たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

アイドルだって夢は見るし、毛も生えます!「O/A」

FM、AM、インターネットラジオ、様々な形態で「ラジオ」は未だに残り続けています。むしろネットラジオをカウントするなら増えたと言っていいくらい。
これだけ簡単に動画を、素人がニコ生やUSTREAMなどで放送出来る時代だというのに、なぜ音声媒体が生き残るか、なぜ音声媒体がここまで興隆を残したまま長い期間生き続けているのか?!
答えは簡単です。
それを愛している人がたくさんいるからです。
作業しながらラジオを聞く、車を運転しながらラジオを聞く、あるいはしっかり時間になったら正座をしてラジをを聞く。
そのくらい、人はラジオが好き。声しか聞こえない、相手の見えない世界。
音だけであるが故に、人は想像力を最大限まで働かせて楽しむことが出来るのです。
 
そんな、「音声のみ」であることを使ったラジオという媒体を、人の心の集う場所として描いたのが、渡会けいじ先生のO/Aです。
 

●同じ声を持つ少女●

表紙だけ見ると、非常に明るいアイドルラジオマンガのように見えますが、これが驚くほどに超熱血。
かつ、笑わせるところはきっちり笑わせる力の緩急の付け方が極めて上手いのが、渡会けいじ先生流。
すさまじいスピードで二人の少女が行き交いながら、本当に目指したい場所に向かうため、顔の見えないラジオの前に立ちます。
 
と言っても二人でやりとりをするボケツッコミラジオではありません。
番組の看板を背負った主役のアイドルは、表紙の少女堀内ゆたかです。
が、ゆたかは大人気アイドルであるが故に、逆に「ラジオ」という媒体にあんまり興味がないんですよ。分からんでもない。実際テレビに出るよりギャラは低いかもしれないし(詳しくは知りません)、時間はとられるし、顔も映らない。
「一人で喋るのってあまり好きじゃないなァ……空気に向かって話してるみたい」
これ、ゆたかがいい子だとか悪い子だとかじゃなくて、割と本音だと思うんですよ。
そもそも誰か聞いているんだろうか? 自分一人虚空に向かってしゃべっているんじゃないだろうか?
観客がいるわけでもなし、密閉された部屋に一人。ラジオ収録の不思議な感触は特別なもの。
とはいえ、ゆたかにとっての看板ラジオ。
有名アイドルがやる生放送ラジオ、そりゃ聞きますよ沢山の人が。
ところがここでゆたかにとある出来事が起きて、運命の歯車が一気に狂い始めます。
ラジオのマイクの前に立つことになったのは、今まで人前でラジオなんてやったことのない、芸人の卵の少女田中はるみ
理由は同じ声だから。
 
んな無茶な!という展開ですが、壮絶な勢いで突き抜けさせるのがこの作品の最大の魅力。
声だけだもの、あとはリスナーが相手を「アイドルのゆたか」だと思って聞くんですよ。
だからこそその無茶が通用してしまう展開が面白いところ。
 
ゆたかとはるみの入れ替わり劇自体は高速展開なのですが、問題は入れ替わってからの面白さ。
そもそも芸人志望のはるみは、ラジオなんかやったことないわけです。

テンパるよね。
「どっぴょーんっ!」とか言わねえよ!とか思いますが、違うんだこれが、ラジオでテンパると言っちゃうもんなのですよ人間って!
オーケンオールナイトニッポンをはじめてやったとき、あまりのプレッシャーに頭の中が吹っ飛んでしまい「ボヨヨーン!ぼよよーん!」と叫び続けて、その後猛烈に凹んで帰っていった、というのは有名なお話。
そして、その追い込まれた状況で叫んだ「ボヨヨーン!」がおかしなことに流行ってしまい、こんな曲が生まれてしまったというのもまた有名な話。

いつ何が起きるかわからない。オーケンの話は偶然から発生した意外なヒットだったわけですが、この「O/A」でも同様に、偶然が産んだ奇跡によって一気に話の歯車が別シフトに移行します。
かたや逃げ腰で、しかも中盤から精神的に追い詰められてしまう売れっ子アイドル。
かたやハイテンションで前向きだけど全く知名度0の芸人少女。

その二人が同じ声だったから、ラジオ番組ですり替えが生じる。
これは本当にただの「偶然」なのか?
いや、偶然でもいい。問題はその偶然からどこに歩みを進めるかだ。
 

●はるみ大暴走●

個人的にこの、売れていない芸人の少女はるみが面白かわいくて仕方ありません。
まあ、単純に二人を比較出来ないんですよ。だって背負っているものが違うんだから、当然「ゆたかがダウナーではるみがアッパー」だとは一概には言い切れません。
そもそもゆたかはアイドルであるがゆえにラジオで大声で「ファック!」とか言えないわけです。アッパーにならずにキャラを演じなければいけない。
しかしその重みを背負っていないはるみは、すごい勢いでゆたかに変わって突進出来るんですよ。
だけどそれは本当に重圧を背負っていないだけか?
いや、はるみは自分のためと人のため両方を大事に出来る子なんだ。

そもそも「代理でラジオに出る」なんてお断りも出来るわけですが、彼女は中盤から自分の意思でマイクの前に立ちます。
「その人のために、喋る!!」
面白いですよね。
ラジオって不特定多数の人のために喋るはずなのに、はるみは今、ゆたかだけのために登壇します。
本当は「ラジオパーソナリティー」としては、それはよくはない。
しかしいいんです。
真打ちであるゆたかと、はるみは立場が違う。
なら「その人のため」そして「私のため」に喋ればいい。

さすが芸人、と言いたいところですが、ちょっと違う。
この人に聞かせたいという言葉は、努力によって紡ぎだされるものなんです。そこがラジオの面白いところ。
画面に映っていないからこそ、聞いている相手をテクニックによってだまくらかす・・・というと言い方悪いですが、自分の世界に引き込むことができやすい。
同時に画面に映っていないからこそ、恐ろしいほど情熱や感情が相手に向かって噴出しやすいメディアでもあります。
先程のゆたかの言葉、思い出してください。
「一人で喋るのってあまり好きじゃないなァ……空気に向かって話してるみたい」
ラジオは、空気に向かって話している感覚に襲われる時、恐ろしいほどの空虚感とプレッシャーにヤラれます。
同時に、リスナーとのコールアンドレスポンスが出来たり、この人に聞いて欲しいという思いが高まったときに、とんでもないほどに思いを伝える核爆弾になります。
だからこそ、はるみは「ゆたかのために喋りたい」「私がそうしたいからする」。
それでいい。
 
まーとはいえ、さすが貧乏でも芸人を目指すだけあって、相手を笑わせることにかける魂のこもりっぷりも半端じゃない。
だからこの作品、重いテーマを抱えつつも極めて軽快。
ポジティブの弾丸である彼女が、本作の面白みを一気に高めていきますので、余り構えなくてもすんなり楽しめます。

シモネタもいいバランスで満載。
いいね! アイドルの毛の話とかたまらないね!!
 
いかんわー。
こういう空気を読んであえて道化に徹することの出来る子、ツボすぎなんだよ。しかも本人がそれを楽しんでいるとか最高じゃないですか。
はるみが好きすぎてどうにかなりそうです。
 

●私は、アイドルだ!●


はるみモードでは割とテンションがハイになってげらげら笑いながら楽しめるんですが、ゆたかモードは極めてローテンション。
みんなの前では明るく元気なアイドルですが、その実、心にぞっとするほどよどみを抱えた少女でもあります。
プロデューサー達はそんな彼女に、なんとか頑張ってよい番組を作ってもらいたくてこのように厳しい現実を突きつけます。
リスナーの思いを知っているのか? 
テンションが低かろうが、体調を崩そうが、知ったこっちゃない。
待っている人を裏切るなら「ここにはあなたの居場所はないわ」
 
しかし、はるみがローテンションになるのには数々の理由があります。
それこそ、はるみがひとりで抱えてきた恐ろしいほどの重圧です。このへんは実際に読んで確かめてください。
高慢で、お金のことばかり考えて、気まぐれで……それらは全て彼女の「皮」にすぎません。

私はなんだろう。
私はなんなんだろう。
私の居場所は一体何処なんだろう。
四方八方敵だらけにもなりかねません。
しかし、マネージャーが、プロデューサーが、数多くのあきらめないで付いてきてくれたファンが、そして偶然出会うことができたはるみが、彼女の背中をマッハで押し上げます。
立ち上がれ。
立ち上がれゆたか!!!

そうだ、自分自身のために
 
ラジオという媒体を、なんとなく惰性でこなさざるを得ない場合もあるでしょう。
ラジオ一本のために命を、職業生命をかけている作家もいるでしょう。
ポジティブミサイルのはるみと、ネガティブな淀みのゆたかが出会ったのは、偶然じゃないと信じたい。
同じ声の彼女たちが出会ったのは、運命なんだ。
ただし、こっから先は自分たちで掴めよ。
ゆたかの苦悩と涙と、はるみの笑いとシモネタで駆け抜ける青春ラジオ漫画の傑作が生まれる予感がします。
 
自分が、深夜「オールナイトニッポン」にかぶりつきで聞いていたのを思い出します。
最近だと「集まれ!昌鹿野編集部」における、小野坂昌也さんに鍛え上げられる鹿野優以さんの根性をゲラゲラ笑いながら涙して、夢中で聞いていたのを思い出します。
そうだ。あの時確かにぼくは、ラジオの向こうから流れてくる声の情熱の虜だったんだ。
もっと、笑わせながら勇気を分けて!

あと色気とシモネタもよろしくお願いします!
nice ぱんつ。
 

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ラジオをテーマにした作品だと他にも「ラジオでGO!」があります。こちらはラジオ関係者の人間関係描写に見応えのある4コママンガ。
ラジオってさ、ぼくらの青春だろ?「ラジオでGO!」
ラジオでGO! (1) (まんがタイムKRコミックス) ラジオでGO! (2) (まんがタイムKRコミックス) ラジオでGO! (3) (まんがタイムKRコミックス)
ものっすごくよく調査されたラジオの番組作りの仕組みを垣間見ることが出来る上に、リスナー側の気持ちも、作り手側の気持ちも、そして恋愛のニヤニヤも楽しめる作品です。
ラジオをテーマにした作品って珍しいと思うんですが、「O/A」は人間関係よりも「私」をさがす物語でありつつ、同じ声のガールミーツガールとしても読めます。そして乗り切るための根性を溢れんばかりの熱気で描いた作品でもあります。
全く違う角度のこの2作品。普段ラジオは聞かないよという人でも比較しながら読んでみて、あらためてラジオのスイッチを入れたり、インターネットラジオにアクセスするのもいいんじゃないでしょうか。

O/A」の題名の意味が後半分かる下りがまたいいんだなー。
ところでこのギター使う日が来るんだろうか。是非使ってくださいえへへ。
 
あと、渡会けいじ先生の漫画、女の子かわいすぎだよ!
鴨川ホルモー」も楠木さんかわいすぎて頭がおかしくなりそうでした。
大木凡人みたいな女の子は意外とかわいい。「鴨川ホルモー」
原作つきですが、渡会先生の味が最高によく出ている作品なので、おすすめ。3巻完結です。
鴨川ホルモー (1) (角川コミックス・エース (KCA216-1)) 鴨川ホルモー (2) (角川コミックス・エース 216-2) 鴨川ホルモー (3) (角川コミックス・エース 216-3)
 
「わたらい」のプロフィール [pixiv]
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渡会先生の、アマガミ絵の事後っぷりは最高なので見たほうがいい。