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台本を完璧に、体をはってこなす。レスラーはいつだって真剣勝負だ!「任侠姫レイラ」のプロレス美学とエンタテイメント

プロレスには「台本」がある……だからなんだ!? 『任侠姫レイラ』を読んで熱くなれ!(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
以前も書いたのですが、今日プロレスを見てきたら熱くなったので書くよ!
 
レイラは。
「任侠姫レイラ」は、本当に面白い!
 
レイラの描く技の数々の詳細、特に伝えづらい「関節技」の痛みと激しさに関しては、こちらの記事が非常に秀逸なので、もうマンガ読まれている方は是非読んでみてください。
プロレス漫画における関節技の変遷と、「仁侠姫レイラ」が描き出すプロレスのリアルとファンタジー - さよならストレンジャー・ザン・パラダイス
関節技はほんと、「痛そうな振り?」と見えますが、決めるのも返すのもテクがいる上に、それをいかにスピーディーにこなし固めるかが面白い。そして痛い。地味そうに見えるんですけどね。
 
なんかさんざんレイラについては書いてきた気がしますが、11月に二巻も出ることですので、もう一度この作品の中に眠っている重要なテーマ「プロレスに台本はあるかないか」「プロレスは真剣かどうか」について書いてみようと思います。
結論だけ先に言う、プロレスは真剣勝負だ!
 

●技をすべて受けきる、それがレスラー。●

プロレスの面白さは、「どっちが強いか」に留まらないところです。
もちろん試合です。勝ち負けはあります。
では負けたほうが弱いのか? いいやそんなことはない。
 
誰もが見たことあるでしょう。
明らかに避けることのできる蹴りを、チョップを、ロープからのプレスを、避けないレスラー達の姿を。
単純に勝ち負けにこだわるなら、あんな大振りな技の数々ゴロゴロ避けてしまえばいいじゃんという方が合理的。チョップなんて防御すればいいじゃないかと。
違う、違うんだよ。
 
レイラはプロレスは「受けきる」ものだというのをかなり強調して描いています。
もうこのコマ一つでわかりますよ!

さあ、来い!
かかって来い! わざかけて来い!
お前のすべてを全力でぶつけて来い!!
全部受け止めてやる!

避けない。
彼女は絶対、避けないのだ!
 
プロレスは、どちらかが一方的に強くてかっこいい、というものではありません。
ヒール(悪役)も自分も(あるいは逆のパターンでも)、それぞれの見せ場があります。得意技だったり、相手の弱点を攻める技だったり。繰り出される技をお客さんは全力で待っています。
だから攻める方は、手加減なんてしません。全力で殴ります。もちろん相手を怪我させたり殺したりするのが目的ではないので本当に危険なことはしませんが、暗黙のルールの中で最大限まで全力を出し切ります。動けなくなるまで。痣ができようと鼻血を流そうと。
コメディタッチの試合でも、ガチな技のかけあいで鼻血流したり額切ったりするのを見るとやはりゾクッとします。
ああ、痛いんだ。
受身は最大限身を守るためとるけど、相手の痛い技を痛いまま耐えて受け止めるんだ。
ここにぼくらは感動をします。目の前で巨体が飛び交う様は圧巻。激しく殴り合ったあとに胸元に残るミミズ腫れは嘘じゃない。
 
レイラは強いです。
だからぶっちゃけ、何もかもを捨てて完全に勝利だけを考え、相手をガチで避けて負かすだけの能力、持っているんですよね。勝つのは簡単なんです。
でもそれ、プロレスじゃないんですよ。
相手のなにもかもをはぎとって、魂の部分をむき出しにさせて、技をかけあう。
やさしさはリングの外でいい。リングの中は本気で技をかけるのと、受け止めるのがやさしさだ。
 

「せっかくあんたの技も立たせてあげようとしてるってのに、掴みかかってくるだけ……ホントにアマチュアね」
プロレスの場合、圧倒的な力の差がある試合も存在します。
それをボコボコにするのを見たいですか?
否、違う。
お互いが本気で技をかけ、競いあうのが見たいんだ。
戦いそのものが、物語になっているくらい激しいバトルが見たいんだ。
ならば、何もかもを避けてどうする。全部食らってやるよ、さあかかってこい!
 
何もかもを食らうのがプロレスの真髄の一つ。もしリングが人生であるとしたら、そこから逃げることは人生から逃げること。
ぼくらは、逃げずにリングの中で技を全て受け止めて戦うレスラーを見て、人生の活力を得るんだ。

すっごく印象的なシーンです。
レイラを羽交い絞めにしたグレイトフル帝都をレイラが殴打するシーンです。
グレイトフル帝都は古臭いプロレス思考に生命をかけるおっさんですが、熱いんですよ。
レイラの本気をみて、彼もまた攻撃を全部受け止めるんです。
どうだ、熱いだろう、熱いんだよ!
技をかける側を見ての興奮もあろう。しかし人間の中に眠る本能は全てを受け止めきる相手に対して熱く燃えたぎり、向かうんだよ

「プロレスには、人間を燃え立たせずにはおかない底力がある。プロレスラーの”真剣”だけがなせる業さっ!」
レイラのセリフは印象的なものが非常に多いです。
その全てがこの作品の本質をダイレクトに伝えるものです。回りくどことはしません。この作品自体が「かかってこいよ!」と言うのです。この作品自体が「こっちからも全力で行くから受け止めろ!」と叫ぶのです。
そんなん、そんなんな……。
受け止めるに決まってるじゃん!
一巻ではプロの視点をメインに書いているのでプロの「受け止める力」を激しく描写していますが、このあと地方巡業では観客も”真剣”になる様が描かれていきます。
レスラー、レフェリー、セコンド、そして観客。全員がその箱の中では”真剣”な炎の塊になるんだ。
それが、プロレスの持つ底力。
 

●台本ありきの魅力●

この作品は最初の話から「プロレスには台本がある」という問題に真っ向から取り組んでいます。
八百長とか、勝ち負けの決まってる試合に意味があるのかとか、ですね。長年言われ続け、今はもう……今更言うまでもないでしょう。
台本のありやなしやが大事なのか。違う。
長々と上に書いたとおりです。そこに”真剣”があるかどうかが魅力なんだ。

レイラのデビュー戦、相手はアイドルイケメン実力派レスラーの勇人です。
プロレス業界の力関係もほのめかされて、台本は勇人の圧勝、となるはずがレイラが勝つという筋書きに変わります。
この時点で「勝ち」「負け」が決まりました。
じゃあプロレスのリングの上ではもう試合ではないのか? 普通のスポーツならそうですね。登る必要なくなります。
しかし魅せるのは「試合」なのです。「真剣試合」なのです。
技をかけ、技をかけられ、ガチンコで殴りあう。
 
逆に考えてみてください。
プロなのです。
台本のとおりに演じなければいけないのです。
時にはハプニングもあるでしょう。捻挫をした、骨折をした、流血をした、等々。
じゃあその台本を諦めるのか。

レイラのセリフはいつだって真っ正直。
台本のために魂をはって戦うのがレイラ。だからこそ、彼女は最高にかっこいい。
 
勇人は割と正統派レスラーなのですが、この作品ギミックレスラー、被り物やなんらかのテーマに沿った戦い方を演じるレスラー達も多数登場していきます。
冗談みたいですよね。ネタっぽいですよ。キン肉マンの世界みたいですよ。
ところがじゃあ彼らは真剣じゃないかといえば、最高に真剣なんですよ。
加えて、ヒールは何があろうとヒールに徹しなければいけません。
会場中のブーイングを浴びて、レスラーたちにはボコボコにされつつ、観客が卑劣に感じるような行動で相手に最高に痛いやつをぶちかますんです。ぶちかましてぶちかまして、ぶちかますんです。
そして、華麗に、思い切り全身で「勝者」の技を受けて、相手を最高に引き立てなければいけない。
過酷ですよ。そして痛いですよ。痛いんだよ!
しかし途中でギブアップは許されない。リングからは逃げられない。逃げてたまるか。
 
プロレス会場ではヒールに強烈なブーイングが飛びます。様式美でもありますが、試合を見ていると本当に彼らは悪役なんです。
やめろ! やめてくれ! それ以上やるな!
不思議と叫びたくなるんです。なぜなら「悪役」という名前の「主役」を演じきっているから。
だからこそ、ヒールが負けるときには最高のカタルシスが訪れます。
同時にヒールにも声援が飛びます。
 
「任侠姫レイラ」のすごいところは、レスラー達が全員格好イイところなんです。
みんな体はって戦っているだけあって、好みの差はあれどもみんな、全員かっこいい。
いかに卑劣な真似をしようとも、それもまた台本を守るための真剣勝負。
 
どうしてもそこだけを描くと、プロレスマンガは地味になりがちなんですが、レイラは上手いところ突いてきます。
リアルな関節技、投げ技、受け止める力を描きながらも、ギミックレスラーやど派手な画面演出でプロレスの面白さも差し込んでいます。
プロレスは素敵な格闘技であると同時に、最高に面白いエンタテイメント。
この両者をマンガで描き込みながら、レスラー達の魂を塗りこんでいるんだもの、読んでいて楽しくないわけがない。
 
ブックはあるので先に言います、レイラは勝つよ。
ただし、どう勝つのか、どう相手が技をぶつけて来るかがドラマだ。
そこは漫画を読んでください。きっと燃え上がってくるものがあるはず。
燃え上がってきたら、生のプロレスを見に行こうじゃないか。
 

二巻も11月8日に発売されます。
一巻は序章ですが、「台本のあるプロレス」の面白さをしっかり描いています。二巻以降はさらにガチで真剣に戦うことと、それを受け止めきる熱さ、加えてギミックレスラー達も小芝居ではなく本気で戦っていることを魅せてくれます。
プロレスが好きな人はもちろん、プロレスをあまり知らない人にこそ読んでもらいたい作品。プロレスはちょっとなあ、という人でも読めば込み上げてくるものがあるのは間違いなし。人間の魂の奥にあるものを引っ張り出してくるドえらい作品です。
ちなみにレイラ、何者かさっぱり一巻ではわかりません。でも大丈夫、レイラのキャラクターの謎は徐々に見えてきます。試合の中で、ね。