たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

僕らの心はいつだって曇天だから、晴れ間が見たい。「曇天・プリズム・ソーラーカー」

何か答えが出るなんてあてにはしていないから、曇天の下ソーラーカーを走らせるんだ(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
 
エキサイトニュース書かせていただきました。
タイトルだと分かりづらいですが、「曇天・プリズム・ソーラーカー」の話です。

 
まあ、エネルギーとかそのへんの話はリンク先の方で書いてますので今回は割愛。
それよりも、この作品が持ってる「曇天」感についてちょっと書いてみます。
 

●晴れない。●

Yahoo!コミック - 曇天・プリズム・ソーラーカー-村田雄介
一話目は無料で見られます。
IEかサファリじゃないと見られないっぽいので注意!)
 
ジャンプスクエアは読んでなかったので、正直表紙見た時迷ったんですよ。
ソーラーカーかあ。しかも表紙めっちゃガンつけてるし。
興味がわくようなわかないような。裏の解説を読んでも「青春をソーラーカーに懸ける若者達の未来」って、うーん、面白いのかわからない。
科学ものは大好きなので、そこまでソーラーカーに興味ないけどとりあえず「文化部作品」として読んでみるかーくらいだったんですよ。迷ったら買う。
 
いやあ、1話目読んで参ったですよ。
主人公の苦労人っぷりが尋常じゃない。
あらすじには「大学進学の資金の為、叔父の工場で働く金田翔太」としか書いてないので、想像ができません。
しかし見てもらえば分かりますが、そんな生半可なもんじゃないんですよ。
生きてくので精一杯で、とにかく過酷な作業を工場で延々としつづけ、終わったら町外れの会社の倉庫の二階で寝泊り。
工場だけじゃなくて工事現場の警備員のアルバイト。
娯楽らしい娯楽もあまりせず、仕事→寝る→仕事→寝るの繰り返し。休日なし。職場から自宅倉庫まで30kmを自転車で通う日々。
とにかくお金を貯めて大学に行きたいから、節約節約。
もう苦労人なんてレベルじゃない。まだ20前後ですよ。
 
表紙見るとヘッドフォンつけていい自転車乗っているのでそこそこのぼっちゃんに見えるんですが、全然違う。
ヘッドフォンつけているのは、車恐怖症のため。
過去に交通事故にあって父を亡くしてから、車のエンジンやブレーキの音が怖いのです。だからヘッドフォンで耳を覆う。
真面目だけど心にトラウマかかえているので、無口で目付きが悪い。働き詰めすぎて友達も皆無。
表紙がやたらガン付けてるのは、彼の心の壁なんです。
 
もうほんと参っちゃうよ!
若い頃の苦労は買ってでもしろとかいうけど、こんな苦労見ちゃったらそりゃもう滅入ります。
ここに、大学生のソーラーカープロジェクトの大学生が来て、部屋にしている倉庫の下で「ソーラーカー作ります」なんて言われたら、車嫌いもあいまって「ふざけるな」って言いたくなるのも当然。
晴れない。
 

●晴れ間。●

それでもソーラーカーを作ることにこだわりつづける、ヒロインの潤子と仲間たち。
こりゃ単なる「青春の1ページ」とかそんな生やさしいもんじゃないぞと。
 
潤子も実は別の心の傷をかかえたキャラでした。
彼女はソーラーカーが好きです。でも好きだからやっているだけじゃない。「責任」だといいます。
この二つがぶつかるだけじゃ上手くいかないところですが、二話から登場する佐伯教授というキャラが、この作品に晴れ間を作ります。
 
教授の立ち位置は非常によく出来ていて、彼自身は直接ソーラーカー作りに携わらないんですよね。
あくまでもキミ達でやりなさいと。
ただし、それ以外のことはなんでもやろう。
最初のうち、翔太にしてみたら理不尽でしかなかった要求も、お金を払うことや、大学のための勉強を教えるなどのメリットを与えてスムーズにやりやすくします。
また、彼の思想も非常に明確なんです。
未来を切り拓くには、若い人が自分で作らなければならない。
人と出逢い、それを実りある方向に導けるかどうかは自分で決めなければいけない。
それ以外は手伝おう、重要なところは自分でやりなさい、と。
 
翔太はそれはもう視野の狭いキャラなわけですよ。
というかならざるを得ないです。だって、生きて行くので精一杯なんですから。
絶望や悲しみから前向いていくには全力で、その狭い視野に突き進むしか無い、働き詰めるしかない。
しかし佐伯教授は「機会」を彼に与えるために尽力します。
それは同時に、潤子達学生たちに対しても同じ。
 
視野が狭い時、人間の心はちょっとしたことですぐ曇ります。
しかし「これでいいのか」と視野が広がることで、一気に晴れ間は出来る物。
潤子以外の学生たちの、ソーラーカーを作る理由もまたいいんですよね。軽いものから、若者らしい悩みまで。
みんななんらかの曇天を抱えて生きている。
晴れ間を作る手伝いは大人の仕事。
あとは、自分たちで光を探さなければいけない。
 

●雨天・快晴・曇天。●

作者本人も言っていますし、佐伯教授も語っていますが、エネルギー問題は新しい視点から切り拓いてほしい、という願いがこの作品に込められています。
まあそんな深刻に読まなくても、大学生達の悩みを見ているだけで面白い作品ではあるんですが、根底にあるのは同じ。
後ろを悩むな。
新しい力に目を向けて欲しい。
そのアイテムとして登場するのがソーラーカーというわけです。
なんでソーラーカーにやたらこだわるのか最初は分からなかったんですが、一巻後半までいくと「ソーラーカーじゃないとだめなんだ」というのが非常に強く伝わってきます。
もちろん、打ち解けて一緒につくりはじめたから必ずしも何もかもうまくいくはずもなく。でかい壁にぶつかることになります。
このへんは二巻で語られると思うので今は7月の発売日を待ちたいところ。集中連載なので二巻完結です。連載はもう終わってるところですかね。
 
ソーラーカーなのに曇天。
確かに人間の心、特に若い時だと曇天の方が多いことがあるのはよくわかります。
ソーラーカーも同じ。常に晴天じゃなくて曇天のときもある。
走れるのか?
エネルギーに変えることは出来るのか?
前を向けるのか?
「できるかどうか」じゃない。「やる」んだ。
 
この作品は本当に力強いです。
きっと、必ず、前に進んでくれるはず。
彼らの車が走りだしたときに、読んでいるこちらのやる気にも火をつけてくれる、と信じたいところです。
 
個人的には、翔太でも潤子でもなく、一緒にソーラーカーつくっているチョイ役の仁科くんが好きです。
高校時代に引きこもりで、大学に入ったら太陽の下でなにかやりたい、と思ってこのプロジェクトに参加したという彼。
自分から動こうとする一歩にすごく惹かれます。小さな一歩かもしれないけど、彼には友達ができ、目標ができた。
翔太や潤子も応援したいところですが、そんな彼を、僕は応援したいなあ。
車、走るといいね。