKC) ハックス!(2) (アフタヌーンKC) ハックス!(3) (アフタヌーンKC) ハックス! 4 (アフタヌーンKC)
空色動画(1) (シリウスKC) 空色動画(2) (シリウスKC) 空色動画(3) (シリウスKC)
どちらも傑作と読んでいいレベルの、アニメを中心にした青春ストーリーです。熱血度も青春度も5点満点という感じです。
とはいってもこの両作品とも、やはり今風の香りただよう作品。アップロードして見てもらうのが「ニ○動」だったり、バンド演奏にあわせて絵を動かしたり、グラフィティアニメーションに挑んだりと、ちょっと「こつこつやる職人気質」のアニメ制作とは別物です。
アニメを作るマンガといえば「アニメがお仕事!」がありますが、あれは人間関係もドロドロ、仕事もきついという読んだ後にぐったりつかれる、でも名作な作品です。コチラのほうが気質としてはさらにレトロ気質ですが、「仕事」と「趣味」の差があるので一概には比べられません。やはり「好きだから!」でやっている「ハックス!」「空色動画」はライトだし、青春の息吹を感じます。
しかしそれでもこの2作品は苦労に苦労を重ねてこつこつと青春を燃やしているわけです。かなりガチで取り組んでいるわけです。学園祭の前の本気のような、お祭りのようなパワーですね。
 
じゃあ「アニコイ」は?
一応コメディだけど、アニメ作るよね?


はい、作ってます。
これは主人公ではなく、部員の栗栖新左衛門君。萌えアニメは好まず、こつこつと絵を描いて作品を作る力を持った、この作品においては数少ない常識人です。
やはり「動画を作る」というのは地道で大変な作業なわけですよ。とんでもない労力と、苦労と、忍耐と、愛情の産物なんですよ。
実際栗栖の作る作品も最初のうちは「うわーすごいねー!」と褒められますが、インターネットを介して他の作品を見たときにあっさりとその「すごい」は破壊されます。

努力したのに、簡単に潰れてしまう。
うわ、なんだろうこの妙な感覚とテンションの下がり方。
 
改めて言います。
「空色動画」「ハックス!」は「すごい!」「楽しい!」「頑張ろう!」という力強さをもった作品です。
「アニコイ」は「努力」をほとんど肯定しません。
語弊があるので一応フォローをすると、否定はしていないんです。努力は大事なんです。
ところが、感覚そのものの根っこが全く違うんですよね。「頑張ろう」じゃないんです。
 

●ぼくたちのもとめているものはなんだ!?●

「アニコイ」の題名の「アニメみたいな恋したい」「アニメみたいなことしたい」という時点で気づくべきでした。
そうなんだよ。努力とか根性とかそういうのはこの作品の根幹の理念じゃないんだよ。
熱血度が「空色動画」「ハックス!」が5点なら、「アニコイ」は1点。でも青春度は5点。
大事なのは熱血や根性じゃない!
僕たちが本当に求めているものは何だ!
 

多分今まで出た3巻の中で、この作品を最も象徴するコマだと思います。

僕達はもう、物語にまでリアルなストレスや痛みなんていらないんだ!!
ただ 優しく柔らかいモノに囲まれて愛でたいだけなんだ!!

なんとも賛否両論ぐわーっと出てきそうなセリフダナ!
 
自分はもういい大人なわけで、「物語、フィクションこそがリアルよりもリアルを描ける」という考え方を持っていたり、「それを作り上げるために作家は魂を削って作品を作るのだ」と考えたりしました。しましたともええ。おっさんだからね!
だからこの高時の台詞に全面的に同意できるかというと、それはできません。
だがしかし。心の底で分からんでもないから困惑するこの感覚。
 
折角モノを作るんだ。
なら「難しいこと」とか「悩み」とかそういうの全部捨ててさ。
二次元のファンタジーの世界くらい「優しく柔らかいモノに囲まれ愛でたい」じゃないか?!
そう言われたら、一瞬悩みながらも、否定出来ないじゃないか!
 
この「アニコイ」という作品、全くもってこの思想がメインにあるため、読者がすごい振り分けられると思うんです。
苦悩や友情や表現への執念みたいなものが必要だろう!と考えている人には、もうぬるくてピントが全然合わないと思います。
逆に「楽しいこといいね!」「面白いのいいね!」「カワイイの最高!」という人にはピントががっちりあいます。すごいニヤニヤ笑いながら読める傑作になっているはずです。
このへんは年齢の差というよりも、感覚の差でしょうね。
ゴツボ×リュウジ先生は、この作品を描くにあたって意図的に後者を狙い撃ちしている感じがします。

技術は大事。分かってる。
センスも大事。分かってる。
根性も大事。分かってるってば。

でもあたし少しわかるかも。
だって、何だって見てくれは、いい方がいいじゃない!

思想とかそういうのは一回おいておこうよ。
まずは見た目。カワイイものやキレイなもののほうがいいでしょ?
そして楽しかったら、一番じゃない?
 
この感覚、どこかで見たことがあるような、感じたことがあるような……。
そうだ。
ニコニコ動画だ。
 

●「楽しい」を謳歌する●

ニコ動ももちろんコツコツ派の人もたくさんいます。色々な作品が玉石混交する、しかし人に魅せることのできる発表の場です。
ただ、決定的に大きく本流を流れているものの一つに「キャッチーで楽しいかどうか」があります。
コツコツ職人肌的に作られた作品は高い評価を得ますが、同時に「歌ってみた」「踊ってみた」などのジャンルでは上手さのレベルだけではなく「楽しいかどうか」が最重要だったりします。

普段おとなしくて人見知りの激しい少女今宿さんが、動画サイトで「踊ってみた」を披露していたことがバレるシーン。
うんうん、君じゃないよねこれはね。わかってるよニヤニヤ動画。
(関係ないですがこの格好、ハートキャッチプリキュアのえりか様……に限りなく近づける努力してますね! イイヨイヨー!)
 
以前も「うーん」と一人で悩んでいたんですが。
作品を作るときの「努力論」「根性論」は確かに大事だし、最終的には努力せずにいいものなんて作れるわけがないのは百も承知二百も合点なのです。
ですが、若い人達が手軽に簡単に踊ってみたり、歌ってみたりする様子は……正直うらやましい。
うわー年寄りクサーい。
でもだって、恥ずかしいですもの。
自分には技術がないからとか、やっても無駄になるだけだしとかそういう打算的な思考がストッパーになってしまう。
 
「踊ってみた」を人前で公開する子達の心理は一体なんなのだろうか?と考える側に回っている自分がいることに愕然としました。
そうなんだよ、そもそもこういう子達……「アニコイ」に出てくる主人公格の子達に「なんでそんなことしているの?」と尋ねたら100%「楽しいから!」と答えるに決まっている。
それ以上でもそれ以下でもないんです。それを分析すること事態に意味がないとは言いませんが、分析したってきっと答は「楽しいんだね」で終わるでしょう。
 
この「アニコイ」という作品がものすごい不思議な手触りなのは、そのへんの問題だと思います。
努力至上主義、若者を分析する大人側の視点から見たら、この漫画の面白さは半減する気がします。
上記の高時の台詞や、踊る今宿さんを見て「あー、なんとなくわかるなー」と思える人ならものすごく面白いはずです。
 
個人的には狭間で悶々としている感覚です。
もっと必死に、みんなで頑張ってアニメ作って欲しい!という思いや歯がゆさはあります。アニメ愛の強い作家さんだからこそ、そこを描いて欲しいなあという気もします。
 
しかし、すげーすげーうらやましいんです!。
楽しいことを刹那的ではあるけど楽しめるその精神。恥も外聞も捨てて、未来へのビジョンとかあんまり考えないで「面白いことしようぜ!」を原動力に動ける子達のパワーが!
ええ、無駄多いです。この作品のキャラは無駄ばっかりしてます。
無駄でもいいじゃない! 楽しいんだから!
と、思えるか否か。
 
「アニコイ」が若さの試金石とは言いません。
しかし確実に「振り向かない、振り向こうとしない、楽しいことしか見ない若さ」の面白さを描きこんだ作品だと思うのです。
そもそも意味なんて彼らが考えてないんですから、当然作品の裏表もありません。キャラの思考は行き当たりばったりです。
カワイイ女の子達もいっぱい出てきますもの。
まさに高時の言っていた「物語にまでリアルなストレスや痛みなんていらないんだ!!」を体現する作品なんです。
 

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とはいえもちろん、人間関係での機微を描く描写はありますが、それでもかなーりライトです。ゆるゆるです。
これは難しいことを考えず「今宿照れかわいい!」「世継オモシロかわいい!」「安土アンジョリーナジョリーツンデレかわいい!」と楽しんだ方が吉。

難しいこと考える前に、目の前の可愛い少女達を見て「かわいいー!」「すげー!」と言う思考になる、それでもういいじゃない。
ああ、そんな時期あったなあ。
遠い目だよほんと。
 
で、自分が大大大好きなのは、高時の幼馴染で関西弁のジャージヤンキーの伊庭猪子
だってこの子、一番良識がありつつ、一番がんばりつつ、すげーピュアなんだよ!
ありえないタイプのヒロイン達が乱舞する中で、見た目的にはリアル寄りですが、その性格とポジションは間違いなく属性扱い。ヤンキー萌え。幼馴染萌え。ジャージ萌え。ギャップ萌え。
死ぬ程かわいいです猪子。
あー。アニメみたいに猪子と恋をしたいなー!……と言えるようになりたいなあ。と予防線を張る自分はやっぱりへっぴり腰でございます。
 

一巻の感覚が受け入れられるかどうかが鍵になるかと思います。一巻はまだ物語が動いていないので。
アニメ部としてのアクの強さとテンションの高さが発揮されるのは二巻から。
表紙のPOPなデザインがお気に召す方は、おそらく内容も心にマッチするんじゃないかと思います。