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直線と螺旋のぶつかり合い。「ねじまきカギュー」の徹底した描き分け

狂気が純愛か純愛が狂気か!? 女難マンガ『ねじまきカギュー 』(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
 
エキサイトニュース書かせていただきました。
カギューちゃんはねえ・・・ほんとうに可愛いんだよ・・・。
でも「カギューちゃんかわいい」はもうあちこちで言い尽くされまくっていて僕の言う部分が無い気がします。あ、カギューちゃんはほんとかわいいですよ。まじかわいいです。
そんなわけで、ちょっと「ねじまきカギュー」の中に描かれている直線と螺旋について書いてみようと思います。
 

●直線な仲間たち●

カギューは基本的に「恋敵は作らない」主義、というか「愛は自分を鍛えるもの」というかなり変わった、かつ素敵な考えの持ち主。
なので、カモ先生を好いてくる怪人的女子達の嫉妬に対してびくともしません。
ライバルじゃない、あくまでも自分の鍛錬だと。
地味になかなか哲学的です。
ここがこのマンガで「カギューちゃんはかわいい!」と誰もが言わざるを得なくなる所以なんですよねえ。実際出てきたキャラ達も彼女のこの思いに惹かれていきますし。
 
とはいえ、最初は「恋敵」と認識して、カギューにかかってくるわけです。
ここのマンガの描写が非常に面白いんだなー。
カギューは「螺旋巻発条拳(ねじまきぜんまいけん)」の使い手。
女性の体のしなやかさを生かした、女性にしか使えない廻転の拳です。
 
対する怪人女子達の攻撃は、すべて直線です。

しおりで壁をも切り裂く、文学系女子(?)富江
基本が切り裂きなので、攻撃は直線です。
そしてこのコマ。カミソリのようなしおりを直線的に飛ばします。
地味にこのコマよく出来ていて、無数のしおりが飛んできているのに最小限の動きでカギューがかわしているんですよね。
加えて直線っぽさを強調する「ドッ」の文字。この文字は作中でも非常によく使われる擬音なんですが、すべて攻撃のベクトルに沿っているんですよ。
 

こちらは琉球古武術を学んだトンファー使いのお嬢様、朱羽。
見てのとおりです。超直線。
この攻撃、ほんとうはまっすぐ進んでいるわけじゃなくて、殴った後にスイッチをいれて電撃で爆破しているという超変速攻撃。
トンファーだから回転させて使うんですが、一番印象に残るコマを直線にするあたりにこだわりを感じます。効果線も当然直線。
左から右に攻撃のベクトルが進むことで、視線の流れを引っ掛けて止めるという「逆流」の直線の動きになっています。
 
他のキャラも攻撃はすべて直線。バイクで突っ込んできたり、細かいところだと矢でまっすぐ撃ったり。
まあ、人間の戦いの歴史は基本直線攻撃ですから絵的には納得ではあります。
でもね、弾丸は回転してるよね。
 

●螺旋のカギュー●

ねじまきカギュー」という作品でカギューが出てくるシーンはほんとすごいんだなあ。
有無を言わさずに「螺旋は強い!」という印象をガンガンに押し出します。
読んでいて「螺旋最強!」と感じるからすごいのです。
例えばこんなシーン。

自己紹介で、指一本で黒板を螺旋で砕くシーン。
なんでこんなことに?!といわれると、特技を説明するためにやっただけ、という何のことはないシーンです。
でもこのページのインパクトは絶大。ページを捲った瞬間これって結構ビビリます。
 
カギューの表現は「回転」「柔らかい」「しなやか」「力強い」で一環しています。
それは普段の生活の中でも、戦闘中もです。

螺旋オーラとでもいいましょうか。
背景の螺旋だけじゃなく、手や文字の入れ方からして向かいあわせに見ると時計回りです。
つまり、カギュー側から見ると、反時計回りです。
上の黒板も力のベクトルは反時計回りですね。

これは別に技を使ったわけじゃないのに床に螺旋ができるという・・・なんだかわからないけどすごい説得力です。
そして、こんな時でも反時計回りなんですよ、螺旋。
 
彼女の攻撃は恐らくほぼすべて反時計回りです。
地面着地に使った「螺旋巻旋風掌(ねじまきせんぷうしょう)」は時計回りっぽいですね。
地球の公転などの話も出てきますが、公転・自転は基本的に反時計回りです。

反時計回りの攻撃を出していた1話では、彼女の服は時計回りに破けます(繋がっているところから破れた先と考えた場合)。
そして表紙です。
ねじまきカギュー(1) (ヤングジャンプコミックス)
髪の毛が巻いている、と考えたら時計回りですね。
時計回りにネジを引き締め、力を反時計回りに解放する、と。着地などの場合は逆回転で吸収。
今後、彼女の回転力が「地の理に沿った反時計回り」なのか「地の理に逆らう時計回り」になるのか、ちょっと気になるところです。

 

●はみ出しのパワー●

カギューも敵?キャラも、すべて猛烈な感情エネルギーで動いています。
回転のカギュー、直線の他キャラ。
共通しているのは、圧倒的な力を前にしてコマからはみだしかねないということでしょうか。

このコマとかすごいですよね。どちらも実はすごいカワイキャラなんですが、まさに怪人的女子と言わざるをえない眼力です。
紙から飛び出そうとするこの勢いはあらゆるページに描きこまれています。
このコマなんかはこちらに向かってくる直線と回転が両立している見事な迫力のコマ。

まず踏みしめて(下ベクトル)、拳を引いて(後ろベクトル)回転させた拳を前に突き出してくる。
うん、この力の方向へのこだわり、格闘技の根っこでもあるので、大げさな表現ですが、感覚的に正しい。
一冊の本に収まって満足しようとしない「ねじまきカギュー」。
カギューちゃんのかわいさと、全員がナチュラルに狂っている世界観、どこまでも面白いです。
 

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個人的に、腹黒格闘お嬢様朱羽大好きです。
カギューもかわいいけど、この子がカギューの魅力にメロメロになって、カモ先生よりもカギューに心が寄っていくのが、いいんだなー。
富江といい朱羽といい、殺しかねないほど恨んでいたのにカギューの純愛の前では素になって引き寄せられる、というのがなんとも心地よい。
一点集中、カギューがヒロインオブヒロインないい漫画です。

日本橋ヨヲコ先生の「こんな居心地の良い狂気は見たことがない」という表現うまいなあ。
そうなんよね、確かに熱血でまっすぐな作品なんだけど、「とてつもなく狂っている」んだよなあ。