たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ちょっと頼むってマジ勘弁してくれませんか痛いから 辻灯子「ただいま独身中」

最近「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」ダメージがでかすぎて、こ、これはなんとか復帰せねば人生に影響のあるレベル!とか思って4コマを読みあさってるんですが、追い打ちのようにえらいもん読んじゃったよ。

辻灯子先生の「ただいま独身中」。
いわゆる「ちょっとダメな大人の女性」が大好物の自分としては、これは買わざるをえないだろうと思って、お寿司のウニのように美味しくいただくために取っておいたんですが。
これ劇薬じゃねえの!
たしかにね! ぼくの「ちょっとダメな大人の女性」見たい欲は満たされましたよ。
でもねえ。
その設定はやばいって。だめだって。
マジ勘弁して。
くっそー、単なる楽しいお一人様マンガだと思って油断してたよ・・・。
 

●その1、逃したモテ期は大きい●

見ての通り、ヒロインの竹本楓(30)は結構美人さんです。かわいいです。
しかし、のびのびとしているというか学生時代の延長線上にいるんですね。心が。
実際、夜な夜な男女混合の大学のゼミのメンツと仕事帰りに飲み明かしてわいわいやっているような人です。
すっげー楽しそうなんですよそのシーンが。
「私たちいつまでも仲良しだよね」感がね。
ところが、中でも一番親しくしていた男友達の重森くんが結婚すると言う話が出ます。
まだセーフ。ここまではまだセーフ。よくある話。
ところがこのセリフが決め手になって楓の中にスイッチが入ってしまいます。

うおおおい!!!
今それは、今になってそれは、ここにきてそれは、きついから!
いやっ!重森くんすげーいいやつなんです!念を押しておきますが本当にいいやつなんです!
結婚相手とかも後半出てきますが「ああ本当に重森くんいい人!」って思いますから。
でもさあ、恋愛とか考えもしなくて、仲良し団体で、いざ結婚するとわかったときにこんなん言われたら絶対気になるから。
これを聞いてから、楓めっちゃ動揺します。
動揺どころじゃないです。
 
面白いのは、この作品は恋愛至上主義」作品じゃないんですよ。
むしろ、恋愛至上主義なキャラを実際に作中に描いて、いかにそれが面倒くさいことになり兼ねないかすら表現しています。バッサリしてます割と。
でもそうじゃないんだなー。
楓も恋愛は二の次で、結婚結婚言う親が面倒くさくて、今楽しいから付き合うとか考えないようにして暮らしていたんですが、いざ友人が結婚するとなるとその輪が壊れるわけですよ。
それなりに年と経験を経てきたら「結婚くらいじゃ友情は壊れん」ってのも分かってくるんですが、そのワンクッションを置く前に「俺一時期楓イイなとか思ってたから」の一言!
なにこれ。
モテ期逃したんじゃん!
 
逃がした魚は大きいってなもんでしてな。
最初は「あー私も結婚したいわー」くらいの気持ちの昂ぶりだったんですが、だんだん「一番一緒にいて居心地のよかった男友達」が大好きだったことに気づいてしまいます。
まさに「なんですぐそばにいた上に好意寄せてくれていて自分も気に入っている仲だったのに、恋愛対象として見なかったの!?ばかじゃないの!?」状態です。
嫉妬心ってのは恐ろしい物で、絶対手に入らないと気づけば気づくほどどんどん膨らんでいきます。
そんな自分に幻滅しつつも、どんどん彼が好きだった気持ちが膨れ上がってしまう上に誰にも言えない。
「彼女から電話来てたんじゃないのー?」と笑顔でいつもどおりを装って言う楓。
重森くんは至って大人な返しをします。それがもう優しくて。
あああ、もうやめてやめて。
楓の心のすさみはここからスタートです。
 

●2、いつまでも仲間と同じ時間は過ごせない●

職場と、夜の友達同士の集いの二つの場所が舞台になって行き来します。
楓は重森くんショックで相当ぐらつきはじめて、恋愛なんて考えもせずに生きてきていたのに、どんどん「恋愛」の文字が気になってしゃーなくなるんですよ。
当然、重森くん以外の友人にも彼氏や彼女ができはじめます。
飲み会仲間の間で恋愛がない、ってのがミソです。ここに男女関係が存在しないんです。
しかしその外にある、というのは意外とチクッとくるもの。まあ30にもなれば「そんなんみんなあるでしょー」とはいいつつも、輪から一人、二人と抜けていく痛みもまた知っているもの。
 
楓はもう完全に心が重森くんに傾いているのを感じつつ、「婚約者相手に今更そんな」という罪悪感に打ちのめされるわけです。
ところがそんなのさ、今まで男女の差がなかった飲み仲間に言えるわけ無いじゃん。
今更おせえよ!諦めろよ!って軽蔑されるってなもんですよ。言えんわ。
でも誰かに言いたい、せめて言って楽になりたいと、やはり独身仲間の女の子のところに泊まりに行きます。
飲みながら打ち明け話とか、いいよねと。
しかし相手から返ってきたのはそんな楓を一蹴するかのような衝撃の事実。
「重森くんの事好きだった」なんて言えなくなってしまいます。
お、大人・・・これが大人の・・・世界・・・。
 
冷静になれって言われてもなれない出来事がほんと立て続けに起きます。
なんで恋愛ってこんな面倒くさいの!って家の中ひっかきまわしたくなるレベルで。
楓級にかわいくて、隙がでかくて、明るい子ならモテると思うんです。いや、モテたと思うんです。
しかし楓は「今が楽しいからいいや」で恋愛を考えもせずに暮らしてきちゃったわけですよ。
それを肯定する友人も出てきますから、バランスは取れているんです。
けれどねー。本人にしてみたら・・・この「今が楽しいから」の輪が崩れた上に、今更好きだと気づいた相手の結婚だなんて、どう反応すればよいのやら。

ほんと、「どうでもいーのよっ」って言わないとやってられんよね。
このまま楽しく笑って暮らせる・・・なんて信じてはいなかったけど、ここまでダメージがくるなんて。
・・・。
あの、も、もう勘弁してもらえませんかね(懇願
 

●3、変わる世界●

彼女ももちろん毎日泣き暮らすようなキャラじゃありません。
ガンガンポジティブなタイプなので、新しい友人も出来るし、開き直って騒いだり、飲みまくってゲロ吐いたりもします。
楓にとっての救いの一人は後輩の操でした。

彼女は人には言えない秘密を一つ持っていて、それが生きがいになっている子です。23。若いです。
よくできた子なんですが、彼女の秘密を知っているのは楓だけ。
この連帯関係で、楓に取っての会社での心のやすらぎの一つになります。いい話ですよね。
楓が重森くんを好いてしまったのを知っている数少ない貴重な友人でもあります。
ああ、やっぱり「今が楽しい」ってあるじゃん!やった!
 
と思ったらですよ。
弟が出張で引っ越したあと、メールで知らされる「できちゃった婚
飲み会友達の女の子同士が「私の彼氏と二人で会わないで」と喧嘩。
優しかったお父さんが急に体調を崩して救急車で搬送。
お、追い打ち激しすぎです
個人的には最後の2Pが一番衝撃でしたね。
そこまで楓的に「私の大切な仲間!」って言う状態まで持ち上げておいて、ラストでそれはないよ!!!
大人って! 大人の世界って!!
 
はーーーーー(深い溜息
まあね。
自分は男なのですが、やっぱり友達が結婚するっつーのは嬉しい反面寂しいですよ。
結婚ごときでどうこう関係が変わるわけじゃないのも分かってきてますし、むしろ安定することで新しくできることも増えますし。トータルで幸せいっぱいなんですよ。
でもねえ。自分自身も「恋愛」へのこだわりとかさっぱりないんですが、こういうマンガ読んじゃうと超焦りますね。
帯にさ「アラサー女子の心をえぐる愛しくも哀しいがけっぷち4コマ!!」と書いてあります。
女子だけじゃないよ、男子もえぐるわ。えぐられまくったわ!
ちゃーんと「結婚だけが全てではない」「恋愛至上主義が正しい訳じゃない」というのを描きこみつつも、みんなが恋愛で変わっていく様と置いて行かれる不安感を描いた強烈な作品。
 
「もうやめて! 楓(とオレ)のライフは0よ!」となんど叫びたくなったか分からないくらいです。
おっかしいなあ・・・恋愛至上主義じゃない人間だったのに、なんでこんなに動揺しているのほんと。
この作品今後どうなるんでしょう。楓には幸せになって欲しい気もしますが、結婚エンドになると「楓」に自分を投影していた読者としては寂しさ倍増ドンですよ。でもかといって残されおひとりさまエンドもきっつい。
作者さんのあとがきより。

編集(独身女性)「えー、結婚が女の幸せとは限らないですし!」
辻先生(独身女性)「ですよね」
そんなワケで順調に迷走しております。

本当にいい意味で順調に迷走しています。
 
恋愛関係で凹んでいる時や体力の無いときにはほんとオススメできない劇薬マンガです。
逆にガツンと衝撃のほしいアラサー男女は読んだほうがいいです。
体力はいると思いますが、正直自分こんなに動揺すると思わなかったのでどうしたらいいの?
知らん? はい。
 

読んでゲラゲラ笑えるくらいの大人になりたい。
ちなみに「やべ、きつい」と思ったらこっちで中和するのをオススメ。

「エヴァ」のミサトさんみたいな「ちょっとダメな独身成人女性キャラ」が熱いんですけど何て呼べばいいの?(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
「つくねちゃん+30」のヒロイン都の「結婚したい相手はFF7セフィロス」とか「どこかにいないかなあ草食系戦国男子」とか、友達の結婚式で関羽雲長の演舞をするとか、そういうノリのほうが安心するわー。