たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

暴走お嬢様、恋に恋してアレルギー「ラブアレルゲン」

桂遊生丸先生とあかほりさとる先生のタッグ、といえば思い出すのはかしまし〜ガール・ミーツ・ガール〜」ですね。
かしまし~ガール・ミーツ・ガール 1 (電撃コミックス) かしまし~ガール・ミーツ・ガール 2 (電撃コミックス) かしまし~ガール・ミーツ・ガール 3 (3)    電撃コミックス かしまし~ガール・ミーツ・ガール 4 (電撃コミックス) かしまし~ガール・ミーツ・ガール 5 (電撃コミックス)
「ガール・ミーツ・ガール」とは言いつつも、実はヒロインのはずむは元々男の子、性転換して女の子になってしまったため体は女の子精神は男の子です。そんな(ぶっちゃけ羨ましい(あるいは一番かわいい))はずむくんが幼馴染のとまり、クラスメイトのやす菜との恋愛関係を育み、成長して行く傑作でした。いま見てもアニメもマンガも面白い作品なので是非とも。自分も好き過ぎてフィギュアかっちゃったよはずむくんの。
 
さて、繊細な絵柄と描写力に定評のある桂遊生丸先生が描いたことで、あかほりさとる先生の濃さが絶妙にバランスを取られたのがこの作品の最大の功績でした。
あかほりさとる先生の洗礼を受けた人はアラサーなら多いはず……あの強烈なまでにオーバードライブかかりっぱなしのテンションの高さ。
全編に渡って躁状態あかほりワールドは非常に面白く、90年代を象徴するとも思うんですが、いかんせん00年代の、よく言えば繊細さ、悪く言えば気だるさとはなかなかマッチしづらい部分があります。だからと言ってこびてしまったらあかほりワールドじゃない!
まさに「あかほりさとる桂遊生丸」のタッグは最高の化学反応だったと言えましょう。
 
そのタッグの新作が出ました。

否が応にも期待しないわけにはいきませんよ。
さて、どのくらいあかほりなのか、どのくらい桂遊生丸なのか?!
 

●設定は力技、これこそあかほりワールド!●

あかほりワールドのクセの強さの一つは、目的のために手段を選ばない設定づくりにある気がします。これ褒め言葉です。
ようは、ある一つの「描きたいもの」があるとします。そこに到るまでには色々な描写や解説を遠回りしていかないといけないのですが、あかほり作品は直進します。
「かしまし」も、一番大事なのは「少女になった少年」と少女との恋愛と成長なわけです。だとしたら、なにがどうなって少女になったかとかは本当はきちんと描かないといけないんですが、ものすごい事故ということで強引に女の子になります。
壁があったらぶちやぶって直進。まさに外道。(あかほり的お約束
 
今回もその力技が健在。
だってこうですよ。

少年、少女……よく解らん精霊
だれ?
このシーンに入るのめちゃくちゃ唐突です。理由もほとんどないレベルの唐突っぷりです。
 
何が起きたか説明しましょう。
本質だけ知りたい人は以下飛ばしていいです。

この全裸幼女は桜です。桜の精霊みたいなもの。人間に憧れて姿形を真似しています。
その桜が魔力をもって千年に一度人間の赤子を産みます。
で、その子には肉体だけで心が宿らないから、純粋な人間を探して「恋」を理解させる手助けを知りたいと桜が望みます。
そうして、たまたま呼び寄せられた主人公の二人と一緒に「恋愛実験同好会」を作って「おもしろおかしく暮らしたい!」と桜が強引に話を進めてうんたらかんたら。

あ、もちろん「赤子?なんで?」とかの解説はないです
はい。
何が起きているか分からないですね。
選ばれし二人なのかと思ったら、後半見ていくと「純粋っぽい人なら誰でもいい」という適当さ。
 
はい。
大事なのはここから。
ようは「恋とはなんなのか?」を描くためのすごい爆進設定です。
つまりこのマンガは「恋とはなんなのか、人間の拒絶反応と距離感とはなんなのか」を描くためにありとあらゆる手段を使っている作品です。ここを理解しておけば十分楽しめます。ぶっちゃけ設定自体特に理解しなくても本質は楽しめます。
この潔すぎる割り切り方が素晴らしい。まさにあかほり的。
逆にあかほりファンならその無理矢理なねじ曲げパワーを存分に楽しめることも間違い無し。「かしまし」に負けず劣らずパワフルです。
「かしまし」と被る部分を挙げるとしたら、それは「人間とはなんなのかを観察する第三者がいる」というところでしょうか。
 
強引な設定の中にも一つ、大事な設定があるのでそこだけは理解して読み進みたい。
それはヒロインが、恋愛をするとアレルギーで体が拒絶反応を示すという所。
「なんで?」と聞かれたら「分かりません」なんですが。ただ此処に関しては今後語られる可能性大です。
恋愛にアレルギーを持ちつつ恋に憧れる少女の、恋愛研究が今、始まる。
 

●アレルギー●

この作品の題名にあるように、アレルギーは一つの重要なファクターになっています。

主人公のたすくくんは超重度のアレルギー持ち。
まー人間は色々なアレルギーがありますが、アレルギー体質の人は「それがいかに辛いか」はよーく分かっていると思います。花粉症にしろ、ハウスダストにしろ、食べ物系にしろ、ネコにしろ……好きなのに辛かったりするとさらにきつい。
もうこんな状態で鼻水だらだら目しぱしぱ、悲しいことこの上なし。
アレルギー状態だともう生きるのも辛いんですよね。
死にたいわけじゃないよ?
生きるのが辛いんです。というかもう体の機能が低下して脳がうまく働かない。下手したら喘息になったり、死にかけたりする人もいるわけで。勘弁してくれと。頼むから許してください神様と。
 
これが、この作品のテーマの一つにもなってきます。
感情ではない体の拒絶。
題名が「ラブアレルギー」ではなく「ラブアレルゲン」なのがミソです。
アレルゲン、はアレルギーの原因となる物質の方のこと。
つまり、この作品のテーマになってくる「拒絶」に対しての「拒絶されざるを得ないもの」はなんなのか、に重点がおかれているということです。
 
というのも、たすくくんは普通の花粉症みたいなアレルギーだからいいんですが、問題になるヒロインの少女ほのみが、先程も書いたように恋愛をするとアレルギーが出る。
だから恋愛が出来ない。体の拒絶です。
現時点ではまだたすくくんと恋愛関係になっていないので、アレルギーはでません。
しかし序盤で未来予告的に描かれます。
たすくくんが、アレルゲンになる可能性があるということを。
そもそもたすくくんがすごい美少年なんですよ。

うむ。かわいいな。
あんまりにもかわいいので、マスクをしていない状態だとあらゆる女の子が寄ってくる(このへんあかほり的)というモテっぷり。
だけれども彼自身は、ほのみが憧れている「恋愛」に興味を持とうとしません。
それはアレルギーの恐ろしさを知っているから。
あんな辛い思いをしてまで、恋愛をしたいなんておかしい、ばかげている、やめたほうがいい、と。
 

●はっちゃけほのみさん●

では恋愛アレルギー持ちのほのみさんがどんな子かみてみます。

普段しられているほのみさん。清楚可憐、清廉潔白、ちょっと近づくのが怖い。そんな少女。
むしろ「ほのみ様」。
ところがどっこい、先程の桜の精にであってからと言うもの、本性が大爆発。

別人みたいだ!!
こっちの方がかわいいよ!断然いいよ!
……という男性は多分多いはず。少なくとも自分は下のほうがたまらんですね。大好き。
そう、彼女は明るくて元気で、非常に生き生きとした目をした少女。おそらく素でいけばかなりモテるタイプ間違いなし。
ところがそれじゃまずいんですよ。
だってアレルギーだもん。恋愛しちゃったら大変なことになるんだもん。

このコマでその理由が描かれています。ようは「男が寄ってこないようにするために鉄の女を演じている」。
 
この作品自体は、たすくくんとほのみさん中心に描かれます。そのため二人でいる瞬間には鉄の女を演じる必要がありません。
なのでどんどんはっちゃけます。というか他の人のいないシーンでははっちゃけまくります。

頭悪いな!!(褒め言葉
これだよこれ、これこそ「桂遊生丸あかほりさとる」コンビの生み出す奇跡のような面白さ。
かつ、まだほのみさんの中に恋愛が生まれていないからアレルギーが出ていない、極めて幸せな状態です。
それにしてもさっきのアップですが。

とても同一人物とは思えない。
 
さてほのみさん、普段抑えつけているだけあって、はっちゃけてからのテンションが非常に高くて魅力的。
ぶっちゃけハイテンションなラブっ子が好きならそれだけで読んでいいと思うくらいかわいい。
例えばこんなシーン

ほのみはたすくくんを「シショー」と呼びます。
なぜシショーかというと、たすくくんがモテモテだからです(容姿のせいで)。実際は恋愛経験ないです。
ほのみはそのくらい「恋愛をすること」に飢えています。アレルギーのせいで出来なかった分飢えまくりなんです。
その割に、見ての通りアレルギーでないんですよね。つまり「たすくくんのことをまだ恋愛では見ていない」。
この「友達未満恋人未満」という中途半端な関係がひじょーに面白い。
あえて言えば「自分の素を出せる相手にあえました! 憧れの恋愛が出来そうな相手に会えました!」レベル。
押しも強いし、意外と頑固。だけど割とアホ。自分のことを「ほのみが!ほのみが!」と言うのもえらくかわいい。
アホの子好きな方には激プッシュしたい逸材な少女でございます。
 
まー全体的に笑えるシーンの方が多いんですが、それでも「恋愛するとアレルギーが出る」という不思議体質のせいで話は完全なギャグには飛びません。
これが、この作品のテーマ「恋愛ってどこからなんだろう?」「恋愛ってそもそもなんなんだろう?」「恋愛ってどうして起きるんだろう」という部分に直結します。
「どうして」。それこそ「アレルゲン」です。
 

●ほのみは私が守る!!●

さて、もう一人主要な人物がでてきます。
ほのみの仲良しで、ほのみのことを大事に思っているアキちゃん。

学校の「冷徹モード」の時は「ほのみ様」と呼んでいますが、普段は普通に仲良しなので「ほのみ」と呼びます。
ほのみのことがとても好きで、なんとか守らなきゃ!と意気込む様がものっそいかわいいです。おかっぱなのがいいですよね。地味めで良識人……いやまてよ、ほのみを見張って過保護状態で守っているのはあんまり普通ではないな……。
うん、訂正。この世界では比較的まともです。
 
たすくくんは割と、保守的でローテンション。積極的なタイプではないです。
どちらかというと、怒りや苦しみの体現のようなキャラでもあります。
彼は「恋なんて病気だ、脳内物質の過剰分泌だ」と冷めた視点を持ちながら、無感情ではなく青い炎を心に燃やす少年です。

芯の通ったいい男。だけど人間味より精神的拒絶が大きい少年です。
 
ほのみは割と、あけっぴろげでハイテンション。超積極的で壮絶に猪突猛進マイペースです。

アレルギーなのは知っていても、恋愛には憧れている!
だから多少苦しくなっても恋愛したよー!と叫んじゃえる子。
だがうん、アレルギー出てからじゃ遅いから危ない。
精神面ではオープンで幅が広いけど身体的拒絶を余儀なくされている子です。
 
その間に入るのがアキちゃんです。
ほのみのことは大好き、当然守る。
たすくくんのことは割とどうでもいいけど、とりあえず芯は通して欲しい。少なくともほのみのアレルゲンになっては欲しくないけれども、信用したいようなしたくないような……。

なので、このようにガツーンと正論をぶつけることが出来る非常に重要な立ち位置になっています。
主人公は間違いなくたすくとほのみなんですが、性格と思想が逆ベクトルすぎてぜんっぜん噛みあわなさ過ぎるんですよ。
それを図らずもつなぎとめているのがアキちゃんになっている。このへんのバランス感覚が見ていてとても爽快です。
 
アキちゃんのキャラは桂遊生丸先生の匂いが強いキャラですね。
暴走しない、繊細、丁寧。心理状態もとても複雑。極めて魅力的なキャラです。っていうか僕の好みすぎて大変です。
この子がおそらく鍵となって、二人の「恋愛とはなに?」探しを真意に近づけて行くのではないかと思われます。

気苦労は絶えないけどね。
 

●恋とはなんでしょう●

長々と書いてきましたが、一番最初に戻ります。
3人のメインキャラ、唐突な設定、微妙なバランスの人間関係、すべて「恋とはなんなのか」というテーマを描くために設定されている作品です。
人物ありきではなくて、テーマありき、なんですよ。
象徴的なのはおそらくこういうほのみの顔でしょう。

とにかく作中のほのみの素の状態は笑顔・笑顔・笑顔。
楽しくて仕方ないんですよ。うれしくてしかたないんですよ。
でもアレルギーが出ていない=恋愛ではない。
じゃあ恋愛ってなんなの? どこからが恋愛なの? 今の楽しさは恋愛じゃないの?
一巻では答えは出ません。しばらくでないでしょう。
だがしかし。
ほのみにアレルギーが出てからが正念場です。
多分此の二人、放っておいたらアレルギーはでない=恋愛は出来ないでしょう。
しかしアキちゃんが意外に適確なアドバイスを随時入れてきます。アキちゃんはほのみに「恋愛をしてほしくない」けど「恋愛をして喜んで欲しい」のです。なんとも複雑な心理すぎる、けど分からんでもない。読者の視点は途中からアキちゃん視点とシンクロしはじめます。
 
少なくとも、ほのみのこの輝くような笑顔を見ていたい。読者にもそう思わせるマンガです。
だからこそ、彼女に恋愛をしてほしくもあり、してほしくなくもある。
ああ、恋ってなんでしょう。

恋とは何でしょう
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リッチー・バイラーク・トリオ
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全く無関係ですがなんとなくこのCDを紹介して、締めようと思います。
ほんと、なんだろうね。草津の湯でも治るまい。
 

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アキちゃんの話になってから急激に桂遊生丸先生らしさの方の話に寄ってしまいましたが(自分がファンなのでご勘弁)、あかほり臭はそこかしこに入っております。それだけご紹介。
あかほり臭が密集しているのは桜の精さんだけじゃないです、たすくくんの兄と姉がやばいです。

安心した!あかほり的な意味で
 

何度も書いていますが、設定は破天荒ですが物語や人物描写が繊細なので、一直線にテーマに向かって描かれているこの化学反応が素晴らしい作品です。表紙の笑顔は伊達じゃない。この笑顔がかわいい!と思ったら是非オススメ。アキちゃんと一緒に、笑顔の行方を見守りたくなるはず。
 「かしまし」のDVD−BOXが異常にやすいのでついポチってしまいました。アマゾン価格6,061円は安い。
あのね商法」なんか言われて論議をかもした作品でもありましたが、アニメとしての質は極めて秀逸。アニメとマンガでは話の展開も微妙に違うのですが、どちらも心理描写がものすごいのでおすすめ!といまさらながら言っておきたいです。今思えば「あのね商法」も待ったご褒美みたいなものでしたとも。ええ。何はともあれこの作品が好きだ。