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仕事、そして黒歴史……オタクの道は険しいが楽しいじゃないか「ひみchuの文子さま」3巻

 
「ひみchuの文子さま」は、言ってみればエロコメの部類に入る、破天荒極まりない作品です。
でもね、その「おもしろおかしい」世界の中に、オタク文化に対する情熱と愛が激しく、荒々しく入っているのがすげー面白いんですよ。
ああ、作者さんはものすごくオタク文化圏を愛し、その中で生きてきたんだなと。叫びたいんだなと。
一巻のレビューはこちら。
僕はオタクだ、オタク文化に救われたんだ!「ひみchuの文子さま」 - たまごまごごはん
そして、この3巻で終わりです。
 
正直三巻で終わりなのは惜しい!
惜しいけれども、その分三巻では強烈な杭を打ち込んでくれました。
個人的にこういう「ちゃんとエロコメしている、でもその中に熱い叫びを込める」作品がすごい好きなのです。不意を打たれるというと語弊がありそうですが、エンタテイメントとして楽しめながらも気持ちを代弁してくれるというか。
ちょっと三巻に収録されている「オタクを仕事にするということ」と「黒歴史とはなんなのか」について、読んでもらいたいのですよ。
 

●好きなモノを仕事にするということ●

この巻で最も目立つのは、おそらく主人公の廉太郎が仕事に就く17話でしょう。
イラストレーター、漫画家、小説家……。
オタクであれば憧れる職業です。
しかし、しかしだ。
自分が好きなものであるがゆえに、それを仕事にするのはものすごく辛い。
好きなものが自分の実績になる、というのはそれはもうエンドルフィンが出るようなことなのです。
なのですが、同時に否定された時が恐ろしく辛い。
 
廉太郎はイラストがうまい少年です。
「プロ」という言葉に惹かれて、その仕事を引き受けました。まあ、チャンスがあれば引き受けますよね。
そして体力の限界まで頑張りました。その姿は拍手喝采していいでしょう。
しかし。
見ている側は努力したかどうかなんて関係ないのです。
これが恐ろしいところでもあり、当たり前のところでもある。
さて、廉太郎はこの世界の中で何を見るのか。
 
個人的にはうまくネガティブな話をカタルシスに変えつつも、廉太郎にきちんとビンタをはったいいエピソードになっていると思いました。決して「いいよいいよ、廉太郎がんばったよ」で終わってないんです。
その前の回が、ネトゲ廃人になるダメな話だっただけに、ここでバシーンと一発「好きなものに対する姿勢」を叩き込まれます。
好きなんだろ? 救われたんだろ? そのオタク文化に。イラストやアニメやゲームに。
ならば。それを出す側になるならどう立ち向かえばいい。
「頑張った」じゃだめなんだ。

 

●「黒歴史」と呼ぶのは、大好きだから●

廉太郎の学校の教師、嵐先生は中2病をこじらせまくったまま大人になっためんどくさい人です。
はい、本当にめんどくさい。
そこに友人のOG二人が帰ってくる、というエピソードがあります。
友人達のほうは真人間に更正して、しっかりした道を歩んでいます。
そしていうのです。過去を葬りたいと。
まあ、ですよね。そりゃそうだ。
 
でも、自分たちのオタク過去や中2病な日々を「黒歴史」と言うけどさ。
実際思い出したら悶絶して死にたくなるだろうけどさ。
でも楽しかったんだろう?
楽しいから「黒歴史」って言うことも、時にはあるんですよね。
 
友人二人と、黒歴史をそのまま生きている嵐先生がどうなるのかは実際に読んでみてください。
個人的には「よかった!」と思いました。そこからつながる、文子と廉太郎のラストも。
そうなんだよ。
なぜオタクが楽しいか、その答えの一つは、共通の話題で喜び合える仲間がいるからなんだよなあ。
 
ゲラゲラ笑ったり「エロイえろーい」とニヤニヤしているところに、忘れかけていたこの「オタクであることの幸せ」を突きつけてくるのはもう、反則。褒め言葉として「ずるい!」って言いたい。
苦しい思いや辛い現実から逃れるためにオタク文化に脚を踏み入れ、救われ、そしてそのオタク文化の中でまた苦しむ。けれど楽しいから続けているんだろう、仲間と出会えたことに幸せを感じているんだろう? 
はい。そうです。
本当の救いはそこにもあるんです。
ハイテンションで駆け抜けた3冊でしたが、ネタと本気のバランスが見事ないい作品でした。
ネタ部分が肌に合わない人もいるかもしれませんが、「本気」部分はちょっと見て欲しいなあと願いたくなる作品です。
少なくとも、オタク文化に救われた経験のある人、黒歴史がある人、誰かとオタク話をする幸せを知っている人は、是非。