たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ひよこときんぎょのかわいい世界が何を描くのか?「お母さんは水の中」

普段あんまり読まないジャンルの漫画がいくつかあります。
自分の場合は任侠物、レディコミ、育児モノ、実話系、ギャンブルマンガ、あと動物ものです。
気づいたらすごいんですよね。あんまり話題になりづらいんですが、動物漫画は完全にジャンルとして確立しまくっているどころか、雑誌が成立しています。wikipediaを見ただけでも、「まんが・ねこのしっぽ」「もふもふ」「ねことも」など何冊も出ています。2000年前後から雑誌として出はじめていたのでしょうか。
と言っても、ある意味コアなジャンルとして確立しているがゆえに、どこから手をつければいいのやら??? 手探りもいいところです。
そんな中で教えていただいたこれが面白かったので紹介。

ぴよぴよぴよ。
はい、動物しかでません。
自分にとっては全く新しい世界でした。
 

●こんにちは、世界●

結論からいうと、すげー面白かったです。
絵柄も普段読むタイプの漫画と全く違いますし、題材も今まで触れたものと全然別物なんですけど、この作品は読んでいるとものすごい既視感に襲われるんですよ。
もちろん題材は動物メイン、そんなに読んだこと無いはずなのになんで? 
 
4コマ漫画の定石として、ある程度のちょっと変わった基本ルールが基盤になって、それを繰り返すという形式は同じなんですが、このマンガの基本ルールになっているのはここです。

金魚をインプリンティングしてしまったひよこ。
刷り込み - Wikipedia

実はこのコマ、すごくシンプルなんですが異常な事態が地味に詰め込まれているんですよね。
そもそも買ってきた卵からはひよこは孵化しません。
でもここでひょろっと描かれているだけなので、普通に読んでいるとあんまり気づきません。後半になってからその話が改めて出てきて、あ!と気づく仕組みになってます。
 
インプリンティングのネタはやっぱり動物ネタならではですよね。このあと、なぜか陸上を歩ける金魚をひよこがぽてぽてついて歩きまわり始めます。
全く異種の組み合わせすぎるのですが、意外と読んでいると不思議に感じられないのが面白いところ。あ、そうか。やはり動物マンガ雑誌に載っていただけあって、動物はかわいい!というのが前提にあるんだ。
金魚かわいい! ひよこかわいい!
だからひよこが金魚のあとをついてあるくという珍妙な光景も「かわいい!」でくくることが出来ているんだ。多分この「かわいい!」は動物マンガにおいては重要な位置のような気がします。
だから、この作品に出てくるひよこたちは非常にかわいく、基本軸からは絶対外れま……。

そうでもなかったー!
 

●おっさんのひよこ●

そもそも色々おかしい!
おっさんなのにひよこって、年取ってないの、どういうことなの。
「かわいい!」によって、ありえないルールが保持されていた世界を、いとも簡単におっさんひよこは打ち破ってくれます。
だって、かわいくないもの。なんというか、デザイン的にはかわいいけど(ぬいぐるみとかであったら買っちゃいそう)、少なくとも「かわいいもの」の括りにこのおっさんひよこは入っていないことがはっきりと描かれています。
だから「かわいい!」で許せた世界の中でものすごく異質なんですよ。どうしても「なんでおっさんなのにひよこのままなの?」と引っかかってしまい、その存在自体が金魚がひよこを世話するパラダイスを破壊しにかかってきます。
と同時に、彼の存在がこの動物たちの住まう作品世界が描いているものの大きな起点にもなっています。マンガにおいて違和感があるということは、何かが起きる序章です。

金魚にインプリンティングしてしまったため、ニワトリの存在をしらないひよこ。
なのでこう感じてしまうのも仕方ないです。逆にこの2コマを見ていると「なんでひよこはニワトリになるんだろう?」と不思議すら感じてしまいます。
……なんでなるんだろうね? ずっとひよこのままでいたらいいのに。でもおっさんになっちゃうのか。

おっさんひよこもウサンクサイことだらけで、どこまで本当かわかりません。
しかし彼の存在はこの作品の大きな軸の一つになっています。
なぜおっさんのままひよこなのか?
まあ基本ギャグマンガなので真剣に考える必要の無いところではあるんですが、しかしそれでものどにつっかかるようなものがあります。上のシーンなんかはなんとも思わせぶりですよね。
 
ひよこと金魚の関係自体も奇妙ではありますが、おっさんひよこと、この後に出てくる他のひよこの母親ニワトリの存在のおかげで極めて人間味(?)のあるものになります。
そうか、異質は異質なんだ。
たまたま刷り込みでついてまわっていて、今は幸せだけど、この後の「未来」どうなるのか分からない。
 

●動物だからこそ描ける人間の世界●

人間のキャラでは同じようなストーリーは作れなかったと思います。このへんが動物マンガらしい設定と「かわいい!」でまとめてしまう力ですよね。
しかし動物マンガだからこそ、逆に人間の本質を描ける部分も多々あります。

いつかひよこは、ニワトリになって金魚よりも大きくなります。自立し、離れていきます。
そもそも、自分はひよこの本当の親ですらない。
どうして一緒にいるのか分からない、これからどうなるかもわからない。ひよこの本当の幸せはなんなのかも、分からない。
だけれども一緒にいたいのはなんでなんだろう?
 
人間のありとあらゆる感情が、動物を介して表現されることで、すんなりと受け止めやすく調理されていました。
なるほど、動物系マンガの持つ底力の一つはこれなのか。動物だから受け入れられる要素をふんだんに散りばめながら、人間の心理をくすぐるドラマ作りができるってことなのか。
人間で描かれるとちょっと重たかったり恥ずかしかったりすることも、動物だとさらっと笑ってすませられるのか。
だから最初、不思議な既視感に襲われたのか。
そう分かってから後半、あっという間に魅力に取り付かれて、一気に読めてしまいました。
基本ひよこのどたばたを描いているため、金魚の心理描写のシーンが入るとうわああってクるものがあるんですよね。
特にラスト。この世界が「かわいい!」の園で幸せすぎるがゆえに、波のように押し寄せてきました。
 
ひょっとしたら人間心理を描く手法の一つとして秀でている(ペットと飼い主でも、動物同士の世界でも)からこんなにも動物系マンガが盛り上がっているのかしら、と思いましたがそこまで足を踏み込んでいるわけじゃないのでなんとも言えません。
少なくともこの作品だからこそ描ける人間の心理はあるな、と感じました。
疲れてしまった時などに、人間じゃないから逃げ込める場所であり、同時に人間じゃないから一歩深く入った世界も見ることが出来る。素敵なマンガだと思います。
 

お母さんは水の中
あにスペWEBlog
お母さんは水の中 (hiyo_kin) on Twitter
動物マンガはホント世界が広くてどこから手をつけていいか分からないんですが、こういう面白いマンガがあるなら色々足を踏み入れてみたいなあ。
Twitter / すいーとポテト: お母さんと水の中を読みきった。ひよきんが微笑ましく可 ...

お母さんと水の中を読みきった。ひよきんが微笑ましく可愛い。お母さんになりたがるひよこの片鱗が見える場面が好き。おねしょ話の最後の夢が感動的。小難しく言えば、生物学的な異端を自然に受け入れることにより、その差異の強化を強力に行えるということですね。

絶対有り得ない話をさらっと描くからこそ、リアルな問題に直面したときの金魚とひよこの関係が浮き彫りになりまくります。切なくも、あるよね。