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このいばらのツタはどこに絡まっているんだ?「いばらの王 ―King of Thorn―」映画版

 

King of Thorn
 
いばらの王 ――King of Thorn――」 二回目見てきました。
一回目は5月に東京で、二回目は今日札幌で。
どうもこの作品、かなり狭い範囲でロングランで公開されつづけ、まだ公開されていない劇場もあります。多分8月くらいまで続くはず。
なので、「まだ見られないんだけど!」という地域の方も多いと思いますので、最大限まで頑張ってネタバレ無しで感想書きます。
つうか二回見たのはぶっちゃけ何回か見ないとしっかりと理解し切れない作りになっているからです。頭のイイ人・洞察力がすごい人なら一回で分かるかもしれませんが、自分は見終わった後「やべ、確認しないとわかんないよ!」状態だったので二回目。
で、二回見ると「あのシーンはこれか!」「ああそういうことだったのか!」というのがボロボロ出てきます。
 
映画の感想なので自分のスペック書いておきますね。

・原作は読んでる。
・同じチームの「スチームボーイ」は見に行って、自分には合わず凹んでいた。
(てっきり「大砲の街」見たいのだと思ったのに!みたいな)
花澤香菜仙台エリ大好き。

 

●原作と違うからね!●

長い文章なんて読みたくないよ!と言う人のために、すっごいはしょって感想書きます。

・映画としてはスゴク良くできてるよ!
・原作と全然違うよ!
・圧迫感がすごいよ!

以上です。
 
この下は、長々と感想になります。お付き合いいただければ幸い。
 
そもそも原作の6冊が2時間でおさまるのか? 「スチームボーイ」「FREEDOM」はよくできた映画ではあったけど自分の肌にはあわなかったんだけど、それでも楽しめるのか? と不安だらけで見に行きました最初。
しかしまあ見事なもんで、映画一本としてあらゆるものを詰め込みまくった、食べ終わった後飲み込んでもまだ飲み込みきれず、しかも後味残りまくり、ついでに牛のごとく反芻してまだ気にかかって、もう一度反芻するかのごとく凄まじい作品に仕上がっていました。
じゃあハードル高いの?と言われると、ちぃと悩みます。悩んで笑顔で「高くないよ?」と言いたいです。いろんな意味の笑顔で。
 
とりあえず真っ先に言っておきたいのは、ストーリーは原作と全然別物ということです。
無論出てくるキャラクターとかは同じですし、シーンやテーマもかぶる部分多いのですが、作りが強烈なほど根本的に違います。
そもそもトレーラーに出てるヴィナスゲートの社長、漫画で出てこないっつー話ですよ。
 
なので原作ファンの方は「完全なアニメ化」は望まず、むしろいばらの王」を素材とした新しい世界を楽しむつもりで見に行った方が吉です。
(具体的に言うと、1から3巻と6巻の一部をつなぎつつ、他は映画としての新しい解釈に特化した感じ)
逆に原作を読んでいない人は、全くなんの知識も無しで見に行った方が新鮮で楽しいと思います。
その後で原作読んだ方が「うわ、え、まじで?」とこれまた二倍楽しいこと間違いなし。
これは一流のパニック映画でありながらも一流の謎だらけの映画
ヒロイン達はやたら水に流されるシーン多いんですが、むしろ観客の方が情報量の津波で流されまくる映画です。
 

●ハリウッド的かと思ったのに!●

このレビューが極めて象徴的だと思います。
映画評 『いばらの王 –King of Thorn-』

ハリウッド大作にも引けを取らない堂々たるSF冒険活劇でありながら、事件の真相を明らかにする過程で衝撃の急展開に突入する。振り返れば、序盤から伏線が散りばめられているとはいえ、ジェームズ・キャメロンスティーブン・スピルバーグの映画を楽しんでいたつもりが、いつの間にかデイビッド・リンチの世界に足を踏み入れてしまう摩訶不思議。これはいったいどうしたことか。

上のトレーラーを見ると分かりますが、そうなんです。漫画の持っている日本らしさがOPの部分ではあまり強調されておらず、逆にハリウッド系パニック映画のいいところをふんだんに取り入れています。
最初に石化した女性が降ってきて粉々に砕け散るシーンなんて、まさに象徴的ですね。「世界はもうだめだ」と思わせる終末感・絶望感の重さ!
その中で生き残るために選ばれた人達。しかし蓋を開けてみればそこはいばらに覆いつくされた化物の跳梁跋扈する世界!
いいですね。銃を構えつつ前に進みたいですね。「いかにもこいつすぐ死ぬだろ」的なやつはそのとおり「いかにもすぐ死にます」。

もうだめだ、死ぬしか無い。わっさわっさと人が死ぬ中どうやって生き残ればいい?!
いい意味でお約束な展開を、これでもかと言わんばかりにど派手に描く前半は、グロテスクであるが故に爽快そのもの。
だからこそ、最初に書いたように「ハードルは高くない」です。いきなり難解なシーンから始まって眠くなる、とかやっている暇ないです。怒涛のように壮絶な「絶望」の嵐です。
そこから人数が減っていき、脱出することになるのは少人数で、腕力と知力で乗り切って行くあたりは、原作が「CUBE」をリスペクトしているあたりと同様、いつ何が起きるか分からないスリルに溢れています。

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そして、人が生き残るために前に進む様の中で、人間の本性があぶり出されるあたりもね。
 
ちと話ずれますが、マシンガンよりもショットガンの描写がいいんですよ。
とにかく化物がリアルサイズででかい上にやけくそに固い(水棲動物の多かった原作の化物と、これまた全く別物!)ので、戦士的立ち位置のマルコがそれらをぶちのめすとき、マシンガンも使うのですが、効くのはショットガン。一撃一撃の重さが見ていて爽快なことこの上なしです。こだわりの描写。

彼の戦闘シーンがいちいちかっこよすぎるので、それだけのために見に行く価値アリ。
 
とまあ、ここまで書くと「つまりよく分からない事態が起きて、何かが襲ってくるところから脱出するんでしょ?」と見えますが、この作品後半みるみるうちに奇妙な世界にもぐりこんで行きます。原作の一部を抽出した上で、原作からも、ハリウッド的エンタテインメントからも乖離。
何だこの世界は。一体どこに迷い込んだんだ?
 

●オレは今何を見たんだ?●

先程のレビューで「デイビッド・リンチの世界に足を踏み入れてしまう摩訶不思議」と書かれていますが、極めて適確な表現だと思います。
もうちょっと言い方を変えてみましょう。
ハリウッド的なんですほんと、最初の方は。意図的に。原作の派手な部分を増幅して、不安感をうまく煽って、全くもって見た目にもわかりやすくゾクゾクさせる力に満ちています。特にエレベーターのシーンは必見。
しかし後半、「日本人の映画」的な感覚が急に流れ込んでくるんですよ。

善悪二元論で分けることの出来ない、いい意味で曖昧な価値観。
自己とは何かを問い続けて困惑する人間の心情。
世界の危機よりも、自らのトラウマと戦い苦しむ様。
彼らは活路を開くか? 死ぬか? いや、そんな簡単なものじゃないんです。
 
生きていることが幸せなのか?
いばら姫は本当に目覚めたかったのか?
私はどこに向かえばいいの?
絶望よりも恐ろしいこのトラウマとどう戦えばいいの?
願えば何もかもかなうの?
願ってかなう夢の世界の方が、願っても叶わない現実よりも幸せなんじゃないの?
 
禅問答みたいですよね。
「本当にそうなのか?」「いました選択は正しいのか?」
残された人間達の思いが交錯し、混沌とした世界が一気に展開していきます。
この感覚、非常に「日本のアニメ」的。ハリウッド的な外に向かう勝利とは程遠く、どんどんインナーに向かっていく肌触り。
なんだ、どこに来ちゃったんだ。途中突然訪れる奇妙な展開、ある意味無茶にすら見える展開は、その禅問答に誘導するための水先案内人的役割を果たして行きます。
正直最初、唐突すぎて「え?」とあっけにとられました正直。
解説も無しにいきなり展開する急転直下っぷりは決して親切設計ではないです。むしろ原作以上に、わざと難解にしたままです。
(よーく見るとヒントはたっぷり隠されてはいます。)
しかしその唐突さは「手段」でしかない。
この映画が挑戦しようとしているところは、観客をハリウッドから日本アニメに引きずり込むいばらのツタになることだ。
 

●願え。●

じゃあエヴァ的ですか?と問われるとこれがまた違う。むしろヒロインは誰よりも能力的に弱いけれども、誰よりも確固とした信念の持ち主です。

ある意味、さきほど出てきた男性のマルコよりも強い。それがヒロインのカスミ。
このカットは極めてそれが象徴的に出ていると思います。
 
いばらも、妙な生き物も、刻一刻と迫る死の恐怖も、そしてラストの息苦しさも、とにかく圧迫感がひどくて息切れしまくります、観客側が。いつ何が起きてもおかしくない。それこそが「切り開くハリウッド的」と「インナーな日本アニメ的」な感覚をつなぐ紐になります。
原作でもカスミは、体力は体力はないけれども精神力は半端じゃない強い人間として描写されていますが、映画ではそこをさらに強めながら物語のテーマに近づいていきます。
そして……ここから先は何を書いてもネタバレになるので書けません。
カスミはこの狂った世界の中で、何を見るのか。最後に何を選択するのか。それは映画で見てください。

いばら姫はいばらに守られた世界で夢を見続けたかったんじゃないだろうか。
それとも、本当に王子に目覚めさせられて、幸せになるか分からない世界で生きたかったのか。
 
見終わった後も、答えは分かりません。
しかし、二回目に見るとそのヒントは浮かび上がります。
一回目見て「何が起きているのか分からないまま流されて津波にのみ込まれる」のを楽しむ。だからハードルは低い。
二回目見て「鍵になるものがなんなのかを探しながら謎を理解してみる」。ここからがハードルが急に高くなる。
ぶっちゃけて言うと、原作よりもわざとわかりづらくなっています。しかも原作と答えは違う方向にあるどころか、答えがあるかどうか分からない。
だけどそこが、面白いんだな。
映画の中で、いばらのツタをつかんで登らざるを得ないシーンがありますが、まさに見ていると手のひらは刺を握りながら、でも上に登ろうとする感触そのもの。
でも、確実に上には登っている。
作品そのものが娯楽作から難解な作品へ飲み込もうとする挑戦でもありつつ、観客に向けての挑戦状にもなっています。
 

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余談。
MISIAのEDテーマ「EDGE OF THIS WORLD」はもっと評価されていいと思うんだ。ものっそい、いい曲です。
ただし配信限定シングルなのでCD屋さんに売ってないです注意。iTunes Storeなどで是非。
 
ヒロインのカスミが花澤香菜、双子の姉のシズクが仙台エリという、声優ファン的にもひじょーーーに美味しい作品でした。貴重な仙台エリ分を大量補給だミル!
仙台エリさんコメント。

「非現実的なんだけど、でもなんだか現代っぽい物語です。映画にキャッチコピーをつけるとしたら
『目に見えるものすべてが現実だとは限らない』でしょうか。

ものすごい鋭すぎて目ウロコ。
 
しっかし花澤香菜さん最近ものすごいな!
センコロール」のヒロインでしょ? 「文学少女」の遠子先輩でしょ? 「エンジェルビーツ」の天使でしょ? 「化物語」の撫子でしょ?
花澤香菜さんにはアニメヒロインのラスボスの称号を与えたい勢いです。
 
あと、これは自分の感覚なんですが、2Dアニメーションが非常に秀逸な分、3Dモデルのキャラが非常に気になって仕方ないのが引っかかるところでした。
多分日本トップクラスの「3DCGを使った2D的表現」なんだと思うんですが……ロボットと人間に「不気味の谷」が存在するように、2Dと3Dにも不気味の谷が存在するんじゃなかろうか。
かなり積極的に3DCG化したキャラが盛り込まれ効果的に使われているんですが、どうにも「あれ?」と引っかかる部分があってそこだけ気になりました。「プリキュアDX2」みたいに早いアクションシーンだけを3Dにしたほうが、とも思ったけど、アクションシーンは2Dになっていて逆に映像的にすごいんですよね。うーん、やっぱり日本は2Dアニメーション能力が高いんだなあと感じさせられると同時に、3Dとの壁に挑みつつ、そこに立ちふさがるいばらの壁をも感じさせられました。
とげとげだよ。ぶち破れる王子は来るのか?
3ds Max による 3D CG と 2D 作画のハイブリッド (Autodesk - いばらの王 -KING of THORN-)
もんのすごい労力を要しているようだ・・・。
 

著者本人自ら「B級っぽい」と言っていますが、ならば「超一流のB級映画的漫画」と呼びたい作品。多分読者によってばっくり評価の分かれる作品でもあるのですが、きっとそれも計算通り。「なんじゃこりゃー!」となるもよし「すげえ・・・」となるもよし。個人的には大好き。6巻のおまけ漫画がまたB級っぽいんだ、フヒヒ。
展開もラストも映画と全く違うのですが、ヒロインのカスミというキャラはぶれていないと思います。映画は「いばらの王」コミックスのパラレルワールド、というのが一番の感想です。
ただし、映画を見て「?????」となった人は、そのヒントが漫画で分かる仕組みにもなっているので、映画から入った人は読んで損はないです。パンフレット、漫画、そして謎解きページを見るとかなり情報は明確になります。
それでもなお、謎は残る。ほんと後を引く映画です。「これはどうして?」「これはなんで?」と突っ込もうとすればするほど深みにはまる。逆にさくっと理解出来る人には出来る。不思議な食感。
いばらの王 -King of Thorn-  オフィシャルサイト -上映劇場- : 角川映画
東京でもまだまだやっていますし、地方では今から上映開始なので、機会があったら是非見て欲しいなあと思う映画です。
そして、見終わった後のモヤモヤ感を抱えながら、賛否両論ごわごわするといいと思います。平均点6〜70点の映画ではなく、90点以上付ける人と30点以下付ける人が半々の映画なんじゃないかしら。
 
関連:劇場版 いばらの王(King of Thorn)感想 ネタバレ有り レビュー&自力の考察:かる日記:So-netブログ
見終わった人向け、ネタバレ有りまくり感想。謎解きのお供になると思います。