たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

30歳前後の焦燥を描いた半実録漫画「ハナムラさんじゅっさい」が面白い。


「ハナムラ」のプロフィール [pixiv]
 
WEBマンガハナムラさんじゅっさいがスゴイ面白いです。
「はなむらさん、じゅっさい」ではないです。三十歳。
 
全体の雰囲気としては「モテキ」に似ているんだけど、そこまでハードで重たい感じではありません。
まー、1ページ目の真ん中のコマ見た時点でどんな漫画かわかっちゃいますよね。
そうです。
色々ダメな感じの男の、哀愁とかハッピーとか人生の転機とか、かと思ったらそうでもなかったりする、半々な感じのほぼノンフィクション漫画です。
 
「ダメな男」の話って面白いものが多いんだけど、この作品、とにかく「30歳」という点の引き立たせ方がうまい。
そうなんだよ、28と29は差がないんですよ。
でもですな、29と30は差がでかいんだよ!
そりゃあもう、愛宕の山と富士山の高さくらい違うね。桁が3つくらい違う感覚すらあるね。「三十路」って言葉重いよね。
しかも彼の仕事は、……初期時点では無し。
一応漫画家。だけどまだ短編載っただけ。
この宙ぶらりん感! たまらなくもぞもぞするじゃないですか。ああもう、そうだよ30前後ってもぞもぞするんだよ!
 
いやあ、自分漫画家じゃないですけどさあ。
「漫画家志望とか続けていていいの? 俺このままでいいの?」という30歳の焦りはものすごく分かる、分かるよ!
最初はね、それでも彼女がいて「このリア充め!」とか思ったんですが、一転する展開には涙するしかなかったし。
あんまりにもダメ過ぎて、でもわかりすぎて泣けてくる。
だよなあ。この段階でこの状態だと、必死にあがいちゃう気持わかるよ。
まさに、「中二病黒歴史」を楽しむマンガではなく、「30前後の悶々を追体験するマンガ」に仕上がっています。
 
途中から華やかしとして女性が出てくるあたりが、漫画だなーという感じではありますが、どうもここも前途多難そう(ここフィクション?ノンフィクション?)。
しかも、マンガに集中しなきゃ、必死にマンガ描いて漫画家にならなきゃ!と思っているのに、目の前にいる美人に振り回されている(というか勝手に一人で妄想して空振りしているだけ)あたりの男ならではのダメっぽさ!
だよね。いくら色々言っても……目の前に美人いるとダメになっちゃうんだよ男ってやつぁあ。老いも若きも。
本当に駄目だな男って生き物は!
あいた、あいたたた。
 

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少年誌とエロ漫画の狭間での戸惑いなんかは実際に漫画を描いたことある人じゃないとわかりづらい部分かもしれませんが、読んでいるとなんとなく「二の足を踏むんだろうなあ」という気持ち分からんでもないのが面白いところです。
それよりも、漫画家じゃなくてもずっしり刺さってくるのは、後輩に追い抜かれて行く恐怖の部分でしょう。
自分より年下だけど、自分よりデビューが早い人達。
自分のアシだったのに自分より売れている人達。
そういうのを見て、文句を言うわけでもなく……もう悶々とするしかないんだよ!!
あ、うん。
そんな時間あったら描けって話ですよね。
でも、いつまでたっても通らないネーム。
それでいて性欲押えきれず悶々とする(しかも恋愛のれの字にも至ってない)。
「ダメな俺!」というのがふつふつと沸き起こる30歳前後の心をよーくわかっていらっしゃる。
もうひたすらに面白痛いです。
 

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展開が軽快でスイスイ読めるし、ガチなネタを扱いつつ、心に引っかかる部分もありながら、割とライトなのでいろいろな人におすすめしてみたい漫画。
というか30前後にオススメ。あまりにも身に染みすぎます。
現在進行形で、今8話まで掲載されています。
こういうのがネットにさらっと転がっているから怖いなあ。
漫画家という仕事もそうそう簡単になれるものじゃないので、同じように「これからどうやっていくのか?俺は漫画家として30越えてから職についていいのか?諦めるべきなのか?」と迷いまくっている人、意外といるんじゃないでしょうか。
 

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まあリアリティに関しては、漫画を実際に描いておられる方も多いと思いますし、自分もそこまで詳しくしらないためあんまりそのへん突っ込まないでおきますが、少なくとも「読み切りで載ったがそのあとが続かない」の図は残酷なほどどんよりした空気感が感じられてよくわかります。
わかるわあ……。載った時の高いテンションと、継続できない時の落ち込み。このギャップがもうね、どうにもね。
宮崎駿監督が「始めるのは簡単、だが続けるのが難しいんです」と何かのインタビューで言っていたのが本当に身にしみて感じられます。
 
あ、ケータイコミックのネタあたりは、時流と沿っていて結構リアルな話なんじゃないかなあ。
色々な「漫画家漫画」がありますが、もっとも今風の、ライトな感覚+ぷち鬱な感覚+30代の重みを感じる、笑いながら痛々しさに転げ回れる作品だと思います。
 
あとはねー。
途中から出てくるエロ漫画の美人編集さんが、浮世離れしすぎていて、逆に怖い。
なんかオとされるんじゃないだろうか……。
そんなん思ってたら8話で、割と人間味出てきてほっとしたりしました。
うーん、これは続きが楽しみ。
 

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WEB漫画の良さって、こういう商業枠にとらわれない自由な作品が、きちんと面白く、作者さんのパワー全開で発表出来るところなんでしょうね。
コメント見ているとどうやらリアル体験らしいですし、うーん、漫画家志望さんの経験を痛楽しく追体験出来るのは貴重な体験。
作者のハナムラさんのケータイ漫画読んでみたいなあ……というか美人編集さんとかやっぱり羨ましすぎなんですがそこんとこどうなんよ。
 
まあ。
好きなセリフを一つ引用。

漫画を描くのは、やっぱり楽しかった

年齢とかじゃない。この思いがきちんと塗込められているから、この漫画はすごく好き。