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今だからこそ読み始めよう、異形の高橋葉介ワールド「顔のない女」

顔のない女
顔のない女
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高橋葉介
早川書房
売り上げランキング: 260

高橋葉介先生ファンならマストバイな漫画が出ました。というか高橋葉介ファンなら言うまでもなく持ってそうですね、待望の新作ですもの。
なので、今回は「高橋葉介作品に興味はあるけど手が出せない」という人向けに、入り口としてこの作品をオススメしたいと思います。
 

●すぐとなりにある異形●

高橋葉介ワールドの最大の魅力は、白と黒で彩られた異形の世界です。
古今東西の魑魅魍魎が、くっきりとした独自の黒のラインでなぞられている様は一度見たら忘れられないインパクトがあります。
本当に数多くの作品を描いていますが、一番有名なのは「夢幻紳士」シリーズでしょう。つい最近まで続いている、ものすごく長期間に渡って連載されていたライフワークのようなシリーズです。どこから読んでも高橋葉介ワールドの奇怪さを味わえるので文句なしにおすすめなんですが、いかんせんこれが廃刊・復刊を繰り返していたり、出版社をまたいでいたりするのでどの順に読めばいいのかちとわからない複雑さ!これは困った。
 
そこで、夢幻紳士女版とも言えるこの「顔のない女」をオススメしたいわけですよ。
奇怪で独特な魑魅魍魎達や、特異能力を持った奇人達という、高橋葉介ワールドに欠かせないキャラクターのエッセンスはバッチリ詰まっています。
また絵そのものが持つ独自のエロティシズムも健在。特に今回は謎の女性が主人公ということでその点白と黒のエクスタシーがしっかり描きこまれています。
もう1ページ目から完成してますからね。

1ページ目のタイトルがこれですよ。
これを見て「あ、きたかも」と思った人はもう迷わず読んでいいです。ほんとに。
 
デビューが80年前後。それから高橋葉介先生のスタイルは一切変わっていません。もちろんいい意味で進化を遂げているのですが、観るものを一瞬で別世界に引き込む絵柄と世界観は完全に芯が通っています。
そして欠かせないのが、エログロを含む異形の世界。醜悪でもあり、エロティックでもある異形をこよなく愛している作家さんです。
 

●顔のない世界●

「顔のない女」はそのエログロ要素と異形の者達への愛情をびっちり詰め込んでいます。
ヒロインの彼女は、「相手の能力を取り込む」というかなり特殊な能力の持ち主。次々に相手の奇妙な力を取り込んでいくから恐ろしいほど強くなっていきます。
ここだけ取り出すと「能力バトルもの」に見えるかもしれませんが、高橋葉介ワールドは単なる能力バトルものにしません。それを超越した世界観があります。
一つは、世紀末的な終末感漂う世界であること。これは「夢幻紳士」シリーズも同じです。
国籍不明な世界をハードボイルド、いや、情け無用の、自称アンチ・ハードボイルドなキャラクターが駆け抜ける。キャラクターのかっこよさと世界のしおれていくのか栄えていくのかわからない不安定感が最優先なので「能力バトルかどうか」は二の次です。むしろ世紀末的世界を描くために能力者が登場する、くらいのバランスです。

二つ目は、夢かうつつかわからない世界の境界線。
特にこの「顔のない女」ではこの部分強調されて描かれています。物語自体はオムニバスですが、ラストに向かってどんどんねじれていくんですよ。一冊の中に詰まっているこの夢うつつ感は圧巻。上のコマ一つとっても、この作品がいかにイメージの爆撃機になっているかがよくわかると思います。こんなコマがいっぱいあるんですよ。たまらんじゃないですか。
三つ目に、ハードな物語なのにユーモア心とムズムズするエンディングが用意されていること。これも他の高橋葉介作品と同様です。
物語自体は殺し合いの話なのでえげつない話も多いんです。というか9割えげつない。しかしえげつないことを1割の笑いに変えてしまうのが高橋葉介流。「夢幻紳士」ではユーモア部分とシリアス部分がくっきり分かれていましたが、「顔のない女」ではうまく融合されています。
そして一つ一つの物語のオチが胸をモヤモヤさせます。作中の「モンスター・メイカー」のラストとかたまらんですよ。グッドとかバッドとかではない、異形の者がもつ末路を淡々と描くのです。
書き下ろしになっている「召喚者」がまた最高に素敵なオチを用意してくれています。

ああ、美しくも決して顔の見えない、顔のない女よ。
貴女が奪うのは相手の能力と命だけじゃないでしょう。
ぼくらの心を奪うんでしょう。
 

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高橋葉介ウヱブサイト
現在、顔のない女を想像して描き、投稿するコンテストが行われています。
最優秀賞としてもらえるのが、カラーサイン色紙+高橋先生のサイン入り愛読書というあたりなんともイカした企画です。
面白いなあ。高橋葉介ワールドまだまだ多くの人を飲み込み中。
高橋葉介 - Wikipedia
高橋葉介作品の入り口として「顔のない女」は最適だと思うのですが、逆に「夢幻紳士を全部読みたい」となるとすっごくこれが困難。公式サイトやwikipediaを見ると分かりますが、もうあっちこっちに飛び散っているので「全部」を読むのがすごく難しいのです。
順を追うなら、マンガ少年版→冒険活劇篇シリーズ→怪奇編→外伝→ミステリマガジンの4冊→もののけ草紙、で大体OKだと思います。その他にあちこちに描かれている上に、夢幻魔実也の性格も変わっていたりするので、とりあえずは入手しやすいミステリマガジンの4冊から入るのもいいかもしれません。
夢幻紳士 幻想篇 夢幻紳士 回帰篇 夢幻紳士 逢魔篇 夢幻紳士 迷宮篇
個人的には単巻で読める「帝都物語」コミカライズ版と、「腸詰工場の少女」をオススメしたいところです。

顔のない女
顔のない女
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高橋葉介
早川書房
売り上げランキング: 275

ああもう、言葉でいくら語っても、高橋葉介作品に関しては見てもらって感覚を掴んでもらうしか無いですほんとに。
80年代から変わらない怪奇譚を描く作家さんですが、いま見ても新鮮なのがすごいところです。最新作が新鮮なのはもちろん、80年代の作品群も今でもしっかり楽しめます。「メディウム」とかのような怪奇譚マンガが流行った80年代が懐かしいところですが、今でも最新作として皆で楽しめるんだから素敵なことですな。